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男はつらいよ 望郷篇(5)

渥美清主演 マドンナ:長山藍子 山田洋次監督作品。
叔父・竜造の亡くなるという夢を見た寅次郎。電話をすると、夏の暑さで疲れて横になる竜造を見てひらめいた叔母・ツネは、早く帰るよう危篤状態だと告げ、驚かされた寅次郎は急ぎ帰る。
だがそそっかしい寅次郎は帰りながら、葬儀屋や近所の連中に知らせ回りながら帰り、店は大混乱。
その晩、ケンカになる竜造と寅次郎。寅次郎はまた出て行こうとするが、さくらに引き止められる。
弟分ののぼるから、昔世話になった札幌の正吉親分が危篤と聞き、すぐに駆け付けようと伝手を回って金を集め、最後の頼みであるさくらに、今の生活を叱られ、昔自分が渡した金を返されて、なんとか2人は札幌へと旅立つ。
病院を訪ねて見舞いをする寅次郎は、親分の、旅先で女中に産ませた息子に会いたいという願いを聞き、小樽で鉄道員として仕事中の澄夫を訪ね、説得。だが澄夫の返事は素っ気なく、そのまま汽車で次の現場へ。寅次郎たちはタクシーでなんとか追いかけ、再度説得するが、澄夫は小学校一年生の時に一度訪ねた時、風俗の元締めとして働き、働く女に暴力をふるっていたのを目撃し、嫌なイメージが付き、憎むようになっていた。
やりきれない寅次郎は病院に電話をすると、親分が亡くなったと聞かされる。
寅次郎は、家族と疎遠になっているのぼるを思いやって縁を切り、故郷へと追い返す。
そして寅次郎もまた、柴又へ戻り、地道に働こうと決意を表明した。
みんなで寅次郎の就職先を考え、寅次郎の希望は「汗と油にまみれる」事、それを優先し、たこ社長の朝日印刷に行かせるが、断られ、知り合いを回るが、どこにも断られ、寅次郎は係留された小舟で昼寝をして、流されてしまうのだった。

結末 ネタバレ注意

寅次郎が行方不明となり、しばらく経ったある日、とらやに腐った油揚げが届けられ、浦安にいると判明する。
訪ねてみると、寅次郎は豆腐屋で働いており、店は老女将さんと、娘の節子の2人きりだと知り、さくらは呆れた。
世間体を考えて物置小屋に寝泊まりする寅次郎に、クビになった源公が訪ねて来て、叱りつける。
その頃節子は恋人に会い、その夜、母とケンカした節子は寅次郎の物置を訪ね、寅次郎に「ずっといて欲しい」と願い、寅次郎はプロポーズだと勘違いしてうなずいた。
寅次郎の歓迎パーティーが行われ、節子の恋人がスイカを持って現れる。国鉄の機関士であると知り、寅次郎は褒めるが、「よろしく」という挨拶をされ、疑問を感じた寅次郎が問いただすと、今度の高崎への転勤を機に、結婚すると知り、笑顔で取り繕った。
だが翌日、寅次郎は源公を身代わりに出奔した。
電話で事情を知ったとらやの面々の前に寅次郎が現れるが、たこ社長のデリカシーのなさに腹を立て、旅立ちを決める。元の生活に戻ると、さくらに告げた。
1ヵ月後、節子がとらやを訪ね、自分が惚れられていたとは知る由もない節子の質問を、さくらは取り繕う。
寅次郎は節子に詫び状を送り、海でのぼると偶然再会。喜び、じゃれあうのだった。
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管理人の批評

1970年、日本の作品です。
監督を再び山田洋次氏に戻し、作られたこの作品。ある意味では、「寅さん」というキャラクター、「男はつらいよ」という作品の人気と奥深さを確認した上で、本流に戻ったと言っても過言ではないかもしれません。
やはりこの頃の作品を見て思うのは、寅さんはまだ「若手・中堅」クラスであるという事です。弟分を連れながら、あっちへこっちへせかせかと旅をしている。
世話になった親分の為にせっせと追いかけるあたり、寅さんの若さと義理堅い古臭さが同居しているいい塩梅となって、48作を見た後でまたあの頃の寅さんを見たいなと思わせてくれる味になっています。
そして柴又に戻ってきた寅さんが職探しを近所でして、断られ、昼寝をしていた小舟が流され千葉まで漂流してしまうのですが、近所にしてみれば寅さんの人間性も家族の人間性も知っているし、近所づきあいもある。口も早いし手も早い、厄介極まりない人間であることは間違いない。
そんな人間が小舟で流されていくという可笑しさに、観ているこっちはやられてしまう。
そして千葉で豆腐屋をやっている事がある小包で知らされ(当時の郵便局はすごいですね)、寅さんの恋物語が始まるわけです。
寅さんはあくまで真面目に仕事をする。下心から来る真面目さではありながら、そこに一切のエロスを感じさせない。その下品さを排除しているところがこの作品の魅力であります。
人間にはこの「下心から来る頑張り」というのが、時に必要でして、女の裸体を見たくて絵を上達させた人、女の裸体が載ってる外国雑誌の文章の意味を知りたくて英語を学んだ人、モテたくて音楽や芸事を始める人の中から、世に名を成すほどの活躍をした人というのは、数多くいるのです。
閑話休題、そして寅さんは一人娘の節子に恋をするわけですが、寅さんは節子の恋人の存在に気付かない。節子もまた、寅さんの好意に気付かない。この「気付かない」ものを私たちは「知っている」からこそ、馬鹿馬鹿しく、歯痒く、そして面白く感じられるのでしょう。
この回を中心とした座談会が収録された「週刊現代」が2014年11月10日に発売されました。高齢社会であることや、日本中に哀愁の風が吹いていた事もあってか、BSJAPANで放送された「土曜は寅さん!」は好評を得ていたのだと、強く感じています。化粧品のCMに後藤久美子さんを引っ張り出してきたのもその影響の一つと言えるでしょう。