1)道案内
ローマ滞在の一日を割いてアッシジを訪問すると決めていましたが、交通手段を何にしようか迷っておりました。日本で、トーマスクックの時刻表などを手に入れておりましたが、鉄道だと、乗り換えはあるし、時刻表はわかりにくいしで、ホントにたどり着けるかと不安でした。おまけに、駅からアッシジまではバスで行かなきゃ行けないらしいし。
と、迷っていた所、地球の歩き方イタリア編に、耳寄りな話が載っていました。
”アッシジへは長距離バスではいるのがいい”との記事。”イタリア国鉄のティブルティーナ駅から、長距離バスが出ている。7:15と8:15の2便。帰りの便は4時頃。所要約3時間”とのこと。
ティブルティーナ駅は、宿泊しているホテルの最寄駅、テルミニ駅から地下鉄で2駅。こりゃ行ってみようか、って感じでした。
ティブルティーナ駅に出発までに十分な時間を残して着き、さてバスストップはと辺りを見まわしましたが見当たりません。”タクシー、タクシー”とかと声をかけてきたおっさん(おそらく白タクか、観光にタクシーを使えって言う売り込み)をふりはらって、しばし熟考。”うーん、どうしようか。駅の売店で聞こうかなあ。でも通じるかしらん、判るかしらん・・・”・・・とそこで名案(?)が。
”そーだ、あの白タクのおじさんに聞いてみよう!”
恐れ知らずとはこのこと、かもしれません。何か、よくも思いついたものと自分でも感心します。
ともかく、おっさんにガイドブックを見せ、”ここ、知らない? バスストップ”とか、拙い英語で聞くと、うんうんとうなづいて、大きな道を挟んで駅の横にあった長距離バスの発着場に、なんと一緒に連れて行ってくれたのでした。
道々、お互い拙い英語で、何で鉄道で行かないのかとか、どこに泊ってるかとか、しゃべりながら行き、発着場の事務所で、係りのおじさんにバスのことまで聞いて、時刻表のチラシまでもらってくれたのでした。(ついでに、”何時に帰るのか”とか、”帰りにタクシーで送ろうか”とか、しっかり営業されましたが。)おまけに、そのバスまで連れてってくれるし。とてもとても親切。
うーん、イタリアの男性が女性に親切と言うのは、本当なんですね、と言うお話でした。
でも、白タクのおじさんを道案内にしてしまう私って、私って・・・
旅に出ると、人はたくましくなるというのの、実例みたいな話でした。
(ついでに言うと、帰りも勿論長距離バスで、同じこの発着場に帰ってきましたが、おじさんがいるのを予想して、私はわざと遠回りして駅へと向かったりしたのでした。やっぱ、ずうずうしいなあ。)
2)ティツィアーノ
ヴェネツィアの最後の2泊は、高級ホテル、ダニエリに泊りました(他の3泊は、旅費節約のため、別のホテルです)。
私は、ホテルにレストランがある場合は、1回はそこのレストランで夕食を食べてみます。レストランを探す手間が省けるし、そのレストランがどんな感じかを、知りたいって事もあるし。
で、最上階(って言っても4階ですが)のレストランへ行くと、なんだか応対がおかしい。”予約は?”とか聞かれたりします。実は、このレストラン、大運河に面していると言う立地を使って、眺望満点のテラスレストランとして有名(多分)で、屋内には、テーブルはあれども人っ子一人いない。反対に、テラスは人でいっぱいでした(レストランの名前も、”テラッツァ・ダニエリ”といって、いわば”テラスレストラン・ダニエリ”って所だったんですね)。でもって、後で部屋にあるホテルのガイドブックを見た所、ここは予約が必須だったのでした。でも、私はずうずうしい日本人観光客、おまけにおばはん。そんなことではひるみません(こらこら)。
”予約はしてないんだけど・・・”って感じで粘ったら、”30分待って、1時間なら食事できる”との、眼鏡のナイスミドルの支配人らしき人の答え。”でもなあ、1時間じゃなあ・・・”と、迷っていると、”部屋の中でしたらいつでもお食事できますよ”(おそらくそう言う意味だろう)という、嬉しい言葉が。
もとより、テラスに固執しているわけではなく、1瞬の逡巡の後ですが、”部屋の中でいいよ”と答えると、相手もほっとした(というより、大喜びと言った)様子でした。
そして彼は高らかにこう言ったのでした。
「部屋の中でも眺めはとてもいい席がありますよ。ティツィアーノがあなたの面倒を見ますし」
後のセリフは、”Tiziano will looking you”かなんかいう英語でした。
それを聞いて私は、はたと悩みました。この旅行記の他の章を読んで下さっていればお判りかも知れませんが、ヴェネツィアにはルネサンスの頃、かなり有名な、ヴェネツィア派と呼ばれる画家の一派がありました。彼らの作品はヴェネツィアのそこここに残っていて、私は毎日、教会や美術館を訪ね歩いて、彼らの作品を見ていました。その、ヴェネツィア派の、一番有名な画家が、ティツィアーノというのです。
私は思いました。”はてな、何でティツィアーノの名がここで出てくるんだろう、ひょっとして、さすがダニエリ、ティツィアーノの絵をレストランに飾ってるのかいな”
席に案内されて周りを見まわすと、余り注目を浴びるような飾られ方ではないものの、それらしい絵が、席から見える所にあります。天を描いたような、天使が飛んでいて、女神が真ん中にいるようなの。
”ふんふん、あれがそうなのかなあ”などと、私は納得したようなしないような妙な、落ち着かない気分でした。
