※フォルテシモはちは版権作品を舞台にしたオリジナルストーリーをお送りしています。
 原作のイメージを壊したくない方はお戻り下さい。





SEED認定のかかっていた実施試験は思っていたよりも難しい事はなかった。
ただし、任務通りにやっていればの話だ。
こういうとき、必ず一人は命令違反をするやつがでてくる。
それがつまりサイファーで、よりにもよって俺達の班の班長だった。
つまらないと声を上げるわ配置の場所を離れて単独行動をとるわ
崖から飛び降りて電波塔に向かうわ・・・
撤収命令が出たから急げば
機動兵器も追われるわ追い付かれるわ戦うは倒すわ逃げ切るわ・・・

そうして満身創痍になって帰ってきたのだったが、
驚いたことに、SEED認定試験は合格という結果だった。
(でもサイファーは今回も落ちた。当然といえば当然だ。)


[改めて]



発表を受けたあと、俺を含めた何人かの合格者(同じ班だったゼルもいた)とで
学園長室にきてみればとあの3人がいた。
カズヒサとタチバナと、二人よりも少し幼い黒髪の女子だ。
こいつらは、昨日の晩に結局帰ってこなかった隣部屋の住人の部屋に勝手に泊り込んだ。
そして今朝は今朝で、実施試験に出かけよとした俺が
「見つかると面倒だから」と一日部屋から出ないように言ったのに

(なんでいるんだ・・・。)

しかも、奴らはいつの間にか見慣れたガーデンの制服を身につけていて
楽しげにシド学園長と話をしていた。


「おお、来ましたね。」

俺たちが来たことに気づき、
相変わらず、人の良さそうな笑顔で迎えてくれたシド学園長。
新SEED生たちを横一列に並べると一人一人に順に握手をし、
小さな声で激励の言葉を贈った。
合格をまるで自分のことのように喜ぶその言葉に、皆は力強い返事を返す。

そしてついに俺の番になったとき、
しっかりと手を握られらんらんと瞳を輝かせて言った。

「拾ったものは大事に面倒見るんですよ。」

ちらりとあの3人組をみた学園長。
その輝きは、昨日のカドワキ師匠と同じだった。

あ ん た も か!

なんだ?最近のこの年ぐらいの大人は退屈なのか!?

そして付け足したように、「ガンブレードの使い手は珍しいですから、
頑張って下さいね。」と肩を叩かれた。

個人に向けた言葉を言い終わると、
今度は全体にむけてと口を開いたのだが
そばで見ていた教師たちが時間がない、といって切り上げてしまった。
シド学園長は不満そうな顔をしたまま、部屋から出て行った。


「今夜は就任パーティーらしいからな!SEEDの制服でまた会おうぜ!」

ゼルがそう言って駆け足で部屋から出ていくと
続いてぞろぞろと他も行ってしまった。


そして、ここにいるのは俺と、あの3人組だけになった。

「お疲れさん、師匠!」
「合格おめでとうございます!」
「随分バテてるけど、あの程度の戦地に?」

三者三様の反応だが、特にタチバナに対しては、
つい昨日知り合ったとは思えないこの無遠慮さにはもう何もいいたくなくなった。
しかも、さも見てきましたと言うような口ぶりだし。

「あんたたちのせいてで、だよ。
 大体、その制服どうしたんだ?」

詰襟の男子の制服と胸元に大きなリボンのある女子の制服。
どちらも黒を貴重としていて、金の縁取りがあった。
それにしても、服装がかわっただけで景色に馴染むから視覚というものは信用できない。
さっきまでいた合格者たちがタチバナたちを不思議に思わなかったのはそのせいだった。

「あたし達ここの学生になったんだもの。まずは制服は着ないと。」

当たり前のことを聞くな、と言うように、
胸の前で腕を組み、見下すように俺を見る。
(タチバナの方が背は低いはずなのに、びりびりと感じるこの威圧かんはなんなのか)

「いつ・・・?」
「今さっき。」

とすると、俺たちがきたとき、シド学園長と話していた内容がこのことだったのかもしれない。

「じゃあもう正式な生徒なら、俺が面倒見る必要ないじゃないか。」

聞けば寮の部屋も割り振ってもらったらしいし、
学生証も早速発行されたらしい。
頭痛を覚えたこの2日間から開放されると思うと、
自然と重かった肩が軽くなった気がした。

しかし、タチバナはキョトン、と目を見開いた。
いやな予感がする。

「なに言ってるの第一発見者。」
「なっ・・・!!」

シド学園長の輝くような笑顔が脳裏によみがえってきた。
「拾ったものは大事に面倒見るんですよ。」
まさに犬猫扱いですか先生。
できたら元の場所に返したいです。

というより、犬猫のほうがよっぽど面倒見る気になれるのに・・・
肩に倍の重さを感じると、タチバナがああ、と何かに気づいた。

「べつに生活の世話をしろってわけじゃないから。
 アタシたちになにかあったとき、責任取るだけでいいの。」

その「なにか」とはどれぐらいのレベルなのだろうか。
少なくとも、一般生徒とタチバナを比べたとして、
その差はとても大きいだろう。
しかもその何かの頻度、多そうな気がする。

