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アグラロンドの燦光洞(さんこうどう)について
 −ギムリの言葉−

「人間のすることなすことは、奇妙なものだなあ、レゴラス! 人間達はこの地に北方世界の驚くべき宝の一つを持っている。それのことをかれらはなんといっていると思う? 洞穴だとさ! 洞穴などとほざいているんだよ!戦争の時に逃げ込む穴なのさ。まぐさを蓄える穴なのさ! ねえ、レゴラス君、あんたはヘルム峡谷の洞窟が限りなく広く美しいことを知っているか?−中略−」
−この間9行略−
「広大な大広間がいくつもいくつもあって、それがリンリンと鈴のような音を立てて滴り落ち池となる、尽きることのない水の音楽に充たされているんだ。その池の美しいこと、星明りに照らされたケレド=ザラムにも並ぶくらいだ。」
「そしてね、レゴラス、炬火(たいまつ)に火が点され人々がこだまする丸天井の下の砂の床を歩くだろう。ああ!するとね、レゴラス、宝石や水晶や、貴金属の鉱脈が磨かれた壁面に現れてぴかぴか光るのだ。それから襞のある大理石を通して明かりが燃えるのだ。ちょうど貝殻を透すようにね。ガラドリエル様の現身(うつしみ)の御手のように透き通ってるんだよ。それから、レゴラス、円柱がある。白に鮮やかなサフランの黄色、暁のばら色、それらが夢のような形にねじれたり、溝がついたりしてるのだ。それらの柱はさまざまな色合いの床からにょきにょきとのびて、天井から下がっているきらめく吊飾りと出会っててね。その吊飾りは、翼のように張り出してるのもあり、ロープのように垂れてるのもある。また、凍った雲とも見紛うばかりの目の細かなカーテンもある。槍があり旗があり、吊下げられた宮殿の尖塔がある! 静まりかえった湖がそれを映してるんだ。ちらちらと光を放つ世界が透明なガラスでおおわれた暗い池から上を見てるんだ。町また町。デュリンがその眠りにおいてすらほとんど想像もできなかったような町が大通りを通り、柱で支えた中庭を通り、どこまでも続き、しまいにどんな光も届かぬ暗い奥のくぼみに終わる。それからポツン! 銀の雫が一滴落ちる。するとガラスに丸い波紋が広がって、塔と言う塔がゆがみ、まるで海の岩屋の中の海草や珊瑚のように揺らぐのだ。やがて夕方がくる。すると水の中の姿は光が薄れ、きらめきも消える。炬火は別の部屋、別の夢の中にはいっていく。ねえ、レゴラス、部屋また部屋、そして広間は広間に続き、丸天井のあとに丸天井がつぎ、階段の向こうにまた階段が連なる。それでもなおくねくねと折れ曲がる道は山脈の中心部まで続いてるのだ。洞窟だって! ヘルム峡谷の洞窟がだよ! 偶然あそこまで追われて行ってもうけもんだった! あそこを去ると思うと涙が出てくるよ。」
               (指輪物語3 二つの塔 上巻(昭和48年版、評論社) p266-268)
 

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