そもそも自作派にとって一番手に付け易いブロックが、マイクアンプとか音に色付けするトーンアンプとかスピーチアンプ類が一番多く作られているのではないでしょうか。最近のメーカー製機器では中は触り難く、周辺機器としてのアクセサリーは多く自作されています、その中で送信機としては、ある一定の出力以上は出ないように制限をかけるALC機能が付加されています。大きな声をマイクに向かってはり上げるのはスプラッターをまき散らす要因となります、歪の少ないスプラッターのない電波が良い音に聞こえると思います、Hi-FiSSBと言う言葉を耳にしますが、Hi-Fiの定義が疑問です、そもそも3KHz帯域SSBでHi-Fiはあり得ないと思うのですが、おそらく3KHz帯域内でのより聞きやすい(耳あたりの良い)音をHi-FiSSBと称しているのだと思います。私が無線を再開した頃(1987年頃)にQSO話を聞いていると、送信機のALCを振らせては絶対ダメだとかスプラッターが出るからマイクゲインを下げろとか、よく耳にしました。たしかに、定格100W送信機では出来るだけ常に定格出力で運用したいものです、その結果オーバードライブとなり歪んだ電波となっていました。そこで、いくら大声をはり上げても歪電波とならないようにリミッティングアンプたるものを自作しました。しかし、自作のきっかけは各局のQSOを聞いていて非常にパワー感のあるバックノイズのデカイ信号でコックピット感覚の電波に憧れて、どうすれば、このような電波が発射出来るのか、マイクゲインを上げれば可能だがスプラッターもなく歪もないパワー感のある信号を生成したかったのです。

       

一般的にはフィード・バック型で、出力レベルが目標とするレベルを超えると前段の利得を抑えるタイプで結果がオーバーしなければ制御出来ません。出力レベルを検出してから利得制御するまでの時間をアタック時間と称し、この期間を如何に短縮するかがポイントになります。フィード・フォワード型は目標とする出力レベルを利得制御回路の後段から信号検出するのではなく、前段から検出し、だいたい出力レベルはこんなもんじゃと予測をして利得を制御する方式で、これでもアタック期間をゼロにすることは困難である。過大入力信号の検出を前段から検出するか後段から検出するかで方式が分かれます。更に、アタック期間による歪を完全に解消する方式としてフォワード遅延型がある、これは利得制御するための検出信号が生成されるまでの時間(それ以上の時間)を遅らせることにより、先回りして利得制御することによりアタック歪を完全に解消するものです。

【フィード・フォワード遅延型】
 この方式はレベル検出した信号が、レベルが規定値を超えたと判断し利得制御するまでの時間(アタック時間)以上の時間値を遅延させることにより、この時間だけ先回りしてレベル制御しアタック歪を解消します。問題なのは遅延素子として使用するデバイスがS/Nの良い歪の少ない素子が存在するかどうかです。全体をデジタル化することにより構成すれば容易に出来ます、本信号をデジタル化する場合はアナログ→デジタル(A/D変換)、デジタル→アナログ(D/A変換)ブロックが心臓部となり、特に自作となると変換部のレイアウト配線処理で大きく性能を左右します。遅延素子として実現可能なものは、①BBD(バケツからバケツへ電荷を転送する)デバイス ②昔のオーディオエコーシステムで使用された残響バネ ③RAMへのリードライト処理 の3種類位考えられます。
 ① BBD
   信号をサンプリングして次段へと供給し、段数が多い程長い遅延時間が確保出来、サンプリング周波数が低い程長い遅延時間が確
   保出来るCDのサンプリング(44.1KHz)と同じように理論的な再生周波数は44.1KHz/2=22KHzとなるが、 サンプリングノイズ
   を考慮すると最高再生周波数の4倍以上が望ましい、となると、ここに使用するサンプリング周波数>3KHzX4=12KHzとなり、必
   要とする遅延時間値の段数を選択することになります。 しかし、この種のデバイスはカラオケ機器に開発されたもので50dB以上
   の歪を得ることは困難です。
             
    デジタル信号処理と考え方は同じで、サンプリングは連続時間を離散化(連続していないとびとびのこと)したもので一定時間
    毎に数値化する、この量子化したデータをデジタルと称している。

 ② 残響バネ
   昔のステレオ音響装置(真空管時代)は、エコー機能を実現するために用いられた部品で、電気信号をトランスデューサーで械振
   動に変換し機械的バネを通過させ再度トランスデューサーで電気信号に戻す機能です。バネの長さで遅延時間が決まり帰還ループ
   させ帰還量をVRで可変しエコー機能を増減させ、真空管アンプを製作した頃に遊んだ記憶があります。本部品は帯域がとれません
   ので不向きです。と言うより時代錯誤です。
 ③ RAMへのリード/ライト処理(デジタルディレー)
   本命は、この方式になるでしょう、サンプリング>12KHz、段数はRAMの容量となります。
         
