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ヤイユーカラパーク VOL46 2004.03.30
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食いものノート/8

自他楽写真館 平島邦生

とうとう、ニワトリまで怪しげな事件(?)に巻き込まれてしまった。人類は、そろそろ肉食をあきらめなければならない時期に来ているのだろうか。……「全人類がベジタリアンになれば、地球上の飢餓は解決できる」と言う人たちもいる。その主張は、あまり現実的とは言えないが、しかし決して間違いではない。

拙者はどちらかと言えば野菜や魚介類を好む。それでも、月に何度かは肉も食べている。今日は、いま渦中に身を投じている「鶏」の食い方に挑戦してみたい。


人類と鶏のつきあいはとても長いらしい。わが国では長鳴鳥とも呼ばれ、「夜の闇を払い、朝の光をもたらす霊鳥」として尊ばれてきた。日本史にニワトリがはじめて登場するのは「天の岩戸」の神話だ。しかし、洞窟に隠れた太陽神に、花を見せたり、鶏の鳴き声を聞かせて誘い出す話は、元々南アジアの神話にあったらしい。「花」をアメノウズメノミコトの鎮魂ストリップに置き替えた、いにしえ人の「想像力」が楽しい。


新約聖書にも、捕らえられたキリストの後について行ったペテロが、群集に、「この人もイエスと一緒にいた」と追求され、「私はその人を知らない」と三度否定すると、「……たちまち鶏が鳴き、『きょう、鶏が鳴く前に、三度私を知らないと言うであろう』と言われた主の言葉を思い出して激しく泣いた」。と、マルコとルカが記述している。特にルカの記述には、その直前に、自分を捕らえに来た祭司長たちに向かって、キリストが「……今はあなた方の時、また、闇の支配の時である」と語る言葉も記されている。だから、ここでも鶏の鳴き声は、「新しい時代の夜明けを告げる『象徴』として」用いられたのだろう。……そんな由緒ある鶏を食べるのだから、心して取り掛かるとにしよう!


レシピ 14ニワトリの殺し方

なにやら物騒なタイトルになってしまった。しかし、肉食をする以上避けて通れないのが、この「殺す」という行為である。イヌイットがアザラシを殺す。サーメがトナカイを殺す。それを「残酷で野蛮」だと考える人は、今日からでも、菜食主義に転じるほうがいい。パック詰めのすき焼き肉も美味しそうなトンカツも、それはすべて、牛や豚の「死体の切り身」で作られている。


なにも、平和な日常に嫌がらせを言うつもりはない。拙者だって血を見るのは好きではない。無意味な殺戮には腹を立てもする。それでも、殺生を一切することなく肉食をしている現代人には、「殺して食べる」という一連の行為を、せめて一度は体験してほしいと思う。だが、牛や豚は法律の規制で勝手に殺すことはできない。鶏にも食鳥検査が義務づけられたが、現在のところ、個人的な生産、消費の範囲であれば黙認されている。

(……『森』の会員なら「鹿狩り」という貴重な機会を逃す手はないだろう)


……友人の「アンパン」と山城が大滝村に入植したのはもう四半世紀も前の話だ。ふたりが入植したばかりの頃、最初に飼った鶏が卵を産まなくなり、ある日、「処分」を決める。山城と拙者は鶏を一羽づつ抱えてきて、首の両側の頚動脈を包丁で切る

流れ落ちる血が土にしみこんで、ほとんど痕跡を残さずに消えていくのが救いだった。ところが鶏の方は、首を切られた痛みも、血の流れ出る苦しみも、まったく感じていないかのようだ。からだを下向きにさせられたまま、首だけを持ち上げてキョロキョロと辺りを見回している。時間の経つのがやけに遅く、なぜか、青空に伸びた白い雲の形まで記憶している。