「・・・わかった、やればいいんだろ?」

半ばあきらめとヤケだった。
どうせ俺はSEEDの任務で外部へと借り出されることになるだろうし、
正式に生徒となったこいつらも授業にでるだろう。
丸一日の生活を共にするわけじゃない。
いざとなったときに、少し(だといいのだが)苦労するだけだ。
俺はそう言い聞かせた。

「素直でよろしい。」

今度は腰に手をあてて、満足そうに微笑んだタチバナ。
カズヒサも俺に手を振りながら「よろしく師匠」と言っていた。
黒髪の女子はおずおずと頭を下げる。

「あたしはタチバナ。」
「俺カズヒサ。」
「アカネです。」

一人一人握手を交わしながら名前を言う。
そのとき気づいたのは

「あんた、そんな名前だったのか。」
「あ、はい。」

黒髪の女子の名前をずっと知らないでいたことだった。

「スコールだ。
 頼むからめったのことはしないでくれよ。」

肩の重みがなくなった気がしたのは、
状況を受け入れたからだろうか。



end

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これでFF8編は終わり。 2008.7.5
backff8


用語メモ
・シド=クレイマー バラムガーデンの学園長。けっこうお茶目な人。
・ゼル=ディン スコールと同じ班だったSEED候補生にして合格者。私が「チキン頭」という言葉をしったきっかけ。
・就任パーティー SEED認定試験の合格者を主役としたダンスパーティー。


おまけ

[踊って]

就任パーティはSEEDの制服に着替えてとのことだった。
ガーデンの制服に装飾を加えたソレは、正直あまり好きではない。

学生寮大部屋でセルフィ(転校してきたばかりの女子生徒)が待ち構えていた。
彼女はすでにSEEDの制服に着替えていて、嬉しそうにこちらに見せる。
仕方なく俺は着替えてパーティー会場へと行くことにした。



「おめでとさん、ししょー!」

壁に寄りかかり、大広間の中央で繰り広げられているダンスを見ていると、
異様にテンションの高い、そして最近呼ばれ始めた特有の固有名詞が聞こえた。
見れは離れているところから駆け足でやってくるカズヒサ。
片手に瓶(多分酒だ)もう片手にはグラスを持っていた。

「お前、酔ってるだろ。」
「まっさか〜☆」

けたけたと笑うカズヒサのだらしさなさにため息をついた。
これから先、面倒を見なくてはならないと思うととても先が思いやられる。
ふと視界に入った酒瓶を見れば、ラベルに書かれていたのは「シャンメリー」。
アルコールではなかった。ごく少量含まれているが、これはジュースに近い代物。

「・・・相当弱いんだな。」
「若いからさ☆」

若さってなんだー!ためらわないことさー!と両手を挙げて叫ぶ。
周りがくすくすと笑っているのを見て、こっちまで恥ずかしくなってきた。

「おい、お前もう帰って寝てろ!」
「なーにいってんの!まだまだ夜はこれからさー!・・・ごふっ!!」

目の前で、カズヒサが消えた。
消えた、というより、吹っ飛んでいった。

「ったく、情けない男ね。」

あきれた声が聞こえ、振り向けば今度はタチバナがいた。
ガーデンの制服を着ていたカズヒサとは違い、
タチバナはちゃんとしたドレスだった。

「ま、とりあえず就任オメデトウ。」
「・・・ああ。」

どうしてかタチバナの言葉を素直に受け取れなかった。
というのも、タチバナの目が「当然だ」と言っているようだったからだ。

「アカネはどうしたんだ?」
「ああ、子供はもう寝る時間だから。」

天井をみあげるタチバナ。
夜空の月はすっかり高い位置にあった。
煌煌とかがやく照明で明るい大広間はまぶしいぐらいで俺はつい目を細めた。

「「「「「お嬢さん!よろしければ俺と踊ってください!」」」」」

二人して上を眺めていると聞こえてきた野太い声。
しかも複数で、見てみれば、
タチバナに手を差し伸べている男が何人も。

こういうのを「モテモテ」というのだろうか。

「お前、すごいな。」

思わずつぶやいた言葉が聞こえたのか、
タチバナは男たちに向かって笑った。

「ごめんなさい、私もう眠いんで。」

傍で倒れて気絶しているカズヒサの首根っこをムンズとつかみ引きずると
そのまま会場から出て行ってしまった。
・・・ダンスもせずに、何しにきたんだあいつは。

男たちはまとめて振られたわけで、
肩を落としながら踊りの輪の中へといってしまった。

そしてそのあと、俺は一人の女子とダンスをするはめになったり、
キスティス先生に呼び出されたりした。

よくわからない奴らばかりだ。


end
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踊って無いし 2008.7.5