給仕をしてくれたのは、一寸赤みがかった縮れたような、そして一寸薄い髪の、プリティウーマンに出てた、リチャード・ギアの相棒の、根性悪の弁護士(だったっけ)みたいな、一寸ひねてそうな兄ちゃんでした。私はコース料理を頼んだ(お手軽なんでたいていそうする)のですが、メインが子羊のソテーかなんかで、それで、ワインを白を頼もうとしたら、”マダム、メインはお肉ですから、ワインは赤で無いと・・・”なんぞと、こっちもそんなことは知ってるわい!ってなことを、いかにもそうでなければと言う感じで言うんですね、これが。まあ、判りやすくて良いと言う感じだし、ワインに関しては、素直に赤にしておきましたが。
食事は滞り無く進み、支配人風のあのおじさんが、”お食事はいかがですか”と、聞きに来てくれました。勿論私は”とってもいいです”とかと答え、そして、勇気を出して聞いてみました。
「あれは、本物のティツィアーノなんですか」(Is that
a real Tiziano ? )
すると支配人、一瞬、あっけに取られたような感じの顔をし、間を置いて、こう言ったのです。
「そうです、あれもティツィアーノ、彼もティツィアーノ、いい奴でしょう、彼は。」
(原語:Yes, that is a Tiziano, and he is (also)
Tiziano. とかなんとか)
・・・そうなんです、ティツィアーノというのは、私のテーブルの世話をしてくれた給仕さんの名前だったのでした。
まあ、こういう妙なことを言う日本人に、見事に相手をしてくれた支配人、やっぱプロだなあ、さすがダニエリ、と、私は一寸感心しました。(勿論、あの絵は多分ティツィアーノではなかったでしょう。)
私はと言えば、事情が判ったので、”はっはっはっは!”と、馬鹿笑いをして、その場を取り繕うと言うか、ごまかしたのでした。
でも、このディナーもなかなかでした。惜しむらくは、コース料理が、ヴェネツィアの特産っぽい、ほんとに美味しいものと言うわけには行かなかったことが一寸残念ではありましたが、その他は、私にとっては十分でした。テラスではなかったですが(初めからテラスで食事をしようと思ってた訳ではないし)、ガラス張りで、隣接するデュカーレ宮がとても良く見え、運河も、テラスの脇に少し見えました。暮れなずむ、デュカーレ宮のアップを横手に、美味しい食事を取るのは、私にとってこれ以上ないディナーでした。食事のお供にデュカーレ宮。しかも、最高級のホテルの、レストランでの食事。却って、テラスの席が空いていなかったおかげで、面白くて満足できる、最高のディナーになったような気がします。
(お値段も最高級でしたけどね〜。何せ、20万リラ(1万円)。覚悟してましたけどね〜。いいさ、天下のダニエリだもん。滅多に出来ない体験ですものね。)
(おまけ−テラスレストランでの朝食)
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テラスレストランでの朝食。
輝かしい朝日、爽やかな潮風、見事な景色を眺めながらの美味しい朝食。ご機嫌です。
旅の、思いがけないクライマックスでした。 |
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眺望が抜群です。
右の白いドームは、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会、左の島はジュデッカ島です。
ダニエリはカナルグランテの出口に面しているので眺望は180°、正面にはサン・ジョルジョ・マッジョーレ島も見えます。 |
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この旅行は、飛行機とホテルと交通手段と送迎を旅行会社に頼んだ、ツアーではない自由旅行でしたが、ホテルには朝食が付いてました。当然、上に書いたダニエリにも付いていたわけで・・・カナル・グランテを見下ろす、上に書いたテラスレストランで、朝食をとってしまいました(!!)
もっちろん、テラスの、それも2日のうち1日目は一番端の、景色の一番いいところでです。
晴れ渡った、すがすがしい朝、きらきらした朝の光の中、潮風に吹かれながら、最高級のホテルのテラス・レストランで、目前に、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島やジュデッカ島、そして海の中に浮かぶヴェネツィアの島々(サンマルコ広場の南側にあり、丁度カナル・グランテ(ヴェネツィアを貫く大運河)が海に合流する辺りにあるので、島々が海の中に遠くまで点在してとても景色がいい)、運河を行き交う船を見下ろしながら、ゆっくりと取る朝食は、最高でした。食事も、美味しかったし。
他と同じ、バイキング形式ですが、お味もなかなか。好きなものを好きなだけとって、最高の景色をゆっくり眺めながらの朝食。この旅の、予想外のハイライトのひとつでした。
景色の良い名所に行ったときの私の不満の一つは、確かに景色は良いけれど、他の所も見たいので、景色をゆっくり味わっているひまがなく、”ああ、いい景色ね、じゃ、次”と、景色が良いことを確かめるだけで終わり、味わったといえない、ということが多いことでした。でも、この場合は、美味しい、好きなもの山盛りの朝食を取りながら、特等席で、まぶしい朝日の中で、極上の景色を楽しめるのです。
贅沢もここに極まれり、という感じでした。
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