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10/19観劇記 キーロフバレエ・マチネ公演  各々の演目のキャストはキャスト表を参考にしてください。

この日はもともと何のチケットも用意していなかった。しかし、キーロフの公演はもちろんやっているので当日券を買う事にする。
パリに着いてシャトレ座に行った初日、午前中に覗きに行った時間で当日券を購入している日本人らしきおじ様を目撃していたので、シャトレ座は、オペラ座と違って窓口が開けば当日券を売ってくれるに違いない、と判断してまずは、出かける前にシャトレ座によることにする。超つたない英語で当日券ありますか?と窓口のおじさんに聞いたら、3階の右翼席と左翼席を示された。「シェヘラザード」のルジの下手演技を観るためには、右翼でなきゃね、というわけで右翼席最前列購入。旅日記にもあるが、これが4ユーロ!コーヒー一杯分、てなもんですな。まったくうらやましいにも程があるとはこのことか・・・。
マチネ公演なので明るい中(初めてだ)いそいそと劇場へ。でもって、お待ちかね今日の配役表は・・・おおおっ!ゾベイダにザハロワ!でもって火の鳥にヴィシニョーワ!う・れ・し〜!もちろん、マハリナもニオラーゼもとてもよかった。しかし、キーロフの今や二枚看板バレリーナのこの二人が、観られないのは寂しいなあと思っていたら、最後の最後でこの二人だ。嬉しいのなんの。もしかして昨日からそうだったのかしら?18日分の配役が気になるところだ。今思えば、配役表配りのお兄さんに昨日の分がないか、聞いてみれば良かったなあ、私ったらバカね。
3階右翼最前列は、照明器具などがあってちょっと見えにくかったけれども、それにもちろん舞台上手はほとんど見えないけれども、最前列にもかかわらず前に無粋な手すりとかはないし(ちょっと落ちそうな感じがしなくもないが、笑)舞台が近いし、オケが近いし、ここで4ユーロ、しかもキーロフ・バレエ!なんて、日本にいたら夢のような話ではある。
さあ、今日は「ペトルーシュカ」はなし、最初っから「シェヘラザード」だぞ〜!しかも初見のザハロワ&ルジだ〜と気合十分。そして、この桟敷席あたりにいるお客さんというのは、なんというかもう、いかにもバレエ好きというおばさん&おじさんで、始まる前からなんか異様に盛り上がっているのであった。もちろん私も盛り上がっていたけれど(笑)。さあ、幕が上がった。


Sheherazade
『シェヘラザード』

リムスキー=コルサコフ作曲 フォーキン振付
この日は最終ということなのか、お客さんもルジの素晴らしさに気がついたのか、例のルジ@金の奴隷の出の部分で大きな拍手が客席から上がりました!わーい、やった〜!もちろんわたしも思いっきり拍手拍手〜。

それから最初にご注意。このレポはわたしのザハロワ&ルジ版「シェヘラザード」妄想物語になると思います。(今から書くわけだけどさ、でも多分つーか絶対なります)ので、そんなものには付き合いきれない、と思われる方は読まないほうが懸命です。読まれて、ケっ、なんじゃこりゃと思われても責任は負いかねますので、どうぞよろしくお願いいたします。

