◇ 塗りです。




塗り具合


僕はホンモノの漆を使います。
なぜホンモノと付けるのかと言いますと、ニセモノがあるからですが、
別に悪気があってニセモノを作っている訳ではなさそうです。

まず第一に、漆を塗る人がカブレるのを嫌がり、
それで人工的に作られた漆っぽい塗料というのが出来まして、
漆の代用品として使われるようになりました。
これは三線の棹に限った話しではなくて、
日曜大工で誰もが手軽に塗装出来るようにと作られたものですね。

そしてそれらの塗料は漆より安価な場合が多いです。
用具の手入れも楽ですし、ある程度保存も出来ます。
漆はせいぜい半年ですね。
半年以上経つと変質して硬化しづらくなってきますので、
そういうのは捨てるしかありません。


棹の塗りで最近一番使われているのは、ウレタン塗料でしょうか。
テーブルの表面に使われる塗料で擦れに強く、
透明なので木目もキレイに出せます。
これに若干の赤茶色の色味を付けて、
白太部分でもワインレッドのような深みになり
美しく仕上がっていますね。

でも、やっぱり漆ですよね〜って
思いませんか?

今現代では、ホンモノの漆塗りを見た事が無い人の方が
実は多かったりするのでしょうか。。


◇ 漆って

小さなチューブ入りなどで入手出来ます。
蜂蜜みたいなドロッとした液体で、これを刷毛などで塗り、
温度と湿度を適正に保った室(むろ)と呼ばれる部屋に入れて
硬化させるというのが伝統ですが、
最近は塗ってそのまま放置しておけば
自然硬化するものも販売されています。

また、塗る時期を高温多湿の季節にして、
つまり、いかにも梅雨時というムシムシした環境に置いておけば数日で硬化し、
そのまま1ヶ月も放置すれば良いのですから何も難しい事はありません。
しかし、知識として、
漆は永久に完全硬化しない、
一応硬化したとして一般販売されている漆器でもカブレる人もいる、
漆器に近付いただけでカブレる人もいる、
生漆を触ってもカブレない人もいる、
その時の体調次第ではカブレる、
と、書き出したらキリがないのですが、
カブレたくない人は近付かない方がいいです。ひどい目に遭う事があります。

僕は結構弱い方で、その僕が触って大丈夫なヤツをお渡しすれば、
普通の人はカブレません。
ただ、数年経っている漆塗りの棹でも、
例えばその表面を紙ヤスリでゴシゴシやって、
その粉が手の水分と一緒になって付着するとカブレる事があります。
じゃあ、勘所が擦れて、その粉が。。
という程度であれば普通は大丈夫ですね。


◇ ホンモノの漆塗り

ホンモノかどうか、見分けるのはなかなか難しいですね。
漆には大きく分けて、黒漆と透漆というのがあります。
お椀などで内側が赤くなっているヤツは赤漆で、
緑になっていたらそれは緑漆なんですが(笑)、
それらは透漆に色粉を混ぜているものです。

で、黒漆も実は色を混ぜているようなものなんですね。
黒漆の色粉は、鉄分で、ようするに、サビ?錆び錆び??
みたいなもんです。
で、漆黒(しっこく)という言葉がありますが、
この黒漆は他の塗料に比べて強烈にもの凄く黒いんです。
他の黒い塗装物と並べてみると、
漆が黒で、他はグレーに感じるほどですので、
そういう見分け方もあります。

最近の沖縄三線市場で黒塗りの棹といったら、
白い木材で作られたお土産三線とか初心者用の安価なものが多いですが、
これらに漆を使う事はまず無いですから、
合成塗料の黒ですね。

高級な棹材にはホンモノの漆を使ったものが販売されていますが、
最近の流行でしょうか、やはりキレイな杢の出ている材を
黒漆で真っ黒けっけというのはもったいないという事で、
透明で中の材の顔色がうかがえる塗りにしてあるものが人気ですよね。
ほんとに美しいと思います。

で、そういう棹でも透明の合成塗料で塗られたものの方が多いのではないでしょうか。
これは見分けが難しいですねぇ。
え?擦ってカブレたらホンモノ??


