御園座・第三十六回吉例顔見世
平成十二年十月一日初日・二十五日千穐楽 |
||||||||
|
||||||||
演目名をクリックするとそこへジャンプします。 |
ひらかな盛衰記 源太勘當 詳しい配役はこちら |
★あらすじ★ 鎌倉の梶原平三景時の館。家父の景時と長男源太景季は宇治川の合戦に出陣している。次男の平次景高は源太と恋仲の腰元千鳥に横恋慕しており、仮病を使って家に残っている。 陣中から横須賀軍内が父から母延寿への手紙を持って帰ってくる。その手紙には「源太は宇治川の先陣で遅れをとり物笑いになった源太を切腹させよ」という内容。ここぞとばかりに源太をいびる弟の平次。 源太は母にだけは本当の事をと、宇治川で先陣をとった佐々木高綱は父景時の命の恩人でわざと勝ちを譲ったと語る。 切腹を覚悟している源太に、子に先立たれることより親不孝な事はないと切腹を止める。その代わりに勘当を言い渡す。屋敷を出ていく源太に延寿は頼朝から拝領した産衣の鎧とお金を渡し、千鳥と一緒に出ていくように計らう。延寿はからいに感謝しつつ、屋敷を出ていく二人であった。 |
全五段の時代浄瑠璃の「ひらかな盛衰記」。現代には二・三・四段目が伝わっているらしいです。文楽では全段通し上演もあるらしいですが。今回の「源太勘当」は二段目。 この源太、鎌倉一の風流男とのことで、戦からの帰りなのに烏帽子には紅白の梅の枝が飾られていたりして、なかなかに良い拵えでした。梅光さん格好良いです。 なんかさ、お父さんも息子が先陣に失敗したくらいで切腹させなくってもいいのにって思ったのだけど、息子を屋敷に返して処分を母親に任せたあたりは、父も実は母親が切腹させずにおく事を読んでいたのではないかしらん、などと深読みをしてしまいました。もとはと言えば自分の不始末のせいなんだからね。 しかし、母延寿さんはどこまでも息子に甘い。ま、実際源太にはなんの落ち度もなかったのだから仕方がないけど、家を出ていく息子にお金と恋人の腰元千鳥を一緒にいかせてやるなんて、次男の平次が拗ねるのもむりはないですね〜。 この腰元千鳥は、後に廓で梅ケ枝という遊女になってしまうらしいです。このあたり、仮名手本忠臣蔵のおかると似てますね。 |
色彩間苅豆・かさね いろもようちょっとかりまめ・かさね 詳しい配役はこちら |
★あらすじ★ あらすじは京都南座の「かさね」のところを参照していただくとして、この「かさね」には梅幸型と菊五郎型の二つがあるらしいです。 「かさね」は江戸時代(文政六年だそうで何年だろ?)「法懸松成田利剣(けさかけまつなりたのりけん)」の二段目の序幕「色彩間苅豆」で、しばらくは上演されていたものの歌舞伎の舞台から遠のき、振りは絶えてしまっていたそうです。でも、曲は残っていたので、明治末期に開催された藤間流の舞踊会にかさねが復活。これを機に十五代目羽左衛門と六代目梅幸のコンビのかさねがたびたび上演されるようになったらしいです。 あと、大正末期に六代目尾上菊五郎の累と十三代目守田勘弥の与右衛門で、原作に近づけたかさねが上演され、梅幸型と菊五郎型の二つになったとのこと。 今回の芝翫さんは「別段誰の型というわけでなく云々」と筋書きに書かれてますが、与右衛門とかさねの出の場面は、別々の出になっているので梅幸型みたいですね。でも、私は何所がどう違うかなんて、全然分からないのですけどね。はっはっは…。 |