    (書き込み番地)ー(読み出し番地)=遅延時間となります、リングメモリーが1番地から100番地まであるとすると、1番地の
    ズレがあると最小遅延時間となり、99番地のズレがあると最大遅延時間となります。サンプリング=1/12KHz=0.083msX99番
    地=8.25msが最大遅延時間となります、ビット数は必要とするD-レンジに合わせて設ける。30年前(1987年)に無線を再開した
    折に、初めて自作した機器です。唯一の欠点はモニター音が遅延しているため、自分の発生した骨伝導と遅延音が重なって聞こ
    えるため違和感がありますしかし、使いつづけていくと耳も慣れて殆ど違和感は消えていきます。
                
【フィード・フォワード型】
 基本的な構成は、遅延型と同じで遅延素子を削除したものです。フィード・フォワードは利得制御する前にレベルが大き過ぎるがどうかを検出し事前にレベル調整する方式です、本方式はファジー的な要素があり、恐らく、この位のレベルに調整しておけば同じレベルであろうと判断し制御を行うものです。従って、制御信号と利得制御回路の入ー出力特性が合致していなければ一定制御が出来ないため、特性を合わせることが困難です。事前制御なためアタック歪を回避することが出来ますが、マージンを見込むと遅延素子を入れたくなります。

【フィード・バック型】
 出力信号を直接検出してフィード・バックさせるため、ループ利得の設定により安定したレベルで取り出すことが出来ます、但し、ループ利得の配分設定によってはシャックリ現象とか違和感を感じる場合があります。古くから使われている方式で利得制御回路に使用出来るデバイスが多くなく、大抵の場合、FET素子やアナログ乗算回路をディスクリートで組み上げたりして製作されていましたが、特性的に満足出来る物がなく今ひとつだったような記憶があります。フィード・バック型の唯一の欠点はアタック歪が発生することです。規定のレベルを超えなければアクションを起こすことが出来ない訳ですから、頭がオーバーレベルとなるのは当然です(アタック期間)アタック歪と称するのは間違いで、アタック期間に若干オーバーシュートするのは、レベルが大きくなっているだけで、送信機として以降のD-レンジに余裕を持たせた配分設定を行い、アタック/リリースの時定数設定で実用上、全く問題ありません。30年前に無線を再開した折にはHi-Fiオーディオ機器に使用する電子ボリュームデバイスとして直流電圧制御でレベル制御するデバイスがあり、非常に優れた特性で私にとってPSN送信機を自作する際はISBモードを設けるため、オーディオ回路の処理としてステレオ(Wの回路)回路が必要で、電子ボリュームもステレオ1チップ内蔵でピッタリでした。M5283Pを使ったフィード・バック型制限増幅器を紹介しておきます。

 

                                 回路図

リミッターブロックをどの位置にはめ込むかによって、出力レベルが異なり私は、バラモジ入力に位置することが多く、出力レベルは1Vppに設定して使用することが多いです、これが例えばメーカー製リグのマイク入力端子へ供給するとなると、大きくても数百mVとなります。設定しようとする出力振幅よりも約3倍のレベル信号を入力します、私が使用している条件で説明します、組み上げると調整は2ケ所だけです。
 ① L-CH又はR-CH入力に1KHz3Vppの信号を入力し、L-CH又はR-CH出力が1VppとなるようにVR2を調整します。
 ② この状態で圧縮レベルメーターが2点点灯するようにVR1を調整します。

          2T信号による入ー出力特性    入力ゼロからのレベルシフト 


【制限増幅器の挿入位置】

 理想的にはアンテナから出射される帯域成分内において制御されることが望ましいです、例えば、フィルタータイプのような送信機(300Hz~3KHz)で、マイクロホンから入力される信号は第1フォルマント(100Hz)のエネルギーが最も強く、この成分で制限されると出射帯域が300Hz~3KHz)だと、オーディオ信号でレベルが制限されパワーがアンテナから出ていきません。よって、オーデイオで帯域制限された成分(300Hz~3KHz)で制限をかけることが望ましいです。
実際に送信機を自作する場合、オーディオでHP-F/LP-Fを通過させ帯域制限された信号を制限増幅器へ入力させる方が良いですが、フィルターの種類によりフレキシブル対応させようよすると、D-レンジの面で困難です、現実的には、第1フォルマント(100Hz)が問題な訳ですから、最低HP-Fのみ通過させて、制限増幅器に入力すればよいのでは、その他の帯域も含めて制限をかけるには、RF段でALC回路を設けることになるでしょう。