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第一幕:「空から来た少女」



●状況描写1
投稿日 : 2000年7月3日<月>23時15分

七月の雨は、暖かった。

しかし突然の雨というものは、それがさほど冷たいものでなくても、
天羅を旅する者達にとっては、あまり歓迎すべきものでは無い。
だから、このさびれた街道沿いにある、こんな小さな道祖神の軒の下にさえ、
幾人かの旅人が雨宿りのために集ったからといって、
それは格別不思議なことではなかった。

●雷哮<蟲サムライ>題名:雨宿り
投稿日 : 2000年7月4日<火>02時07分

「やれやれ・・・」
一声呟き、男は天を見上げた。
雨。
粘り気のある、温い雨。嫌な雨だ。
と、ふと、脇腹に引きつるような痛み。3日前に死合った時、裂かれた場所だ。
触ってみる。傷など、どこにも無い。まやかしの痛みだ。
それは己の過去と引き換えに手に入れた力。もう、意味の無い力。
(古い事ばかり思い出す・・・。嫌だねェ、雨は)
気晴らしに周りの連中に目を走らす。
一瞬。
並の者には何も分からないであろう速さだ。
(ほォ・・・、これはこれは)
男は、行きずりの者たちを見て一人ごちる。
「なかなかの、もんじゃァねーの・・・」

●寂然<下法師>題名:煙管
投稿日: 2000年7月4日 <火>02時08分

腰を下ろし、道祖神に寄りかかっていた男が煙を吐いた。
僧形の男だ。墨染めの衣、袈裟、禿頭。年の頃は不惑を越したあたりか。
手にした煙管だけが僧らしくなく、そして、
身につけた他の何より男の雰囲気に似合っていた。

「鬱陶しい雨よのう」
雷哮の、瞬くほどの間の視線に気付いた風でもなく、誰に聞かせるでもなく。
「しかし、まぁ、・・・何もかも洗い流してくれると思えばそう悪いものでもない」
言うだけ言って、美味そうに煙を呑む。
そして、面白そうに、軒下に集う者たちを見やる。

●明鶴院 藤麿<陰陽師>題名:かぶきもの
投稿日 : 2000年7月4日<火>02時09分

 端から見れば、実に奇妙な雨止み待ちの軒先である。
瞳に闇を湛えたサムライに、旨そうに煙を吸い込む破戒僧・・・。
しかし、それにも増して人目を惹いているのは、
彼らよりも頭ひとつ長身の男である。  その長身を、無粋なまでに鮮やかな藤色の衣に包んだ青年の顔には、
若さと、自信と、そして危険なまでの好奇心が溢れ出していた。
 男はしのつく曇天を見上げ、言い放つ。
「この僕を、この程度で足止めできたと思うなよ!!
  貴様が雨を降らすなら、僕は止ませる方法 を編み出すまでさ!!」

  居合わせた数人が、彼を覗き込む。気でも触れたのかと心配したのだ。
そんな人々に、相変わらず傲慢な表情を湛えたままで藤色の青年は言った。
「さあ! この僕の心配などという無駄なことをしている暇があるのなら、
今自分が置かれている 状況をよく見てみるんだな!!
  この雨を、ただの雨だとでも言うつもりか!?」
 暖かい雨が、静かに降り続いている。
その色は、重く、闇を含んだような漆黒へと変わりつつあった・・・。

●霧子<傀儡>題名:無垢の心
投稿日: 2000年7月4日<火>02時11分

「藤麿様…」
鈴の音と聞き紛うような、愛らしく、凛とした声が
しとしとと屋根を叩く雨音の合間を縫うように、彼らの耳に届いた。
見ると、一人の女がこちらへむかって、水の流れが緩やかに、木の葉を運ぶように静かに歩いてくる。
その手には、陰陽の印を中心に描き込んだ鮮やかな黄色の番傘。

「こんな所にいらしたのですね…。漆黒の雨…お体に障りますわ」
彼女は、そっと傘を藤色の青年にかかげた。
傘の蔭から出てきたのはしっとりと濡れたような黒髪をたたえ、薫り立ちそうな魅力を醸し出す少女だった。

