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ヤイユーカラパーク VOL43 2003.04.21
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カナダ/リルワット・ネーションからの手紙

8月にリルワットを訪れたときにアルビン家に住んで、近くの農家の仕事を手伝っていた三浦樹央君(克己君の兄)から2月末に長文の手紙が届きました。『森』ニュース前号(42号)を読んでのアルビンのメッセージも同封されています。カナダ・レポートを、樹央君が英語に翻訳したのでしょう。さらに、アルビンのメッセージも翻訳してくれています。樹央君に感謝をこめて、全文を掲載します。


こんにちは、Mt.Currieのアルビン・ネルソンの家にホームスティをしている三浦樹央です。去年の夏、ヤイユーカラの森の皆様に会いまして、今でもあの楽しい日々を憶えています。ネルソン家はみんな元気です。サケの稚魚が川に泳ぎだし、久しぶりに聞く春の鳥が歌いだし、馬や牛の赤ん坊たちも草原を走り回っています。もうすぐ草木が芽を出し、春がMt.Currieにやってきます。

今年の春夏秋の降水量は1/3に減り、冬も例年と違って暖かく雪が少ない、少し変わった天気でした。これは地球温暖化か?それとも自然のサイクルかと話しています。

今、地球はとてつもない速さで変化を行なっています。環境問題に取り組む人間の技術と知識が、その速さに対応できるでしょうか? そのまま自然とバランスの取れた生活を続けていく事ができるでしょうか? 今、大切なのは、毎日感性豊かに、前向きに現実を生きていくことでしょう。

経済による自然破壊、価値観による文化の流れ、戦争、政治、農水・森林・鉱山業の現実を学び、地球全体を見る視野を持ち、良悪の過去を知る。現地での自然と対話した食生活や、伝統、文化は今、最も大切に若い世代に伝えていかなくてはなりません。あと10年もすると、自然は変わります。普段何百年もかかって地球の平均温度が2℃〜5℃変わるというのが、何年、何十年という時間帯で気温が上昇するのです。動植物はとっくに気付いています。あなた達も気付いているでしょう。

自然の流れにさからわず、変化と共にあらためて食生活を考えていく時です。地球温暖化による海水面上昇、地域により激しくなる旱魃と大雨、大洪水により、海外・国内での農業は著しく変わります。化学肥料や遺伝子組み換えによる農業も、見直さなくてはいけません。地域と民間が話し合い助け合い、その土地でどう衣食住を賄うかを見直していくのは、いつでも「今」からです。と、僕は世界中の人に訴えていきたい。

Mt.Currieで出会う人々から、多くの素晴らしい事を勉強しています。7年前から写真を撮り続けている僕は、その技術を素晴らしい経験として生かし、学び、他の人々にも分け合いたいと思っています。

ここB.C州とMt.Currieで、最近、2010年冬のオリンピックを実施するかどうかが話題になっています。今でも良くない病院施設や教育施設のための税金利用を減らしている政府は、何億も私たちの税金を使い、見掛けばかりのオリンピックを欲しがる、馬鹿げた話です。儲かるのは少数の政治家と、大企業だけです。これまでに、黒字を出した冬のオリンピックはありません。一昨日、yesかnoの選挙がありました。オリンピックが欲しいというyesが、64%を占めました。上っ面しか見ない北米の開発先進国らしい結果でした。けれども、オリンピック協会は75%のyesを希望していたので、ここでのオリンピックはないでしょう。

Mt.CurrieのRosalin Samはオリンピック反対のため、ラジオ・テレビや会議等で、ファーストネーションの意見を発言し、がんばっていました。オリンピックを許す事により、Pemberton Valley(谷)とMt.Currieの人口が増え、物価が上がり、政府の公共事業(森林開発、鉱山業、水資源、リゾート開発)増加を許す事につながると言っていました。七世代前から伝わってきた自然を、そのまま七世代後に渡していくために、ファーストネーションの民族の権利、誇りと意見を、世に伝えていかなくてはなりません。

世界中で広がる砂漠化、水資源の減少、化学肥料の影響と降水量の変化による農作物の減少で、B.C州の隣のアメリカの未来は厳しくなるでしょう。金持ちだけが飲食できる時代がやってきます。発展途上国で見られるスラム化がアメリカでもひどくなり、大都市での暴動も頻繁に行なわれるでしょう。森林、水資源、植物相の豊富なB.C州の土地は、どんどんアメリカ企業に買われ、荒らされていくでしょう。今でも、それが痛いほど見えます。

B.C州のファーストネーションは、全ての土地の権利を彼らが持っていると言います。政府や企業に動物、植物、水脈のある山を乗っ取られては、未来の生活の自由をなくしていくばかりです。だから今、Sutikalh(シュティカ)又はMelvin Creekという、自然のままである山と谷をリゾート開発から守らなくてはなりません。この件は自然を守るというだけでなく、ファーストネーションの人権と土地の権利を主張する為という、注目されるべき事実です。