6月に京都南座で玉さま&新ちゃんの「かさね」を観たばかりなので、今回芝翫さんと吉右衛門さんがどんな風に演じるのかすごく楽しみでした。 歌舞伎という物は型がある程度きまっているから、今まで同じものを見てもそれぞれがどう違っていたのかなんて、気がつかなかったのですが(というか、それ程の見る目がないのですけれど…)今回は初心者の私でも、違いがそりゃもうはっきり分かりましたです。 南座の時は始めてかさねを観たと言う事もあって、鶴屋南北特有の「エログロ」世界と、玉さま&新ちゃんの演技に圧倒されて、大変疲れてしまったのですが、今回の芝翫さん、吉右衛門さんのかさねは、「舞踊劇のかさね」としてじっくり観る事がでしました。 芝翫さんのかさねはすごく可愛らしくて、前半のクドキも一生懸命で一途な感じ。それでよけいに後半の容貌が変わってから、与右衛門に斬られてしまうまでが哀れで、連理引きでも、恐ろしいと言うよりも、殺されても怨念が残ってしまい、男を引き戻してしまう女の哀れさをまず感じたのです。玉さまの時は、引き戻して「私と同じ目に合わせてやる〜」って感じで、怖くて怖くて…。まぁ、与右衛門が新ちゃんだったというのもあると思うのだけど。 花組芝居の加納さんがテレビでおっしゃっていた言葉によると、芝翫さんは「伝統的な歌舞伎の女形」で最近の役者的女形とは違う、と言う事らしいです。この言葉、今回観てみてちょっと分かったような気がします。 しかし、かさねはどの場面をとっても計算された美しさがありますねー。かさねと与右衛門の衣裳といい、二人の見得の美しさといい、まったく一場面も見逃せない感じでした。 |
ぢいさんばあさん
詳しい配役はこちら |
★あらすじ★ 同僚と喧嘩をして負傷をした義弟の変わりに、京都に1年間赴任する事になった美濃部伊織。おしどり夫婦と評判の仲の良い夫婦で生まれたばかりの可愛い息子もいる。必ず帰ってくるからと堅く誓って京都に赴く。 伊織が友人の下嶋甚右衛門に借金をしてまで手に入れた刀の披露の宴席。るんが手紙に添えて送ってくれた、江戸の家の桜の花びらを散らしながら酒を楽しんでいる所に、下嶋が乗りこんできた。彼は自分が貸した金で買った刀の披露の席に、なぜ呼ばれないのかと伊織に詰め寄り罵倒する。耐えていた伊織だが、とうとう下嶋を斬ってしまう。 時は流れて37年後。京都の事件のあと、越前の有馬家に身柄を拘束されていた伊織が江戸の屋敷に帰ってくる事になった。それまで屋敷を守っていた、義弟の久右衛門の息子久弥と妻きくは名残を惜しみつつ屋敷をでる。 約束の時間よりも随分早く伊織が帰って来た。37年ぶりの我家と桜の木に声をあげる伊織。 そのうちお供を大勢連れた輿が着いて、出てきたのはるん。筑前黒田家の奥女中を長年務め、伊織が戻ってくるのを機にこちらも家に帰って来たのである。37年ぶりともなると、すぐにはお互いが分からない二人だが、伊織の鼻をさわるしぐさを見て、自分の夫と分かり37年ぶりの再会を喜び合う二人であった。 |
孝夫時代の片岡仁左衛門丈と玉さまが演じている写真をみて、こんなお芝居もあるのか…、と思っていて一度見てみたいと思ってました。あのあからさまな白髪の鬘がちょっと可笑しくて。 今回團菊コンビで見られるのだから、とても楽しみでした。久弥が新ちゃんというのもグー。贅沢を言うときくが菊ちゃんだったらなお良しでしたが…、そこまで言ってはいけませんね。 はじまりの若い頃のるんと伊織、菊五郎さんが美しい武家の奥方様で、夜の部の「左官の長兵衛」とのギャップがすごい。まったく役者さんてすごいなー、と妙な関心をしてしまいました。伊織の團さまは、白塗りのお顔がね…なんだかパタリロが頭に浮かんでしまいました。(深い意味はないです〜。(^_^;) 伊織が37年振りに自分の家に帰ってきて、桜に「俺の桜だーー!」と抱きつく所は、分かっているけど涙がじんわり。気が付くと周りのお客さん達も、ハンカチで涙を拭いていたり、ずずっとすすり泣いていたりして。 お芝居は難しい所は全然無くて、台詞もほとんど現代劇のようで、歌舞伎というよりは新派のお芝居をみているようでした。歌舞伎特有の豪華さが好きな私としては、ちょっと寂しかったのですが、團さま@伊織の可愛らしさ(37年ぶりの我家を見て回る様がなんとも可愛い)に免じて目を瞑りましょう。(偉そう…) |