●状況描写2
投稿日 : 2000年7月4日<火>03時23分

・・・雨のやむ気配は全く無かった。
いや、それどころか、ますます激しくなっているようだ。
無論この辺りに人家などあるはずもない。
しかし辺りには着実に、夜の気配が忍び寄ってきていた・・・・・。

●濁炎<世捨て人>題名:クモタレコメテ、ヌルキアメヲウチ
投稿日 : 2000年7月4日<火>21時20分

降り始めは突然だった。
「おい‥待て待て待てって‥あーあー‥」
天気という奴は、なんでこう準備のねぇ時に限って、思いもよらねぇ不意打ちを食らわすのが好きなんだろう。
女の機嫌みたいじゃねーか。どっちも天気屋ってか、ハハ。
誰も観ちゃいない街道を、小走りに駆けながら笑う。
実際笑うしかないくらい、急速に強まった雨脚はほんの数分で、濁炎の頭から爪先までずぶ濡れの有り様に仕立ててしまった。
「これがホントの、水もしたた‥‥どぅわっっ?!!」
滴るイイ男、なぞと言おうとした途端、ぬかるみに足を取られ、泥水の中、盛大に前面にヘッドスライディングをかます。
「‥‥‥泥まで‥したたる‥」
口に入った泥をぺっぺっと吐き捨てて、顔を上げる。
その渋面が、ゆっくりと変化した。
「‥イイ男、だろ?」 笑うしかない。
そこで、”誰か”が見ていても。

●テンブ<ガンスリンガー>
投稿日 : 2000年7月6日<木>03時31分

「HA!イイ男が台無しじゃねーの。」
 妙にしゃきっとしない服をまとい、派手にヘッドスライディングをかました 足元の男に対して、飄々とした調子で言い放つ。
もっとも、その男を見つめるタレ ぎみの碧眼には悪気を感じないが。
「それにしたって・・・・。」
重苦しい雲を見上げながら“色男”に手を差し伸べ、呟く。
「うっとうしいねぇ。」
 濁炎を助け起こすと、ガンベルトからよく手入れされたコルトサンダラー を抜き、天に向けた。
次の瞬間「ゴゥン!!」という凄まじい音が一瞬、あた りを支配する。
 銃をクルクルと回し魔法のように再びガンベルトへとしまう。
「こいつは貸しだぜ。」
 いたずらに笑う。その時、銃弾が吸いこまれたあたりから一瞬、陽の光が漏れた。

●状況描写3
投稿日 : 2000年7月6日<木>22時32分

<ガンスリンガー>テンブの放った銃弾が雨雲を切り裂き、束の間の夕陽がきらめく・・・
と、その赤光に照らされて、ひらひらと舞い落ちる一片の、紙切れ。
それは雨粒の間を左右にゆらゆら揺られながら、落ちて来る。

やがて紙片はテンブの鼻先を通りすぎ・・・起き上がりかけていた濁炎の顔にベチャリとくっついた。

見れば、紙片には墨で奇妙な文字のようなものが描かれている。
が、その真中は見事に打ち抜かれ、穴が空いていた。

●状況描写4
2000年7月6日<木>22時33分

それとほぼ同時。そこから六十間(500メートル)ほど先にある、道祖神の軒の下に集っていた雨止み待ちの集団にも、
もちろんその銃声は聞こえた。
しかし、軒の下から雨を透かして外を見ても、なんら変わったところはないように見えた・・・すると。

空から何かが降ってくる。

白い鳥のような“それ”はよたよたと、失速するように降りて来る。
良く目を凝らせばその足の部分には、端に垂れ下がった紐の付いた荷物のようなものがくくりつけられているのが見える。
浮力を完全に失った“それ”は四人の眼前に「ドチャッ」という音を立てて不時着した。
白い鳥はしばらくバサバサとしていたが、やがて、ふっと姿を消し、後には一枚の紙切れのようなものが残るのみ・・・。
着地の衝撃で、荷物の荷がほどけたようであった。
中身はどうやら小さな人影のように見える。
人影は動かず、ただじっと雨に打たれるままになっている。

