オーラル・コミュニケーションI(以下OCI)の授業を組み立てるにあたってのポイントは次の2点です。

  1. 基本的な英文の定着
  2. ライティングへの橋渡し

OCIの教科書では抽象的な内容が出てくることもなく、構造が複雑な英文もなく、難解な語彙もありません。僕の勤務する学校では、中学校で学習してきたことが定着していない生徒が大部分なのですが、OCIの教科書を反復することで、基本的な英文を定着させてしまおうという発想です。たとえば、"Which club do you belong to?"なんて疑問文を正しく作れない生徒はたくさんいますが、OCIの教科書では様々な疑問文がたくさん出てくるので、格好の練習材料です。ですから、教科書の本文を徹底的に反復するというのがひとつめの方針です。

OCIという科目は、特に大学進学希望者の多い学校では、リスニングのスキルと結び付けられることが多いようです。でも、僕はOCIはリスニングよりもライティングのスキルとの関連が強い科目だと思っています。スピーチやプレゼンテーションの原稿を書くために、教科書にあるモデルの英文を真似ることになります。モデルの英文がパラグラフとしてよく出来たものであれば、そのままパラグラフ・ライティングにつながっていくでしょう。そのスピーチやプレゼンテーションのために練習したり暗唱したりすれば、定着度はかなり上がるでしょう。先述の基本的な英文の定着という方向性は、センテンス・レベルで英作文と見ることもできますし、スピーチやプレゼンテーションの練習はパラグラフ・レベルでの英作文とういことになります。出来の悪いライティングの教科書よりも、ずっとライティングらしい活動になります。

余談ですが、こういう観点でOCIの教科書を眺めてみると、スピーチやプレゼンテーションといったアウトプット系の活動のあるOCIの教科書は意外に少ないということに気が付きました。それは、現場で求められていないということであり、従って出版社から見れば「売れない」ということなのかも知れません。そう言えば、アウトプット系の活動がないことを「売り」にしている教科書もありましたね(笑)。ともすれば邪魔者扱いされがちなOCIも、ちょっと観点を変えるだけで魅力的な科目になると思うのですが……。結局、まともに扱われることなく新学習指導要領から消えてしまうのは残念です。

さて、具体的な授業の流れについてですが、教科書の作りによって流れも変わってくると思います。ここでは『Hello there! Oral Communication I』(東京書籍)に沿って書いていきます。この教科書では、ひとつのレッスンが、Break the Ice、Dialog、Let's Listen、Communication Workshopという4つのセクションから成り立っています。以下、1レッスンの授業の流れを順を追って説明していきます。ハンドアウトのPDFファイルはこちらをご参照ください。

毎時間やっている活動

先述のライティングへの橋渡しということを意識して、1コマに10個の英文を覚えてもらっています。中学校で学習する程度の易しい英文ばかりです。まずはChorus Readingです。必要があれば、説明を加えながらやっています。次にRepeating。これは英文を見ないで、僕のモデル・リーディングを聞いてリピートするというものです。その後、一方が日本語を読み、一方が英語で反応するというペア・ワークです。次の時間に和文英訳形式で小テストを行っています。易しい英文ばかりなので、多くの生徒は直前の休み時間に覚えているようです。

Break the Ice

レッスンの導入ですね。易しい活動のはずなのですが聞き取るのが難しいものもあって、必要に応じて、音声を聞いてメモを取らせたり、聞き取った内容を言わせたりしています。あまり時間をかけすぎないようにしています。

Dialog

教科書を閉じた状態で会話を何度か聞いてもらい、内容に関する質問に答えてもらいます。この質問は教科書に出ているものをそのまま利用しています。教科書を開くと、どうしても文字情報が入ってくるので、ハンドアウトに転載したものを使っています。

その後、語彙の確認をします。それほど難しいものはありませんが、既に知っていると思われるものも含めてハンドアウトに載せて確認しています。そして、発音の練習、音声を聞いて聞こえたらチェックという流れです。

再度、内容に関する質問です。この時点では、生徒たちはまだ教科書を開いていないので、文字情報のない状態で行っています。質問の答えをフル・センテンスで書いてもらっています。

次に、音声を聞いて英文を書き取ってもらいます。ひとつのDialogで3つから4つほどの英文を書き取ってもらっています。途中で音声を止めないので、生徒はメモを取りながら聞いて、一通り聞き終わってから英文を再構築していくことになります。何度か音声を聞かせますが、1回目は鉛筆を持たせないで、聞くことに集中してもらっています。その時点で書ける部分については書いてもいいことにしています。2回目以降は、最初に書いた英文を訂正したり、付け加えたりということをしながら完成させていきます。トータルで4度くらい聞いてもらっています。その後、Dialogの最初から内容を確認しつつ、必要があれば説明を加えながら、書き取った英文をチェックしていきます。生徒は、この段階でスクリプトを通読することになります。

