◇ 材種


これは多くの議論を呼んでいる話題ですので、
しっかりと書いておきたいと思って長く書いております事、
ご了承下さいっていつもうんちくが長いですけれども。


さて、三線の棹材は、黒木が良いとされていますね。
黒木とは黒檀の事ですが、色んな種類がございます。
そしてその分別は、樹木の産地別に違う材種として扱われる事も多く、
実は正確な種族別に呼ばれている訳ではなさそうです。

黒檀だけでも、
真っ黒い黒檀
特に八重山などで採れた八重山黒檀
シマシマの縞黒檀
フィリピン産などのカマゴンやカミゲン
南洋材と呼ばれたりする、インドやアフリカも含めてどこからか運ばれてくる黒檀。
もーきりがありません。


ただ、何となくでも分類しない事にはお客さんも納得出来ませんので、
三線業界は一応このような名前を付けて分類されていますね。
でも、材を見て分別しているのは店主ですから、
その材を他所へ持っていって見てもらったら、
「これは違うよ、こっちの種類だよ。」なんて言われちゃったりするんですね。
また、三線しか携わっていない場合は、コクタン、シマコク、などのように
あまり細かくは分類しない場合も多いようです。


◇ 材種の名称

名称はどのように付けられたのでしょうか。
学術的な正式名称は木材業界の呼称とは違う、細分化された名称がありますが、
その樹木の幹というものが切り出されて丸太という木材学に変化した段階である程度集約され、
それが三味線屋さんに入る頃には、かなり大雑把な分類で扱われてしまうようです。

また三線業界では、黒檀をコクタンと呼ばずに樹木の産地で呼ぶ事が多いです。
例えばカミゲンという名前、これは島の名前です。
カミゲン島はフィリピンにあり、とてもキレイな島で観光名所になっています。
ではこの島の名前はどんな由来なのでしょうか。
実はこれ英語なんですが、フィリピン訛りで、僕にはカミギンと聞こえました。
で、カミゲンは、come again です(笑)。
つまり、観光客にまた来てね〜と言ったのか、客がまた来るよ〜と言ったのか、
そんな訳で、島の名前が「また来てね」。
カミゲン与那は、「また来いよな」。みたいな。ね。

えーさて、その島にはその種の黒檀1種類しか無いとは思えませんよね。
離れ小島ではなく、多くの島が点在する地域です。
そんな事で材種が区別されててよいのでしょうか。
そもそもその材がカミゲン島で採れたという保証も全くもってありません。


◇ 産地の名称

実際に細かく見てみましょう。
八重山黒木というのがあります。
ご存じの通り八重山諸島で採れたものです。
本当でしょうか?

琉球地方に生えている黒檀の正式な日本名は
リュウキュウコクタンと言いますが、亜種が数種類はあると思います。。
カキノキ科の樹木で、小さな柿の実がなります。
これを鳥が食べて、種を台湾なりフィリピンに運んで、
育ったものは、フィリピン黒木です。
なるほど、あそこの店にあったヤツですね。
とまだ確信してはいけません。店主がそう判断しているという事です。
その材はフィリピンなの?ラオスやベトナムじゃないの?
と聞いても答えはでません。
逆に、フィリピン黒木の種を八重山へ運んだらどうなるのでしょうか。
緯度の差で気候が八重山の方が…、という話しがありますが、
フィリピンには八重山よりずーっと高い山地にも森があります。
そして、フィリピン産の真っ黒な材を、現地のフィリピン人はカマゴンと呼びます。
カミギン島にもカマゴンあるよ。って。
ね。名称と現物がどこへ行っても合わないのです。
(カマゴンって英語かなぁ…)

そして、フィリピンで扱われているカマゴンを入手しました。
とても良さそうな材で磨かれて光っています。ああ、これが彼らの言うカマゴンね、
というその材は、
心材の基本は一般的な縞黒に似ていて、
それに濃緑色の縞が混じっていて、杢は細かく詰まっており、
導管はかなり細かくてほとんど見えず、ピンホールを感じない材でした。
これは、色味からすると青黒檀系の濃緑色が入っている、
ニューギニア辺りの材と言われている組織の粗い黒檀が、
ぎゅっと詰まった感じの材、
という説明になります。
こうやって説明しないと材種の名前だけでは何も伝わっていない事になります。
ちなみにこんな材で作られた三線に出会った事はありません。


