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ヤイユーカラパーク VOL51 2005.10.30
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食いものノート/13

自他楽写真館 平島邦生

「さぁ!『天高く馬肥ゆる秋』である」と、書いた途端に考え込んでしまった。

秋になると、馬は本当に肥えてたくましくなるのだろうか。日高地方で見かける競走馬は、一年中スラリとしているし、ばんば馬はいつ見てもたくましい。

「馬肥ゆ」は秋の季語にもなっているから多分そうなのだろうけれど、事実かどうか知りもしない事を書くのは、先の選挙で、なんだか良く分からないけれどムードに押されて「小泉自民党」に投票してしまった人たちと同じことをしているようで、気分が悪い。


のっけから食欲減退ムードになった。さぁ!元気を出して食いものの話をしよう。食欲の秋だ!」。馬には人参らしいが、今日は大根をテーマにする…。


レシピ  24 「おおね と DAIKON」

大根はずいぶん昔から栽培されていたようだ。古代エジプトではニンニクや玉ねぎなどと一緒にピラミッド建設の労働者が常食にしていたという。古代エジプトは石の文化で、石に刻まれた絵物語はとても直線的に描かれている「体を正面に向け両足を少し広げ、まっすぐに立っている男。その顔だけが真横を向いており、弓を引くように視線の方向にぐっと突き出された腕の先には、一本の大根が腕と直角にまっすぐ握られている」。遺跡に刻まれた絵のほんの一部分に過ぎないが、はじめて見たとき「大の男が大根一本握りしめて、何やってんだ…」と思った。あの大根は何か特別な意味を持っているのだろう。

ヨーロッパでは、古くから霊力を持つ薬草として栽培され、魔よけにも使われたらしい。たしかに、大地に突き刺ささったまっ白な大根には、なにか神聖なものを彷彿とさせる雰囲気が漂っている。不用意に大根を抜こうとして、何度も腰を痛めたのはそのせいなのかも知れない…?

日本の神社にも、二股大根を描いた絵馬が奉納されている。昔は「おおね」と呼ばれ、白く豊かなその姿から、女性の二の腕の形容詞にも使われていたそうで、古事記にはちょっと色っぽくて未練がましい恋歌が載っている。

ダイコンと呼ばれるようになったのは室町時代というから、前号に書いた蕎麦やうどんと同様、お寺さんの布教活動の一環として信者にふるまわれ、大衆に広まったのかも知れない。今でも京都の寺では年末に大根炊きを行っているところがあって「七年間食べ続けると中風にならない」と、集まってくる年寄りたちの熱気で異様な活況を呈している。


「ダイコン脚」などと女性に失礼な表現が登場したのはごく近年のことのようだ。米国でラディシュといえば二十日大根のことで,大根はホワイトラディシュとかチャイニーズラディシュと呼ばれていたが、今では、日本の代表的な野菜としてDAIKONの名がそのまま通用している。


93%が水分の大根には目立った栄養分は少ない。だが、生の大根に含まれるジアスターゼは食品中のでんぷんを分解する働きをもつ消化酵素としてよく知られている。大根おろしが餅や天ぷらなどと相性がいいのはその為だ。

おろしはミキサーなどの高速の刃物で粉砕するよりも、昔ながらの「おろし金」で細胞を優しくぽろぽろとかき落とすようにしておろす方が、味も口当たりもよく、水分の分離も少なくなる。おろしにすると、大根に含まれるビタミンCは1〜2時間で半減してしまうが、酢やレモン汁を加えると酸化が抑えられ、辛みもやわらぐ。  

一方、大根の葉には鉄分やカルシウム、それにビタミンCや、体内でビタミンA に変わるカロチンもたっぷり含まれている。大根の葉はすぐにしんなりして見栄えが悪くなるのと、梱包の手間や輸送コストの問題で切り落とされているが、無農薬栽培の野菜を手に入れて是非とも葉っぱまで食べたいものだ。庭のある方は少しでも良いから大根を植えて見てはいかがだろう。新鮮な大根や間引き大根が味わえて、花も可憐で美しい。


さて、皆さんは大根をどのようにして食べておられるだろうか。拙者は大根葉をヌカ漬けにして細かく刻み、温かいご飯の上にかけた「大根メシ」が今でも好きで、収穫した時には必ず作る。油で炒めた大根葉に醤油とカツオ節で味つけをしたり、揚げ豆腐や薩摩揚げを加えて炒め煮した大根葉もよく食べる。実(=根)の方はおろしたり、汁の実、鍋物、おでんの材料あたりが一番ポピュラーな食べ方だろうか。魚や肉と一緒に煮付けても美味い。さらに沢庵漬けや、べったら漬け。北海道ならニシン漬けには欠かせない。正月の大根なますのようにサラダ感覚で食べるのもなかなかいける。ふろふき大根は名前が知られている割にあまり家庭の食卓には上らない。多分、酒には合うがご飯のおかずにならないのだ。厚手に輪切りにした大根を水から煮て、味醂を加えた味噌をつけて食べる。


