魚菜王国いわて

朝鮮総連

新刊書の案内を、何かの週刊誌で見たときです。
「朝鮮総連」という新書案内がありました。
普通はどうでもいいような本ですが、どういうわけか目に留まりまして、買い置きしていました。
私は、学生時代、在日朝鮮人の方の焼肉屋さんで、アルバイトを3年近くしまして、その時の噂話や後の朝銀破綻問題、そして、パチンコ屋さんなどの収益金の北朝鮮送金の噂などなど、頭の中にいろいろぐちゃぐちゃになっていました。
そのためか、題名を見ただけで興味津々。

内容は朝鮮総連そのものを描いており、筆者が金賛汀という在日朝鮮人でありながら、朝鮮総連以前の組織から現在に至るまでを、厳しい目で見ています。
私が興味深く読んだところは、何といってもカネの動き。
カネ!カネ!とウルサイかもしれませんが、特に地方の経済は、カネの出入りに敏感にならないとダメだと思うんですよ。
このことは「地元でモノを買うということ」で扱ってますし、その中でパチンコ屋さん経由で市外に70億円流出している、ということを話題に挙げていることもやはり関連がありますから。

朝鮮総連初期(結成は1955年)の頃は、北朝鮮から教育援助金が送られていました。
この援助金は、1957年4月に1億2109万円、その半年後にも、ほぼ同額が送られてきています。
この当時の1億円は、現在の十数億円に相当するそうです。
その後、この教育援助金は現在まで続けられ、最高は1975年の年間37億円で、2002年までの総額は448億6000万円となっています。
私には意外でした。
てっきり、日本から送金されてばかりいるのかなあ、なんて安直に考えていましたから。

「北朝鮮送金問題」のことがよく話題になりますが、しかしこれは、在日同胞の人たちにとっての祖国、北朝鮮への献金だったのです。
この発端は、故金日成の還暦に対して、大々的な贈り物をしようとしたことにあります。
この贈り物活動は、朝鮮総連内の権力争いとも絡まってエスカレートし、半ば強制的に商工人たちに多額の献金要請行ったため、朝鮮総連を離れる商工人に増加した、とされています。
この時には、総額50億円以上の物資が北朝鮮に送られ、献金活動に味をしめた北朝鮮は、新たな献金事業を考えつきます。
それが「短期祖国訪問団」。
この訪問団の往来を、日本政府が認めたのが1979年です。
この事業には参加者が殺到し、しかし参加者は朝鮮総連に寄付を要求されたのです。
第1回の訪問では、1000万円以上の寄付をした人たちも少なくなかったらしく、1回の訪問で2億から3億集まり、それが年間15回から20回あれば、北朝鮮の収入は、年間30億から60億にもなります。
その内容は悲惨で、人道的な事業のはずが、カネをむしりとられたんですねえ。

次は朝銀信用組合。
日本国内の民族差別が原因で、日本の金融機関から融資を受けることが困難であるという理由から、朝銀信用組合が設立されました。
この時、朝鮮総連は、活発な設立活動をしています。
日本金融界の在日差別への怒りから、資金が集まったということは、誰もが想像できるものだと思います。
しかし、「鯛は頭から腐る」(佐高信いわく)のです。
上記献金活動のために、朝鮮総連は、この錦のはずの朝銀信用組合を利用しはじめるのです。
その手口は、一般にニュースになるようなものから、露骨に信用組合職員のボーナスを天引きするようなケースまで。
さらに、朝鮮総連系パチンコ店(つまり、従来の在日経営とは違う。公的組織が行う事業は、どこもダメだ、ということがここでもわかります)がバブルに乗ってあちこちに(特に、わが東北に)進出し、失敗します。
これらの結果、朝銀信用組合は破綻します。

以上のような朝鮮総連の強制的な献金活動が、総連離れを加速し、さらには、在日の権利擁護とは反対の方向へと走り出したため、祖国幻想に在日が気づき、夢から覚めた多くの在日は、「日本社会との共生」へと賛同するようになります。
この「日本社会との共生」というテーマに、民団という在日の別組織が同調してから、朝鮮総連は、在日の権利権益を阻害する団体へと変容したのです。
その結果を次の一文が示しています。

総連組織不信の表明として、外国人登録証明書の国籍欄から「朝鮮」を消し、「韓国」に書き換えることを役所に申請する在日朝鮮人が続出している。
(「朝鮮総連」p200)

その他、北朝鮮への総連幹部家族の「人質」作戦など、悲惨な事情がこの本には描かれています。
在日の金持ちが、その辺に目についたりしますが、きっとそうでない人の方が多いような気がしてきました。
さて、朝鮮総連の送金額についての記述がちょっとだけありまして、意外にもこれが少なかったりします。

1980年代から90年代後半まで朝鮮総連が北朝鮮に送金した金額は、日本ではさまざまな噂や怪説が流布され、年間1000億円が渡ったなどと、あたかも見てきたような嘘を述べる人もいる。しかし、在日同胞の経済活動の規模を知る者にとって、そんな数字は到底信じられるものではない。この時期、進行していた在日商工人と北朝鮮との合弁事業の投資金額や有力商工人から私が聞いた話を総合してみると、実際のところは年間100億円を超えることはなかったと思われる。1980年代に入り商工人たちも度重なる献金要求に嫌気が差し、不平不満が強まっていったからだ。
(前掲書p141)

宮古から流出する70億円のカネから考えると、送金100億円というのは少なすぎる気がしますが、まあ、建設費用に対する返済や経費そして贅沢費(ホント、金持ちの在日は贅沢をしてます。当たり前か!)で消えているんでしょう。
で、この本を読むと、在日の人たちも私たちと同じ人間だというのが、描かれている渦巻く感情からわかります。
ホント、み〜んな同じなんですね。
在日の方の話をするなら、まずこれを読んでみてもいいと思います。
(2004年10月11日)



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