恋の病 @


     ふぅ〜〜、後は掃除してこれを持っていけばお終いですね。
     あれ…先輩、溜息なんか吐いてどうしたんですか?
     え、何でもないよ…って言う割には浮かない顔してますよ。


     ……悩み事、ですか?
     ボク、こう見えても口堅いですよ!
     よかったら話して下さいよ。ホラ、人に話せばスッキリするって事もありますし!ね!
     分かりました、絶対言いませんから!!








     ――――えーと…最近、胸が急に痛くなる事がある…んですか。
     それは一回、病院で検査してもらった方が良いんじゃないですか?いくら先輩が打たれ強いって言っても…。
     ……え、そういう胸の痛みではないんですか?とすると…。

     う〜ん。もう少し、詳しく教えて貰っても良いですか?


     何々、その胸の痛みは、決まった人の顔を見たり、その人と話したりすると出る事が多いんですね。
     そして、胸が締め付けられるように苦しくなっておまけに動悸も早くなる、と。
     その人と話したりするのは楽しいし嬉しいけど、今までそんな事は無かったからどうしたらいいのか分からない…、
     で、気付くとその人の事ばかり考えている、…と言う事ですね。




     …ふむふむ……、―――分かりました!それは間違いなく『恋』ですね!
     先輩は、その人の事が好きなんですよ!!


     『ボクが…、…………んを…、…好き……?』

     





     ――――え。
     ど、どどどどどどーしたんですか!!先輩!?
     顔がこれ以上無いって程、まっ赤っ赤ですよ!?

     ボクに恋、と言われた事でやっと自覚したんですか?
     はぁ〜〜。もう、本当に先輩はボクシング一筋と言うか……。ま・それが先輩の良いトコですけど…。
     ……これじゃあ、久美さんも苦労す…、


     …はい?


     どうしてそこで、久美さんの名前が出てくるのかって?
     やだなあ、先輩〜。だって好きな人って…、久美さんじゃないんですか?
     そうですよね、素敵な女性だと思いますよ〜。…え、思うけど…って?

     けど…ってコトは、久美さんじゃないんですか!?
     それともウチの菜々子ですか!?…いや、飯村記者!?はたまた大人の色気の山口先生…!?

     …え、違う…?皆、そんなんじゃない…?

     そんな〜〜、もう思い当たる人なんて……、



     あ。


     ――― 一人、居た。



     ボクが呆れるほどの惚れっぷりの、かつて『恋人』と呼ばれていた、先輩の想い人、だとしたら。


     …先輩、もしかして……その人って、…み…、



     はいいっ!?

     何ですか、先輩!急に大きな声出したりして〜。
     え、そ・そうですね、はい!仕事仕事!!

     あ、社長の所ですね、分かりました!お願いします。
     先輩、随分慌ててるみたいですけど、大丈夫ですか?はぁ、なら良いんですけど…。
     はい。じゃあボクもここ片付けたら行きますので!お疲れ様でーす!!







     …あーあ…。結局、誰かは分からず終いになっちゃったなあ。
     でも、多分、そう、なんだろうなぁ…。
     薄々思ってたけど、やっぱり先輩にとって、色んな意味であの人は特別だったんだな…。


     あの人が相手じゃあ、他の誰もが勝ち目無いよなあ〜……。


     ボクはデッキブラシを手で押さえて顎を乗せると、深い大きな溜息を吐いたのだった。




     NEXT→恋の病A