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10月17日(木)観劇日記  各々の演目のキャストはキャスト表を参考にしてください。

シャトレ座のインターネット販売では良い席がもう残っていなかったので、ここはひとつ海外チケット取扱い業者に頼んでみようと、「カーテンコール」という業者さんからチケットを購入。ORCHSTRE席O列16、18番の席を無事ゲット。料金は手数料諸々込みで11250円。もとの値段がお安いので、手数料が入っても日本で観る外国のバレエのB席なみの金額である。この日は引換券がちゃんと手元にあるのでちょっとだけおめかしをしてゆっくりと行くことにする。
16日も雨だったが、この日もちょうど出かける頃に雨が降り始めた。傘をさして劇場へ向う。昨日と同じ窓口で引換券を出すと、隣りの窓口だと言われた。なるほど、隣りは「エージェント」となっている。業者を通した場合はこちらなのね、と納得。チケットをもらいいざ席へ。
席への入口のドア前に立っている配役表くばりのおにいさんから、本日の配役表をもらう。早速チェック。やった!今日の「シェヘラザード」もマハリナ&ルジだわ、よかったよかった。そして今回の観劇の旅で一番良い席、オーケストラ席だ、わーい、というわけで昨日視界から切れて見られなかった舞台上手も全て見渡せる。嬉しい。今日の指揮者はMikhail Agrest(日本語表記がわかりません)さん。


Petrouchka
『ペトルーシュカ』
ストラヴィンスキー作曲 フォーキン振付


今日のペトルーシュカはアンドリアン・ファデーエフだ。キーロフのサイトでその甘いマスクは拝見していたが、ダンスを観るのは初めて。白塗りお化粧のペトルーシュカなのが少し残念ではある。昨夜のサモドーロフに比べて体形的にも全体的に華奢なので、ペトルーシュカのあのだぶついた衣装が良く似合っている。(そう、あれはダブダブしてないとね。)アユポアの人形は相変わらず可愛らしく邪気のない感じ。ペトルーシュカに言い寄られても、はっきり拒絶するというよりは、ただただ困惑しているという風情。映像にあるルディエールの意志が強そうなバレリーナ人形とはかなり趣きが違う。
家に帰ってパリ・オペラ座の映像と比べてみてわかったのだが、キーロフ版の方がペトルーシュカの踊りが多くなっている。一人、部屋に閉じ込められて人形使いへの怒りや恐れを表現するダンスでは、押さえきれない感情をそのままダンスにしたかのように、狂おしいジャンプで部屋の中をぐるぐる回るのだ。ファデーエフの踊りは軽やかである分、ピュアでストレートな思いがこちらに伝わってきてとてもよかった。
アンコールの時もかなり長い間、ペトルーシュカになりきっていて、ずーっと内股で顔を傾けたままお辞儀をしていた。最後の最後でようやく普通のお辞儀になったのだが、役に対するこういう入れ込み方は好感がもてる。来年の来日公演では、ぜひとも「ロミオとジュリエット」のロミオ役を彼で観てみたいものだと思った。


