おの小児科ホームページ

/ 〒854-0061 諫早市宇都町7-21  / TEL:0957-26-2888  / 予約専用:0957-26-8440  / FAX:0957-26-2006  /



「乳児(6ヶ月未満)の麻疹移行抗体価」

小児科医会会報第26号(2003)に掲載した論文

はじめに


長崎県諫早市で小児科を開業して10年になります。
幸いなことに麻疹は年間0~数人で大きな流行はありませんでした。
しかし、麻疹には気を遣います。
麻疹の患者は隔離しますが、麻疹と診断する前に麻疹ワクチン未接種の子どもと接触してしまうことがあります。
すると麻疹児と接触した児に対して、緊急に麻疹ワクチンを接種するか、ガンマグロブリンを使用するか、 感染していないことを期待して様子をみるか、悩まなければなりません。
これまで成人は麻疹の免疫があり、6ヶ月までの乳児は移行抗体で守られていると考えて院内感染に対応していました。

ところが平成12年4月に4ヶ月児の母親が麻疹に院内感染しました。
麻疹児と院内で接触した時、祖母に電話をして母親は麻疹に罹患していることを確認しましたが、母親は麻疹を発症しました。
祖母は風疹と麻疹を間違えていたのです。
この院内感染に驚き、おの小児科を受診した乳児の麻疹移行抗体価と母親の麻疹抗体価を調べました。
また、当院でワクチンを接種した自動の麻疹抗体価を調べ、ワクチン接種後の抗体価を検討しました。

対象と方法


  1. 平成12年4月から平成15年4月までに当院を受診した6ヶ月未満の乳児88人の麻疹IgG抗体を測定しました。
    生後39日から180日までの男児50人、女児38人です。
    麻疹抗体価の測定は保護者の同意を得て行いました。
    また、麻疹IgG抗体EIA価4未満であった乳児の母親26人と、麻疹抗体価測定を希望した成人女性26人の麻疹IgG抗体を測定しました。

  2. 平成12年10月から平成14年1月までに当院を受診した児童で麻疹ワクチンを当院で接種していた155人のIgG抗体を測定しました。
    麻疹抗体の測定は保護者の同意を得て行いました。
    麻疹抗体の測定はBMLに依頼し、Enzyme Immuno Assay(EIA)で測定しました。
    EIA価は2未満が陰性、2~4未満が±、4以上が陽性です。

結果


  • 乳児の麻疹IgG抗体と日齢を(表1)に示しました。
    日齢と麻疹IgG抗体

    EIA価4未満で抗体陰性~±は
    • 3ヶ月未満で10人中3人(30%)
    • 3ヶ月児で19人中9人(約50%)
    • 4ヶ月児で31人中18人(約60%)
    • 5ヶ月児で28人中20人(約70%)でした(図1)
    乳児の麻疹IgG抗体


    麻疹IgG抗体EIA価4未満であった乳児の母親26人は全員EIA価30未満でした(表2)。
    麻疹IgG抗体


    成人女性の麻疹IgG抗体価は
    • 20歳代と30歳代を比較すると20歳代が低く
    • EIA価30未満は
    • 20歳代の9人では4人(約44%)
    • 30歳代の17人では3人(約18%)でした(図2)
    成人女性の麻疹IgG抗体



  • 当院で麻疹ワクチンを接種した155人について予防接種後の年数と抗体価を(図3)に示しました。
    麻疹予防接種後の抗体価

    155人全員の麻疹IgG抗体は陽性でしたが、予防接種後しだいに抗体価は減衰しています。
    予防接種後2年未満の61人では(EIA価128以上の3人を128とした場合)抗体価の平均が51.9でしたが、接種後6年以上の9人では平均が18.3に低下していました。
    また、抗体価があまり上昇していない児童も多く、ワクチン接種後2年未満の61人でも20人(約33%)がEIA価30未満でした。

考案

麻疹IgG抗体陽性率は3ヶ月児で約50%、4ヶ月児で約40%、5ヶ月児で約30%でした。
抗体陽性はEIA価4以上ですが、知念正雄先生の報告ではEIA価が4.3~6.3でも家族内感染では麻疹を発症しています。
EIA価6.4以上は3か月児以降の乳児が感染する可能性は50%以上と思われます。


小濱守安先生らは、1998年9月から10ヶ月間に沖縄中部病院に入院した麻疹症例の44%が、医療機関での感染であったと報告しています。
麻疹の院内感染を防ぐことは重要な問題です。
私は麻疹児と接触した場合、接触して3日以内でワクチン接種ができる児はワクチンを接種し、 接種できない児は出来るだけ麻疹抗体の有無を検査してからガンマグロブリンを使用しています。
しかし、接触した当日に麻疹ワクチンを接種しても発症した児を経験しました。
また、ガンマグロブリンは麻疹の発症を防ぐために使わざるを得ませんが、安全であると言い切れないために出来るだけ使いたくありません。
そこで、今年から麻疹ワクチン未接種の子どもはすべて隔離室で診察することにして院内感染を防ぐことにしました。
しかし、根本的な対策は麻疹の流行をなくすことです。
麻疹ワクチンで麻疹を征圧することが一番の院内感染対策だと思います。

生後6か月までに麻疹IgG抗体が陰性になった乳児の母親はEIA価30未満でしたが、成人女性でEIA価30未満は20歳代で約44%、 30歳代で約18%と20歳代の抗体価が低置でした。
また、児童はワクチン接種後2年未満でも約33%がEIA価30未満でした。
今後、母親の抗体価はさらに減衰していくと思われます。
成人麻疹対策としてワクチン未接種での既住がない人に麻疹ワクチン接種が勧められていますが、 今回しらべた母親は自分の既住歴、予防接種歴を正確に知りませんでした。
抗体を検査しないと誰にワクチンを接種するべきなのかわかりません。
また、ワクチン接種を受けても抗体が減衰している可能性があります。
成人でも2回目のワクチン接種を受けられるようにする必要があると思います。

麻疹ワクチン接種後の抗体は諫早市の児童では次第に減衰していました。
また、ワクチン接種後に抗体価があまり上昇していない児童も多く見られます
日本もWHOの勧告通りに麻疹ワクチンの2回接種を実施する必要があると思われます。

まとめ

乳児を麻疹から守るためには、麻疹ワクチンの複数回接種を早期に実現する必要があると思われます。

また成人にも2回目の予防接種を受ける機会を作る必要があると考えます。

長崎県小児科医会  小野 靖彦  


-文献-
  1. 知念正雄:沖縄県における麻疹流行と地域における取り組みについて
    Infectious Agents Surveillance Report 22:284-285,2001.
  2. 小濱守安、安次嶺 馨他:中部病院に入院した麻疹症例の検討
    小児科診療 66:662-666,2002.



目次

キーワード

  • 乳児麻疹
  • 成人麻疹
  • 麻疹移行抗体価
  • 麻疹ワクチン
ページのトップへ戻る