エンジンチューニング



スタボンの社長のお宝、1982年の筑波のレースのステッカー。出場者のみの非売品。
真鍮のエッチング仕上げだ。こういうモノがスタボンで掃除をするたびボロボロ出てくる。
トロフィーや習志野レーシング「ラッテストーン」の入賞の盾なんか、片隅にゴミと一緒に
放置されてる。勿体無いが、社長は「過去は振り返らない」だそうだ。んー、シブい。




エビスサーキットで知り合ったコから、毎日の様に、携帯メール
が来るので、いちいち返してたら、ある日我が家に、福島県いわき市
名産の、魚の干物詰め合わせが届きました。お礼のメールをやると、

「今度、山形に、花笠祭り見にいくのー。」

と返事。うーん、このまま行くと、宅急便に本人が入って
我が家に来るのじゃないだろうか?あんだけイイ女だと、そんでもいい
けど(爆)。いやいや、イカン。熟慮して、メールの回数を減らしました。
アジの干物をおいしく頂いて(智ちゃん、あんときはご馳走様。)、
改めて、サーキットの事を考えます。第一に「遅い」という現実。これは
相手が悪すぎます。VX−RやK、BDGに直線で負けるのは当然。
しかし、仮に私のバーキンが100馬力としても、100馬力なりに楽しく
走行出来るはず。しかし、そういうレベル以前に、エンジン不調でエビスの
あの坂を登って行きません。うーん、仙台のB−SEVEN’Sの中では、
一番エンジンの調子がいい、と羨ましがられるのに。これは、スタボンに
聞きに行こう。


スタボンに相談


社長 「で、調子が悪くて、走行を棄権したのか?」

俺様 「そうなんですよ。困ったなあ(汗汗)。」

スタボンで社長に相談します。ホントは女としゃべるのに夢中で
走行時間が終わったなんて、言えません(笑)。色々症状を説明します。

社長 「んでもよ、何だかはっきりしないな。とりあえず、
    今日はマフラーにスプリングを付けるからよ。外すの手伝え。」

社長は言います。スタボンは、工賃が安い代わりに、整備は所々手伝わ
なければなりません。グループAのチームスタボン時代からの伝統です。
スプリングは前も付けてたのですが、マウントが、ただのワッシャーで、
見栄えが悪いのです。今回は差込部に注目して、4本の集合部へ刺さる所
の長さがバラバラなのでカットして揃え、きちんと接合する様に加工します。
97年型は管径が太く、「200馬力対応」なんてマルカツは言ってましたが、
昔の細いエキパイの方が出来はずっとイイです。

俺様 「最初期型の、等長4−2−1マフラー手に入りませんかねー?」

社長 「無理だろ。しっかし、このステンレス、材質悪いなあ。磁石はくっ
    付くし、溶接の火花が不純物でバチバチはじけるぜ。」

しばらくして作業終了。組み込むだけです。と、社長が、

社長 「ちょっと、エキパイ外した状態でエンジン掛けてみるか?」

と言います。これは自分もやったことがありません。やってみましょう。
おお、これはすごい爆音です。まるで飛行機みたい、と思ってたら、

社長 「ああー!!これを見ろ!!」

と言います。何でしょう?

社長 「2番と4番からアフター
   ファイヤーしてる!!」

おおー!確かに「ボオッ、ボオッ!」と青白い炎が出てます。まるで
バルカン砲の様です(笑)。綺麗です。「あー綺麗だなあ」

社長 「綺麗なんて。これはカム山が狂ってるよ!バルタイとかそういう
     問題じゃなくて、カムが最初から駄目カムなんだ。
     これだよ、不調の原因。」

ガーン。ショックです。社長は続けます。

社長 「これだけが原因じゃ、ないな。症状から言って、最低でももう一つ
    原因はあるはずだ。何かあるか?あるなら言ってみろ?」

俺様 「あー、そう言えば、」と思いました。


西蔵王


それは買ってから1年位の事です。
当時、何も考えず、足回りに鈴商のレース用スプリングを装着したら、
確かにコーナーリングスピードが上がったのですが、段差で異常に
はねて怖く、さらにアンダーが出て小回りが効かなくなったので(笑)、
ホームグラウンドを蔵王エコーラインや県民の森から、西蔵王に変更
したのでした。あそこは上りはそうでもないのですが、下りは暴走族対策で
路面に例のダカダカ跳ねる奴が一杯付いてて、非常にアクセルが開けずらい。
あそこは皆、上りに命を掛けてるので、下りはゆっくり行こう。アクセルペダル
には力を入れず、エンブレを効かしながら走ります。そろそろ、ガンガン走るか、
とコーナーの出口でアクセルをガン!と踏んだ!その時です。