菅原伝授手習鑑・寺子屋 すがわらでんじゅてならいかがみ・てらこや 詳しい配役はこちら |
★あらすじ★ 寺子屋の師匠武部源蔵は、なにやら悲痛な面持ちで家に戻ってくる。それと言うのも自分の寺子屋に匿っている、菅原道真(菅丞相・かんしょうじょう)の嫡男、菅秀才の首を差し出せと命令をうけたからである。 家に着いてみると、今日寺子屋入りしたばかりの小太郎はこんな田舎にもかかわらず、利発な顔立ちをしているではないか。こうなったらこの子供を身替りにして、迎えに来た母親も殺してしまおう、と鬼のようなことを計画する源蔵であった。 そうこうするうちに、首を引き取りに春藤玄蕃と菅秀才の顔を知っているとして、松王丸がやってくる。松王丸は珍しい三つ子の内の一人で、後の兄弟は菅丞相の家来として務めているが、松王丸だけが敵方の斎世親王の元にいたのだった。 首を見せると以外にも松王丸は「菅秀才の首に相違ない」と言い、その首を玄蕃が持ちかえる。 一難去って、小太郎の母千代が小太郎を迎えにやってくる。すわ、と斬りかかる源蔵であったが、実は小太郎は松王丸と千代の息子で、覚悟の身替りであった事をしる。 |
松王丸の「雪の積もった松枝」文様の衣裳とあの鬘の拵えは知っていても、「寺子屋」の内容は実は余り知らなかったのです〜。(初心者だからお許しを)「熊谷陣屋」と同じく主君の御為に自分の子供を犠牲にしてしまう親のお話なのですねー。「寺子屋」単語の長閑な印象と、お芝居のシリアスさのギャップが激しい芝居でした。 主君の為とはいえ、敵方に身を置きなおかつ、自分の息子まで主君の息子の身代わりとして差し出してしまうなん、封建時代っていやですな〜。 源蔵役の梅玉さんと、その妻の戸浪役松江さん。夜の部でもコンビで、さすがに兄弟良いコンビネーションでした。今回の顔見世で松江さんちょっと気に入ってしまいました。 |
歌舞伎十八番の内勧進帳 かんじんちょう 詳しい配役はこちら |
★あらすじ★ いまさら説明もないですな。 山伏姿で奥州へ逃れようとしている義経、弁慶一行は安宅の関にさしかかる。関を警護しているのは、加賀の国の富樫左衛門。弁慶と富樫の丁丁発止のやり取りが始まる。 主君義経を想う弁慶、その心根に討たれる富樫。お尋ね者の義経一行である事をしりつつ、関を通す富樫だった。 |
このためにバレエフェスをあきらめたといっても過言ではない、團十郎、新之助父子共演の勧進帳。新ちゃんの富樫は以前に観たことがあるけど、團パパの弁慶は初めて。わくわく。 1度目は初日近くの3日に観に行きました。三等席のせいか、ちょっと迫力がなくて残念。御園座の席は、歌舞伎座や南座と違って遠いから寂しいです。(ってそんな感想でいいのか?! 遠くて細かい表情とかがよく見えなかったんだもん…。) 團パパの弁慶はもう安心して観ていられますね。新ちゃんの富樫にちょっとはらはらしながらも。 2度目は念願の千穐楽。一度行って見たかった千穐楽。といっても特に何があるわけじゃないのですけどね。この日は、ちゃんと一等席、真ん中。富樫や弁慶の表情もばっちりです。やっぱりこれくらいの席じゃないとね。まってましたの富樫参上。浅葱色の衣裳も美しく、下手側に落ち着く富樫。いや〜、ほんと富樫の拵えって美しいですわ。衣裳とはいえ男性がこういった華やかな着物を着るのはなかなかないですよね。眼福眼福。 流石に千穐楽。