魚菜王国いわて

「自治体経営革命」を読んで

この本は、宮古市の熊坂市長と石川県羽咋市の本吉市長との対談を、熊坂伸子さんがまとめた本です。
地方分権とは?ということに正面から取り組み、地方の自立をどうやって行うべきかについて、同年代の両市長が考えを述べています。
現市政の中での、役所内の苦労話とか、まだまだ改善の余地があるとか、市民が知らない市の姿を見ることもできます。
執筆者は、自治体の職員に読んでほしいと書いてますが、積極的に意見を言うような方にとっても必読の書かもしれません。
そして、自分ならこうやる、とかいう積極的な提言をやっていってほしいものです。

私の場合、この本には半分がっかりしています。
まあ、仕方がないですよね。
それぞれ考えは違いますから。
それでは最初に、私が「いいなあ」と思ったところから指摘していきたいと思います。

「第2章 自治基本条例制定の動き」からですが、基本自治条例とは、自治体の憲法と呼ばれるもので、最初に正式に日本で制定されたのは、北海道のニセコ町でした。
2000年12月だそうです。
制定への取り組みの1番最初は、それより以前の1972年の川崎市で、都市憲章条例案が立案されましたが、残念ながら、当時の川崎市議会は否決しています。
その後、2番目に取り組んだのが神奈川県逗子市で、アメリカ軍関連の問題で、恐らく国策との対立から研究されたのでしょう。
1994年「都市憲章研究事業凍結」を掲げた市長の当選で、頓挫しています。
この挫折した両市の取り組みの背景には、国法あるいは国策と自治体住民との対立があります。
この本では、自治基本条例制定の必要性の法的根拠として、憲法から次のように書いています。

地方自治の本旨に反するものは、たとえ国法といえども違憲(憲法第92条)であり、無効(同98条第1項)であること、および国法は地域においてできるかぎり条例に配慮することが求められる(地方自治法第2条11項)ことから、法律や政省令を、一律に条例の上位に置くことは適切ではないとされています。
(「自治体経営革命」p50)

ここで少し身近な問題を例にしますが、当サイトでも触れている高レベル放射性廃棄物の地層処分候補地に、岩手県も入っています。
原発促進は国策です。
ゆえ、必ず日本のどこかがこの国策の犠牲になるわけですが、厳格に環境問題に取り組みながら基本自治条例を制定するならば、地方から原発廃止に向けて行動できるのです。
全国の基本自治条例で、「核のゴミは引き受けない」というような環境問題を真剣に考えるものを作り上げれば、引き受け手のないものを出す施設を作るわけにはいかなくなります。
実際に挫折した川崎市と逗子市は、やはり環境問題に重きを置いていたらしいです。

中には、金欲しさに引き受けようとするバカな自治体もいますがね。
そういう自治体は、他の自治体が批判すればいいし、このような広域的な環境問題への取り組みは、自治体同士の相互批判がもっとあってもいい、と私は思います。(またちょっと話がはずれました)

次に「第5章 硬直した人事管理システムの改善を」で、現熊坂政権になってから、脱硬直人事への取り組みには積極的なようです。
考えてみると、人事制度をいじるってことは非常に難しいですよね。
特に、昇格で給料も違うのでしょうから。
船の給料なんて、ただ人数で割るだけですから、恨みっこなしで簡単です。
サボった人はホサれますし、上に立つ人がしっかり指示する船なんかは、その辺はみんな真面目になります。
一応、船の上では役割分担していて、誰かが自分の仕事を終われば他の人を手伝うわけです。
こういうところをみると、漁師って、口で言わなくても、自然とお互いを助け合って仕事をしているんですよ。
またまた話がわき道にそれました。

不合格者に対する順位通知とか、点数配分、審査体制の公開、判定基準の公開など、他ではやっていないことを宮古市ではやっているんだそうです。
その背景にはいつまで経っても「市役所に入るにはコネだ」との風評が消えないことがあるそうです。
私は、コネで市役所に入っていたなんて知りませんでしたし、自分の先輩方はコネではいったのかしら?と今さらながら疑っています。
知っている先輩はたくさんいますから、いつか聞いてみようと思います。
どういう答えが来るか楽しみですね。

「第6章 市税滞納者にどう対応?」は「おー、おー」の連続で、もし自分が市長になったとして、できるかどうか疑ったりします。
それぐらいの驚きです。
宮古市は、滞納者に対する差し押さえや市営住宅家賃滞納者に対する退去の強制執行もやり始めた模様です。
羽咋市との比較でも、10倍以上は違っています。
さすがに、抗議の電話が市長の自宅まで行ったらしく、よくやったものだなあ、と感心しています。
もともと減免制度があり、その制度にも当てはまらない悪意に満ちた滞納者もかなりいるらしく、そのような滞納は税金を真面目に払っている人をバカにする行為となります。
このことを正しく理解し、納税してもらいたいものです。
市税滞納者への対応、ご苦労様です。

