「どうして呼んでくれなかったんだい?」

数十年ぶりにクラスメイトと顔を合わせるのと同じくらい、半年に一度のワンダーフェスティバルで、滅多に会う機会のない友人と会うのは、感慨深いものである。人が多く、広大なイベント会場であるため、もしかすると会えないかも知れない。その焦燥感が、友人との再会の価値観を高めているのだろう。

前回のワンダーフェスティバルで、ぼくは「うっきー」と名乗る男と出会った。彼はコスプレさん──コスチューム・プレイヤーさんの略で、アニメーション作品などの登場人物に扮している女性を指す──を追いかけていた。

「女の尻を追いかけるのは」うっきーは真顔でぼくにいう。「男の本性でしょう」。中には、「造形のイベントにコスプレさんは不要」と説く人もいるが、ぼくはうっきーの率直さに好感をもった。その時のイベントでは、会場の中央辺りにプリクラが設置されていて、コスプレさんたちが頻繁に利用していた。彼女たちはプリクラ台からお尻を突き出す格好で、夢中で写真を撮っている。

「うっきーさん、歌麿ですね」
ぼくがそういうと、うっきーは少し照れたようだった(訳注:意味は通りにくいですが、原文のママです)。

今回も、ぼくはうっきーと再会できるものと期待し、また一緒にコスプレさんを見たいとも思った。しかし結局、彼とはイベント終了後の打ち上げまで、顔を合わせる機会がなかった。

打ち上げには彼のワイフも同席しており、そこでの彼は、まさに理想的な夫、理想的なモデラーを演じていた。うっきーはモデラー仲間に、今回のイベントで自分が原型を製作したフィギュア(ミクロサン?)を見せたり、展示会に出品したパワードスーツを取り出し、技術的な解説を行った。コスプレさんのコの字も出ない。イベントではコスプレさんを追いかけるどころではなく、ブースの切り盛りで大忙しだったという。どうやらうっきーは、イベントを造形のためだけの祭典と捉え、コスプレ不要論者になってしまったらしい。

しかし、それはぼくの思い過ごしだったようだ。

ストッキングなしで白いレオタードを着たコスプレさんがいたという話を聞きつけたうっきーは、僕にこういったのだ。

「どうしてその時、ぼくを呼んでくれなかったんだい?」

うっきーは、やはり歌麿だったのである。

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