"旅の記憶"へ戻る/Homeへ戻る

 
 3.大きな大きな宝物
 
 
 
  
 → 
パドヴァ スクロヴェーニ礼拝堂 
(この中に、人類の宝物が眠っています。)
[目次:
1.サンタ・マリア・アッスンタ聖堂2.サンタ・マリア・グロリオーサ・ディ・フラーリ教会3.スクロヴェーニ礼拝堂4.パドヴァの洗礼堂]
  
 私は、絵を見ることが結構好きです。それも主に、中世からルネサンスにかけての宗教画が好きです。この旅行の目的の一つは、ジオットという、ルネサンス最初期のフレスコ画家の作品を見ることでした。
 近代絵画と違い、フレスコ画は持ち運びは出来ませんので、日本で待っていても実物を見ることは出来ません。ですから、機会のあるうちに、ということで、行ってきました。

 ジオットの作品で著名なものは、アッシジの聖フランチェスコ教会とパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂です。ですから、この2つ、特にスクロヴェーニ礼拝堂の方を楽しみにしていました。でも、旅には、予定外、予想外がつきもの。期待以上のものに会ってきました。

 美術品(絵画)を見に、教会を数多く回りました。サンマルコ寺院も、アッシジの聖フランチェスコ教会も素晴らしかったけど、訪ね歩いた教会の中で、惹きつけられる所が多くありました。私が、特に惹きつけられた教会が、4つありました。その4つについてご紹介します。
(教会の中は写真が撮れないし、建物の写真はデジカメでは撮ってこなかったので、この項の写真はスキャナで写真とか絵葉書とかを取り込んだものです。)
 


左:サンタ・マリア・アッスンタ聖堂、右:サンタ・フォスカ教会

1.サンタ・マリア・アッスンタ聖堂

 先ず、ベネチアの、離島(最も初期に人が住み始めた島の一つで、現在は人が住んでいない)であるトルチェッロ島という島のサンタ・マリア・アッスンタ聖堂。ビザンチン様式の、金色のモザイクで作られた、11世紀頃のどちらかというと素朴なマリア像(右図)や、審判図がありました。マリア像が祭壇を飾り、審判図はその反対側。雰囲気としては、同じくビザンチン様式のサンマルコ寺院と同じ感じなのですが、もっと古くて素朴、礼拝堂の白壁やちょっと朽ちている感じの木製の調度(というか、椅子や柱や十字架、梁のように上方に渡してある枠に付けられた、木彫の12聖人の像など)と調和しており、また堂内は明るく、金色のタイルで彩られていながら簡素で素朴な感じでした。

祭壇のマリア像

 
2. サンタ・マリア・グロリオーサ・デイ・フラーリ教会

 それから、もうひとつヴェネツィアの、これは比較的有名な、サンタ・マリア・グロリオーサ・デイ・フラーリ教会。築年は14世紀で、ゴシック様式(柱は少なく、建物は大きく、窓も大きい様式。パリの、ノートルダム寺院もそうだと思います)ですが、こちらも明るく、大きな教会で、祭壇画の、ヴェネツィア派と呼ばれる画家の一派の一人、ティツィアーノの、聖母被昇天図で有名です。(他にも同じ画家の、カ・ペーザロのマドンナという作品があります。)ヴェネチア本島の大体中央部にあります。
 聖母被昇天図は、縦長の大きな祭壇画です。どちらかというと暗い色調ですが、聖母が、濃い紺色と緋色の衣を翻し、下部に描かれた地上から、半円形になった上部に描かれた天国(父なる神が描かれている)に昇天して行きます。ダイナミックで、何故か惹きつけられる絵です。
 聖母の昇天図を祭壇(では無かったかもしれませんが、教会の主部)に飾るというのは、珍しいのではないでしょうか。(名前からして、聖母に捧げた教会だからかもしれませんが。)

右−聖母被昇天図 
3.スクロヴェーニ礼拝堂

 後の2つは、どちらもパドヴァにあります。パドヴァには、今回の旅の主目的である、スクロヴェーニ礼拝堂を見る為に行ったので、他の見所(町の主要な教会とか)は訪ねなかったものもありますが、下に書く2つは、抜群でした。どちらも、13〜14世紀頃のもので、建物はロマネスク(スクロヴェーニ礼拝堂はロマネスク・ゴシック)という、壁の厚い素朴な様式、内部は、その時代の様式を反映して、全ての壁がフレスコ画で覆われていました。建物の大きさは、この様式はそうなのですが、比較的小さめでした。(建築技術が発達していなかった為、建物は比較的小さく、屋根を支える為壁が厚い。)

