おの小児科ホームページ

/ 〒854-0061 諫早市宇都町7-21  / TEL:0957-26-2888  / 予約専用:0957-26-8440  / FAX:0957-26-2006  /



「小学校でのA型インフルエンザ流行の観察」

第26回日本外来小児科学会年次集会(平成28年8月27日高松)で発表した内容

はじめに

学校が地域の感染拡大に大きな役割をはたしていると考えられているが、インフルエンザの流行期に児童が感染したのは学校内か家族内か、それ以外の場所かを特定することは困難である。
しかし、インフルエンザがまだ地域で流行していない時期に小学校で発生した流行は、児童が学校で感染したと考えられ、学校内での感染の広がりと児童から家族への感染を観察できると思われる。

諫早市で最初のインフルエンザ流行が起こった小学校の経過を報告する。

対象と方法


2015~2016年シーズンにS小学校は、諫早市内で最も早くA型インフルエンザが流行した。
諫早医師会インフルエンザ流行調査と、インフルエンザ欠席者調査を照合してS小学校の児童と家族の発症日を推定し、最初に流行した3年2組の席順と発症日を検討した。


発端者の父親が12月14日、母親が15日にA型インフルエンザを発症し、発端者(3年2組)が16日(水)に発症した。
  • 17日(木)3年2組では席替えが行われた。
  • 18日(金)3年2組の学級閉鎖が検討された。
  • 19日(土)と20日(日)休日
  • 23日(水)祝日
  • 24日(木)2学期終業式


3年2組流行の経過


  • 1日目(水)発端者が発症
  • 2日目(木)3人発症(学級の10%罹患)
  • 3日目(金)4人発症(学級の20%罹患)
  • 4日目(土)3人発症(学級の27%罹患)
  • 5日目(日)4人発症(学級の37%罹患)
    5日間で15人が発症。
    3日目(金)の朝、児童の登校後に学校長と養護教諭が学級閉鎖を検討したが、翌日が土曜日であるため、学級閉鎖は行わなかった。
  • 6日目の月曜、7日目の火曜には発症者はなく、3年2組の流行は短期間で終息した

学級でのインフルエンザ流行パターン


  1. 急激に患者数が増加して短期間で終息する。

  2. 患者数の急激な増加はなく、短期間で終息する。

  3. ゆっくり感染が広がり、流行期間が長い


20日の発症者の席を16日までの席順で示した。
ほとんどの発症者の席は教室の後方から窓際に集中していた。


25日の発症者は学童保育に通っていた。



インフルエンザの感染経路

主な感染経路は飛沫感染と接触感染といわれている

  1. 空気感染(飛沫核感染)(Airborne Transmission)
    飛沫の水分が蒸発乾燥し飛沫核(5μm未満)となり、空気中を漂い他の人が飛沫核を吸い込み感染

  2. 飛沫感染(Droplet Transmission)
    咳・くしゃみなどによって生じたウイルスを含む飛沫が、他の人の鼻・目・口の粘膜に直接到達して感染
    (感染は1~2メートルの範囲)

  3. 接触感染(Contact Transmission)
    感染者と接触あるいは間接的な接触により感染
    多くは、汚染された机・ドアノブなどに手で触れ、その手で鼻・口・目などに触って感染

    手に移行したウイルスは5分程度で消失するため、手を介しての感染はこれまで考えられているより少ない可能性がある

インフルエンザの感染経路として、3つの感染経路がどの程度の割合で起きているかについてははっきりしたデータはない。
※インフルエンザ感染の大半は飛沫感染もしくは接触感染で起きており、空気感染はあるとしても重要な感染経路ではないといわれている。

16日から20日までの発症者の席

  • 16日までの席順では、20日発症の1人を除いて教室の後方から窓際で教室の集中していた。

  • 17日以降の席順では、発症者の席は隣接しているか、学童保育に通っていた。

20日までの発症者は、発端者から感染した児童と17日以降の発症者から感染した児童がいると思われるが、感染経路は飛沫感染・接触感染の可能性が高いと考えられる。

学級毎の感染者

確認できた家族への感染


  • 3年2組の児童からの感染
    17日発症の男児から19日に6年1組の姉
    18日発症の男児から21日に母親
    18日発症の男児から19日に5年2組の姉
    19日発症の女児から21日に両親、23日に幼稚園の弟
    20日発症の女児から22日に高校生の兄

  • 3年2組以外の児童からの感染
    22日発症の4年2組男児から24日に幼稚園の妹
    23日発症の6年3組男児から24日に中学生の兄
    23日発症の1年1組女児から26日に保育園の妹
    24日発症の4年2組女児から28日に弟
    27日発症の1年2組男児から28日に妹

まとめ


  • 学級のインフルエンザ感染の様子、兄弟父母への感染が観察できた。

  • インフルエンザ感染経路は、主に飛沫感染・接触感染と思われる。

  • 学校内での感染の抑制には、咳のある児童のマスク着用(咳エチケット)が重要と思われる。

  • 冬休み中は学童保育が感染の場となっていた。

  • 学校は地域の感染拡大に重要な役割を果たしていると思われる。


長崎県小児科医会  小野 靖彦  



目次

ページのトップへ戻る