授業の中でdictoglossという活動をしています。試行錯誤の段階なのですが、1年間継続して行ってきた活動なので、ここらで現在の状況をまとめておきます。

Grammar Dictation(Ruth Wajnryb,1990, Oxford University Press)によると、dictoglossとは以下のような活動ということになります。

a. A short, dense text is read (twice) to the learners at normal speed

b. As it is being read, the learners jot down familiar words and phrases

c. Working in small groups, the learners pool their battered texts and strive to reconstruct a version of the text from their shared resources

d. Each group of students produces its own reconstructed version, aiming at grammatical accuracy and textual cohesion but not at replicating the original text

e. The various versions are analyzed and compared and the students refine their own texts in the light of the shared scrutiny and discussion

「こりゃ、面白そうだ!」ということで飛びついたのですが、実際にやってみるとなかなかうまくいきませんでした。音声の聞き取りに問題がある、素材文の構造が複雑すぎる、時間が足りない、などが原因でしょうか。それでも、上記の枠組みから逸脱することを躊躇っていたのですが、ちょうど良いタイミングでTMRowingさんからアドバイスのメールを頂き、思い切って枠組みから逸脱してみることにしました。因みにTMRowingさんのblogでもdictoglossの授業の流れが紹介されていますので、是非お読み下さい。URLはhttp://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20071008です。

さて、僕の授業では2年生のライティングの授業で『Listening Pilot Level 2』(東京書籍)を使ってdictoglossをやっています。ノーマルの音声とフレーズ毎にやや長めのポーズの入った音声との2種類がある点が気に入ってます。素材文としては、dictoglossをやるには難易の差が大きすぎるかも知れません。ここでは難しめの素材文でのdictoglossの授業を紹介します。

  1. まず、素材文の内容に関する英語の質問をハンドアウトで配布します。質問の内容を確認して音声を聞きます。この質問の答えが素材文のアウトラインになるようにしています。素材文によっては、質問ではなくて、表を埋めさせることもあります。

  2. 1回目の聞き取りは筆記用具を持たせずにやります。ノーマルの音声で、まずは音声に集中ですね。

  3. 2回目の聞き取りはメモを取らせます。質問の答えに関することをメモすることになります。ここではロングポーズの音声を聞かせています。

  4. 3回目はノーマル音声でメモの確認です。メモの訂正・追加などをする段階です。

  5. メモをもとにフルセンテンスで質問の答えを書かせます。質問の答えがアウトラインになるようにしているので、正しく答えられれば、この段階でアウトラインが完成することになります。

  6. 何人かに質問の答えを発表してもらいます。必要があれば、生徒の答えを板書して説明を加えます。

  7. ハンドアウトを裏返します。基本的に表面に戻ってはいけないことにしていますが、素材文の難易度によって臨機応変に対応しています。

  8. 4回目の聞き取りになります。今度は、素材文の再生を目的とした聞き取りになります。まずはノーマル音声で筆記用具は持たずに聞きます。

  9. 5回目の聞き取り。ロングポーズ音声を聞きながらメモを取ります。この活動の意図を理解していない生徒の中に、全文を書き取ろうとする生徒がいたので、メモの取り方についても指導しました。

  10. 6回目の聞き取り。ノーマル音声でメモの訂正・追加。

  11. 7回目の聞き取り。ロングポーズ音声でメモの訂正・追加。

  12. メモをもとに、英文の再生。まずは個人で。時間によっては、この段階はスキップします。素材文がダイアログの場合は、書き始めを指定して、narrativeな文章にしてしまうこともあります。

  13. グループで英文の再生。4人のグループを基本にしています。座席順にグループを作っています。お互いの情報を共有し、素材文の情報を網羅しているかどうか、それぞれの英文が正しいかどうかについてグループで検討し、ひとつの原稿を書き上げてもらいます。

  14. 時間に余裕があれば、2グループほどの英文を黒板に書いてもらい、みんなで鑑賞。どのグループにも共通している誤りについては、説明を加えています。でも、この段階を踏む時間はほとんどありません。

  15. 原稿を回収。

  16. スクリプトを見ながら音読。

「本来の」dictoglossの枠組みからはずれた部分というのは、英問英答を入れたという点と音声を聞く回数を増やしたという点です。英問英答があるだけで、生徒は事前にテーマを推測することができ、ハンドアウトの質問文そのものが英語を書く時のヒントになり、英文の再生をする前段階で英問英答の答えを確認することで、素材文のアウトラインを手にできるということで、生徒にとってはかなりハードルが低くなっているようです。

素材文が易しい時には、この英問英答の段階をカットします。音声を聞く回数を除けば「本来の」dictoglossに近い形になります。

回収した原稿は全グループ分を添削した上でプリントして配布しています。1クラス10グループ程度なので、それほど負担ではありません。もちろん、面倒は面倒ですが(笑)。

dictoglossでは、グループワークをすることで個人レベルの誤りがグループレベルで修正されるので、僕の手元にくる段階では、グループ全員が気が付かなかった誤りに絞り込まれていることになります。それがいくつかのグループに見られる誤りであれば、そのクラスでのコモン・エラーであると言えるでしょう。教員の立場から言うと、生徒の誤りやすい部分がよく見えるということになります。

dictoglossの効用については、上記のGrammar Dictationに詳しく書いてありますが、僕自身の感覚としてはどういう効用があるのか把握できていません。リスニングとライティングの双方に正の波及効果があるのは間違いないようです。自分でもよく見えていない状況でありながらも、さらになかなか思うようにいかず苦悩の連続であるにもかかわらず(笑)、dictoglossをやめようという気にはなりませんし、逆にもっと洗練された形に持っていきたいと考えています。僕の授業にとっては、なくてはならない活動になりつつあります。

グループワークの問題点をいくつか。英語に苦手意識を持っている生徒の中にグループワークに参加しようとしない生徒がいるという点。逆に、英語の得意な生徒が他の生徒を参加させずにひとりでやりたがる場合もあります。

(2008.1.31)