やがて、しだいに力を失った鶏は、首を「だらり」と下げるようになる。その時、突然首を持ち上げた鶏が、拙者の手の中で身体を大きくふくらませた。とても強い力だった。そして、一声「クォー」と高く鳴いてから、再び「がくっ」と首を落とす。その瞬間、拙者の両手の隙間から何かがスーッと飛び立っていった。手の中の鶏が急に軽くなる……。

「アー、これが『死ぬ』ということなんだ」。しばらくして、そう思った。

気がつくと、すぐ隣に、同じように鶏を抱えたまま黙りこんでいる山城がいる。


その日、何羽の鶏をしめたのか覚えていない。その後も時季ごとに廃鶏を「処分」した。しだいに手順も良くなり、両手で抱える代わりに、頚動脈を切った鶏を逆さまにして保持する道具も作る。70度の湯につけてから羽をむしり、尻の方から内臓を取り出して仕分けする。あとは、もも肉、胸肉、ささみ、ガラ、と切り分けて作業終了!


この一連の仕事は子どもたちも手伝っている。子どもは羽をむしりながら「美味しそうだね」などと話し合っているので、「残酷」や「野蛮」とは無縁だ。それは鹿狩りの時も同じで、子どもたちが夢中になって解体を手伝っているあいだ、数メートル離れたところで気持ち悪そうな顔をしてチラチラ眺めているのは母親に多い。それでも夜になれば、料理された鹿肉を、子供たちと一緒に「美味しい」と言って食べているのでいつも安心する。

レシピ 15白色レグホンandブロイラー

カッコウは「カッコー」と鳴くから「郭公」と名づけられた。同じようにニワトリも、その鳴き声ゆえに昔は「カケ」と呼ばれていた。「庭っ鳥」は鶏(カケ)の枕詞である。ちなみに、野(ぬ)っ鳥は雉、沖っ鳥は鴨、島っ鳥は鵜の枕詞で、中でもニハットリは人間との付きあいが深い分、ナガナキドリ、トキツゲドリなどの異名が数多くある。

英語で雄鶏をCockと言うのは、雄鶏が「Cock-a-doodlle-doo」と鳴くからだと聞いた。この説で言えば、Chickは雛のことだからchick、chickと鳴く雛鶏の肉をChickenと呼ぶのもうなずける。だが、雌鶏はどうだ。……Hen。これはなんだか少し「変」だ。

古代、ニワトリは「光と太陽の象徴」として大切に扱われた。時告げや、鶏合わせ(闘鶏)をして吉兆を占い、鳴き声の美しさや、姿を愛でる愛玩用として飼育された。平安時代から鶏肉や卵は食べられていたが、当時はまだ養鶏は行われておらず、鳥肉は主に野鳥(雉や鴨など)の狩猟によってまかなわれていた。鶏肉や卵が動物性タンパク質として注目されるようになったのは西洋文化の影響を受けた明治以後のことだという。


鶏卵が、五十年前も現在も同価格なのは奇跡である。それを可能にしたのは、養鶏業に有利になるように品種改良された白色レグホーン(採卵鶏)や、ブロイラー(食肉専用)などの登場による。養鶏場では、与える餌の量と得られる肉や卵の量を、究極まで計算しつくして、徹底した管理の元で飼育されている。


体躯が小さく、卵はほどほどに大きく、しかも多産の能力を極限にまで高められた白色レグホンは、就巣性をなくし、一年間に約36キロの飼料を食べ、自分の体重の十倍にあたる18キロの卵(Mサイズで約300個)を生産する。すなわち、食べた飼料の半分を卵に変換している。孵化後210日で産卵のピークを迎え、550日〜600日で廃鶏として一斉処分され、一部はドッグフードなどに加工される。

一方、ブロイラーは七週目(49日)で出荷できるように成長を促進されて増体し、最大でも60日を越えて生きることはない。まさにchicken(ひな鶏)なのである。ブロイラーは食肉専用なので雌雄の選別をしないが、雌は生涯にわたって卵を産むことはない。