美しい第一曲が終わり、幕が開いた。いつものようにゾベイダは下手にある長椅子(というか寝台というか)にしどけなく寝そべっていて、シャーリャル王の愛撫に身を任せている。ザハロワは若いし、どちらかというと白のバレエのイメージが強いので、こういうシーンってどうかしら?とちょっと不安だったが、どうしてどうして、シャリアール王に足を撫でられながら、こちらがドキリとするような色っぽい表情を浮かべている。王の背中にしなだれかかる腕もなまめかしい。ザハロワについてはそれほど何度も観ているわけではないので、そんなにはっきり断言できるわけではないけれども、どんな役柄をやってもその役に必要な核心部分をきちんと把握できて、自分なりの身体表現ができるバレリーナなのではないかと思う(まあ、わたしが個人的に好きなので、過大評価し過ぎかもしれないが)。
「シェヘラザード」でもシャリアール王に愛される(多分目の中に入れても痛くないほど、というほどに)若き王女で、彼女も贅を極めた、何不自由のない生活を与えられ、全て自分の思い通りにさせてくれる王様を間違いなく愛していたのだと思う。そう、金の奴隷に出会うまでは。 
ザハロワ@ゾベイダは、その若さと飛びぬけた美貌でシャリアール王に望まれて後宮に入る。後宮の生活も気に入って、もちろん王様のことも愛している。しかし彼女は多分本当に人を好きになるということを知らずに、この場所にきてしまった。そして金の奴隷に出会ったのだった。二人の最初の出会いはどうだったのだろう。
王「ゾベイダ、お前のために今度新しい館を造る事にしたよ、そのための奴隷が今日来たのだ、見てみるか」
ゾベイダ「まあ、わたくしのために館を。今のお部屋だけでも十分ですのに。でも嬉しい」
王「そうかい、それは、よかった。きっとお前の気に入るものを造らせるからな、ああ、今、綱に引かれて奴隷が通る、見てご覧」
ゾベイダは、王に言われるまま後宮の庭先に目をやった。使役頭に、繋がれた綱ごと引かれて歩いている奴隷たちは、ほとんどが首を垂れ、暗い表情をしていたが、中に一人だけ、毅然と頭を上げて力強い歩調で歩く青年がいた。他の奴隷達に比べて彼だけが何もかも違っていた。いや、薄汚れた奴隷お仕着せの格好は同じだ。それなのに、全身から醸し出される雰囲気は、自分に近づくもの全てを拒むと言わんばかりの意志の強さ、その立ち上るオーラに包まれている。ゾベイダは一瞬たりとも彼から目を離すことができなくなった。そんなゾベイダの視線に気付いたのか、彼もゾベイダの方を見た。絡み合う二人の視線。それはほんの数秒だったが、ゾベイダはその瞬間自分が本当の恋に落ちた事を雷に打たれたように確信した。
ゾベイダが初めて本当に好きなったのが、金の奴隷でそれが全ての始まりで終わり。
王の弟の策略があろうが無かろうが、二人の死がどんな形だったかが変わるだけで、悲劇は絶対に起こった事。何故といって、ゾベイダには何もかも(きっと自分の気に入らない人間を殺してもらうことだって)許させているけれども、王以外の男を本気で愛してしまうことだけは許させていないから。
ザハロワ@ゾベイダはだからこの愛に必死だ。策略だとわかっていても金の奴隷に会いたがったに違いない。鍵を持っている宦官にあられもなく近づき、嘆願し首飾りを投げつける。鍵を奪ったとたんに金の奴隷を閉じ込める部屋に向って飛ぶように走りより、鍵を開け、彼が出てくるのをその壁に身体をもたせかけて待つ。愛しい人に会える喜びで自分一人だけではとても立っていられないという風情なのだ。
だからザハロワとルジマトフのパ・ド・ドウは、王女と奴隷のパ・ド・ドウではない。(今回、マハリナとのパ・ド・ドウは、結構そんな風だった)ザハロワは一人の女になってルジ@金の奴隷を誘惑する。これはまあ、テクニックの差でもあるのだけれど、マハリナより高く上がる脚も、長く続くドゥミ・ポアントも一人の男を愛する喜びに溢れて、この上も無く美しい。ルジ@金の奴隷がそんなゾベイダに反応しないはずもなく、下手に二人で下がっての演技(マハリナとの場合は見詰め合いに終始している、これはこれで息苦しくって(笑)いいんだけど)では、ザハロワの腰に手を回しているではないか!そうね、きっと、このルジ@金の奴隷も、最初にゾベイダを見たあの数秒で恋に落ちていたんだわ、その時は王女とも知らなかったに違いない。ふうむ、そして今この時でも王女とは知らないかもしれない、というのも成立つのだ。二人はこれまで以前に二人きりで会ったことも、言葉を交わした事もなかった。ゾベイダはだた、黙々と働き続ける彼を遠くから見つめるだけ。しかしその度重なる熱い視線の先に誰がいたかを王の弟に見破られ嫌疑がかけられ、こうして試されたかもしれないのだ。
だから二人のパ・ド・ドウは愛の喜びに満ちたものだ。マハリナとのパ・ド・ドウより頽廃的ではなく、全体的に晴れやかだった。しかし、晴れやかといってもザハロワにしろルジにしろ、本質的に陰影の濃いダンサーなので(だから、この二人良く合うのですけれども)、いかにも楽しげという訳にはいかない。それになんといっても、ザハロワ@ゾベイダは禁忌をおかしているのだから。ルジ@金の奴隷もこの場所が後宮だとは知っているはずで、その中で一番権威のある女性が自分と一緒にいるゾベイダとだんだんと気がつく。ということは、この一目見て恋した女性こそが王女だったのかと愕然とするが、彼もその時点ではもう引き返せないのだ。どっぷりとこの愛の深みにはまっている。心ならずも奴隷という身分に身を落としたが、それでも愛した女性が他ならぬ自分を捕らえた王の女なら悔いはない。この狂乱の果てに訪れるのは多分死≠セろうが、それでも構わない。そうしてルジ@金の奴隷はあっさりと死ぬ。
ゾベイダは一度は愛した王に命乞いをする。しかし、それがかなわないとわかるとやはりあっさりとその身にナイフをつきたてる。生涯に一度した本当の恋のこれが成就なのだった。

