オールパスフィルタータイプのPSN送受信機では、必要とする帯域幅のI/Q信号(90度の位相関係を満足するもの)が必要となります、本フィルターは必要帯域内を何分割かで90度シフトする素子を組み合わせ、全体で90度位相が保持出来るようにする、分割数を多くすると90度保持間隔が狭くなり全体での90度位相誤差が圧縮される、つまり、間隔が広いとポール素子とポール素子間は90度から離れていく期間が長くなり90度誤差が大きくなります、逆に狭くすると90度誤差は小さく、逆サイド抑圧の特性は良くなります。何段構成で設計するかは、色んな文献もありJA3GSEさんが’Hamstoolソフト’を公開されておられますから、これ等を利用して自分の必要とするものが設計出来ます。
 オールパスフィルターを使ったPSN機を作りはじめて10年以上は経ちますが、今まで色々やった結果、PSN送受信機に使用するオールパスフィルターとしては何種類もありません。アナログの世界では60〜70dBが限界の世界で、仮に理論的に80〜90dBの設計をしたとしても1ポイント(瞬時的)は達成出来たとしても、環境要因で即座に外れます、安定的なポイントは60dBあたりに定着します。多くの段数を作りましたとか、90dB設計したとか耳にしますが、よく考えればSSB電波は3KHz帯域ですから、PSNの場合オーディオロパスフィルターで高域を制限しますが、仮に次数の少ないフィルターを使用したとしても、Fc=3.5KHzにすると4KHz成分は電波伝搬では殆ど再生されません、特に高域であるほどエネルギーも小さいです、勿論、Fcはもっと低くして3KHz以上は出ないように管理が必要です。更にこれの逆サイド成分ですからオールパスフィルターとして、どこまでの高域を位相キープさせる必要があるかを考慮すると4KHz以上は全く不要です。(オーバースペック)では、低い方はとなると、自分の発生第1ホルマントの1/2が目安となるでしょう、私の場合90Hz/2=45Hz、これ以下は不要と考えて良いです。必要以上に段数を設けることは、いたずらに変動要因を増やすだけで、’百害あって1里なし’です。となると、私の今までの経験の中では、6段が一番理想的だと考えますが。
 本項ではSSB変調器を作成する時に、シェープファクターの優れたフィルターではなくても、セラミック等(イモフィルター)でも、十分低域伝送が出来るPSNと組み合わせて、低域の逆サイドのみPSN処理し、中高域の逆サイドはフィルターで処理をさせる、ハイブリッド型SSB生成器に使用するための幾つかのオールパスフィルターを設計したので紹介しておきます。これだけあれば、殆どのフィルターとマッチさせることは出来ると思います。


2段 AFPSN
2段 50dB 回路図ファイル
50dB 特性ファイル
2段 60dB 回路図ファイル
60dB 特性ファイル

3段 AFPSN
3段 50dB 回路図ファイル
50dB 特性ファイル
3段 60dB 回路図ファイル
60dB 特性ファイル
3段 70dB 回路図ファイル
70dB 特性ファイル
3段 80dB 回路図ファイル
80dB 特性ファイル

6段 AFPSN
究極の-94dB、これを使用すればイモフィルターにもマッチする
6段 94dB 回路図ファイル
94dB 特性ファイル


最も一般的に使用される 6段PSN 20Hz〜4KHz(70dB)
この6段PSNを例にしてU列とL列の振幅バランスについて、LTSpiceを使って考察してみる。
右の特性は利得抵抗誤差=0の時で、これ以降、この利得抵抗値を変化させ特性から振幅差を抽出し、EXCEL表のブルーセルに入力し、逆サイド抑圧比の換算値を出し、検討する。

           
換算値で124dBであるから何も意識する必要なし。
U列側の利得抵抗=9.9Kと10.1Kで全段利得を1%高くし、L列側は全段低くした場合の振幅差特性で、抑圧比=20dB弱となります。しかし、現実は、こんな配列で実装されることはない。1%誤差抵抗をそのまま使用しての最悪ケースだが、現実的ではありません。利得差の設定をトビトビに設定してみる。
    
組み合わせを考えると、いく通りもあるが、U列の1/3/5段=利得大、2/4/6段=利得小にし、L列の2/4/6段=利得大、1/3/5段=利得小となるよう交互に1%変化させた時の利得差特性。これも現実的には少ないと思うが、45dBの抑圧比となる。
    
交互に利得抵抗を0.1%変化させた場合は、抵抗値の精度を更に10倍上げると、20dB改善され、抑圧比も65dBとなる。
    
実際にはバラツイた抵抗はランダムに配置されるため、65dB抑圧よりも良くなる。結論として、利得抵抗(10KΩ)は、許容誤差1%品を使用したとしても、マルチメーターで少なくとも10KΩ抵抗を10Ω台以内に合わせこんだ物を使用する。これは全品を合わせこむ必要はなく、2本づつペアーで合わせこめば良いのだから、部品箱から容易に抽出出来る。半固定VRでアンプリチュードを調整する機構よりも、抵抗計で合わせ込んだものを使用した方が良い。




振幅補正回路
I/Q信号の出力間で、帯域内振幅差が生じると逆サイド悪化の要因となる、この対策として各段のポールに振幅補正回路を入れる。ポール周波数が位相帯域外の段には振幅補正回路は入れない。(固定抵抗とする)調整法は位相計/振幅計の項目を参照して下さい。 90.1,89.9

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