◇ 透明な塗り

沖縄ではスンチー塗りと呼ばれます。
語源は、春慶(しゅんけい)という特別高級な漆の種類で、
透漆の中でも透明度が高い事で知られています。
スンチー塗り=春慶塗りの事です。

が、

春慶漆はとっても高いです。

なので、スンチーと呼ばれている塗りに春慶漆を使っている事は、
ほぼ、皆無です。
だって、春慶じゃない普通の透漆でも充分透き通っていて
材の杢が見えるんですから、
わざわざそこまで特別な高級漆を使っても、
誰も解らないんじゃあ使わないですよね。

しかも、

なんと、スンチー塗りですと言っていても、
ホンモノの漆を使って塗っている棹はかなり少ないです。
というか、超高級三線でもない限り、
普通はウレタンクリアー仕上げです。
それで充分だからです。
それをスンチー塗りと呼んでいます。
スンチー=クリアー
というのをウチナーグチの辞書に載せてもいいかと思います。
だって、春慶って言われて解る人ってほとんどいないでしょ?


さて、ホンモノの話です。
透明な漆と言っても、色はかなり濃いです。珈琲色です。
縞黒檀のような材でせっかくキレイな杢があるのに、
塗った瞬間に結構消えてしまって、あれれ。。とか思います。
これが、塗って硬化して、半年、1年と時間が経つにつれて
だんだんと透き通ってくるのです。
なぜでしょう。解りません(笑)。
もし本透漆で注文なさった場合は、長い目で観察して下さい。
仕上がってすぐには見えなかった杢が出てきたりします。
あ、黒漆はいつまでも真っ黒なままですので磨いてあげて下さい。
ちなみに僕は木材大好き人間なので黒漆はやりません。




塗り具合



◇ 漆の性能

千年くらい前に栄えた都の発掘によって、漆器が文字通り出土した時の事、
上記要領によって漆がほとんど完全な透明になっていて、
その下地に使われていた粘土や布地が丸見えで、
学者さんも最初は何が塗ってあるのか解らなかったそうです。
なので、棹も千年くらい待ってみるといいかもしれませんね。

ところで漆は、
鉄を溶かしてしまう塩酸や硫酸に強く、
ガラスを溶かしてしまうような薬品にも強く、
塗料を溶かしてしまうシンナーにも強いのです。
唯一の弱点は、紫外線に弱いのですね。
あれ?では強烈な紫外線の沖縄では?
まあ、陽にあたってすぐにダメになるような、
そんな短期間で変化するものではないという事ですね。
耐薬品性では漆器に勝るものは無しとも言われています。

英語で、器を指していう言葉、
中国の意味のチャイナと言えば陶磁器の事。
日本の意味のジャパンと言えば漆器の事です。
それほど特徴的な文化なのです。


◇ 塗り方

塗り方は人それぞれです。
地域による伝統文化だったりもします。
僕にはそういう伝統は全くありませんので自由にやってる姿を紹介します。

さて、漆は一度塗りでは終わりません。
まず、木材に染み込みます。
ウレタン塗料で、擦れに強いタイプの硬い塗料を使うと、
木材の繊維質に染み込まず、
木材表面に乗っている状態で硬化している棹を見た事があります。
特にスプレー塗装されたものは刷毛などで擦り込むという作業が無い為、
どうしてもちょっと浮きぎみな感じになってしまいます。
ひどいものはセロテープを剥がすように木材から剥離してしまいます。

漆はそもそもがウルシという樹木の樹液ですから、
それはそれは木材と相性がよろしい訳です。
どんどん染み込みます。
染み込んで、中で硬化してくれて、材ごと硬くなってくれていいのです。
という訳で、何度も重ね塗りをします。

・下塗り
最初は生漆という、ほとんど精製していなくて塗料とは言えないくらいの、
ゴミを取り除いた樹液という程度の漆を塗ります。
茶色なんだかクリーム色なんだかよく解らない
カフェオレ蜂蜜シロップみたいなもので、
全然透き通っていないのですが、
硬化すると麦茶のようなアメ色に透き通ります。
これを数回塗って染み込ませ、下地を作ります。

