魚菜王国いわて

水産物貿易自由化と資源管理問題

2001年11月にカタールのドーハで開かれたWTO第4回閣僚会議で、水産物は「非農産品市場アクセス交渉」の対象とされた。GATTウルグアイ・ラウンド当時から水産物は「非農産品」で、これまでIQ(輸入割り当て)を守ることができたのはそのためだともいえる。
農産物については関税化が原則。これによって貿易規制の姿を透明化し、自由化に向けた交渉をしやすくするのが狙いだった。ウルグアイ・ラウンドでは、IQ品目だったコメの関税化=輸入自由化を迫られた。
ウルグアイ・ラウンド農業合意で、日本のコメについては特例措置が認められたが、その代償として「ミニマムアクセス(最低輸入義務枠)」をのまされた。輸入枠を毎年増やさなければならない約束で、どんどん増えていった。結局、IQを撤廃し関税化することになった。
ウルグアイ・ラウンド当時、日本のほか韓国とEUに水産物IQ制度があり“仲間”だった。しかし、その後、両者とも撤廃し日本にもIQ撤廃を求めている。水産物は「非農産品」とされているがゆえにIQを守ってくることができたが、現在は“仲間”がいない。(中略)
これまでの交渉で、関税の削減や撤廃が議論されているが、そもそも日本は関税削減に努めてきた。水産物の関税は4%という低さ。
低い理由は、戦後、貿易を再開した当時、日本は輸出国だった。食糧を確保する必要もあり、輸入を恐れていなかった。生鮮10%、加工調製品20%という関税率でスタートし、ラウンド交渉を重ねるごとに下げて4%にまでなった。
この間、ものすごく苦労し汗をかいてきたことを主張したい。いまだ関税率が高い国と、すでに低関税率の国がある中で一律の撤廃は不公平。日本の関税引き下げは限界だ。先進国としてどこまで許されるかという問題はあるにせよ、柔軟性が必要だ。
昨年5月と8月にジラール交渉グループ議長が提案した分野別関税撤廃の中に、水産物が含まれていることも受け入れられない。韓国と台湾も反対しているが、米国とカナダ、ニュージーランド、アイスランドが支持している。
また、水産物に関するWTO交渉では関税引き下げなどの「非農産品市場アクセス交渉」のほか、漁業補助金などについての「ルール交渉」も行われている。
WTOルール交渉グループ会合では、米国、豪州、ニュージーランドなどの「フィッシュグループ」が「反漁業」NGOの後押しを受けて漁業補助金の規律強化を求めているが、日本と韓国はこれを阻止する対応。
EUは漁船建造補助金の今年末廃止を決定するなど、過剰漁獲を解決するための規律強化に理解を示している。
(2004年5月31日付「水産新聞」13面)

最初に引用しましたが、水産物の関税って、たった4%だったんですね。
意外に低い関税で、これじゃ、保護しているとは言えません。
私たちの小型漁船漁業では、安値=大漁+輸入、という等式から、安くてもあきらめムードです。
しかし、政府に何かしてもらおうという気はさらさら起きません。
日本は、他の輸出産業で、富を海外からいただいているわけで、水産物の低関税は、しかたがないかなあ、と思っています。
各国が水産物に関して、完全自由化せよ、というのなら、自由化してもかまわない。
それほどすでに打ちのめされているので、今さら「保護」と言われても、ピンときません。
どうせ、商社は、自分たちの都合のいいように輸入しますし、彼らは「地産地消」というスローガンをゴミみたいに思っているでしょう。
完全自由化するなら、年に1%ずつ関税を下げていって、水産関係者に猶予を与えるようにするとか、ある程度配慮しながら自由化するほうがいいかもしれません。
4年で完成です。

ところが、よく考えると、そうもいきません。
資源管理問題があります。
国内では資源管理していますから、国内生産量というのは、今後極端に増加するということはないでしょう。
輸入もそれほど変化がないなら、値段はそこそこに安定します。
ところが、輸入が完全自由化されれば、資源管理していない国からの輸入は脅威となります。
その国を便宜上、A国とします(アメリカじゃないですよ。本当にテキトー)。
A国であまりにイカが獲れすぎて、A国内でイカの値段が大暴落したとします。
A国内でどうしてもさばけないから、金満日本へ安値で輸出すれば、在庫処分できて、A国の冷凍事業者や漁業者は利益を得ます。
ところが、日本はスルメイカを漁獲制限していますから、いくら大漁でも、制限量以上は獲れません。
輸入でイカ類が安くなっていて、その安値をカバーするために漁業者の側はたくさん獲りたい。
が、できない。
そんな状況が生まれてしまいます。
これじゃ、とてもじゃない。
ご飯食えない。

そこでこんな状態にならないように、やはり完全自由化というのは、認めることはできないんです。
少なくとも、TAC制度導入魚種、その他資源管理を厳格にやっている魚種に関しては、完全自由化を拒否すべきです。
国内の供給量が少なくなる時があって、つまり不漁となる年などは、そりゃあ、消費者のことも考えて、輸入を増やすことには賛成です。
これはしかたがないことだと私も思います。
そこで国内需給を見据えたIQ制度を維持すべきでしょう。
これは論理的に正しいと思います。

先ほどのA国でも、獲り尽す漁業をやっていれば、いずれ資源は減ります。
そうなった時のA国内の水産関連業は、衰退していくことでしょうから、A国にとっても良いことではありません。
また、今後の地球上の食糧確保を考えると、資源管理型漁業というのは、重要な位置づけとなってきます。
一部の、そして一瞬の利益のために、何でも自由化というのは、許されるものではないと思います。

WTOの各会議において、日本は、以上のメカニズムを説明し、完全自由化を阻止すべきです。
また、その代償は、日本の輸出産業に向けられるかもしれませんが、今まで漁業を犠牲にしてきた代償だと思って、大企業群は、私たちに一歩譲るべきだと思います。

それにしても、引用した記事の最後のほうに、「反漁業」NGOがあるというのは驚きです。
びっくりですよね。
また、EUに「漁船建造補助金」というのも驚きですね。
そんな補助金があるからこそ、日本への輸入も安上がりになるんでしょう。
「日本にも漁業補助金があるだろう」というお叱りを受けるかもしれませんが、少なくとも、零細な漁業者にはそんなものはありません。
制度として、間接的にはあるといえばありますが、オカの上の人たちに比べれば、かわいそうなくらいです。
(2004年6月5日)



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