●風理<鬼少年>、 和彦<銃槍使い>題名:二人連れ
投稿日 : 2000年7月7日<金>01時24分

「ね!ね!和彦さん、今の見た!?」
妙にはしゃいだ声が道祖神の庵の中に響き渡った。
「『ズガーン』って音がしたら、雨がなくなっちゃって、光がサーって!!」
十になるかならずやの少年は、興奮のあまり頭に被った笠を吹き飛ばしそうな程の勢いで、 支離滅裂な事を息もつかずに話している。
今まで、時々轟く雷に怯えて同行の男の背に隠れていたとは思えぬほどだ。

しかし和彦と呼ばれた男は、少年がいくら騒いでも終始無言のまま、 瞠目して壁によりかかる姿勢をかえようとはしない。
ただ少年の笠が飛びそうになったときだけは、神経質そうに笠を直してやっていたが。

「あ〜!!トリさん、トリさんが折り鶴!!あそこに!鶴がトリさんなのかなぁ?
それとも、トリさんが折られちゃって、紙になっちゃったのかなぁ。 でも、狸とかが化けたのかもしれないしぃ・・・女のコが空から??・・・」
軽いパニック状態を引き起こし、マシンガンのように喋り続ける少年。
いくら雨の音で消されるとはいえ流石に騒がしい。

「―――――五月蝿い・・・。此処に居るのは俺達だけではない。もう少し気をつけろ・・・」
「え・・・??」
あたりを見回す。
少年はそこではじめて他の者の存在に気が付いた。
皆がやってきた頃、彼は午睡の最中だったので、他の者達がやってきたことを知らなかったのだ。

●雷哮<蟲サムライ>題名:興味津々
投稿日 : 2000年7月7日<金>01時56分

藤色の衣の青年を、楽しげに見ていた男の興味は、 不意に空より降ってきた荷物に移った。
「・・・あぁ?」
消えた鳥には興味は向かない。術の類は闘争の生の中で見飽きている。
見識のある奇妙なモノより、見識の無い奇妙なモノを。

〜軽いパニック状態を引き起こし、マシンガンのように喋り続ける少年。
いくら雨の音で消されるとはいえ流石に騒がしい。

「女の子、ねェ・・・」
一種の虚無感に満たされていた男は、しかしだからこそ未知なるモノを恐れない。
おもむろに空からの闖入者に近づき―
「・・・生きてるか?」
蹴っ飛ばそうとする。

●霧子<傀儡>題名:静かなる炎
投稿日 : 2000年7月9日<日>23時58分

女の子を蹴飛ばしたはずの雷哮の足元から、ぱすっ…と軽い音が響いた。
「おやめくださいお侍様…」
一呼吸早く、空から降ってきた小さな荷物と蟲サムライの足の間にはどこから出てきたのであろうか、
藤麿に差しかけた大柄のものとは違う、目の覚めるような深紅の傘が突き立てられていた。
「…足を使わずとも、命を確かめる事くらい出来ますでしょう…」
サムライに一瞥をくれると、彼女は突きたてた傘を引き抜く。
そして円を描くように一振りすると、 薄暗い空間に一輪の赤い紫陽花が咲くように傘が開く。
傘を片手にしゃがみこみ、地面に叩きつけられた小さな命を そっと撫で上げ、何かを確認した後―

「大丈夫、生きてますわ」
雷哮に、とろけるような微笑みを投げかけた。

●明鶴院 藤麿<陰陽師>題名:そして始まり・・・。
投稿日 : 2000年7月10日<月>18時08分

そんな、「命」に対するちょっとした対立劇を横目で見つつ、陰陽師は旅具から 数枚の手ぬぐいを取り出す。
「拭いてやれ。今、熱でも出されると厄介だ」
小声で言い、それを霧子に渡す。
藤色の衣を纏う男には似つかわしくない、あまりにも実用一辺倒の木綿の手ぬぐい。

