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「血液培養から細菌が検出された23例の検討」

予防接種学術講演会(平成19年8月10日)で発表したもの

なぜ血液培養を行うことにしたのか


突然高熱がでて白血球数が非常に増加している症例を、外来で治療するか、紹介すべきか迷うことがよくありました。
平成16年4月に日本小児科学会雑誌に掲載された、小児科外来におけるoccult bacteremiaの前方視的調査(西村龍夫他)を読んで、全身状態が比較的に良い場合には、血液培養後にCTRXのDIVを行うことにしました。

Occult bacteremia


発熱を主な症状とする菌血症で、時に感冒症状や中耳炎を伴うが、明らかな局所感染症状や全身状態の極度の悪化はないもので、重症細菌感染症の前段階とされている。

3ヵ月~3歳未満の発熱児(39℃以上)の3~11%に、Occult bacteremiaがみられる肺炎球菌が80~85%
b型インフルエンザ菌(Hib)が5~10%

Baraffらの提案


  1. 3ヵ月~3歳未満児
  2. 感染病巣が不明な39℃以上の発熱
  3. 白血球数が15000/μl以上
    (好中球数が10000/μl以上)

    この3つの条件があれば、血液培養を施行しCTRX 50mg/kgの非経口投与を行う。
    ※米国の外来診療では事実上のガイドライン

血液培養から細菌が検出された症例

平成16年5月から平成19年6月末までに、血液培養を634回行い23例(約3.6%)から細菌が検出されました。

  1. 肺炎球菌 18例
    (PSSP:7例、PISP:8例、PRSP:3例)
  2. インフルエンザ菌 3例
    (BLNAS:1例、BLNAR:2例)
  3. αストレプトコッカス 1例
    (3歳女児:A型インフルエンザ罹患時に細菌感染合併)
  4. Bacillus sp 1例
    (5ヵ月男児:Urosepsis、水腎症と尿管瘤あり)

    ※肺炎球菌が約78%、インフルエンザ菌が約13%
    90%以上の症例が肺炎球菌とインフルエンザ菌でした。

入院したのは1例でしたが危ない症例でした

1歳女児 化膿性髄膜炎(BLNAS)

平成19年1月5日ごろから咳があり、9日に来院。
気管支拡張剤、去痰剤を処方しました。
その後も咳は持続し、11日の午前0時に38.5℃の発熱に気付き、正午に来院。
WBC6400、CRP 9.7mg/dlでした。
当初は気管支炎・肺炎と思い、ルート確保を行い血液培養を採取しましたが、機嫌が悪くルート確保時にも泣かないため、すぐに諫早総合病院へ紹介しました。
諫早総合病院で化膿性髄膜炎と診断されました。
11日夜よりDICを合併しましたが、後遺症なく治癒しました。

症例数

年齢
9歳児を除いた22例の平均年齢は1歳9ヵ月
殆どの症例は5歳未満


発症した月
冬に多く、夏に少ない?
インフルエンザの流行期に多い
(肺炎球菌とインフルエンザ菌の21例)



発熱してからの経過時間とCRP
初診時のCRP
(肺炎球菌とインフルエンザ菌の18症例)



発熱してからの時間とCRP
治療後のCRP
(肺炎球菌とインフルエンザ菌の16症例)


病初期にCRPは上昇しない

発熱後12時間以上では殆どの症例が、CRPは5mg/dl以上になります。
しかし、13例/18例(約72%)は発熱後、12時間未満で来院しました。
発熱後9時間までに来院した13例のCRPは、0~2.4mg/dl(平均1mg/dl)でした。
発熱して12時間まではWBCで判断するしかありません。


発熱してからの経過時間とWBC
初診時のWBC
(肺炎球菌とインフルエンザ菌の18症例)

インフルエンザ菌は診断が困難

    インフルエンザ菌感染症の白血球数

  1. 5ヵ月 女児
    発熱後1時間半、WBC 12400/μl
  2. 1歳  女児
    発熱後12時間、 WBC 6400/μl
  3. 2歳  男児
    発熱後22時間、 WBC 19300/μl