この様にして誕生した「物価の優等生」は、安定した価格と引き換えに、旨みの少ない、水っぽい肉や卵を市場に提供する結果を招いた。最近はいろいろな「ブランド鶏」が試みられているが、その生産量は、まだ全体の2%にも満たない。比内鶏、軍鶏、薩摩鶏など、日本在来鶏はすべて天然記念物に指定されているため、食べることはできない。在来鶏のオスと、欧米で作出された肉用種のメスを交配した一代雑種が「○○地鶏」と名づけられて市場に出ている。

参考文献
      ・「生物資源のルーツを探る」筑波書房
      ・「食べ物としての動物たち」伊藤宏著、講談社

実習の手引き その9/「熟鶏」のいただき方

一般の人が廃鶏を手に入れる機会はあまりないだろう。しかし、小規模に鶏を飼っている農家があれば頼んで分けてもらえばいい。もちろん自分で殺して羽をむしるところから始める。一緒に農作業を手伝えるようになれば、人生は三倍楽しくなる……。ところで、美味しくいただける鶏を、いつまでも「廃鶏」と呼ぶのには抵抗がある。人間だって定年退職者を「廃人」とは呼ばない。以後、ヒトにならって「熟鶏」と呼ぶ。

小規模養鶏は卵肉兼用種の平飼いが多い。それ故、熟鶏のササミや胸肉は身がよく締まって味が濃い。しかし、「もも肉」は、普通に料理すれば、まともには歯が立たないくらい硬い。熟鶏のもも肉の食べ方は「鍋もの」に限る。圧力鍋で事前にある程度やわらかくしておくこともできるし、ストーブの上で一日かけて煮込むのもいい。たとえ煮すぎても、スープにはしっかりした味が出ているから、あとは好みの材料を突っ込んで美味しく仕上げればいい。スープカレーも是非試してみたいものだ。


肉類は一般的に屠殺後の死後硬直がとけてから「熟成」を経て食肉になる。ところが、鶏肉の場合は、肉の旨味成分であるイノシン酸の含有量は、屠畜後7時間ほどが最高で、その後は分解されて減少する。したがって、すぐに食べない鶏肉は冷凍した方が良い。鶏肉は魚と同じで、鮮度が命であることを忘れないように!


ササミは、茶碗蒸しに入れても串焼きにしてもごく普通に使える。


ここには胸肉を使った料理をひとつ紹介しておこう。もちろん市販の鶏肉でも作れるが、身の締まった熟鶏の胸肉であればもっと美味しい。

……「鶏のタタキカツレツ」。これは「子牛のシュニッツル」を師匠がアレンジして、拙者が勝手な名前をつけてキッチンほうれん草のメニューに載せた。


  • まず、皮をとった胸肉に横から包丁を入れて、魚のひらきのように二枚に開く。
      (市販の胸肉は200gを超えるものがあるので一人分100gを目安に調整する)
  • それを、ビール瓶などを使って軽くタタキながら厚みを整え、さらに押し広げて、むらなく形よく伸ばす。(まな板やビンに付くようならラップを使えばやりやすい)
  • 塩コショウを片面に軽く振る。(見た目が大きいので錯覚して振りすぎないように)
  • 両面に小麦粉をつけてから、良くといた卵をぬってパン粉をつける。(肉が薄くて、 パン粉もはがれやすいので、全体の形を整えながら手でよく押し付けておく)。

さあ、あとは揚げるだけだ……。「揚げる」と言っても天ぷら鍋は必要ない。材料がそのまま入る大きさで、底が平らなフライパンに、サラダ油を3〜5ミリ位の厚さに引き(パン粉の表面積が大きいのでかなり油を吸う)、油が熱くなったらバターを少し加える(バターは香りつけだが、ムニエルの時と同様、バターを入れると、早く、こんがりと仕上がる)。