「第10章 介護保険制度」では、本当は、私はあまりよく書きたくないところがあります。
もともと私は福祉の行き過ぎを指摘していますから。
で、熊坂市長の発言で、いいことを言っているところがあるので、それを紹介します。
これは世界中のあらゆる問題、特に地域格差に対する問題を解決する一つの思想といってもいいからです。
これを介護保険だけでなく、政治全般に一貫して浸透させれば、私は何も文句を言いません(笑)。
途中を抜粋引用します。

ただ保険者はあくまで市区町村ですから、自己責任、自己決定の原則の下に地域独自の「オンリーワン」の介護保険が今後もたくさん出てくると思います。
ところで一部の学者が、支給限度額に対する利用率や在宅サービスの利用率を並べてあたかも「地域格差」を強調するようなことを研究発表していますが、私はむしろそれは「地域特性」であり、とやかくいうべきことではないと思っています。
宮古市もそうですが田舎は利用率が低くても満足度が、一般に高いのです。なぜなら家族や地域のコミュニティーがしっかりしてれば当然そうなるからです。
介護保険に「オンリーワン」はあっても「ナンバーワン」はないということを強調したいと思います。
(前掲書p191)

この章で面白いのは「GNP2乗運動」のことを書いていることです。
私は知りませんでしたよ。
これは、「いきいき健康都市宣言」の標語で、Gが脳の元気、体の元気、Nがニコニコ、長生き、Pがプライド、ポックリ。
最後の「ポックリ」は、思わず笑ってしまうような微笑ましいような。
「ポックリ」は誰しも思うことで、いい標語です。
この辺のネーミングのセンスを、もっと他のものにも出してもらいたいですね。

「第13章 行財政改革とアウトソーシング」と「第14章 行政評価」は、今の市政の看板ですから、言うことなしです。
特に「宮古市事務事業評価」で、建設課から出た話などは面白いですし、実現したらなおいいですね。

さて、今度は反対にダメなところ。

「第8章 道路特定財源と命を守る道路」で、道路批判は、私の得意とするところです(笑)。
本吉市長は、「整備した道路も年月が経てば傷んでくるので、永遠に『道路整備は十分』ということにはならない」と発言しており、一方、熊坂市長のほうは、「『道路整備は十分』との意見は信じられません」と発言していますが、この両者の発言は全く違うと思います。
本吉市長の言い分の方が正しい。

道路は壊れますから、必ず補修更新していかなければなりません。
その上、新しい道路をジャンジャン作ったら、いくら税金があっても足りません。
この章の最後に、「地球規模の『環境の論理』にもぜひ耳を傾けていただきたいと思います」と執筆者が書いているように、道路を作って車をどんどん走らせようとする政策は、環境を第一に考えようとする県をはじめ、宮古市の広報にも載る、あの市民憲章とも矛盾します。
私はこういうことが大嫌いです。
こんなに政策に一貫性がないのら、政治は誰にもできます。
車を降りて歩きなさい、自転車をこぎなさい、バスを利用しなさい、三鉄を利用しなさい、となぜ言えない?
タラソテラピーに入るより、自分の足を動かすことが、どれほど自分にとって健康なことか?
もう、これを書き出したら止まらないのでやめます。

「第9章 中心市街地活性はなぜ必要?」はぜんぜんダメです。
辛うじて読めるところは、「三、個人の利益と公の福祉」のところだけです。
なぜ、ぜんぜんダメか?
ここには、グローバリズムの欠点を指摘することがほとんどなく、それを助長したのが自動車社会であるという指摘もなく、また、人間自体が便利機能ばかりを買うようになったことも指摘していないからです。
グローバリズムは良いことか?ということから始めなければ、こんな結論になってしまいますし、反グローバリズムの視点がないと、スローフード、スローライフという考えも生まれません。
本当は、そこにこそ、熊坂市長の「オンリーワン」の思想が生まれる余地がありますはずなんですが。
この本では時代のニーズに対応することのみが語られていますが、それは自由経済の単なる掟であって、自治体がすることではないはず。
ケインズ主義全盛の国や自治体としては、国民一人といえども最低限の暮らしから逸脱させまいと、税金その他を使って貧富の平準化に努めるのが至上命題となっています。
行政府がすることは、端的にいえば、自由経済の制限です。
それ以外にない。
その制限の理由付けが、人権配慮であったり、環境問題であったり、あるいは、私のいうような反グローバルであったり。
そういう大きな枠組みをしっかり考えて政策立案しないと、政策矛盾、あるいはやっても効果のない政策がでてくるわけです。

最後に書いたところは、この本の全般にわたっての批判ともなっています。
また、ゴミ問題を取り上げていないのも残念でした。
これは、「地方を都会が養っている」という、都会の声の裏返しになりますから。
ゴミ処理とか、発電関連の問題を、厳格にカネに換算すればどうなるのか、真面目に議論してほしいものです。

おかしいと思っても有権者の声を無視できないでしょうし、合併とか財政問題とかいろいろあって、そんなにうまく市を動かすことは容易ではないと思います。
それでも頑張ってもらいたいですね。
(2003年5月3日)



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