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ヤイユーカラパーク VOL53 2006.05.20
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おもな内容

食いものノート/15

自他楽写真館 平島邦生

秋に沢庵を漬け、冬には味噌を仕込んだ。……となれば、春は何をつくろう。

床下の越冬野菜も残り少なくなり、沢庵もそろそろすっぱくなる。春はいつも戸惑う。少し我慢すれば山菜採りにも行けるが、今はまだ、フキノトウくらいしか見当たらない。


テレビには料理の話題や飲食店情報があふれ、目を見開いて「オイシイ!」と絶叫するリポーターの表情もうつろだ。いまさらテレビ局の無能ぶりを嘆く気もないが、みんなも分かって見ているのだろう。不況どこ吹く風。飽食の時代が続く。

誰でも心の一番深いところでは、「美味しいもの」なんかではなく、充実した日々の暮らしを求めているのだろう。家族や地域社会との信頼関係があり、安心して気持ちよく生きられるなら、食欲のイリュージョンに惑わされることもない。

世界中の食材が食卓に上がる豊かなこの国で「我ら、足るを知らず」。食べても食べても、もっと美味しいものが食べたくなる。……果てしないもの。……それが欲望。


レシピ 27 『 うまいトマトが喰いたいから… 』

「昭和の初めは時代劇だよね……」と若者が言う。たしかに、1950年代なかばまで、東京の下町で食堂を営んでいたわが家には氷の冷蔵庫があった。上段に氷を入れ、その冷気で下段の食品を保存するものだ。毎朝、氷屋さんがリヤカーで氷を運んでくれるのだが、三貫(尺貫法の一貫は3.75kg)の氷は一日で解けてしまう。

冷凍庫もクール宅配便もない「時代」。それはたった50年前のことだ。当時生鮮食料品は近隣でとれる季節のものしか出回らなかった……。

春にはタケノコごはんを食べ、初夏には魚屋の店先にカツオが並ぶ。キュウリやトマトは夏の食べものだ……。


食べものの「旬」があいまいになったのは、ハウス栽培や養殖、冷凍技術の発達に加え、世界規模に拡大された流通の影響がある。近頃はカボチャやアスパラガスも季節にかかわりなく店頭に並んでいるが、ニュージーランド産の「都カボチャ」なら今が旬だ……? 「地球には南半球もあったのだ」と、いまさら気がつくのもバカな話だけれど……。


北海道でタケノコと言えばチシマザサ(根曲がり竹)の新芽のこと。毎年、五、六月のシーズンには遭難者がでるほど人気がある。一方、本州以南の孟宗竹のタケノコは今が旬。どちらも漢字は「筍」。文字通り竹の旬である。タケノコは採ったらできるだけ早く食べる。一晩おけば味がぐっと落ちるから、すぐに食べない分は、その日のうちに(米のとぎ汁かヌカを加えて)茹でておく。「筍」の旬は一日しかもたない。


タケノコほどではなくても食べものはやはり旬が旨い。スーパーでは一年中トマトを売っているが、トマトも露地ものが出まわるころがいちばん美味しい。拙者は子供のころからトマト好きで、今ではタネから育てている。それでも札幌で露地栽培をすれば、食べられるのは八月過ぎだ。いつも店先に並ぶトマトを横目で眺めながらじっと我慢をしている。「うまいトマトが喰いたい」。ただそれだけの理由で……。

トマトの最盛期には大なべ一杯のトマトを煮てピューレを作り、冬のあいだのスープや煮込み料理、ピザやパスタに利用する。赤いスープは雪景色にあう。


だが、野菜はともかく魚介類の旬の判断はいっそう判断が難しくなっている。サンマは秋刀魚と書くこともあるが、冷凍技術が進んだため一年中手に入るようになった。いまの季節は北海道近海の魚は端境期のようで魚屋さんの店先も寂しい。マスが旬で、ヤリイカがそろそろ終わりに近づいている。  

それでも回転寿司には豊富なネタがいつも回っている。道産品はホタテやホッキなど、いまが旬の貝類が多い。すしネタはマグロを筆頭に全体の4割以上が海外からの輸入に頼っている(札幌中央卸売市場調べ)。


レシピ 28 『 ナレスシから江戸前鮨へ 』

……江戸時代に、酢を打った飯の上に江戸湾でとれた魚介類の刺身をのせて、一緒に握る「すし」が流行り「江戸前の鮨」と呼ばれるようになる。今日では大阪鮨(押鮨が主体) や ナレズシと区別され「にぎり鮨」全般を指す名前として定着している。だからメキシコ湾や噴火湾で取れた魚でも、握った鮨はすべて江戸前鮨と呼んで差し支えない。もちろん、札幌やパリ、ニューヨークに江戸前鮨の看板があっても、それは嘘でも間違いでもない。

いまどき東京湾の魚を好んで食べたがる人も少ないだろうが……。


ナレズシには熟鮨などの当て字があり、琵琶湖の鮒(フナ)ズシが特に有名である。食べたことのある人ならご存知の通り、あの「くさ〜い」やつだ。ブルーチーズと同様、好き嫌いがはっきりと分かれる。ちなみに拙者は大好き。