読んでいただいた方ありがとうございました。ほんとのところ、ザハロワはこんな風にちっとも考えて踊ってないと思います。でも、わたしはそうみてしまったということなのでした。はー、楽しかった。やっぱ一度本格的に物語にしてみたいわ、どっかでやろっと(おい、悪乗りしすぎだっつの、ゲシっ)。


Le Spectre de la rose
『ばらの精』

ウェーバー作曲 フォーキン振付
コルプくん、初日に引き続き、きれいでした〜。2月のヴィシニョーワとの「チャイコフスキー・パ・ド・ドウ」が楽しみだよん。


Danses polovtsiennes
『ポロヴェッツ人の踊り』

ボロディン作曲 フォーキン振付
もう、これほんっと言うこと無いです。素晴らしい。日本でもやればいいのになあ。せっかくバレエの前にオペラもやるんだから。ちょっとオペラの人に数人に残ってもらえばいいのに(って簡単に言ってやる、いいもん、言うのは勝手だからさ、開き直り、笑)


L'Oiseau de feu
『火の鳥』

ストラヴィンスキー作曲 フォーキン振付
さて、ヴィシニョーワだ!火の鳥は最初イワン王子をからかうように舞台に登場しては去って行く。上手から下手へ、下手から上手へ、文字通り飛ぶように軽やかに。そう、ヴィシニョーワはやっぱり本当に踊りが上手い。ニオラーゼが悪かったわけでは決してないが、ヴィシニョーワが同じことをすると、同じに見えないのである。まさに飛んでいる。そして鮮やかで、軽やかで、とても人間には捕まえられそうにもない感じだ。舞台を何度かそうやって横切っていっただけで、強烈な印象を観客に残していった。もちろんイワン王子もそんな火の鳥を捕まえたくてうずうずしているはずだ。ニオラーゼの火の鳥より、焦り度も高そう(笑)。しかし、捕まらないと話は始まらないので、無事ヴィシ@火の鳥は捕まってしまってしばしのパ・ド・ドウ。振付のポーズも明確できっちりとしているので、「火の鳥」を踊るヴィシニョーワは、水を得た魚(いや、火の鳥なんだけどさ、笑)のように素晴らしい。ヴィシの火の鳥は特にイワン王子を愛しているわけでもなんでもないし、自分を捕まえた珍しい人間に、自分の羽根でもわたしておこうか、何かの役にたってあげられそうだしね、という感じではある。
そして例の魔界のもの達がやってきて、イワン王子も窮地にたたされる。羽根で呼び出させる火の鳥。あら、やっぱりわたしの力が必要だったのね、とさも得意げに嬉しそうに魔界のものを操り始める火の鳥。もうヴィシニョーワったら火の鳥似合い過ぎじゃーん。観てるこっちは楽しいからいいけどさ(笑)。
無事、魔界のものを退治して、めでたしめでたし。
カーテン・コールも何度も続いた。ヴィシニョーワへの拍手は心なしか、ニオラーゼの時よりも大きかったような気がする。まあ、ニオラーゼの時は時間も時間だったので、観客の皆様、お疲れだったかもしれませんが(笑)。

さあ、これで「パリでキーロフ・バレエを観る」というこの旅の目的の大半がここで終了したのであった。結果的にはもう、大満足。細かい不満をいうとザハロワの脚がみたかったかな(なんつて、いやゾベイダってハーレムパンツだからさ、あの「脚」が観られなかったのがちょっと寂しいかったなりよ)。あと、全幕ものもちょっと観てみたかった。新版「くるみ」も、あまり評判のよろしくない復元版「バヤデルカ」も、ルジが出ないとわかってはいても一回ぐらいみたかったですね。まあ日程的にそれは無理なので仕方がないことでしたが。
しかし、パリのキーロフ公演、料金が安くてうらやましい。日本より近い、フランス政府の援助もたくさんある、その他いろいろ理由はありそうだけど、まことうらやましいこってす。
来年のキーロフ・バレエ日本公演はどうなることでしょう。ルジマートフは無事踊ってくれるのでしょうか。パリで「シェヘラザード」を堪能したわたしとしては、「カルメン」あたりを希望したいところです(って今のところ演目予定には全然入ってないけどさ、笑)。 
… 2002/12/29 ……カオル