魚菜王国いわて

「異議あり!日本の裁判」

この本を書いた池本美郎氏は、検事を退職し(いわゆるヤメ検)、弁護士に転身しています。
法曹界全般に言及し、積極的にどこが悪いのかを指摘し、提言しています。
さて、みなさんは次の記述をどう思うのか?
多いと思うのか?少ないと思うのか?

日本の刑事裁判では無罪判決は0.1から0.15%の間だ。
(「異議あり!日本の裁判」p17)

そのあと本書では、「裁判所は信用できない」、「警察は信用できない」と具体的な事例を挙げて続けています。
いったん起訴された刑事裁判を、覆して勝訴するのは非常に難しい、ということを示すこの数字は、「法律学の正体」の「価値判断が先に決まって、それから条文解釈をする、法的構成をする」を証明しうるものです。

「異議あり!日本の裁判」では、裁判官の資質を非常に疑問視しています。
そう、裁判官の価値判断が狂っているから、無罪判決率が非常に低いのだ、と結論付けることができます。
どうして裁判官の価値判断が狂っているのか?
それも「法律学の正体」で書いています。

池本弁護士の場合は、具体的にこう記述しています。

私は異論や強い反対意見のあることを承知であえて言うが、法律家には数学的な思考が重要であり、法学部受験の必須項目に数学を含めなければならないと考えている。某有名弁護士は法学部に数学は必要ないと強調していたが、私はまったく正反対の見解である。
数学のどの法則やどの定理が法律実務家に必要だというのではなく、ある一定レベルの数学の理解力や思考形態が必要だと思う。法学が文系だから数学、理科は必要ないというのではなく、法学も社会科学である以上、少なくともある一定レベルの数学的、理科的思考能力が必要である。要は文系と理系のバランスの取れた理解力が必要なのである。
たとえば刑事訴訟法には「事実上推定された事実」という概念がある。これはAという事実から自動的にBという事実の存在を推認することが一般的に極めて合理的かつ確実であると考えられる場合、このBが事実上推定された事実に該当する。従ってA事実が証明されれば、新たな証拠を要せずにB事実が証明された扱いとなる。そして、このA事実からB事実の存在を認定する課程に、ここでいう数学的思考能力が要求されるのである。
今、わが国では法政策として法律家の数を激増させようとしているが、そんなことをするとこの数学的思考のない者が裁判官になる弊害がもっと顕著となろう。真に需要なのは裁判官や弁護士といった法律専門家の数の増加ではなく、裁判官に求められている最低限の素養を備えた人物がその職にいるか否かということだ。
(前掲書p23)

裁判官をボロクソに書いているこの本を読むと、誤認逮捕、誤認起訴されないことを願ってやみません。

また、政治に対する言及も考えさせられます。
今、日本道路公団の民営化が行われようとしていますが、池本さんは、破産法から民営化反対を導いています。
読めばなるほどと思う内容です。
民営化してその会社が破産したとしても、破産法に基づいて道路を解体できるかどうか、という視点から見れば、それは否であることは誰でもわかります。
結局、国が道路を維持することになるでしょう!
しかし、やみくもに道路を延々と作るわけにはいかない。
この道路に関しては、はっきり増税で対処すべきことは、当サイトで書いています。
この本を読んで、「民営化はすべきでない」と私は結論付けます。

本当は、お役人や政治家がしっかりしたものの見方をして、それを国民に説明し、実行すればいいのでしょうが。
お役人、政治家の資質も問題で。
あれ?
結局そうなると、もともとの教育が悪い、っていうことになります。

アメリカのエゴによる世界支配にも苦言を呈しています。
最後に、一つの文章を転載します。
力強い文章です。

(検事時代:hajime注)米軍基地の所在地に赴任し米軍とじかに接したからこそ、歴史認識を新たにすることとなった。国内に外国たる米国の軍隊が堂々と駐留しているのが、いかに異様なことであるのか。歴史的にみて、わが国が今ほど屈辱の時代はないと実感したのである。日本の歴史上、他国の軍隊が国内に駐留しているのは現代においてほかにない。後世において現代の日本が屈辱の時代と、歴史評価される気がしてならない。
政治家は日米安全保障条約があり、日本の安全上、米軍の基地が必要だ、それが世界情勢というのだろうが、わが国が滅びようがどうなろうが他国の軍隊に守ってもらうよりはましではないか。
ドイツやその他の国にも米軍の基地があるというが、不謹慎ながらその意味の限りではオサマ・ビンラディンに同感である。私は今、米軍基地が世界中に点在していることを誰も非難しない点で、日本国中が、否、世界中が狂っているとしか思えない。それとも、私が狂っているか。
私は米軍基地が日本から撤収しない限り、太平洋戦争の決着はつかないと考えている。
(前掲書p167)
(2002年12月14日)



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