魚菜王国いわて

農業分野でも地球上を危機に陥れるアメリカ

遺伝子組み換え生物(GMO)入りのトウモロコシを食べたブタの繁殖行動に異常が出たらしい。
人間の食に対しては一般に遺伝子組み替え食品というが、動物が食べる飼料作物もあるので、遺伝子組み換え生物入りの作物のことをGMO作物と呼ぶ。
ブタの異常繁殖行動について、次に抜粋引用する。

アイオワ発の最近の報告によれば、Btトウモロコシを餌として与えているブタ肉の生産者が、ブタの不可思議な偽妊娠状態を経験しているという。原因はマイコトキシンのようだが、Btトウモロコシ給餌を中止すると正常な繁殖行動に戻った。Bt作物を管理しているアメリカ環境保護庁は、Bt作物が動物の繁殖に及ぼす影響を確認するテストは義務づけていない。
(以上、「WORLD・WATCH」2002年11/12月号p15)
Btトウモロコシは、天然の殺虫剤ともいえる殺虫性芽胞細菌(Bt)の特徴を備えた遺伝子組み換え種を作るために操作が加えられたトウモロコシのハイブリット種で、特許が与えられている。
Btは一般的な殺虫スプレーとして広く利用されている。自然のBtは、標的となる昆虫の消化器官に到達するまでは無害である。しかし、遺伝子導入Btは、常に活動するよう遺伝子が組み替えられており、Bt植物の生活環を通して毒素を発散しつづける。遺伝子導入Btは、標的とする益虫だけでなく、ミドリクサカゲロウのような標的でない種までも危害を加えるが、これらは、自然界の害虫駆除役として高く評価されている昆虫である。
トウモロコシは周囲のすべてのものに花粉を撒き散らすという、見事ながらやっかいな状況の中で繁殖する。
Btトウモロコシは常に殺虫毒素を発散しているので、周囲にあるものはすべてBtにさらされている。その結果、昆虫は、いつかBtへの耐性を発達させることになるだろう。そうなれば、自然界のBtまでもがその効力を失い、世界中で有機農業や従来の農法に携わっている農民に深刻な被害が及ぶだろう。
(以上、前掲書p17)

これは、「WORLD・WATCH」11/12号の「遺伝子組み換えトウモロコシが伝統文化までを危機にさらす」からで、メキシコでのある出来事を記事にしている。
トウモロコシは、今から約8000年前に、メキシコや近隣の野生の草が栽培植物化されたものであり、当時の農民の子孫が今でも在来種を栽培し続けている。
その中で、GMOが発見されたのは大事件だった。
すでにアメリカからのGMOトウモロコシの輸入で、この地の農民は頭を痛めており、そのGMOトウモロコシのほとんどがBtトウモロコシだといわれている。
そのことがまた事態を深刻にしている。

ちなみにトウモロコシは、コメに次いで世界第2位の主要農作物。
アメリカのGMOを使った単一品種主義は、アメリカのアグリビジネスを支えるものだ。
しかし、これは非常に危険な考えであり、メキシコや中央アメリカの、非常に豊かな多様性を滅ぼすものである。
何とこの地には、今でも2万種を超えるトウモロコシが栽培されている。

アメリカのずるさは政治戦略にある。
次の文章でそれがわかる。

多額の助成金を受けたアメリカ産トウモロコシとの価格競争にはどうしても勝てない。メキシコは、NAFTA(北米自由貿易協定)のもとで、買い支えや農民への助成金を廃止した。しかし、アメリカは、最新の農業法案では、向こう6年にわたって生活必需品の生産者に対し1,800億ドルを拠出する予定である。GMOは、この必需品助成システムの一部である。その結果としての過剰生産が意味するのは、アメリカの農民が底値をつけ、他の国の貧しい農民は市場から追い出されるという図式である。
メキシコの数百万の地方農民はいまでも、クリオーヨ・トウモロコシ(在来種)を栽培し続けている。自家用と地元での消費以外に、トウモロコシの遺伝子多様性の有能な管理人としても活動していることになる。しかし、世界の農業遺産への貢献は認められず、また何の見返りもない。政府による保護措置もない。一方で、NAFTAが発効したことで、アメリカからのトウモロコシの輸入は18倍に増加した。
(前掲書p20)