スクロヴェーニ礼拝堂 外観 
礼拝堂内部
  一つは、上に書いたスクロヴェーニ礼拝堂。市立博物館の敷地内にあります。(上の写真左の建物です。)午後1時ちょっと過ぎに行ったら、”4時からしか入れない”と言われ、待ち時間の間は、博物館や街を見ていました。時間通り行ってみると、建物の外側には4〜5人の人。人数を制限し、しかも15分しか入らせてもらえないのです(多分、内部のフレスコ画の保護の為に)。
 薄暗い、縦長の長方形の堂内に入ると、壁は全てキリストと聖家族(マリアの母アンナの話から始まる)の一連のフレスコ画(ジオット作)で覆われており(上の写真右)、上を見上げると、宇宙がありました。かまぼこ状に丸く盛り上がった天井は、濃い目の紺色で一面に塗られ、所々に金色の月と星、そして小さ目のキリスト像やマリアや聖人が描かれていました。
 ジオットというのは、ルネサンスの最初期のフレスコ画家で、その作品に登場する聖書の登場人物達には、中世と同じように威厳を保ちながらも、人間的な表情が現れて来ます。また、人物像が画面の大部分を占め、とても大きな存在感を持っています。聖母マリアや、イエス・キリストは、未だ、威厳の方が重視されて描かれていますが、聖母マリアの母アンナや、イエスを裏切るユダなどは、表情豊かに描かれています。マリアを授かったと天使に告げられたアンナの喜びに満ちた表情や、磔刑図の上方で、キリストの死を嘆く小天使たちの嘆きの表情は、とても生き生きとしています。アッシジの作品に比べ、このパドヴァのものは、ジオットの円熟期の作品でもあるようです。でも、一つ一つの作品よりも、ジオットの傑作で、一つの堂を全て飾るという、とてつもない贅沢と見事さの方に、より惹かれました。本当に、フレスコ画に囲まれて居ることが出来るのです。素晴らしいです。
 見学が、15分しか許されていないことは、残念ではありましたが、この素晴らしい人類の財産を、後の世代に残していくためには、仕方が無いことだな、とも思いました。


 4.パドヴァの洗礼堂
 

パドヴァの洗礼堂(右の小さい建物)とドゥオーモ
(左)。
 そして、全く予想していなかったので、嬉しい驚きだったのが、同じくパドヴァの市の中心部にある、洗礼堂と呼ばれる建物でした。
 これも、ジオットより少し後の時期に建てられたもので、市の教会に隣接した、四角い建物に丸屋根(いわゆるキューポラ)を持つ小さ目の堂です。ジオットに影響を受けたフレスコ画家によって描かれ、最近、修復されて絵の鮮やかさが蘇ったのだそうです。堂に入り、上を見上げると、丸天井から、無数の、頭に光背(金色の丸いもの、神聖さや後光などを表すのだと思います)を背負った聖人が、こちらを見下ろしていました(右の絵葉書の図)。
洗礼堂の丸天井の天井画。

 

天井の真ん中に、大きなキリスト像が描かれ、その周りに、色とりどりの衣をまとった、数え切れない聖人が、キリスト像を丸く囲んでこちらを見下ろしています。(聖人は、頭を上方に、正立の格好で描かれています。)
 洗礼と言うのは、キリスト教徒にとって、人生の非常に大事な節目であると思います。
その、大事な節目を、上方から、キリストと沢山の聖人の美しい画に見守られて行うというのは、とても厳粛な気分にさせられる、幸せなことだったのではないでしょうか。
 そして、この、比較的小さな正四角形のお堂も、天井以外の面も全て、鮮やかな色彩のフレスコ画で覆われています。色みは、どちらかというとパステル調とでも言ったような感じの押さえた色調ですが、色彩は豊かです。4つの壁面にある扉の上には、それぞれ、受胎告知図(フィレンツェの、フラ・アンジェリコのもののような、静謐で穏やかな感じの)、聖母子像などが描かれていたり、他の部分には、カナの婚礼の図などもあったような気がします。2方向にある、短い側廊には、一方には木製の衝立状の祭壇画(聖母子像、聖人図などが、建物といくつものアーチを象った衝立のアーチの中に描かれている)があり、側廊の上も丸屋根になっていて、こちらは金色の地に12聖人やマリア像が描かれていたりしました。

 どの教会も、是非、もう一度、行ってみたいです。
旅行の悲しさ、旅行の限界は、気に入ったところでも、ただ一度きり、短い時間しか、いられないことですよね。後は、手に入れた絵葉書と、写真で、記憶を蘇らせてその世界に浸るだけです。

 全く、旅行に行くと、予想外の宝物に多く出会うものです。それが、イタリアのような、元々が古くからの宝物の宝庫であるところであれば、尚更。

  "旅の記憶"へ戻る/Homeへ戻る