その後、完成したスクリプトを見ながらChorus Reading、Repeatingを経て、ペア・ワークを行います。ペア・ワークの段階で生徒は初めて教科書を開きます。教科書には日本語訳が出ているのですが、日本語のキューに対して英語で反応するというペア・ワークです。

Dialogの締めくくりは、Flip & Writeです。ハンドアウトの表面には、書き取ったスクリプトがあるのですが、それを1台詞分読んで、裏面に書いていくという作業です。書いている途中で、表面のスクリプトを見てはいけないというルールにしています。つまり、しっかり英文を覚えてから、裏面に書き始めなければならないということになります。早く終わった生徒は、ALTや僕とテキストを見ずに口頭でDialogの会話を再現させています。早く終わった生徒も、次は自分のところに来るのではないかと警戒して、スクリプトを何度も読み直しています。

その後、教科書のTry It Out!をやってDialogは終了です。

Let's Listen

このパートは教科書にはスクリプトが載っていません。スクリプトがないとなれば、dictoglossをやるしかありません(笑)。

まず、音声を聞いて内容に関する質問に答えます。この質問は教科書に載っているものをそのまま使っています。その後、語彙の確認をしますが、あまり深く入り込みません。

次に、音声を聞いてメモを取ってもらいます。途中で音声を止めないので、本当にキーワードをメモする程度です。何度か聞いてもらって、メモに情報を追加したり、メモの修正を行います。聞いてもらう回数は、3回から4回くらいでしょうか。

ここからグループワークです。4人のグループで、メモの情報を共有して、英文の再構築をしてもらいます。積極的に辞書を使うように指導しています。僕は机間巡視をしながら、ちょっとしたヒントを与えています。多くのグループで共通して見られるエラーについては、一度作業を中断させて全体に注意を喚起することもあります。必要に応じて、再度音声を聞いてもらうこともあります。場合によっては、ALTや僕がゆっくりめに英文を読むこともあります。

作業が早く終わったグループには、黒板に再構築した英文を書いてもらっています。グループワークなので、同じグループの2名の生徒に前半と後半に分けて書いてもらい、板書の時間の短縮を図っています。その後、全員で黒板に書いてもらった英文を「鑑賞」しています。間違いを修正したり、何に注目したら間違いを防げたかなんて話をしています。この間に、それぞれの生徒が自分の再構築した英文と比較しながら、間違ったところを直したりすることになります。

再度、音声を聞いて、文字と音声との擦り合わせ。音読を経てLet's Listenは終了です。

Communication Workshop

OCIの授業の中で文法を扱っている学校では、ほとんどの場合はここをスキップしているのではないでしょうか。でも、冒頭で書いた通り、ライティングへの橋渡しという観点では、このセクションがOCIの授業の山場ということになります。

このセクションは、多くのレッスンでは簡単なスピーチをするような活動になっています。スピーチの例を参考にしながら、自分で英文を書いていくことになります。必要に応じて、教科書の例にさらに情報を付け加えるように指示したり、パラグラフの構造について説明をすることもあります。

授業の中では、スピーチの原稿を完成させることはできません。半分くらいまで書けたところで作業を止めて、残りは宿題という形にします。次の時間に、自分の原稿を読む練習をする時間を取ります。余裕があれば、ペア・ワークで読む練習をしてお互いにアドバイスをさせたりしています。

その後、全員にスピーチをしてもらいます。原稿を見ないでスピーチすることが原則です。音読ではなくスピーチなので、聞いている人が理解できるような話し方をするように指導しています。ゆっくりはっきり発声しなければならない語と、速く軽く発声する語とのメリハリをつけろということなのですが、なかなか上手くできません。今年の1年生は、このあたりがまだまだ下手くそですね。

もっとも、この活動を本格的なライティングの指導と考えると、プロセスがちょっと乱暴かも知れません。原稿完成からスピーチまでの間に何のチェックも入らず、スピーチの後も十分なフィードバックができません。でも、多くの場合は教科書のモデルパラグラフの一部を入れ替えるだけのスピーチということもあり、OCIの授業の中ではこのあたりが限界かなと考えています。

これで1レッスン終了ということになります。こうやって書いてみると、結構、時間をかけてやっていますね(笑)。大きな流れは変わらないと思いますが、後期に向けて何らかのマイナーチェンジがあるかも知れません。

(2009.09.13)

(一部加筆 2009.09.17)