Sheherazade
『シェヘラザード』
リムスキー=コルサコフ作曲 フォーキン振付


舞台近くの良い席での鑑賞なので、今回はルジマートフのダンスそのものについて少し書いてみようと思う。「シェヘラサード」の金の奴隷はとにかく出てくる瞬間のただならぬ雰囲気が命だと思う。自分を閉じ込めていた扉が開いた瞬間にばんっと舞台に飛びこんできて、ポーズをとり辺りを見据える。自由の身になることはできたし、ゾベイダ自身に王様は今お出かけなのよ、とささやかれたのかもしれないが、ルジマートフの奴隷は今までいかに抑圧された場所にいたのかを物語るような、警戒心と張り詰めた空気をその身体にまとわり付かせている。獲物を狩る前の猫族の緊張した美しい姿態とまさに同一の雰囲気だ。獲物(この場合はわたしみたいな観客、笑)はいつもそこで射すくめられる。わかっていたっていつもそうだ。多分それほどルジマートフはその瞬間に全意識を集中しているのだと思う。
彼は今39歳で肉体的な踊りのピークは常識から考えて多分過ぎているのだろうと思う。しかし、わたしは彼を観始めて10年ぐらいたつわけだが、具体的にどこかテクニックが衰えたか、と聞かれてもそれをあげることは全くできない。強いてあげれば、若い頃にあった過剰な感じ(脚が上がりすぎてるとか、ジャンプを飛び過ぎで舞台の超端っこにいってしまうとか)が無くなったかなというぐらいだ。もちろん、いつもいつも完璧なわけではなく、日によっては、今日はちょっと決まってなかったかも…、と思う日もあったりするのだがそれでも、翌日やその後に同じ公演があるのならば、彼の踊りは確実にまた、生来のテクニックと美しさを取り戻しているのだ。
金の奴隷という役は、舞台に出てきたが最後、王に殺される直前まで舞台の上に出続ける役である。ほんの少しだけゾベイダと袖の方に行くことがあっても、常にそこでも演技をし続けている。その間役35分程(ゲルギエフのCDより)。なんと過酷であることか。ゾベイダとのかなり長いパ・ド・ドウ、そして最後の最後に奴隷たちを先導し煽るような、いつまで続くのかと思うような何回転ものグラン・ピルエット!楽曲がラストの悲劇に向ってひた走るのと同じように、ダンスも怒涛のように激しさをましていく。ルジマートフの全幕「シェラザード」はこれで6回観たことになるが、いつも彼の踊りは最後まで美しく完璧だった。 
「シェヘラザード」の金の奴隷を踊らせて、彼の右に出るダンサーは今のところ絶対にいない。彼以外の金の奴隷をわたしは実は一回も観たことがない。それなのに何を言うか、と思われるかもしれないが、やはり、断言してしまう。今、ルジマートフ以上に金の奴隷を踊れるダンサーはいない、それほどに彼のダンスはすごいのだと。
リムスキー=コルサコフ、フォーキン、そしてニジンスキー(多分この伝説の天才ダンサーがいなかったら「シェヘラザード」は生まれていなかったと思う)ありがとう。あなた達が、バレエ・リュスでこのバレエを生み出してくれたおかげで、後世の私達はファルフ・ルジマートフという類いまれなダンサーでこの作品を思う存分堪能することができました。本当に嬉しいです。
ニジンスキーが彼のダンスを観たらなんというだろう。シャトレ座は、バレエ・リュスに縁が深いのでニジンスキーの魂が彼の舞台を観に来ていたかもしれない、などと考えるのも少し楽しいことではある。喜んでるといいな、いや、案外悔しがってるかもしれない。自分も踊りたい〜とか思ってね(笑)。


Le Spectre de la rose
『ばらの精』
ウェーバー作曲 フォーキン振付


この日のばらの精はサモドーロフ。前日のコルプのふわりと綺麗なばらの精を観てしまった目には、サモドーロフはいかにも重たく感じられた。ううむ、もうちょっとお尻ともものあたりを引き締めないことには、あの衣装は似合わないぞ、と。ジャンプして降りた時にドスンと音がしてしまうのも、舞台が近かっただけによく聞こえてしまって残念だった。
アユポワの少女は相変わらず可愛らしい。今回アユポワが観られたのは嬉しいのだが、バレリーナ人形と「少女」だけ、というのがちょっと寂しかった。もっと深い役柄の見応えのある踊りが観たかったなあ。って今更しょうがないけれども。


Danses polovtsiennes
『ポロヴェッツ人の踊り』
ボロディン作曲 フォーキン振付


もう、この楽曲と合唱と群舞の素晴らしさに関しては、言うことがないって感じ。とくかく素晴らしいのだ。今でも思い出すとワクワクする。観客もこの演目にはのりのりになるらしく、拍手も一際多い。 


L'Oiseau de feu
『火の鳥』
ストラヴィンスキー作曲 フォーキン振付


昨夜、見えなかった舞台上手が観られたので、いろいろと楽しかった。特に最後の幕、魔物達を火の鳥が操ってる場面。この場面火の鳥はずっと上手で踊っているので、昨夜はほとんどここでのニオラーゼの踊りが観られなかったわけだけれども、今日はばっちりだ。本当にいかにも操っている。腕をチャッチャッチャッと動かすと、魔物達もそれに釣られるのよね。楽曲も面白いし。
しかし、魔物が出てくるまでが、ちょーっとこの演目って退屈なのだ。それまでの音楽もストラヴィンスキーにしてはおとなしめで、バレエ音楽はよく聞いているけれども、純粋なクラシック音楽にはほとんどうといわたしにはちょっぴりつまらない。踊りらしい踊りもあまりないし。生の音楽自体はとても気持がいいので、それがいいのか悪いのか、約一名隣りで爆睡してる人がいました(笑)。そして昼間の凱旋門の階段登りがたたって、わたしも少し睡魔に襲われました。時間ももちろん12時回ってるしねえ。
でもラストシーンはやっぱり素晴らしい。セットも綺麗だし、荘厳な感じだし。ここも正面から見られてよかったよかった。というわけでプログラムの順番「シェヘラザード」と「火の鳥」を入れ替えてくれるとわたし的にはベストなのにな、とか思った今日この頃(笑)なのだった。
 *火の鳥の始まりとともに眠りに落ち、エンディングの音楽で目が覚めたのは私…(しずか)
… 2002/12/10 …   カオル