「御坊、この娘を診てやってください。それから、そこな少年、少しの間黙っていてくれ。他の奴もだ」
一方的に指示を出し、藤麿は黒い雨の中へと進み出て、目を閉じる。
雨音が生み出す奇妙な静寂。
それを、微かに乱す、二つの足音。
さらにその後ろから響く、苦悶の声とも地響きともつかぬ低い連続音。

陰陽師は、その端正な面からは思いもよらぬ、邪悪極まる笑みを浮かべた。
「・・・始まったな、やってくれる」
そう独りごつと、此方へとやって来る二人の奇妙な男達に大声で問い掛けた。
「あんたたち! 向こうで何やらみなかったか!?」

●瀬ノ尾 蛍子<―>題名:空から来た少女
投稿日 : 2000年7月11日<火>00時52分

少女は自らを囲む人々の中で、その恐怖の色に染まった目を見開いていた。
引き結ばれた唇はわずかに震えている。

藤麿から渡された手ぬぐいで、霧子がその少女を包んでやろうとすると、
一瞬ビクリとしたが、その後はただされるがままになっていた。
その高価そうな着物や、丹精な顔を拭ってやると、 雨滴とともに紅い染みが手ぬぐいに広がっていった…。

●風理<鬼少年>題名:鬼族の子
投稿日 : 2000年7月11日<火>01時24分

「ぼく、『少年』じゃないもん!風理だもん!!」
藤色の衣を纏う男に向かって指を突きつける。
黙れと言われたのに、口を閉ざすどころではない。
(なんで、あんな変なおじちゃんに黙れなんて言われなきゃいけないんだ?  和彦さんに注意されたから、ちゃんと黙ってたじゃないか!)
そこまで考えたところで、なぜ黙っていなけらばいけないのかという理由に気づいた。
  ソラカラマイオリテキタオンナノコ。
何枚もの手拭が、次々と赤く染まっていくのが見える。
(アレが、彼女が流した血だとすると…)
かなりの量の血を失ったことになる。一刻も早く止血しなければ、命に関わるだろう。

「治療なら、ぼくだってできるよ。」
そう言って、オンナノコに駆け寄って治してあげたかった。
純粋の鬼族の中には、通常の天<アル>・地<ディ>以外の神通力を使えるものがいる。
それら特殊な神通力の中に、恵<ミグ>という癒しを司るものがあり、 少年は、その使い手の一人であったのだが・・・。
ちらりと、少年は『保護者』である青年を仰ぎ見る。
彼はじっとこちらを見つめ、ただ一度、静かに首を振った。
(・・・鬼だって、バレちゃ、いけないんだよね…?)

大人しく、坊に任せることにした。

●寂然<下法師>題名:法力
投稿日 : 2000年7月11日<火>01時43分

「どれ、良いかな娘さん?」
煙管をくわえたまま、霧子の脇から少女を診ようとし、紅に染まる手ぬぐいに目を止める。
一呼吸。
無造作に少女の頭に手をかけ、傷を確認する。
地に落ちたときに負った傷ではない。

ひどく、鼓動が早い。
首筋に当てた手から、少女の怯えが伝わってくる。

深く、深く煙を吸い込む。
そして一息に吐き出し、笑う。
声は出さず、口だけを歪め。
安心させようと言うのか、それとも何かが愉快なのか。

深く、響かせるような声で、名号を唱える。
治癒。
傷は、たちどころに塞がる。

「御仏の加護あれ、と言ったところよの」
破戒僧は、そううそぶいた。

●雷哮<蟲サムライ>題名:無垢と闇
投稿日 : 2000年7月11日<火>04時04分

“「…足を使わずとも、命を確かめる事くらい出来ますでしょう…」”

黒髪の少女の行為に、男はにやりと笑う。
「そいつぁ、気が回らなかったな・・・」
つややかな黒髪も、艶然とした微笑みも、虚無を宿した男には何の感慨も与えることはなかった。
ただ、男は少女の瞳に『何か』を垣間見る。
いや、正確には何も垣間見ることはなかった。
例えるのならば、色も何も無い瑠璃の如きものだ。
(無垢ってェのは、この嬢ちゃんみてェな奴のことを言うんだろうなぁ・・・)
穢れを知らぬ無垢なる心。
それ故に男には、少女が儚く脆く映った。
「悪ィな、今度っからは気をつけることにするさ」