ナレズシは日本の「お寿司」の原型なのだが、もともとは肉や魚の貯蔵法として塩漬け発酵させていた塩辛の類を、その発酵を早めるために米の飯に漬け込んだものらしい。米の乳酸発酵を利用した魚肉の貯蔵法は東アジアの米食文化圏全体に広がっている。鮒ズシも、一度塩漬けしたフナを飯に漬け込んで2.3年かけて作るので、塩辛独特の匂いがある。だから「スシ」とは言っても、食べるのは主にフナの方で、発酵して酸っぱくなった飯の方ではない。その点では、北海道や東北で作られる飯寿司の方が、野菜や麹を加えて発酵をもっと早めているので、鮒ズシのような強烈な臭いがなくて誰にも食べやすい。


「鮨」はもともと魚の塩辛のことで、日本でスシと読ませているのは文字の誤用だという。中国の明代に、「手でまろげた飯の上に魚の塩辛をのせて食べるのがご馳走だった」という記述が残されているそうだ。その塩辛は川魚のようだが、それが握りずしの最古の記録だとされている。

それにしても、ナレズシから江戸前鮨へ……。それは画期的な発想の転換だっただろう。塩漬けした魚の発酵を待たず、手っ取り早く飯の方に酢を打って、魚は刺身のまま飯にのせて握って食う。江戸前鮨はいかにも江戸っ子が好みそうな喰い方だ。当初はハヤズシと呼ばれていたらしい。もちろん、すぐ喰えるスシという意味だろう。


農学博士の中尾佐助氏(※)は、ナレズシが日本に渡来したのはイネとほぼ同じころではないかと推測している。平安朝の頃には朝廷にスシを貢納すべき国々と、そのスシの種類が記録されており(延喜式・930年)、そこには鮒ズシなどに加えて鰒(アワビ)ズシや猪ズシや鹿ズシの記述もあるというから、貝や獣肉もナレスシにされていたようだ。

 (※)1993年没。学者のフィールドワークは探検家のごとく……。ただ驚くばかり。

       参考文献: 中尾佐助著 『料理の起源』  日本放送出版協会

               中尾佐助著 『栽培植物と農耕の起源』 岩波書店

実習の手引き その18 『 すし飯 』

現代のお寿司が塩辛の発展系であり、手っ取り早くご飯に酢を打って刺身をのせるだけならば、当然、家でも作れるだろう。

ではやって見よう。と言うのが親父料理術の気楽なところ。いきなり江戸前鮨に挑戦するのはむずかしいだろうが、すし飯さえ美味しくできれば、あとは好みの「具」を用意して、「ちらし寿司」や「手巻き寿司」を楽しめる。


拙者はいつも圧力鍋でご飯を炊いているが、炊飯器具の違いや、米の産地や品種によって水加減が違うから、酢を打つにしてもその分量はあてにはならない。ここには二合の米に対するおよその分量を書いておく。

@ まず、よく研いだ米にいつも通りの水加減をしてから、30cc〜40cc(大さじ1強)の水を取って飯を炊く。

A 取った水は捨てて、それと同量の米酢を用意する。

B そこに塩を小さじ1/2強くらい入れて、あとは味をみながら少しずつ塩を足していく。 酢は塩を加えることによって酸っぱいだけでなく味も出てくるので、少し「甘み」が感じられるようになったところで、砂糖小さじ1/2を加えて味を決める(ご飯全体に混ぜ合わせることをイメージして、あまり塩辛くしないように気をつければ大丈夫)。

C ご飯が炊き上がり、15分ほど蒸らし終わったら、飯台(飯台は余分な水分を吸い取るのに役立つが、なければ鍋やボールでOK)の中央にご飯を移し、用意しておいた酢を全体に回しかける。

D すぐに、ヘラでご飯を切るようにして(ご飯を練らないように)全体になじませる。この時、ご飯の熱で酢が煮えてしまわないように、団扇などであおぐが、冬場は外でやればあおがなくてもすむ。冷やす必要はないので酢が全体になじめば終了する。 


さあ、これですし飯の出来上がり。四半分に切った海苔にすし飯をおいて、好きな具をのせて巻けば、納豆巻き、沢庵巻き、かっぱ巻きにアボカド巻き、もちろん鉄火巻きも。


海苔で巻くだけの手巻き寿司は子供にも人気があるが、すし飯さえ用意できれば、鮭すし、五目すしも簡単に作れるから「おまけのレシピ」も添えておく。 


まず鮭すし

イ) 二人分のご飯(2合)なら、厚めに切った塩鮭の切り身一枚を薄く削ぎ切り(皮は取り除く)し、酢と酒(各小さじ1)を合わせたものに漬けて一晩置く。

ロ) 少量の醤油に、水と砂糖をほんの少しずつ加え、水で戻した干し椎茸(2.3個)を薄切りしたものを入れてひと煮立ちさせておく(濃い目の味つけに)。

ハ) 用意したすし飯に鮭と椎茸、炒りゴマ(白)少々、できるだけ薄くスライスして八等分くらいに切ったレモンをまぜ合わせて皿に盛る。錦糸たまごで飾ると豪華になる。(レモンは無農薬の国産品を使おう! 輸入柑橘類の皮は食べないほうがいい)


五目すしの「五目」は種々のものが混合していることを言うので、入れた具の数を数えることに意味はない。ここに書くのは単に好みであるから、それぞれ自由に工夫して……。

A) 上記(ロ)の椎茸を用意する。

B) 鶏もも肉100g(細切れ)。ゴボウ少々(ササがき)。ニンジン少々(千切り)を醤油・1に対して、椎茸のもどし汁を加えた水・5の割合で、砂糖少々を加えて煮る。(普通の野菜煮つけより少し濃い目の味つけにするといい)。

C) AとBをすし飯と混ぜ合わせていただく。


では、今日はここまで。

<次号に続く>