「血液培養から細菌が検出された23例の検討」
なぜ血液培養を行うことにしたのか
突然高熱がでて白血球数が非常に増加している症例を、外来で治療するか、紹介すべきか迷うことがよくありました。
平成16年4月に日本小児科学会雑誌に掲載された、小児科外来におけるoccult bacteremiaの前方視的調査(西村龍夫他)を読んで、全身状態が比較的に良い場合には、血液培養後にCTRXのDIVを行うことにしました。
Occult bacteremia
発熱を主な症状とする菌血症で、時に感冒症状や中耳炎を伴うが、明らかな局所感染症状や全身状態の極度の悪化はないもので、重症細菌感染症の前段階とされている。
3ヵ月~3歳未満の発熱児(39℃以上)の3~11%に、Occult bacteremiaがみられる肺炎球菌が80~85%
b型インフルエンザ菌(Hib)が5~10%
Baraffらの提案
- 3ヵ月~3歳未満児
- 感染病巣が不明な39℃以上の発熱
- 白血球数が15000/μl以上
(好中球数が10000/μl以上)
この3つの条件があれば、血液培養を施行しCTRX 50mg/kgの非経口投与を行う。
※米国の外来診療では事実上のガイドライン
血液培養から細菌が検出された症例
平成16年5月から平成19年6月末までに、血液培養を634回行い23例(約3.6%)から細菌が検出されました。
- 肺炎球菌 18例
(PSSP:7例、PISP:8例、PRSP:3例) - インフルエンザ菌 3例
(BLNAS:1例、BLNAR:2例) - αストレプトコッカス 1例
(3歳女児:A型インフルエンザ罹患時に細菌感染合併) - Bacillus sp 1例
(5ヵ月男児:Urosepsis、水腎症と尿管瘤あり)
※肺炎球菌が約78%、インフルエンザ菌が約13%
90%以上の症例が肺炎球菌とインフルエンザ菌でした。
入院したのは1例でしたが危ない症例でした
1歳女児 化膿性髄膜炎(BLNAS)
平成19年1月5日ごろから咳があり、9日に来院。
気管支拡張剤、去痰剤を処方しました。
その後も咳は持続し、11日の午前0時に38.5℃の発熱に気付き、正午に来院。
WBC6400、CRP 9.7mg/dlでした。
当初は気管支炎・肺炎と思い、ルート確保を行い血液培養を採取しましたが、機嫌が悪くルート確保時にも泣かないため、すぐに諫早総合病院へ紹介しました。
諫早総合病院で化膿性髄膜炎と診断されました。
11日夜よりDICを合併しましたが、後遺症なく治癒しました。
症例数
年齢
9歳児を除いた22例の平均年齢は1歳9ヵ月
殆どの症例は5歳未満
発症した月
冬に多く、夏に少ない?
インフルエンザの流行期に多い
(肺炎球菌とインフルエンザ菌の21例)
発熱してからの経過時間とCRP
初診時のCRP
(肺炎球菌とインフルエンザ菌の18症例)
発熱してからの時間とCRP
治療後のCRP
(肺炎球菌とインフルエンザ菌の16症例)
病初期にCRPは上昇しない
発熱後12時間以上では殆どの症例が、CRPは5mg/dl以上になります。
しかし、13例/18例(約72%)は発熱後、12時間未満で来院しました。
発熱後9時間までに来院した13例のCRPは、0~2.4mg/dl(平均1mg/dl)でした。
発熱して12時間まではWBCで判断するしかありません。
発熱してからの経過時間とWBC
初診時のWBC
(肺炎球菌とインフルエンザ菌の18症例)
インフルエンザ菌は診断が困難
-
インフルエンザ菌感染症の白血球数
- 5ヵ月 女児
発熱後1時間半、WBC 12400/μl - 1歳 女児
発熱後12時間、 WBC 6400/μl - 2歳 男児
発熱後22時間、 WBC 19300/μl
白血球数15000/μl以上は1例だけ
※化膿性髄膜炎児のWBCは6400/μlでした。
発熱して12時間経過しCRPが9.7mg/dlに上昇していました。
もっと早く受診していたらCRPは上昇せず、見逃していた可能性があります。
肺炎球菌とインフルエンザ菌は上咽頭の常在菌
平成17年10月から平成18年4月までに、46例に50回の上咽頭培養を行いました。
(5ヵ月から4才3ヵ月、平均1才5ヵ月)
肺炎球菌は38例(83%)から検出されました。
PSSP 11例、PISP 22例(23回)、PRSP 5例で
約70%がペニシリン耐性肺炎球菌でした。
インフルエンザ菌は31例(67%)から検出され
BLNAS 9例(10回)、LBLNAR 8例、BLNAR 11例
BLPACR 3例で約69%が耐性菌でした。
上咽頭と血液培養で同じ菌が検出されることが多い
上咽頭に常在菌として存在する肺炎球菌と
インフルエンザ菌が上気道炎などを契機として
血液に侵入している可能性がある?
-
上咽頭 血液
- 4歳 女児 PISP PISP
- 1歳 男児 PSSP PSSP
- 2歳 男児 PSSP PSSP
- 1歳 男児 PISP PISP
- 2歳 女児 PSSP BLNAS
- 1歳 男児 PISP PISP
- 3歳 女児 PRSP PISP
- 11ヵ月 男児 PISP PISP
- 1歳 女児 PISP BLNAR
- 5ヵ月 女児 BLNAR BLNAR
肺炎球菌感染症にワクチンが有効
※侵襲性肺炎球菌感染症の罹患率は10万人あたり
1歳未満が165(6~11ヵ月が最も多く235)
12ヵ月~23ヵ月が203 全年齢では24(アメリカCDCの報告)
肺炎球菌の侵入門戸は70%が不明です。
※2000年からアメリカでは、7価conjugateワクチン
(莢膜多糖体にジフテリア毒素を結合)を使用しています。
侵襲型肺炎球菌感染症の阻止効果は97.4%
(非含有型を含めて89.1%)
インフルエンザ菌感染症にワクチンが有効
- インフルエンザ菌による感染症の殆どは、莢膜株の血清型b型菌(Hib)
- 母親からの移行抗体がしだいに減少して生後3ヵ月からHibに対する抗体が感染防御レベル以下になります。
※インフルエンザ菌感染症の95%は5歳未満 - アメリカではHibワクチン導入後罹患率が5歳未満人口10万人あたり25から2以下に減少しました。
- 日本でのインフルエンザ菌性髄膜炎の推定患者数は、年間約600人
その約30%が予後不良です。
2000人に1人がインフルエンザ菌の髄膜炎になります。
Hib髄膜炎の80%は初診時に診断できません!
まとめ
開業医でも、血液培養から細菌が検出される症例を、約3年間で23例経験しました。
殆どの症例は外来でCTRXのDIVを行い軽快しましたが、 インフルエンザ菌による髄膜炎の症例は、2次病院への紹介が遅れていたら後遺症が残るか 、死亡していた可能性が高いと思われました。
肺炎球菌の症例は、白血球数が病初期から上昇し、予後も比較的に良好です。
しかし、インフルエンザ菌の症例は、白血球数が 上昇しないことがあり、早期診断が困難でした。
CRPは発熱して12時間以上経過すると有用でした。
Hibワクチンと肺炎球菌ワクチンを接種すると、 今回の症例の80%以上は予防できると思われます。
定期接種にするよう国に働きかける必要があります。