そして男は、悪びれた様子も無く応え、法師然とした男の頭上から血まみれの少女の瞳を覗き込み、呟く。
「さてさて、どんな地獄を目にしてきた・・・?」
男の瞳は、暗い愉悦と、ほんの少しの哀しみをを湛えていた。

●瀬ノ尾 蛍子<―>題名:この世の地獄。
投稿日 : 2000年7月12日<水>04時42分

「どんな地獄を目にした?」と呟く<蟲サムライ> 雷哮の言葉を受けて、少女が彼を振り仰ぐ。
と、その腰に下げた刀を見た瞬間、 彼女は激烈に反応し、自分を介抱してくれた<下法師>寂然にしがみついた。
寂然の衣を固く握り締めながら、震える言葉を紡ぎ出す。
「ォおねがい…殺さないで殺さないで、殺さないでェ…・・・……・・」

寂然には分かっていた。少女は確かに重症を負ってはいたが、
その身体に付着する血の量は、それだけでは説明しきれないほどの量だったのだ。

そう、この少女はまさに、“この世の地獄”を見てきたのに間違いなかった。

●テンブ<ガンスリンガー>題名:過去
投稿日 : 2000年7月11日<火>02時56分

いまさらながら,“色男“と共に雨を避ける場所を探していると、 不意に藤色の衣を着た男から声をかけられる。

“「あんたたち! 向こうで何やらみなかったか!?」”

「何か・・・・ったってなあ・・・・。」
頭を帽子越しにかきながら、男の元へ行く。
「こんなモンくら・・・。」
言いかけて一瞬止める。テンブとてそれほど背が低いわけではない。
むしろ高いと言っても差し支えない。それが,まさか相手を見上げることになろうとは・・・。
(そういや、相手のことを見上げて話すなんてのは“あいつ“以来だな。)
テンブは帽子に空いた穴から男を見上げるようにして言い直す。
「ああ・・・。こんなモンくらいだぜ。」
汚いものをつまむようにして、懐から穴の空いた紙片を取り出し藤色の着物の男に見せる。

 そして、くわえ煙管で娘を診ている、墨染めの衣を着たどうやら僧らしい男をチラッと見やる。
・・と男は娘の傷口をたちどころに直す。
「たいしたモンだ。人の運命すら変えちまうとは・・・。それとも・・・。」
くるりと男に背を向けてつづける。
「あんたの前に落ちてきた。それは助かる運命だったってことかい? まあ・・・。人殺ししか能のない俺には関係ないがネ。」
 飄々とした口調とは裏腹に、少し寂しげな気配を帯びた帽子の下の顔を誰にも 見られていないことを、テンブは幸いだと感じていた。

●濁炎<世捨て人>題名:ツユドモコゴリテ ミナカミナガレソム
投稿日 : 2000年7月11日<火>22時02分

(あ痛たたたた‥)
キリキリと来た。みぞおちの深い所に刺さってきた。
さっき行きずりで一緒になったばかりの、ちょっとばかし ”毛色の変わった”連れが、飄々と放った一言だ。
(ツラいコト、言ってくれちゃって、まあ‥)
これだから、旅の連れというヤツは考え物なのだ。
旅は道連れ世は情けとは良く聞くが、情けは傷に染みすぎる。
未だ雨水の滴る無精髭の顎を撫でながら、顔には出さずに、濁炎は考えてみる。
足の向く向きが偶然同じなのだと、道連れにはなったが基より行く方などどちらでも良かったのだ。
‥人寂しさに、ついかまけてしまった。それが本当の所。

‥それにしても‥
軒下に集った顔ぶれを、ぐるりと見回す。
「此処は、鬼門か何かかねェ‥」
思わず、正直な感想が唇をついて出た。

その“苦悶の声とも地響きともつかぬ低い連続音”が集う者達の前に姿をあらわす。
……次回、第二幕。「雨天乱刃・壱」

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