あわ〜ストーンU

気ままに訪問記

この文章の著作権は「あわ〜ストーン」にあるので、無断で引用・改変等しないでね。寄稿者には了解済みです。
1.あの日あのときあの場所で
 最初は僕から。
 僕がまだ小学生だったとき、親戚のおっちゃんが山に石採りに連れててくれた。化石採りは何回か行ってたので今度は何を採りに行くのか楽しみだった。ところが、行ってみると化石なんか一つもない。その代わり赤や黄色や青や緑のいろんな石が落ちてた。きれいだったので何となくたくさん拾ってしまった。まるで桂浜の五色石だった。
 残ってる印象はこれだけ・・。そのとき拾った石なんか今はどこ行ったかわかんない。引っ越しの前まであったと思うけど、どさくさに紛れて捨てたかな?片づけが面倒になって窓から外へ放り投げたのかもしれない。
 今はそれをものすごく後悔してる。おぼろ気な記憶の中で金色の石と赤色の石だけ鮮明に思い出せる。たぶん金色は黄銅鉱だと思う。でももっと金色だったかもしれない。ひょっとして金かな?赤色は透き通ったきれいな結晶だった。白い石の中に入ってた。たぶん石英だろう。その中にビシッという感じで入ってた。おそらくルチルだ。
 □山だ。それを拾った場所は・・。どこだったっけ?どうしても思い出せない。拾った場所は二十年前、捨てた時期もまだ十年くらいしか経ってないのに。そのときはあんまり気乗りがしなかったせいだろか。サークルに入ってしばらくしてから気付いた。僕はとんでもない物を拾ってたかもしれないのに捨てちゃったかもしれない。
 メンバーからもよく聞かれる。どこで見つけたの?どこに捨てたの?わ〜ん、思い出せないよ。仕事が忙しくて遠くへ行くのがおっくうだから、近場の□山に行って散歩してる。何とか記憶を蘇らせようといろいろ歩いてるけど、なんか靄がかかったみたいにぼんやりしてるだけだ。健忘症なのかな?
 最近は無理に思い出そうとしてない。メンバーから、「それはたぶん最初から君の手元に残る物ではなかったんだよ。でも代わりにきっとそれに匹敵する何か良い物がやって来るよ。」と言われた。それから三年、僕の手元に県内唯一の石がある。いや国内唯一かな、いやいや世界で唯一かな・・。話はどこまでも尾ひれがついて伝わって来るからこれくらいにしとこう。
 「一期一会」という言葉がある。人との出合いも石との出合いも同じだろう。人の方は相手次第で良くも悪くもなるけど、石の方はこちらがきちんと相手すれば答えてくれる。そういった出合いを大切にしていこうと思ってる。
更新日時:
2013/06/01
2.ルチルの神様(その1)
 次は私が投稿させていただきます。
 どのくらい前になるだろうか?ある日、自宅から高越山の方角を見ていると青白い炎を出しながら落ちていく物体があった。とっさに火球(きわめて明るい流星)だと思って、その落下地点を見極めようとずっと見ていた。やがてそれは山間にスッと消えていった。
 それから数日経って現地を訪れた。落下の痕跡がないかと山の斜面や谷川を歩いてみたが何も見つからない。そうこうしているうちにいつもの谷川へ降りていった。そして、足元の砂を何気なく見ていると金属光沢のある結晶がたくさん落ちていた。
 最初は黄鉄鉱が錆びているのかと思った。しかしよく見ると桃色というか小豆色をしている。目を疑ったが自分が持っている数少ない金紅石と同じだった。慌ててそこの砂を掘ってみるとまた分離結晶が出て来た。30個くらいはあったかもしれない。大きい物は長さ3cmで、厚さ1cmもあった。
 金紅石(ルチル)は二酸化チタンTiO2からなる鉱物で、柱状または塊状の結晶として産出する。色調は黒色か赤色が主で青味や黄色味を帯びることもある。一般的な結晶はミリ単位以下のルーペサイズがほとんどだが、四国の三波川帯ではセンチ単位が採集できる。
 特に徳島県眉山や愛媛県別子山などが有名産地である。現在のところ前者はコンクリやアスファルトに埋もれて無理だが、後者は今でも頑張れば採集できる。また、愛媛の関川や国領川、高知の汗見川でも見つかっている。そうしたなかで、最近にわかに脚光を浴びだした産地が高越山である。しかし、何度も現地を訪れて探したが私自身は6年間でたった2個しかゲットできなかった。ところが、ついに母岩に大量に含まれるルチルを発見したのであった。
更新日時:
2013/06/09
3.ルチルの神様(その2)
 白い石英の巨岩表面に大小無数の結晶が散りばめられていた。それが最初に見たときの印象だ。砂から露出している部分だけをじっくり隅々まで観察すると、かなり多くのクラックが入っていた。下手に割るとせっかくの石が粉々になってしまう。焦りと興奮を辛うじて抑えてここぞと思う場所に少しずつハンマーを当てていった。
 2時間近くが経過してようやく岩盤が離れた。この間何度も作業を投げ出しそうになったが、休憩を挟んで地道に行うことで何とか標本になる物を採集できた。後に某学会誌に掲載された物や40cmに渡って鉱脈が続いている物など、博物館級の標本がいくつか採れた。また、分離結晶や参考品程度の物も袋詰めにできるほど見つかった。なお、これらの一部は後ほど現地に返している。
