----- こんな本に出会いました ----- <書名など> 「ジャコメッティとともに」 矢内原伊作著,筑摩書房 1969年9月 2刷発行,388ページ,1,300円 本との出会いを記しただけ。感想文になっていない読書メモ |
画家の鎌倉俊文さんから勧められてお借りした。 |
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あの小さくて細っこい,おかしな彫刻を作るジャコメッティと著者・哲学者矢内原伊作との交流の記録である。 昔,ブリジストン美術館で「ディエゴの胸像」をみた時は,そのでこぼこと言うか,しわしわというか,意味するところが分からなかった。 ただ,不思議な魅力があった。 ジャコメッティは「見えるものを見えるとおりに表す」と言った。 作品を見ても,こんなふうに見えているのかと不思議である。 矢内原は5年にもわたってジャコメッティのモデルになっている。 これは,二人の間に共通するものがないとできない。 ジャコメッティにじっと見つめられて,真剣な芸術家のまなざしを感じる力と情感があったのだから。 モデルの矢内原を正面からだけ見て制作を進め「正面が正しく把握されたら,側面もおのずと正しく把握されるはずだ」という言葉は不思議でもある。 矢内原はジャコメッティの製作過程を興味を持って見つめ,1回に何時間にもおよぶモデルも退屈しなかったという。 今まで作った彫像が,失敗だと言って壊されるのも納得している。 完成した絵は何だかよく分からない表情や灰色に塗り潰されている。 自分がモデルになったとして,目の前にできた絵や彫像があれだったら,何だかがっかりしそうである。 という人間にはモデルは無理だ。 矢内原はパリへ行った時代,何を研究すればいいか迷っていたようである。 ジャコメッティとも交流のなかで,哲学を研究するのでなく,哲学することができたのではなかろうか。 この本を貸してくださった画家の鎌倉さんにとっては,おそらく制作の原点に近い気がする。 私が初めて彼の絵を見た時「この人は,実物の形がどうということは関係なく,自分にどう見えたか描いている」と感じた不思議な画家であるから。 |