音読の効用については、いろいろな場面でいろいろな人が述べていますが、多くの場合は音読は個人的な作業と考えられているようで、授業での音読ということは、一部のサイトやブログを除いては、あまり語られていないと思います。ここでは、僕が授業の中でやっている音読について書き留めておこうと考えています。なお、この内容は「授業日誌」の2008年5月23日のエントリーを元に、さらに新しいものをいくつか付け加えたものです。

授業で音読をやることについて。まず、授業で音読をしないという教員もいます。必ずしも音読そのものに対して否定的というわけでなくても、前述の通り、音読は授業ではなくて自宅でやるものという発想の教員もいるようです。確かに、授業で徹底的に音読をしていたら、それだけで何時間もの授業時数を費やしてしまうでしょう。でも、授業である程度の音読ができるようにしておかないと、自宅で音読の練習なんてすることはできないだろうと僕は思っています。つまり、授業である程度は音読の練習をしておいて、足りない分は家に帰って練習をするというスタイルです。もっとも、実際に生徒が自宅で音読しているかどうかは別の話ですが(笑)。

僕の現在の授業のスタイルでは、ある程度まとまった量の英文を様々なタスクで処理して、英文を理解できる状態になってから音読を入れています。で、その時点まで反復してきた英文を音読するのに1コマの授業を使います。

Chorus Reading

まずはChorus Readingです。僕が読んだ後で、生徒がテキストを見ながらリピートするというあれです(笑)。教科書の音声CDを使う教員もいますが、僕は自分で読むようにしています。長い文はチャンクの切れ目でリピートさせたいし、構造の難しい文はゆっくり聞かせたいからです。意味も考えずに聞こえた音声をオウム返しするのは、僕の意図するところではないので、意味の理解できる長さで、意味の理解できる速度で読むようにしています。もちろん、僕の話す英語は音声CDのように上手ではありませんが、その方が生徒も自信を持って読めるでしょう(笑)。気になる発音を修正するのも、このChorus Readingの段階でやっています。

Read & Look up

Chorus Readingの後は、Read & Look upです。一口にRead & Look upと言っても色々なやり方があるようです。僕のパターンは次のようなやり方です。僕がモデル・リーディングをしている間、生徒はテキストを目で追います。で、モデル・リーディングが終わると、生徒は顔を上げるのですが、すぐに声を出させずに、僕がキューを出すまで待たせています。これも記憶だけを頼りにした単なるオウム返しになるのを避けるためです。ついでに、その「間」で「ほら、○○(生徒の名前)、顔を上げろ」とか「この単語の発音に注意して」とかノイズを入れてあげたりします(笑)。生徒は記憶が鮮明なうちにリピートしたいのですが、待たされた挙げ句に無関係な情報まで差し込まれるわけです。生徒は顔を上げた状態なのですが、恨めしそうにこっちを見ています(笑)。長い文はチャンク毎にRead & Look upしていますが、その後に1センテンス丸ごとできるようになるまでしつこく続けています。おかげで時間はたっぷりかかります。

Repeating

以前はこの後にRepeatingをやっていましたが、現在は時間の都合でスキップしています。Repeatingも色々なバリエーションがあるようですが、僕のやっているのは、簡単に言ってしまえば、テキストを見ないでやるRead & Look upです。Read & Look upから文字情報を削除してしまうわけですね。

Overlapping

次にやるのがOverlappingです。テキストを見ながら、音声CDに合わせて音読していきます。テキストを見ながらのShadowingといった感じですね。Chorus ReadingもRead & Look upも読むスピードが遅いのに、ここでいきなりスピードが上がるので四苦八苦している生徒が多いようです。3回繰り返していますが、次第にスピードにも慣れてくるようです。

Shadowing

最後にShadowingです。テキストなしで音声CDを聞きながら、聞こえた端から英文を繰り返します。これも3ラウンドやっています。

ここまでが僕の授業での必須メニューです。1年生の時は1パートずつ授業を進めていたので、ここまでやった後で、和訳を見ながらの英文を書いていくという作業をやっていました。2年生の時には2パートずつだったので、和訳を見ながらの英文再生は音読の次の授業でやっていました。3年生になると英文の量が飛躍的に増えるので、サマリーを使って音読しています。結果的に、3年生での音読に使う時間は激減しています。

