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物語
ナポレオン
の時代
  
     
 Part 1 第一統領ボナパルト




     
第1章 統領政のスタート


10ヴァンデの乱

 革命後の議会が通した法律のひとつに、「聖職者市民法」がある。
 画期的な法律だった。
これによって、司教・司祭・助任司祭などの聖職者が、他の市民と同じように扱われるからだ。
 フランスでは昔から、聖職者は神と人間とを仲介する存在として尊敬されてきた。
 神父様は、多くの場合、町や村でもっとも信頼される人間だった。

 それが、これからはふつうの人間とされ、身分上の特権もなくなり、給与も国庫から支給されるという。
 
 ローマ教皇ピウス6世は、もちろん異議をとなえ、とうてい認められないと宣言した。

 これに対してフランスの議会は、国中の聖職者にすぐにこの法律を受け入れること。そしてこれを遵守する旨を宣誓すること。
 このふたつを要求した。

 司教・司祭・助任司祭たちは悩み、苦しむ。
 受け入れて宣誓すれば、教皇にそむくことになる。
 が、宣誓をこばめば、自国の政府と対立する。

 
 フランス中が揺れ動いた。
 が、とくに激しかったのはヴァンデ地方、すなわちブルターニュ地方のロワール以南の地域である。

 このあたりの住民は敬虔なカトリック教徒が多く、聖職者とも心情的につよく結びついている。

 かれらは、日ごろ尊敬している神父さんが、宣誓すべきかどうか考えあぐねているのを見て同情した。
 政府のやりかたに憤慨した。

 それに加えて徴兵制の施行である。
 働き盛りの若い男が、ある日とつぜん一家から奪われ、人手不足になってしまう。

 どこか遠いところに連れていかれ、銃弾のとびかう戦場に投込まれてしまうらしい。
 親が裕福な者は、金を払って召集を免除してもらえるという噂もある。

 やりばのない不満と憤懣に突き動かされて、住民たちが立ち上がる。
 こうして、ヴァンデに暴動が起きた。 
                   (続く