土地を見守る為に作られたピースキャンプでは、自然を愛する人々が生活していて、彼らの運動は他のB.C州のネイティブたちの見本になっていくでしょう。毎日そこで生活するHubertは「次世代に清流水を飲ませたい。私たちインディアンとみんなに、自然と生活する素晴らしさを見せて、呼びかけていきたい」と言う。僕もここに2週間留まり、いろいろ学び、楽しい経験をしました。

この山でのスキーリゾートの開発は、北米で一番大きいスキーリゾートWhistlerを持つIntrawestという会社と、日本の三菱系列の日本ケーブルという会社と、B.C州政府らが手を組み行なわれる予定となっています。

2002年10月号(『ヤイユーカラの森』ニュース)の記事をもとに、ファーストネーションのStatimic領地のLilwat民族であるアルビン・ネルソンと、領地内のWhistlerリゾートの歴史とMelvin Creek、シュティカの未来について話してみました。

“Yay Yukar Park”10月号の記事について/アルビンの言葉

記事の中でナンシー・グリーンが「メルビンクリーク・リゾート計画は動物界に影響を与えない」と言ったことを書いてありますが、私はそれを誤った意見だと思います。スキーリゾートはダフィー湖地区(Mt.CurrieからLilloetまで)への、彼らの権力の回廊です。それはスキーリゾートに続き、宅地開発事業が進むということです。今のウィッスラーが昔、ガルバルディ・スキーリゾートだった時のように。

この時若者たちは、「スキーはとても良いスポーツで、スキーを学びレースに出ることによって、人々(ファーストネーション)を助けられるでしょう」と言われました。けれども私たちは、Lilwat Nationとして知られる民族を代表して大会に出ることを許されませんでした。私たちの世界級スキーレーサーは、出場に制限を加えられました。私たちの実力を証明することは出来ませんでした。ナンシー・グリーンは彼女のスキー学校に私たちを招待しましたが、Mt.CurrieのスキーコーチJhon WilliamsがLilwat民族を代表して大会に出たいというと、答えは「No」でした。その後、私たちの優れた選手たちは挫折し、スキーを止めました。

ガルバルディ・スキーリゾートは、仕事を提供する約束をしています。ネイティブの人々にとって、これはチャンスだと思われましたが、結局は偽りでした。現在たった24人だけがウィッスラーで仕事をしています。2〜3人はウィッスラーで専門職に就いていますが、他の主な仕事は単純労働、大工、皿洗い、料理人やホテルのメードです。ネイティブによるビジネスは、ウィッスラーではごく僅かです。

私はダンプトラック、バックホー、エキスカベーター(大型機械)を持っていますが、今までに二つの会社で一回づつしか働いたことはありません。Coast Mountain Equipmentでの除雪作業を1日、Mc Bright Groupでの古いレンガ除去作業を1日半だけです。

D.I.A(Department of Indian Affairs=インディアン業務省)と州政府、連邦政府らが、ウィッスラーでのファーストネーションのビジネスを妨げるのに関係しています。政府はリゾートを建設する時に限り、友好的でした。

35年間をふり返ってみると、Whistlerは私たちの残りのLilwat領地を取るための鍵でした。州政府は民間企業に土地の使用を許し、領地の私たち民族は困難に追い込まれました。州政府が土地の売買から税金を得た行為は、作為的であり有罪です。私たちは領土内において民族の自決権獲得に苦しみ、自らが信じていた文化を維持するために今でも苦心しています。

Whistlerの35年間をメルビンクリーク(シュティカ)の未来と比べてみて、もしメルビンクリークの開発が進むとしたら、私たちと動物界と自然が荒らされると、私は信じています。LilooetとMt.Currieを結ぶDuffy湖交通路は、今でもStalimic民族のStalimic領土と認められていない。木材産業、鉱山業、環境観光産業や水利産業という州政府のいう権利に基づき、私たちの権利は横に押しやられました。この手紙が書かれている今、ひとりのLilwat族の男がメルビンクリーク開発反対運動によって、牢に入っています。

ファーストネーションと動物界の領土が荒らされます。私たちは今でも土地の所有権を持ち、Creator(神)が私たちをこの土地に置いた時から今日まで、この土地を保護する責任があるのです。

私たちは土地を明け渡したことはありませんし、州政府や連邦政府から土地売買の領収証を受取ったことなど一度もありません。

日本の企業にメッセージを送ります。領地のファーストネーションと直接取引きをしないのなら、Stalimic領土内での州政府との事業について改めて考え直すことを、私は要請します。

再び樹央君から

僕はいまMt.Currieに住み、多くの人には出来ない素晴らしい経験をさせてもらっています。民族の共同体では、助け合うことによって力が倍増します。僕はこうして書いた文章と写真を使って、日本人にファーストネーションの文化を少しでも理解してもらい、ここでの自然破壊反対運動を支援してもらいたいと思っています。そして日本の“田舎”の生活や自然を見直す機会を作れれば、ここでの生活は意義があったと思えるでしょう。

アイヌの文化を大切にしてください。日本の文化を大切にしてください。いつか、北海道またはカナダで会える日を楽しみにしています。

三浦 樹央