このメキシコ農業の今後はどうなるのだろう?
この記事では、悲惨な結果をすでに示している。
離農した人たちの生活も悲惨だという。
ダンボール暮らし。
メキシコで離農した人が、今度はアメリカのGMO農業に就き、メキシコで在来種を守っている人たちと対立することが起きるかもしれない。
まだ、そのような事例はないが。

アメリカの覇権主義、属国支配、植民地支配、世界支配はいつまで続くのだろう。
先進技術の進歩に疑問を投げかける文章を、次のように「ワールドウォッチ」は書いている。

トウモロコシは順応性に富んでいるので、農民が望むように育つ。アメリカでは、主要農産物を栽培する農民は、トウモロコシに対し、並外れた生産性と均一性を求め、それが実現している。その収量を達成するには、肥料などの化学物質という形のエネルギーを大量に投入しなければならない。したがって、企業が所有する遺伝子を持ち、均一で、営利目的で作られるGMOは、産業文化の要請から生み出されたものに過ぎないと言えるだろう。そこには、トウモロコシを生物学的機械と同様に扱い、一掴みのハイブリット商品に依存する農民を育てる一方で、高い生産性と収益性とを重視する文化が反映されている。
一方で、シエラ・ノルテ山系の農民は、遺伝子の多様性と自由・自立を重んじる。食料をトウモロコシに依存するすべての人々の健康や環境と密接につながった、その生態学的な背景のなかで、トウモロコシを生き物として捕らえている。農民らは、ストレスの多いさまざまな条件下での栽培を余儀なくされ、それを実践している。大量生産重視の農民に比べ、収量は少ないかもしれないが、大量の化学物質を使うこともなく、種子の保存や交換も自由である。その結果、土地に根ざした文化を維持しながら、高度な自主性を保ってこられたのである。
科学は、産業重視の見解も伝統重視の見解も支援するものだ。しかし、農業関連のバイオテクノロジーの場合、残念ながら、科学が技術に乗っ取られてしまった。それも製品が社会や環境、文化に与える影響を考慮しない営利目的の技術にである。
(前掲書p26)

メキシコ先住民社会は、このアメリカ侵略に対して、地道に多様性を守る努力をしている。
彼らは、先進国型の経済の終末を、もしかしたら予測できているのかもしれない。
彼らの伝統・文化を示すものとして、「WORLD・WATCH」は「互恵主義」を紹介している。
それは、トウモロコシの存在がそうしているのだという。
彼らは、自分たちのできることを分かっているし、それ以上背伸びしようとしていない。
先住民には先住民の生活があるのだ。
今の情報社会では、自分たちの伝統を守り通す方が難しい。
私たちは、彼らから生き方を学ぶべきだろう。

このことで私たちに何ができるのだろう?
幸いにも、日本では原産地表示が徹底されつつある。
偽装問題もあらゆる分野で表面化し、国民全体がこの問題に関心を寄せている。
遺伝子組み換え表示もしっかり定められていて、ここはメキシコとは大きく違う。
メキシコは遺伝子組み換え表示はないのだそうだ。
冒頭のブタの繁殖異常の事例から、遺伝子組み換え食品、すなわち、GMO作物の危険性はないとは言えないだろう。
しかも、これらは、世界の農業の敵である。
日本でも有機農業が見直され、岩手では有機農業が武器となりつつある。
GMO作物は有機農業の敵であり、日本の農業を守る上でも、遺伝子組み換え不買運動はあってもいい。
(2003年1月17日)



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