 また、その2日後には緑泥片岩中に含まれるルチルを発見した。1枚目は40×20×5cmでミリサイズの結晶が60個、2枚目は60×30×10cmで結晶がなんと120個も含まれていた。かなり重かったので割ってしまおうと思ったが、その大きさと結晶数がレアであることに気付いたので、両手に抱えて急な斜面を必死によじ登って車まで運んだ。
 こうして6年間ほとんどボウズだったのがウソのように、僅か2日間で300個以上の結晶を採集できたのである。まるであの火球が私をこの場所に導いてくれたかのように思えた。あれは神様か誰かだったのかも知れない。
 この幸運を自分だけのものにするのはどうかと思ったので、博物館や学校などに寄贈したりメンバーに手渡したり希望者に送って上げたりした。また、イベントに参加した子どもたちにも記念品として配布した。自然に関心を持つ理科少年少女が増えてくれることを期待している。
更新日時:
2013/06/09
4.ホタルとカッパの思い出
 僕が小さい頃、近所の川にカッパがいた。ホタルがウワッと湧いて出てくるような場所だった。遊び仲間と一緒に見ていると暗い水面から手のようなものが伸びてきた。僕の足を掴んで引きずり込もうとした。恐ろしくなって必死に抵抗し、周りの子も一緒に引っ張ってくれたので助かった。あのときの恐怖を今も忘れない。
 またホタルの季節がやってきた。今はそれほど怖くないけれどやっぱり見に行くのは怖い。幻想的できれいと人は言うけれど、ホタルは死者の魂が飛んでいるとも言う。たった1週間かそれぐらいで死んでしまうとても儚いものだと思う。そして、その下の川ではカッパが今も人を待ちかまえているかもしれない。
 20年前に岐阜県の平岩鉱山へ行ったことがある。有名なホタル石の産地で日本全国から鉱物マニアが集結するような場所だ。確か鉄の融解温度を下げる性質があったはずで、製鉄所などで使うために掘っていたと記憶している。小学校の前に駐車して小さな橋を渡って山道を歩いた。15分くらいで大小2つのズリ前に到着した。
 そこから溝を渡り細い道を登り、ズリの山頂みたいな場所で土を掘った。汗まみれ泥まみれになって掘り続けると、赤く酸化したような石の表面に緑色のホタル石が付いていた。よく採れるのが白・緑・紫で青とか茶色は珍しい。きれいな結晶も大きい物は少ない。
 道を尋ねたおばちゃんの話ではたくさんの人が来ているという。家の裏側が貯鉱所だったとかで今も小さい石が転がっている。厚意に甘えてしばらく拾わせてもらった。お返しに帰りの食料や水を買った。そのとき見せてくれたホタル石はとても見事だった。3つあったらしいが目を離した隙に盗られたらしい。
 今ここは立入禁止になっている。地元車と県外ナンバー車の事故、山道を車で塞ぐ、近所で盗難事件が相次ぐ、山道をズリの石で荒らす、ケガする人がいる、とにかく来る者のマナーが悪くて地元民が迷惑しているのでそうなったらしい。
 こうしてホタルは思い出の中に生き続ける。カッパには二度と会いたくないけれどそれも思い出の中だ。それは一夜のワンダーランドだったのかもしれない。
更新日時:
2013/06/10
5.エチュード(練習曲)
 石採りの経験はみんなの中でたぶん一番長いと思う。父親が石好きで物心ついたときから石拾いに行ってたから。でもそんな勉強して行ってた訳でもないんで、今でも庭には未だによくわからない石がたくさんある。
 インターネットが普及しだして情報集めがしやすくなった。そんなときあるサイトを見て、愛媛県土居町の関川という大きな川原が鉱物の産地だと気がついた。この近くには用事でたまに行っている。そのついでに寄ってみようと思った。また、サイトにはザクロ石がたくさん転がっていると書いてあった。ザクロ石ってことはガーネットだね。まさか1月の誕生石がそんなにたくさんあるはずないと思いながら、ある小春日和の日に訪れた。
 記事のとおりアリーナ近くのコートに駐車して早速川原に降りていった。すると、すぐに赤色の粒がたくさん入った石が目に飛び込んできた。本当にザクロ石だった。その周りを見渡すとあっちこっちに赤粒が点在している。次第に興奮してきて目に入るザクロ石を次々に拾い集めていった。それでも少しもなくならない。余計に目立つようになり拾わなければならない量が逆に増えていった。
 しばらくしてようやく気持ちが落ち着き、自分が採った石を見返してみた。同じような石ばかりを拾ってしまったことに気がついた。形の良い物だけを選んでリュックに入れた。そしてまた、見た目のきれいな物や変わった物などを集めていった。たぶん2時間くらいいただろう。リュックだけでなく車のシートにもトランクにも石ばかり載っていた。ほとんどザクロ石ばかりだっった。
 石採りを始めるときは出だしが肝心なんだ。そこそこ採れて楽しいと感じられたらそれにハマッてしまう。だから最初の曲選びのように産地選びは慎重に行いたいものだ。そのサイトは今はなくなってしまったけれど、もらった情報とアドバイスだけは今も大事に保管している。おかげで毎月1回は石採りを楽しんでいる。身体が弱るまで続けたいと思う。それがとても幸せなことなんだ。
更新日時:
2013/06/26

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Last updated: 2014/1/2
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