◇ 八重山黒木とフィリピン黒木

これらが同じ種類の樹木であるという話もあります。
上記の様に柿の種が運ばれた説ですね。
本当にそうかもしれません。

八重山黒木が一番と思っている人にとっては、
非常にゆっくり育ち、一番良く詰まっている材なんだと思うでしょう。
しかし、両方削った事のある人の感想は、カミゲンの方が硬く、
詰まっているという話の方が良く聞きますし、僕もそう思います。
さて、見分ける方法があるのでしょうか。
答えは、見分けられません。です。
材種がほぼ同じだからです。

その代わり、それらの黒檀の亜種がある事が解ります。
真っ黒になっていない、縞杢になっている材ですね。
あれは、環境で黒くならなかったというよりは、
同じような種類の樹木だけど、植物学的に分類すると違う種類なのです。
そして、八重山にもフィリピンにも同じ亜種があります。
また、今現在でも街路樹や公園に生えているリュウキュウコクタンは
心材が黒くならないそうですが、それと同じ樹木が森にたくさんあるそうです。
みんなドリルで穴を開けられて、中から黒いおがくずが出てこなければ
採ってこないという状況だそうです。

例えば隣同士で生えていて、樹齢も同じ、でもひとつは黒くなり、ひとつは真っ白だとしたら、
どちらかが突然変異とわれるかもしれませんが、
実際にこれだけ多くの本数があちこちの森中にあるのですから、
これは違う種類の樹木なのです。

従いまして、ここに書いただけでも最高峰といわれる八重山黒木には3種類あります。
真っ黒なヤツ、白黒半々くらいの縞杢のヤツ、真っ白なヤツ。
ちなみに、この縞杢は縞黒などとは全く違う材種です。
では、何がどう違うのでしょうか?


◇ 八重山縞黒

大抵の縞杢は、樹木の生長垂直方向といいますか、
通常棹材の長手方向に縞が流れているように見えるものが多いと思います。
そちらに生長して伸びていったからそうなるのではなく、
丸太を輪切りにしますと年輪と同じような模様に
「輪染み」の様に黒い縞が出来るのでそうなるのですね。

で、木材には木理(もくり)と言いまして、内部の繊維方向があります。
これが材種によって違いがありまして、
単純に竹のように繊維がほぼ縦方向だけに走っている材と、
布のように縦横に走っている材があります。
また、導管(どうかん)といいまして、
水や空気や樹液の通り道となる細い穴がありまして、
根っこから水を吸い上げる事から、通常縦方向に伸びている事が想像出来ますが、
これが横方向にも、年輪を1枚ずつ通過していくような道があるそうです。
縦方向はシャープペンの芯ほどの穴がたくさん開いている材もあり、
見たり触ったり出来るのですが、
横方向の、導管というか、たぶん水門だと思いますが、
これはほとんど目に見えません。

で、縦方向の導管は杢とはあまり関係が無いかもしれませんが、
横方向の水門(?)や横方向に走る繊維に、
黒くなる成分が染み込む材があります。
これが、八重山系にはかなりハッキリと出ていて、
細マジックでシマシマを書いたんじゃないかと思える材もあります。
このシマシマは、丸太を輪切りにすると中心から放射状に走る線に見え、
柾目に取れば横に走る線に、板目や追い柾なら点点に見えます。


八重山縞黒

但し、これがあれば八重山系だと断定出来るものではありません。

で、八重山黒木といいながら白黒半々くらいの縞杢のヤツで、
上記のような細かい放射状のシマシマが染み込んでいる材の事を
僕は勝手に「八重山縞黒」と呼んでいます。
だって、違う材種なのに名前が無いんだもーん。
という事です。ちゃんと分類しましょうね。