・中塗り
この上に数回、添加物の入っていない純粋な漆を塗り重ねます。
ここで使う漆は、塗料に適した状態にする為、
すり潰したり濾過したりしてあるそうです。

この中塗り数回は、塗って硬化させて表面全体を研磨します。
木材の導管の荒いものは、ここで漆を詰まらせて平滑にします。
そうなるまで何度でも研ぎ出し、均一な厚さに整えます。

これらの研ぎ出し作業では紙ヤスリを使いますが、
何も考えずにゴシゴシしていると、
どうしても角だけ先に削られてしまいますから、
このあたりの気遣い指使いで仕上がりに差が出てきます。

昔の塗りは、
角だけ削れたりささくれたりするのを防ぐ為に、
角という角全てに膠か何かを塗って固めていたんですよ。
最近は誰もやっていないと思いますけど。
(その状態は「骨董品の…」ページでご覧下さい。)

・上塗り
中塗りでほぼ仕上がりの状態にします。
平滑で欠点の見当たらない状態になったら、最後にうっすらお化粧をするのです。
使う漆は若干の植物油が添加されたもので、艶やかな仕上がりになります。
この上塗りは、一発勝負です。
均一かつ薄く、ゴミ無しムラ無し刷毛目無しで塗ります。
ほとんどムリな事を言ってます(笑)。
けど、やるしかないのです。

・ひらすら磨く
という工程名でよろしかったでしょうか(笑)
磨き上げます。
上塗りはただでさえ薄く、ほぼ均一で光っていますが、
これを磨きます。
ただ、ピッカピカにピカらせるのか、
半艶にするのかはお好みで変えます。
ちょっとでも磨き過ぎて中塗りが顔を出してしまったりしたら、
中塗りの途中からやり直しです。

研磨剤は鹿の角を焼いて砕いて粉にして振るいに掛けて均一なもの。
というのが伝統芸らしいのですが、
磨ければ何でもいいです。
上記「漆の性能」でも紹介した通り、
薬品にはこの上なく強い漆ですので石油系の合成研磨液などが使えます。
重ね塗りによって木材には到達しないので何ら影響は無く、
研磨後は水洗い丸洗いでつるんつるんになります。
お肌すべすべです。
その研磨材の粗さによって光具合が調節出来ます。


◇ 仕上がりは

漆塗りと言えば、輪島塗りでしょうか、会津塗りでしょうか。
日本各地にそれぞれ特徴的な塗りがあります。
沖縄にも伝統の漆塗りがあるのです。
ただ、それらはお椀やお盆など、
器としての塗り方であって、
棹の塗りとは求めているものが違うんですね。

まず重要なのはトゥーイです。
これはお盆と同じ品質では困ります。
勉強の為に宮内庁御用達の高級漆器を見に行った事がありますが、
見に行った僕が間違えていました。

また、せっかくキレイに材を整えても、
ボテボテに厚い塗りをしてしまっては台無しです。
必要最低限の薄さで、均一な厚みというのが理想ですね。


さて、見栄えという見方ではどうでしょうか。
お盆やお椀は人の手が触れるものですので、
角は丸みを付けてあります。
三線も当然人の手で触るので、角を丸く、、しないですよね。
なんででしょうか。解りません(笑)。
が、平面は角までビシッと平面を維持してあって、
角の丸みは必要最低限に抑えておく、
というのがカッコイイです。
手を抜けば角は出ません。


塗り具合

美しい杢が出ている材を透漆で仕上げたなら、
何も言わずにひと目でカッコイイと思えるでしょう。
また、本当に真っ黒な黒檀でも、
やはり透漆で塗る事で、その微妙な色味が感じられるでしょう。

表面の質感、肌触り、全てに漆特有の味わいがあります。
合成塗料が発展してきましたが、
樹液にはまだまだかなわない、
といったところでしょうか。


よじ登る。。

とりあえず戻ってみる。