オプションとして次のような音読もやっています。

音読リレー

全員起立の状態から、1人1センテンスずつ音読します。つっかえずに許容される範囲で音読できたら着席。途中で噛んだり、発音を間違ったり、ポーズの位置が不自然だったり、自分の番になったのにすぐに読み始めなかったり、wouldを「うど」などと読むと「アウト」を宣告され、立ったまま次の自分の順番を待たなければなりません。その時々で「fの音がhになったらアウト」などテーマを決めることもあります。微妙な場合は適当な生徒に「今のはどう?」とジャッジさせるのですが、ほとんどは「アウト」を宣告されます(笑)。これは意外に盛り上がります。

Cloze Reading

3年生のリーディングの授業になってからはやっていないのですが、ハンドアウトに教科書の本文にランダムに空欄を設けたCloze Testを載せておいて、空欄をその場で補充しながら音読するというパターンもよくやりました。モデル・リーディングはなしで、クラス全員で一斉に読み始めます。出来の良くない部分では、一度音読を止めて、必要があれば数秒の説明を入れて、その文から音読を再開します。これは前述の「必須メニュー」を一通りこなした後でなければできません。内容が理解されていなければ、その場で空欄を埋めながら音読することはできないので、なかなか難易度の高い活動なのですが、「必須メニュー」をこなした後では、割とスムーズにできます。

Pair Repeating

これも最近やっていませんが、ペアワークで片方がテキストを見ながら1センテンスずつ音読し、もう片方が何も見ずに相手の音声だけを頼りにリピートするというパターンもよくやりました。途中でわからなくなったら、テキストを見ている方の生徒が教えてあげることにしています。ただし、1センテンス丸ごと言えるようになるまで繰り返すというルールです。これの日本語バージョンもあって、一方の生徒が配布された和訳を1センテンス毎に読み、相手がそれを英語にしていくという形です。1年生のOral Communicationのテキストはすべてのレッスンでこれをやりました。

早口音読

もうちょっと気の効いた名前があるといいのですが……(笑)。要するに、できるだけ速く音読するという活動です。これはパートの締め括りに行っているのですが、その際に、ずっと前のレッスンも加えて、都合4パートほどの分量をやってもらっています。文字情報を認識してから音韻化するまでの速度を上げるという意図と、時間が経って忘れかけているレッスンをもう一度音読することで、記憶を活性化させようという意図があります。ずっと昔のレッスンを入れるというのは、小テストなどで一度はほぼ完璧に覚えた語彙も、時間の経過とともに忘れてしまっているという現状を打破する方策のひとつとして始めました。1パート読み終わる毎に、窓の方を向いたり、後ろを向いたり、廊下の方を向いたりと、遅れている生徒に無言のプレッシャーをかけながらやっています(どこかで紹介されていたのですが「四方読み」と呼ばれているそうです)。

日英サイト・トランスレーション

これを音読として分類するのは不適当かも知れませんが、僕の授業の中では他の音読からの流れの中で行われているので、生徒たちは音読のひとつのバリエーションとして捉えていると思います。サイト・トランスレーションというと、英語のチャンクを見ながら、日本語に直していくという形が一般的かと思います。もともとは通訳のトレーニングのひとつとして開発されたと聞いています。このサイト・トランスレーションを逆にして、日本語のチャンクを見て、英語に直していくという形で行っています。僕の授業では、和訳を見ながら英文を再生してもらっているのですが、そのひとつ前の段階の訓練として始めました。日本語のチャンクを読ませて、僕の合図で一斉に顔を上げて英語を言うという形と、個人でやってもらう形との2通りを、残り時間を見ながら使い分けています。かなり負荷の大きな活動ですが、何種類かの音読を経た後であれば、かなりイケます。


音読は時間もかかるし、こちらの体力も消耗します(笑)。でも、授業である程度のことをやっておかないと、いくら「自宅で音読してこい」と言ったところで、生徒は自力で音読できないのではないでしょうか。音読をしたらどういう効果があるのかということを体験させてやることで、生徒も音読に取り組むようになるのではないかと思っています。僕の授業では、1・2年生の時に和訳を見ながらの英文再生ということをやってきたので、そのことが音読をすれば英語を書けるようになるという動機付けになったと考えています。

(2008.07.06)

(2009.10.25加筆)