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男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋(29)

渥美清主演 山田洋次監督作品。
信濃の国の貧しい夫婦の元に、善光寺参りをしていて道に迷った老旅人が現れ、その老人の為に無理して米を振る舞ってくれた事に感じ入った老人は、襖に雀の絵を描く。
翌朝、雀は襖を飛び出して飛び回り、夫婦は驚いた。
その光景は続き、見物人は後を絶たず、夫婦は「すずめの宿」を経営し、一生裕福に暮らしたという。
湖畔に佇む寅次郎は、絵葉書を送ろうとして漢字を忘れ、近くにいた絵描きに代筆を頼んだ。
とらやには、さくらが向こう岸までのよもぎ摘みから帰り、たこ社長が知人の葬儀から帰り、妾腹の子が2人も現れて大変だったと話した。最近の技術革新で工場の仕事はほとんど博が行い、社長は冠婚葬祭ばかりだという。
絵葉書が届き、寅次郎が信州に居ると皆は知った。
だがその頃、寅次郎は京都で仲間の接着剤売りを手伝い、老人(片岡仁左衛門)の鼻緒を直し茶店へ入る。するとその老人が現役の焼物師と知り、礼をしたいと言われ付いていくと、高級店へと入る事に。
高尚な話に眠ってしまった寅次郎は、布団から目覚め、焼物師の弟子の近藤(柄本明)を宿の番頭と勘違いして、宿賃を払おうとし、ここが焼物師・加納作次郎の屋敷と知った。
だが寅次郎は加納の事を偉い先生とは思えず、出立する。すると道で朝食用の豆腐を買ってきた女中とすれ違い、自分の為の朝食の準備を無駄にする事を詫びて道を訊いた。
後日、寅次郎は世話になった礼に加納達の下駄を持って訪ねると、あの女中が母親に娘を預け、夫と死別して丹後から出てきて働いているという事を知る。自分を追い払いに来た近藤から女中の名をかがりと聞き、近藤は自分が12年も加納の弟子をしていながら芽が出ない事を思い知らされショックを受ける。
寅次郎は東京から来た女学生たちを勝手に招き入れ、呆然とする加納と記念撮影をする。
一方、とらやではさくらが陶芸教室から作品を持ち帰り、人間国宝の加納並みだとお世辞を言われていると、寅次郎から電話が入り、京都で陶芸をしていると知った。

結末 ネタバレ注意

加納の屋敷に出世した弟子の神原が訪れ、美濃に仕事場を持てる事になり、土地を提供してくれるという人の娘が神原主催の陶芸教室の生徒だった縁で、結婚する事になったと報告。だが加納は神原とかがりが結婚するものだったと思っており、それについて何も言わない消極的なかがりに機嫌を悪くし、神原を追い払い、自室へと引っ込んだ。
寅次郎は近藤に電話し、かがりが叱られていると聞き、花束を持って訪れるが、かがりは丹後に帰ってしまい、寅次郎も旅立ちを口にする。そこに、反省した加納が丹後に寄ってほしいと頼み、更に今までの礼にとお気に入りの茶碗をプレゼントするが、意に介さない寅次郎は茶碗をぞんざいに扱いながら出て行った。
寅次郎は島に住むかがりを訪ね、無事再会。かがりを慰め、かがりはこの家の養女だと知る。
船の最終便を逃した寅次郎は泊めてもらい、かがりの母は姪の出産の手伝いに出かけてしまい、かがりと晩酌。愚図る娘に添い寝するかがりの脚に目を奪われた寅次郎は寝る事にし、離れの2階へ。布団の中で、かがりに呼びかけられても、寝たふりを通した。
翌朝、かがりは妙に素っ気なく、船に乗って見送られる時、かがりは会えなくなる事を寂しがり、寅次郎はそれを元気付けるようにして、旅立った。
とらやに戻った寅次郎は、すっかり伏せってしまい、御前様も見舞いに来るが、恋煩いとわかる。寅次郎が持ち帰った茶碗と土産で、丹後に行っていたと察する。
翌日、寅次郎はおばちゃんの洗濯の音に文句を言い、ケンカになり、出て行こうとするが、かがりが友人と訪ねてくる。何も言葉が出ない2人、かがりは友人と芝居を見に行く約束のため、店を出るが、こっそり寅次郎に手紙を渡した。手紙には、日曜の午後、鎌倉のあじさい寺で待つとあり、まだ日曜でもないのに、歩いて行こうとする寅次郎を博達が必死で捕まえ、鎮静剤で沈めた。
木曜だというのに気が急いてしまうが、いざ日曜になると気弱になり、満男を連れて行き、鎌倉でかがりと再会。2人は会話が弾まず、寅次郎は満男に向かって喋ってばかり。
夜になり、江ノ島で酒を呑み、別れるが、かがりは陽気な寅次郎でなくがっかりした。
とらやにかがりから電話が入り、迷惑を掛けたと詫びて、最終の新幹線で帰った。
博とさくらは帰って来た満男から話を聞き出し、寅次郎は電車の中で、かがりと別れ、泣いていたと聞き、落ち込んでいると、寅次郎が荷物を抱え、さくらに可能性を打ち払い、雨の中旅立って行った。
夏になり、とらやに近藤が訪れ、個展を行うため、茶碗を貸してほしいと頼み、たこ社長が灰皿に使おうとしているのを見つけ、奪い取る。
かがりから手紙で、民宿を手伝い、元気にやっていると知らせが。
加納は出がけに、商い中の寅次郎を見つけ話かけ、寅次郎は喜び、仕事を切り上げ、呑みに連れ立った。
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管理人の批評

1982年、日本松竹の作品です。
共演:いしだあゆみ 片岡仁左衛門(十三代目) 柄本明
今作は寅さんが初めて大人の恋に踏み込んだ作品です。今までは寅さんの一方的な恋心と、マドンナの恋心が恋敵を交え、錯綜する話ばかりでしたが、今回は逆です。真正面からの思いに、寅さんが応えるという構図。大人の孤独な女性らしく、静かに、それでいて直線的に突き進むかがりに対し、様々な理由から、受け止める事が出来ない寅さん。寅さんをここまで揺さぶった、しっとりとした「男はつらいよ」は、今までにない形で、女優が替われば中身が変わるこの作品の秀逸さを見せてくれました。
芸術で身を立てるという事は大変難しい事です。その為大抵の新進芸術家には支援者、スポンサーが存在し、金銭面など援助をしてくれますが、その支援者を見つけるというのもなかなか苦労のある事です。
ならば自分で商売をして、勤めをして、自己資金にて行えば良いという意見もありますが、不思議な事に、自分のお金で作品を作った人で、大成功を収めたという人の話はあまり聞かれません。スポンサーの要望に応える事で、何か良い一味加わるのでしょうか?
鎌倉と言えばあじさいが有名だという事はご存知でしょうか?私は関東に住んでいるのですが、あじさいの季節(5〜6月)になると、テレビでよく鎌倉特集が流れます。
鎌倉は北東西を山に囲まれ、南は海に面し、難攻不落の地形に源氏は幕府を開きました。
その為鎌倉には山に寺や建物が並び、車も通れない階段状の道路や狭い路地などが残り、そんな中におしゃれなカフェや料理店が点在しているという状態です。
そしてあじさいの季節には多くの観光客が訪れるので、撮影の苦労を思い図る事が出来ます。
笑いよりも哀愁が勝つ「男はつらいよ」は極めて珍しく、ぜひともご確認してほしい作品です。映画館を出た後、「バカだな、寅は」なんていつも言って歩く下町の男達も、今回ばかりは、ため息を漏らしたのではないでしょうか。