弁慶と富樫の迫力がものすごかったです。(近くで見たからかな〜)團パパ@弁慶とギっと目を合わせながらの問答の迫力は、トリハダがたってしまいました。自分自身も勧進帳を観るのが四度目という事もあるかもしれないけれど、以前に新ちゃんの富樫を観た時よりも、台詞がしっかり聞こえたし、なによりも「自分の命も危ないかもしれないけど、弁慶の男気に打たれて義経とわかってて関所を通してあげる富樫」に見えたから良かったです。って当たり前なんだけど、以前新ちゃんの富樫を観た時は「この富樫、本当に弁慶に騙されたのでは?」と思ってしまったんだもん。まだまだ若い新ちゃんの富樫。5年、10年後の團パパとの共演が楽しみですね。 勧進帳というお芝居は本当に何度観ても面白い、飽きないお芝居ですね〜。弁慶と富樫の台詞のかけあいの緊張感や、義経と弁慶の主従関係の結びつきの強さとか、あと弁慶がお酒を飲んで酔っ払って大らかに踊る場面などなど、見所が満載。そして締めの跳び六方の引っ込み。歌舞伎ファンの好きな演目ナンバーワンに選ばれるのもうなずけます。 |
人情噺文七元結 にんじょうばなしぶんしちもっとい 詳しい配役はこちら |
★あらすじ★ 長兵衛は腕の良い左官職人でありながら、博打と酒が好きで方々に借金があり、このままでは年越しもままならない。見かねた孝行娘のお久が自分で遊郭に入り五十両のお金を父につくる。その遊郭からの帰り道、身投げをしようとしている和泉屋手代の文七に出くわしてしまう。聞くと集金した五十両をスリにすられてしまったので、死んでお詫びするしかないとひたすら嘆く。人の命には代えられないと、娘に詫びつつ五十両を文七に押し付ける長兵衛。 次の日の長兵衛宅。娘の作ったお金を博打で使ってしまうとはひどい人だ、とお兼に責められる長兵衛。いくら人助けに使ったといっても信じてもらえない。そこに、先日の文七と主人の和泉屋清兵衛が訪ねてくる。清兵衛が言うには、お金はすられたのではなく先方宅に忘れていたとのことで、既に店に届けられていたとのこと。真実がわかり安心する一同。清兵衛が言うには、大事なお金で文七の命を救ってくれた長兵衛は文七の命の親として、これからも懇意にして欲しいとのこと。そして、お久の身受けまでしてくれ、さらに文七の嫁に欲しいとの話。文七、お久の両人ともに依存はないとして、すべてが上手くまとまり大団円で終わるのでした。 |
このお芝居は、最初から最後まで笑わせていただきました〜♪ 落語が原作のとっても分かりやすい人情噺。歌舞伎らしい勧進帳みたいなものもよいけれど、こういったなんにも考えずに見られる演目もいいですねー。しかし、前の勧進帳の格好良い新之助富樫を見た後に、おまぬけな文七@新ちゃん、このギャップがたまりませんでした。 長兵衛の菊五郎さんとお兼の田之助さんのお二人が良いのですわ。絶妙のやりとり。笑いっぱなしでした。 そしてなにより、手代文七の新ちゃん! ひたすら真面目で、でもちょっとお間抜けな手代をエキセントリックに演じてました。身投げを止める菊五郎さんとのからみも面白くて、文七のもぅ〜、いぃ〜んでございますよ〜と手で長兵衛を押し倒して川に向かうとこなんて目がイっちゃってましたもの。この「いぃ〜んでございますよ〜」と長兵衛を呼ぶあ〜な〜た〜の二つはこの顔見世夜の部を観た方の耳に焼き付いた事と思いますよ〜。なんだか、この「文七」のおかげで、前の「勧進帳の富樫」が忘れ去られてしまって…。いかん、いかん、目当ては富樫のはず〜。思わぬダークホースの登場といった感じでしたね。他の役者さんが演じても、文七ってあんなに変な風なのかな? ほんと今回のこの役は、また新ちゃんの演技の違う面が見られてすごく面白かったです。 |