学校を取り巻く環境が変わって、英語の極端に苦手な生徒が急激に増えてきました(ここで言う「苦手」というのは、中学校での既習事項がほぼ定着していないという状況を指します)。その流れに対応すべくいろいろなことをやってきた中で、中学校で習うべき基本的な英文の型を定着させるための取り組みを記録しておこうと思います。田地野彰氏の提唱する「意味順」からヒントを得て、ようやく実際に使える形になってきました。Dual Chunk Translationと呼んでいます。基本的な手順は以下の通りです。

  1. 中学校で習う基本的な型の英文を生徒に与える。
  2. 「意味順」の型を参考に、チャンク訳を作る。
  3. チャンク訳の確認をしながら、その文に含まれる文法事項の説明をする。
  4. チャンク訳を見ながら英語にする。
  5. 英文のRead & Look up。
  6. ここまで扱った英文の日本語訳を生徒に与える(同じ構造の別の文にすべきか検討中)。
  7. 「意味順」の型を参考に、チャンク訳を作る。
  8. チャンク訳を見ながら英語にする。
  9. グループで、書いた英語を確認する。

僕はB4横を以下のように三等分して使っています。



英文を印刷
(日本語訳)



チャンク訳を書く




英文を書く


いつも参照できるように、真ん中のコラムの上に「意味順」の「だれが−する・です−だれ・なに−どこ−いつ」という原則を載せておきます。

慣れてくると、作業も機械的になってきて、たとえばチャンク訳を作る時に、英語の意味のかたまりではなく、日本語の音節で区切ったりする生徒が現れたりします。「これは かばんです 私の」みたいに。これじゃまったく意味がありません。

また、チャンク訳も唯一絶対の正解というものはありませんし(全員のチャンク訳を統一するということは可能でしょうが)、習熟度によってもチャンキングの仕方が変わってくることもありますから、どこまで許容できてどこから許容できないかということは教員が判断しなければなりません。

最後のグループワークは面白いです。英語の苦手な生徒たちが、「ここには"a"が必要か」「"a"じゃなくて"the"じゃないのか」なんて生意気に議論をしているわけです(「現在完了と過去進行形は何が違うんだ?」なんて疑問が出てきたりもしますが)。微笑ましいです。話が違う方向に進みそうであれば軌道修正をし、行き詰っていればヒントを出すなど、英語の苦手な生徒が対象だけに、教員の適切な補助も必須です。こういうグループワークはdictoglossでお馴染みだったのですが、生徒たちが自力で解決策を見つけ出すプロセスを眺めているのは、なかなか楽しいものです。

グループワークの中から拾った疑問点の中で共有すべきものがあれば、全体に向けて説明をします。

さて、こういう活動と並行して、易しめのまとまった英文をチャンキングしながら読むように指示しています。頭の中でチャンク訳を作りながら読んでいくわけですね。やはり、実際に読んだり書いたりができないと意味がありませんから。

実は、今のところ、英語の苦手な生徒の中から希望者を募ってやっているだけで、正規の授業の中で試したわけではありません。でも、参加している生徒は着実に伸びてきているようですし、生徒もそれを実感できているようです。授業中も「どうせわからない」と諦めていたものが、果敢に攻めるようになりましたし、こちらの質問にも「わかりません」ではなくて答えようとするようになりました。

よく英語の苦手な生徒に文法事項の説明をするということが行われますが、文法事項を説明するだけよりも、最終的に「英文を書く」という目的が明確である分だけ効果があるのかなと思っています。

この活動は、ただ単に基本的な型を定着させるという段階ですので、ここから次のステップに進むためのプロセスを考える必要があります。そのひとつが易しい英文をチャンキングしながら読むという活動ですが、チャンク訳を意識しなくても読めるという状態に持っていくためには、もう1ステップ必要な気もしています。

(2014/11/06)