伝説をつくった男

今日では、騒々しくて人を怒らせるようなことをいう人が注目を集める。過激な言葉や計算ずくの破廉恥な言動を売り物にしているスポーツ選手やタレント、コメディアンがいかに多いことか。

そのような時代に、彼は伝説をつくった。それがよくある話なのかどうか、事情に疎いぼくには判別がつきかねるが、目の前で起こった出来事は、伝説と呼ばれる権利を十分に有しているように思われた。イベント初参加にして開場とほぼ同時に商品が完売。雑誌などで事前に大きく取り上げられたわけではない。プロとして活躍してきたわけではない。やってきたことといえば、地道にこつこつと、自らが主催するホームページで、その商品の原型が完成するまでの過程を、丁寧に解説してきただけだった。

彼には、人を挑発するようなところがまるでない。好きだから、作る。作りたいから作る。ただそれだけである。その時点でもてる技量を総動員して、原型製作に打ち込んだ。

ホームページを見ていた人は、彼のひたむきさをよくわかっていた。だから、ブースを訪れた時点でたとえ商品が完売していたとしても、残念に思いながらも、完成品を間近で見られることに喜びを感じていた。ホームページの存在を知らなかった人も、作品から伝わる彼の誠実さを感じ取ったのだろう、製作者の魂が込められた造形物に接する時に多くの人が抱く、畏敬の念に近い感情を感じているようだった。

「いらっしゃいませ」

もはや商品など残っていないのに、ブースに訪れた人に、彼はそう声をかける。あまりに自然にその言葉が発せられるので、客商売の経験があるのかと尋ねたら、ある、と力強く答えた。「周囲に迷惑がかかるといけませんから、今はあまり大声は出せませんが、普段はすごいんですよ」

ぼくは、彼の礼儀正しさをとても気持ちよく感じた。探していた答えを、目の前で見つけたような思いだった。

一言でいえば、彼は物事を正しくやる人だ。そして物事を正しくやれば──彼自身、意識してはいなかったと思うが──「正しい」結果が得られることを立証してみせた。何より、ワンダーフェスティバルというイベントの将来を考えた時、最初に頭に浮かんでくるのが造形に対する、そしてイベントに対する彼の真摯な姿勢だ。そのこと自体、彼の素晴らしさを物語っているのではないか。

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