    白血球数15000/μl以上は1例だけ
    ※化膿性髄膜炎児のWBCは6400/μlでした。
    発熱して12時間経過しCRPが9.7mg/dlに上昇していました。
    もっと早く受診していたらCRPは上昇せず、見逃していた可能性があります。

肺炎球菌とインフルエンザ菌は上咽頭の常在菌

平成17年10月から平成18年4月までに、46例に50回の上咽頭培養を行いました。
(5ヵ月から4才3ヵ月、平均1才5ヵ月)


肺炎球菌は38例(83%)から検出されました。
PSSP 11例、PISP 22例(23回)、PRSP 5例で
約70%がペニシリン耐性肺炎球菌でした。

インフルエンザ菌は31例(67%)から検出され
BLNAS 9例(10回)、LBLNAR 8例、BLNAR 11例
BLPACR 3例で約69%が耐性菌でした。

上咽頭と血液培養で同じ菌が検出されることが多い
上咽頭に常在菌として存在する肺炎球菌と
インフルエンザ菌が上気道炎などを契機として
血液に侵入している可能性がある?

               上咽頭   血液
  1. 4歳  女児    PISP   PISP
  2. 1歳  男児    PSSP   PSSP
  3. 2歳  男児    PSSP   PSSP
  4. 1歳  男児    PISP   PISP
  5. 2歳  女児    PSSP   BLNAS
  6. 1歳  男児    PISP   PISP
  7. 3歳  女児    PRSP   PISP
  8. 11ヵ月 男児    PISP   PISP
  9. 1歳  女児    PISP   BLNAR
  10. 5ヵ月 女児    BLNAR   BLNAR

肺炎球菌感染症にワクチンが有効

※侵襲性肺炎球菌感染症の罹患率は10万人あたり
 1歳未満が165(6~11ヵ月が最も多く235)
 12ヵ月~23ヵ月が203 全年齢では24(アメリカCDCの報告)
 肺炎球菌の侵入門戸は70%が不明です。

※2000年からアメリカでは、7価conjugateワクチン
 (莢膜多糖体にジフテリア毒素を結合)を使用しています。
 侵襲型肺炎球菌感染症の阻止効果は97.4%
        (非含有型を含めて89.1%)

インフルエンザ菌感染症にワクチンが有効

  1. インフルエンザ菌による感染症の殆どは、莢膜株の血清型b型菌(Hib)

  2. 母親からの移行抗体がしだいに減少して生後3ヵ月からHibに対する抗体が感染防御レベル以下になります。
    ※インフルエンザ菌感染症の95%は5歳未満

  3. アメリカではHibワクチン導入後罹患率が5歳未満人口10万人あたり25から2以下に減少しました。

  4. 日本でのインフルエンザ菌性髄膜炎の推定患者数は、年間約600人
    その約30%が予後不良です。
    2000人に1人がインフルエンザ菌の髄膜炎になります。
    Hib髄膜炎の80%は初診時に診断できません!

まとめ

開業医でも、血液培養から細菌が検出される症例を、約3年間で23例経験しました。


殆どの症例は外来でCTRXのDIVを行い軽快しましたが、 インフルエンザ菌による髄膜炎の症例は、2次病院への紹介が遅れていたら後遺症が残るか 、死亡していた可能性が高いと思われました。
肺炎球菌の症例は、白血球数が病初期から上昇し、予後も比較的に良好です。
しかし、インフルエンザ菌の症例は、白血球数が 上昇しないことがあり、早期診断が困難でした。
CRPは発熱して12時間以上経過すると有用でした。
Hibワクチンと肺炎球菌ワクチンを接種すると、 今回の症例の80%以上は予防できると思われます。
定期接種にするよう国に働きかける必要があります。


長崎県小児科医会  小野 靖彦  



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