ホーム > 光学コラム > 効率の良い光学設計をめざして(1)
現在結像光学系を使っている製品は、民生用ではデジタルカメラ、スマートフォン、ビデオカメラ等があり、業務用ではFA・医療用カメラやデータプロジェクター等、多分野にわたりいろいろな種類があります。
それぞれ使用用途が違いますので、そこに使われているレンズ系もいろいろな種類があり、それぞれ特徴のある仕様が決められています。
私たちの仕事はそれらの仕様を満足するようなレンズ系を設計することですが、新製品の開発では常に性能の向上が求められていますので、設計仕様の内容も今までにないものが多くなり、仕様の多様性に対応する設計が求められるようになってきています。
仕様の多様性に対応する設計は様々な知識や技術など必要とされるため、高難易度の仕様に対応する設計ということができます。高難易度の仕様の設計は、設計に費やす時間がかかりコストが上がる傾向がありますが、最悪の場合は設定された仕様を満足できず、最終的に企画倒れになってしまい、関係者に迷惑をかける場合も多々ありますので、慎重に対応しなければなりません。
ここで光学設計の特徴について考えてみます。レンズ設計は光学系全体の性能を確保する作業ですが、光学系を構成する要素(曲率半径、レンズ間隔、硝種等)を決める際、レンズの構成や収差補正方法等において設計者の経験や意図が大きく反映され、100人同じ仕様で設計しても100人とも違う成果が出ると言われるほど、いろいろなパターンが挙げられます。
また光学系を構成する要素や光学性能等の一部だけ修正・変更しようした場合、構成する要素が光学性能に複雑に影響しているため光学系全体の性能バランスが崩れ、結果として性能のバランスが取れるように全部の部品構成を修正するようになるという特徴があります。
効率の良い光学設計を目指す一環として、高難易度仕様の光学系の設計について、光学設計の特徴を考慮しながら設計手法を工夫していく手段を、経験を踏まえた一例を提案いたします。この一例から何らかの方法を構築される中で、良きにつけ悪しきにつけ、参考にしていただけると幸いです。
高難易度の光学仕様に対応するのは容易ではない事は簡単に想像できますが、実際の業務でどのように対応すればよいかは簡単には思いつきません。難易度の高い業務にどのようなアプローチが有効なのかを考察していきます。
アプローチの手法は、大抵の設計者は多かれ少なかれ今までの経験をもとにした手法を持っています。今までと同じ方法を取って行き詰った箇所で臨機応変に対応する方法、最初から教科書に載っているようなアカデミックな理論で進める方法など、いろいろな種類があると想定できます。ここでは、「ものつくり」という観点から、品質管理的な考え方でアプローチする方を紹介します。
設計者の中には「品質管理」という言葉にあまり良い印象を持たない方がたまに見かけられます。ひとつの理由としては、実際量産立ち上げ業務において、デザインレビュー等の場所で、新規技術を取り入れたい設計部門と生産性を確保したい品質保証部門が衝突する場面が多いためです。
設計部門は「狙いの品質」を目指し、品質保証部門は「できばえの品質」を目指していますが、お互い良い製品を作ろうとした結果の衝突なので良いことだと思いますが、衝突は言い争いに近いので当事者は気分害することが多々あるのも事実です。
また他の理由としては、ISO9000シリーズの取得・管理に関して、「品質管理」は手続き等が面倒であるという理由があります。確かにISO取得自体は売上にはなりませんし、維持・管理は専門部署が必要なので人件費等の経費がかかります。そのうえ文書作成・管理が厳しいので面倒と考える人が多いとの話も聞きます。
これから提案するのは、品質管理を実践するというよりは、「品質管理的な考え方」を採用したアプローチです。「品質管理的な考え方」は比較的一般的な考え方に近いと思いますので、まずはここから簡単に説明したいと思います。