◇ 白太の色

これは決定的です。決定的な違いがあります。

八重山系は白太が白いです。
一般的な縞黒系は白太がオレンジです。


白太の色の比較

白太の比較として並べた画像です。

上:本黒檀

左:アフリカ黒檀     中:カミゲン     右:ユシ木

下:八重山黒木

上の本黒檀のオレンジに対して、
中のカミゲンと下の八重山黒木は、白太が白いですよね。
これがまず一番最初に見分ける部分です。
なので、白太無しの真っ黒棹材はもう少し良く見なければなりません。
また、心材の横に付いている白っぽい部分が、
果たして白太なのかどうか、これをまず判断しなければなりません。
この棹の爪裏で見てみましょう。


爪裏の色

右端が白太です。
左は、心材の中のヌケ、つまり黒くなっていないけど、白太ではないです。
白太は樹皮に近い辺材部分ですが、ヌケは心材です。
この画像では年輪の中心が左側で、
右側の白太のさらに外側に樹皮があるという事です。

手前にある棹の芯(樹木の中心は心と書き、棹は芯と書いています。)は、
白太ではなく心材部分ですので、白っぽくなっているのは全て心材のヌケです。

で、白太は心材のヌケに比べて白っぽいですよね。
もし心材が黒くならなかった場合は、松や杉などと同じように、
白太より若干濃くなり、オレンジ色なのです。
(詳しくはトップページからお隣「トンコリ」内の「木材の欠点」ページ・白太について で説明しています。)
白太にこの白さがある材は八重山なりカミゲンと呼ばれている種類となります。
また、一部のアフリカ材にもこの白味があるものがありますが、
こちらは心材の黒味具合がかなり違いますのでそちらで見分ける事が出来ます。

ただ、オレンジと言っても、本漆塗りで透き漆を塗った場合、
やはり完全な透明ではなく若干オレンジ色になってしまいますので、
爪裏や芯などで確認出来れば幸いですね。
また、最近の塗りはスンチーといってもウレタン塗料である場合がほとんどで、
その塗料に若干のオレンジ着色をするのが流行といいましょうか、
材のヌケや荒れた部分などでもしっとり艶やかに見せられるという事で、
材本来の色味を見る事は難しいようですね。


ちらっと白太

写真は真黒黒檀、本透漆塗り。


◇ あともう一種類

本当はもう数百種類と書きたいところですが(笑)。
白太が白い系で、心材の真っ黒な材で、
その心材が青黒い材種と赤黒い材種があります。

沖縄三線ではあまり使われていないようですが、
青黒檀という青黒い種類があります。

青黒檀として購入してきた材は幾つか持っていますが、
何しろ20年か30年前に伐採禁止されており、
白太のほとんどが朽ち果てていて、心材だけの状態になっていますので、
白太の比較が明確には出来ないのですが、
僅かに残っている白太の破片をみても、たぶんこれは白系なのだと思います。
もうひとつの理由に、心材内部のヌケを見ると結構白いので、
白太はもっと白いのではないかという予想ですね。

で、白系の白太が完全に残っている材に出会いまして、
いわゆるカミゲンっぽいな、これは絶対良材だと思って飛びついて仕入れてきたヤツが、
どうやら保存状態がとても良かった青黒檀ではないかと思います。
で、青黒檀にも数種類あって…(笑)

まあそういう訳で、それと比較分別して、八重山系は赤黒い心材です。

また、心材が赤黒いのに、白太はオレンジ色で、
真っ黒だったり若干縞杢だったりしていて、いかにも趣のある材があるのですが、
これは本黒檀といいます。
一般的な縞黒より全然詰まっていて導管などの粗さは縞黒の半分以下という、
オススメな、黒檀です。


◇ 終わりに

桜には色んな種類がある事をご存じでしょうか。
普通の桜と八重桜くらいは有名ですが、
ソメイヨシノという分類で話をしますと、
かなりの種類があり、結構見分けがつかないものです。
しかし、確実に異なる種類ですので、
それらを木材にしたら違う種類なはずです。たぶん。
そういう分類をしようとしているのですね。
さて、どちらが良い音がするのでしょうか。



よじ登る。。

とりあえず戻ってみる。