大根役者とは「大根を食べて(食中毒に)当たった人はいない」ことから、当たらない(ヒット作のない)役者のことを言うのだが、一方で、どさ回りの役者が木戸銭の代わりに大根をもらったと言う説もある。だが、大根を馬鹿にしてはいけない。かつては救荒食品として、麦カテや芋カテと並んで大根カテが食された(カテ=米や雑穀と一緒に炊き込んで、ご飯を増量させる素材のこと)。世界人口の増加や、経済変動などで食糧の輸入が止まれば、またいつかお世話になることもあるだろう。いや、それさえ難しくなることだってあるかも知れない。

実習の手引き その15/大根はステーキ で……

大根ほど簡単に美味しい料理が作れる野菜も少ない。大根おろしには葉に近いほうを使う(しっぽの方は辛い)ことさえ覚えておけば他に気をつけることはほとんどない。

たとえば煮物なら、好みの味をつけた煮汁にいれて水から煮るだけでいいのだ。試しに麺つゆで煮ればそのまま麺つゆの味がつくし、そこに鶏肉を入れれば鶏肉から出た味が加わり、魚と煮ればその魚の味がつく。大根からも水分がたくさん出てくるから煮汁は大根が半分つかるぐらいで済む。あとは下に昆布を敷いたり、煮汁に工夫を凝らしたりして自由に楽しめば良い。

……決して自己主張する食材ではないので、味つけも自分の食べたい味をつければいい。どんな味付けにもすんなりと染まってくれるだろう。それ故に「どんな風にして食べたいのか」それを最初にはっきりさせておかないと、いい加減な味になってしまう。

煮え具合も箸を通してみればすぐに分かる。歯ごたえのある大根を食べたければ固めに、口の中で「つるっと」とけるような大根が食べたいのなら柔らかくなるまで煮ればいい。

葉をとった大根は見た目はいつまでも新鮮に見えるが、保存状態が悪いとすぐに水分が減って口当たりも味も日々悪くなる。できるだけ新鮮なうちに食べきるようにしたいが、そうできないときは、乾燥を避け、新聞紙にくるんで(冷蔵庫ならビニール袋)葉の方を上にして立てて保存する。一般に植物は天に向かって伸びようとする力が働くので、横にしておくと立ち上がろうとして養分を自分で消費してしまう。 

「大根ステーキ」は新鮮な大根で作る。掘りたての瑞々しい大根は薄く切って軽く塩もみするだけで美味しく食べられる。

@  その新鮮な大根を厚さ3cmくらいの輪切りにしておく。掘りたてならば5cmくらいでもOK.。また、太すぎるようなら半月でもいい。大根は皮付きで良いが、皮をむくなら、それを細切りして、たっぷりの油で炒め、酒と醤油で味をつければ「大根の皮のきんぴら」ができる。ゴマをふりかけてもいい。お酒にもご飯にも合う。

A  厚手のフライパンを火にかけ、うっすらと煙が上がるくらいに温めてからサラダ油を引き、油が十分に温まってから大根を敷きつめる。

B  そのままフタをして、熱が十分に回ってきたら弱火にして、裏表をこんがりと焼き色がつくまで焼く。

C  ある程度火が通って焼き色がついたら、かつおダシ(orチキンスープ)に醤油を加えて蒸し焼きにする。ダシやスープの量は大根から出てくる水分の量にも影響されるが、フライパンの中に常にうっすらと水分がないと焦げてしまう。

D  大根に箸が通るくらいになれば大根ステーキの出来上がり。


実習の手引き その16/沢庵漬け

沢庵漬けを広辞苑で引くと『漬物の一種。大根を生干しにし、ヌカと食塩で漬けて重石でおしたもの。沢庵和尚がはじめて作ったとも、また[貯え漬け]の転ともいう。たくわん。』とある。もう、これだけで十分である。「実習の手引き」など、わざわざ書く必要もなさそうに思える。「では、次号をお楽しみに」と、ここで終わってしまってもいいのだけれど、老婆心ならぬ老爺心でひと言ウンチクを傾けてみたい。

漬物はかつて家ごとにそれぞれの漬け方があったものだが、家族構成や住宅事情の変化などであまり作らなくなっているようだ。食生活の多様化も影響しているだろう。たしかにパスタと沢庵は合わないかも知れない。しかしキュウリのヌカ漬けなら合う。沢庵も中華風の炒め物などに刻んで入れると結構いける。

家庭で漬物を漬けなくなったのは、働く女性が増えてきたことにも理由の一端があるのだろう。みんなが忙しくなってしまって漬物など漬けている暇がないのだ。それは何も、この国だけにとどまらない。豊かになった国はどこも同じような問題を抱えている。必要なものは稼いだお金で買えばいいのだ……と。