火加減は少し強めにして、フライパンの中の鶏をまわしながらムラなく焼き色をつける。一度裏返して両面に色がついたら出来上がり。


拙者は、パリッとした食感を楽しみたいので塩とレモンで食べるのが好きだ。ご飯のおかずにするのなら醤油やソースも合う。お皿の彩りに、ゆで卵をつぶしてパセリを添えたりすれば立派なメインディシュになる。

実習の手引き その10/「熟鶏」のいただき方

いま、日本で一番ポピュラーな鶏肉料理と言えばフライドチキンと焼き鳥だろうか……。親子丼は時代の流れからは取り残されている。それでも、津々浦々の駅前食堂には必ずあるから、広く支持されてはいるのだろう。


  • フタのできる小さな鍋かフライパンに、醤油と、砂糖少々を入れ、水を加えて煮立て、玉ねぎを加えてフタをする(醤油を先に入れれば味付けを調整しやすい)。
  • 軽く火の通ったところで、食べやすく切った鶏肉を加えて再びフタをする。
  • 鶏肉は煮過ぎると硬くなるので、いっとき煮たら、とき卵を回し入れて、これまたすぐにフタをする。小まめにフタをするのは少ない煮汁で火を通したいからだ。
  • 卵も、スが入るほど煮ては美味しくない。まとまり次第そのままご飯の上にのせて食べる。親子丼には、海苔の香りと沢庵漬けがよく合う。

「チキテリ丼」を食べたことがあると言う方には礼を言わなければならない。キッチンほうれん草のお客さんだったはずだ……。これも拙者が勝手に名前をつけた。「チキンの照り焼き丼ぶり」が正確な名前だろうか。店の人気メニューのひとつであった。


  • まず、酒1、みりん1、醤油1、の割合でタレを用意しておこう。一人分ならそれぞれ大匙一杯くらいで足りるだろう。本みりんが手元になければ、酒を多めにして砂糖を少し使えばいい。肉はもも肉を、一人分100〜120g。
  • 肉の分厚いところに、繊維にそって包丁を入れ、火の通りを良くする程度に全体の厚みを整えて軽く広げる(もも肉には腱が集中しているので、すじ切りをする)。
  • 熱したフライパンに油を引き、油が十分に熱くなってから、皮の方を下にして入れ、フタをして焼く。……皮をこんがりと焼きあげるのが唯一のポイント。
  • 皮がこんがり焼けたら、裏返して焼き色をつける程度に焼く。
  • フライパンの中の余分な油を捨てて、肉の上に直接タレをかけてフタをする。
  • タレが煮えてきたらフタを取り、火加減を見ながら、肉にタレをからませるようにして煮詰める。タレの量と、とろみ加減が良くなれば火を止める。
  • チキテリを斜めにそぎ切りして海苔をのせたご飯の上に皮を下にして置き、タレを全体にかけまわして完成!(タレはフライパンにこびりついたところが旨い)。
    ……海苔とタレの香ばしさが食欲をそそる。好みで山椒もよく合う。

丼ぶりものは、手軽に作れるので便利だ。読みながら作ろうと思えば大変そうに見えるが、実際にやってみれば簡単なこと。丼々(?)楽しんで作ってみよう…。


付録 チキテリのタレを使えば「鶏のくわ焼き」も簡単に作れる。

  • もも肉100gを皮ごと四.五枚に切り、ラップをかけてよく叩いて薄くする。
  • 軽く粉をふり、油を多めに引いたフライパンに皮の方から入れてフタをして焼く。
  • 皮の方がこんがりと焼けたら、裏返して軽く火を通す。
  • 余分な油を捨てて、タレをたっぷりかけ、鶏肉にからめながら煮つめる。とろみの付いたタレが肉にからまれば出来上がり。ご飯がすすむ一品である。

<次号に続く>

インターネット情報

最近食べた鶏肉が美味しかったので商品名の「阿波尾鶏」をインターネットで検索した。軍鶏とプリマスロックの掛け合わせだった。こういう美味しい鶏肉がもう少し手ごろな価格で出てくることを期待したい。(道内では札幌の東急ストアで扱っている)