「RSウイルス感染症にステロイド吸入は有効か?」
第17回日本外来小児科学会年次集会(平成19年8月25日熊本)で発表した内容
はじめに
- RSウイルス感染症は、主に11月から1月に流行するウイルス感染症で、乳児が罹患すると入院を必要とすることも多い。
乳児には、インフルエンザ感染症より重要な病気である。 - 病初期にデキサメサゾンを使用すると、その抗炎症作用により気道炎症を抑制して下気道症状の増悪を抑え、入院を減らせる可能性がある。
- ブデソニドの吸入がRSウイルス感染症に有効か検討した。
対象
- 平成14年11月から平成19年4月の間に、RSウイルス抗原迅速検査が陽性の1歳未満の174症例
- 鼻腔洗浄液を検体として迅速検査を行った
RSVテストパック(ダイナボット社)
EZ RSV(ベクトン・ディッキンソン社)
チェックRSV(アルフレッサファーマ社)
方法
- ステロイドを使用しなかった136例と、ステロイド吸入を行った38例で入院の有無について検討した。
- 保護者あるいは保護者の代理人、にRSウイルス感染症に対するステロイドの効果と副作用、ステロイド吸入について説明し同意を得た。
- ステロイド吸入以外の治療は、両群ともロイコトリエン拮抗薬と去痰剤を使用し、3ヶ月以上の症例には、気管支拡張剤を使用。
ステロイド吸入の方法
- ステロイド吸入には、ブデソニド吸入液を使いジェット式ネブライザーで3分間吸入した。
- 吸入は1~6病日(平均3.1病日)に開始して、症状に応じて、1日に1~2回行った。
- 吸入期間は1~6日間(平均3日間)
- 吸入回数は1~10回(平均3.8回)
結果
1歳未満のRSウイルス感染症で入院を必要とした症例は
- ステロイド未使用
35例/136例(約26%) - ステロイド使用
4例/38例(約11%)
Fisherの直接確率はP=0.0498(両側検定)
2群間に有意差はみとめられなかった。
0~2ヶ月児、3~5ヶ月児、6~8ヶ月児、9~11ヶ月児に層別化して、Mantel-Haensel法で比較
Ossd比 0.240(95%信頼区間0.071~0.811)
P0.034 有意差あり
ステロイド吸入で入院が減少した。
月齢 | 0~2 | 3~5 | 6~8 | 9~11 |
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ステロイド未使用 (入院数/症例数) (入院した割合%) |
16/31 52% | 11/34 11% | 4/35 11% | 4/36 11% |
ステロイド使用 (入院数/症例数) (入院した割合) |
3/10 30% | 1/11 9% | 0/11 0% | 0/6 0% |
考案
- 入院後のRSウイルス感染症に有効な治療法はないが、外来で発症後早期にデキサメサゾンを経口投与・ 皮下注射すると有効であると報告されている。
- 吸入は痛みが無く、経口投与や皮下注射と比べてより副作用の心配が少ない投与法である。
- 1歳未満のRSウイルス感染症でステロイド吸入を病初期に行うと入院を減らすことができると思われる。
- 幼いほど入院する症例が多いが、幼いほど病初期の症状は軽く、入院を必要とする症例を病初期に見分けるのは困難である。
月齢 | 0~2 | 3~5 | 6~8 | 9~11 |
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症例数 | 41例 | 45例 | 46例 | 42例 |
入院数 | 19例(46%) | 12例(27%) | 4例(9%) | 4例(10%) |