だが、大量生産されて売られているものには限界がある。この際、保存料や着色料などの食品添加物には一切目をつぶるとしても、味そのものが美味しくない。

かつて京都には美味しい漬物がたくさんあった。行商する大原女(おはらめ)や土産物屋の漬物でさえ美味しくて、京土産によく買って帰った。いま物産展などで有名になった「老舗」の漬物を食べると、ここまで破壊された日本人の味覚を、悲惨な思いで噛みしめなければならない。


「漬物は親父が漬けよう!」唐突に思われるだろうが、漬物作りは酒造りと同じで、とても力のいる仕事だ。もともと男の仕事であってもおかしくはない。それを一番喜んで食べるのも親父だし…。以下は実技編。

1.作る時期:寒風にさらして干さなければならないので、その土地と気候に合わせ、早すぎない方がいい。札幌では例年なら十月下旬頃だが、今年は温かいので十一月に入ってからかナ? 散歩をしながら、ご近所の様子を見ていれば大体の見当はつく。また、その時期になると漬物用に束になった大根も売り出されるし、価格も安くなる。

2.作る量:18リットルの樽(漬物用のプラスチック容器が扱いやすい)一個分が作りやすい。今回は最初なので20本の大根を漬けるとしよう。干し方や、大根の太さにもよるが普通ならこの樽に30本位まで漬けられる。

3.干し方:大根の成長を止めるために、葉の中心部の若い芯葉を切りとって(もちろん芯葉は料理して食べる)よく洗い、2本ずつ束ねてから葉の部分を紐で縛って、ベランダの手すりなどにまたがらせて干す(雨が当たらないように留意する)。漬ける量が多かったり、ベランダがない場合には、葉を切り落とした根の部分だけを、縄で編んでスダレにして干すが、その場合でも葉は別に干しておく。

4.干し加減:そのまま7日〜10日くらい干して大根が「つ」の字に曲がるようになつたら取り込んで漬ける。もっと干して「の」の字に曲がるようになったものは、塩の量を増やして漬け込めば6月ころまで食べられる。硬くてしょっぱい沢庵になるが、これはこれで好きな人もいるし、美味しい。(干した大根をそのまま室内にほうっておくと湿気を吸って傷みやすくなるので、取り込んだらすぐに漬けること)

5.塩、米ヌカ、赤唐辛子:沢庵は塩とヌカで味が決まる。ヌカは(できれば無農薬で)新鮮なものを探す。塩は天然塩を選ぶ。その分量は自ずと味覚の好みで違ってくるが、ここにはおおよその量を書いておく。ヌカ3k。塩800g。刻んだ赤唐辛子10本。また、拙者は使わないが甘党ならザラメか麹を加えてもいい。それを大きなボールに入れてよくかき混ぜておく。(大根20本は、ヌカ2k、塩700gで漬けられるが、途中で足りなくなるとやり直しに手間取るので初回は上記がオススメ…)

6.漬け方:干した大根をテーブルの上にごりごり押しつけながら少し柔らかくしておく。容器の底一面にDの材料をまんべんなく敷き、その上に大根をきっちり並べる。すき間を作らないのがコツなので大根を容器の形に合わせて曲げながら、入らないときは大根を適当な大きさに切って押し込む。一段目が詰め終わったら、その上に1センチくらいの厚さにDの材料をまぶしてまた大根を並べる。それを何度かくり返し、最後に残ったDを全部入れて干した葉を並べ、落とし蓋をしてから重石をのせる。

7.重しの調節:重石は初め20キロ。一週間位して水が上がってきたら半分にする。水が上がらない場合は重石を増やすか、濃い目の塩水を足して呼び水にする。重石には建築用ブロック(一個約5キロ)をポリ袋に入れても使える。10キロの重石は、沢庵を全部食べ終わるまで乗せておいて、しっかりと空気を遮断する。水分が多くなっえきたらすくって捨てていい。


これで、約一ヵ月後から食べられるようになる。そして、正月明けくらいから味がどんどん美味しくなってくるので、もっとも美味しくなった頃を見計らって、親しい人や近所の方にプレゼントして「美味しいから食べて!」と必ず自慢をする。

親父の漬物作りはここが大事なのだ。一寸もったいないような気もするけれど、貰った人は必ず喜ぶので「また来年も作ろう!」という気になる。春先になって酸っぱくなってきてから人に上げても、礼は言われるかもしれないが喜ばれはしない。

やはり、漬物作りは「親仁」の仕事だ!

<次号に続く>

*重要:来年のために記録はしっかり残しておきたい。漬けた大根の大きさと本数。干し初めから取り込むまでの日数と毎日の気候条件。塩やヌカなどの分量。漬け込んでから水の上がるまでの日数。重石の調整記録。そして、何よりも大切なのは出来上がりの沢庵の味や食感。これさえあれば、来年はもっと自分好みの、美味しい沢庵が食べられる。