「ボーボボボ....」

失火です。いや、失火というよりキャブがガスを吸ってくれない、と言うか、
何と言うか。「ゴロゴロ」言って前に進めません。何とも表現できん。

社長 「んー。で、それはいつも起きるの?」

俺様 「いやー、下りでエンブレ強めに掛けた直後、かなー?水温が上がると
    症状は無くなるのよねー。だからエビスではそれはなかったっす。」

社長 「!それだ。判った。」

俺様 「え!社長判ったの?教えてよ。」

社長 「いやだ。」

俺様 「ええー!なしてよ社長!」

社長 「このままでも、とりあえず乗れるから、そのまま乗ってろ。」

俺様 「原因教えてよ(泣)。カネ掛かんの?」

社長 「エンジン開けると色々したくなるから、掛かる。どうせなら、一気に
    やっちゃったほうがお前のためだろ。そこでだ、二つ、選択肢がある。一つ、
    ケントを止めて、4AGにする。AE86を丸ごと使ってT50ミッション、デフも移植。
    in,exとも304度のカムにして、メカチューンだ。プロペラシャフトは東名自動車に
    送れば8万で短縮加工が出来る。これと、もう一つの選択肢は、ケントをチューン
    することだな。たぶん、どっちも同じ位掛かるよ。俺的には、4AGだな。AE111の
    ブラックヘッド、あのコンロッド細い奴が回るのよ。5バルブを304のカムにして、
    キャブ着けると12000回転位、軽く回るぞ。公認代は別途だが、ケントのチューン
    と同じ位で収まるはず。家に帰って、良く考えるんだな。」

うーん。悩ましい選択だ。家に帰って考えよう。


ジャックポット


家に帰っても、どうしようか?と悩むトコです。

俺様 「どっしよっかなー?...」

個人的には、ケントが大好きです。確かにフルブレーキで油圧がゼロ
になったり、オイル滲みや今回の様なトラブルがあっても、なんとなく、これからも
長く乗っていけそうな気がします。気が合うのでしょうか?それに、ケントだって、
いじれば速くなります。昔、そういう奴に乗せてもらった事があります。

俺様 「ジャックポット....」

それはセブンを買って1年目の冬。自分のセブンが積雪で乗れないので、ショップ
巡りでもしようか、と近隣のショップに足を運んでました。そして2軒目に訪問したのが、
当時大宮にあった「ジャックポット」です。雑誌の小さい記事を頼りに、新幹線で
向かいます(アポ無しの飛び込みです)。交番が向かいの、小さな店でした。

俺様 「ごめんくださいー?」

すると、メガネを掛けた、いかにも気難しそうな社員が出てきました。

社員 「誰?社長は出かけてるよ!」

俺様 「あの、セブンを見せてもらいに来たのですがー、、」

社員 「大体、あんた何?そんな、人に物を尋ねるとき、腕組みして!
    社長が見たら、ぶっとばされるぞ!!(爆)ヤラレル前に、よく考えるんだな!!」

俺様 「こ、こ、怖えええー!」

大変失礼した事に気づかず、相手を怒らせてしまいました。まずいです。
恐怖におののきながら、社長を待ちます。すると、わざわざ、
「スーパーセブンファイル2」の端記事を見て山形から来た私が
珍しいのか、お客が20人位、ワサワサ集まってきました。そして、

全員 「魚屋のセブンを連れて来い!」

と口々に言い出しました。魚屋って?

全員 「魚屋が持ってるバーキンだ!!」

そのまんまです。しばらくして、赤いバーキンが来ました。それは、今まで
見たことの無い、ステンのピロ足と、煙突みたいなマフラーを装着してます。

魚屋 「三郎マフラーだ!見たことないだろ!」

三郎って、北島三郎?謎が深まります。そしたら、

魚屋 「運転してみろ!」

と言います。こんな街中、しかも交番の前で乗るのは気が引ける、
しかし運転させてもらいました。山形じゃ考えられない交通量の中、試乗。

それは、今まで乗った中でも最高の出来でした。バーキンでこの乗り心地。
嘘の様です。エンジンはビュンビュン回ります。足回りは特有の突っ張った
感じがまるで無く、しなやかで、剛性感がある、ブレーキもすばらしい!!

ジャックポットに戻ると、社長が帰ってました。

俺様 「感動しました!!」

すると1冊のアルバムを出して、バーキンの欠点と、対処法、オリジナル
パーツの説明を、写真を交えて説明してくれたのです。それは雑誌でも
見たことの無い、まさしく目からウロコ。パーツを自社開発してまで改良する
姿勢に深く感銘した次第です。聞けば社長はアメリカのコンテンポラリー社
で働き、退職金代わりにコブラを2台製作。日本で売って今の店を出したそうで、
お互いアメリカ帰りで気が合い、色々楽しく話す事が出来ました。何でも最近、
2000年度をもって、SA22C初代RX7専門店になったそうで、大変残念です。
(できればあそこでエンジンを組んでもらいたいと、思ってたのです。)

俺様 「...やっぱ、ケントだな。」

結論は出た様です。数日後、スタボンに行きます。

社長 「で、決心はついたか?」

俺様 「はい。」

社長 「やっぱ4AGだろ!お前も俺が組んだ、EP82に4AGぶち込んだ
    化け物を思い出すだろ!288°二本!2ストみたいなレスポンス!」

俺様 「あれは凄かったっすねー。ソレックスの音色。フォンフォンフォン!」

社長 「フォンフォンフォンでキャブはコァックァーだ!!」

俺様 「フォンフォン....いやっ!社長だめです。ケントで行きます!」

社長 「なしてよ?せっかくやる気出してんのに(爆)。」

俺様 「公認取れませんよ!」

社長 「大丈夫だって。俺、公認屋だぜ。タダじゃないけどよ(笑)。」

俺様 「OHVでお願いします!社長だって昔TSサニーやってたくせ!」

すると社長の顔色が変わったんですね。

社長 「分かった。だが俺が組むのは半端な奴じゃ無いぞ。いいんだな?」

俺様 「もちろんです。お願いします。」

社長 「じゃ、分かった。」

そしておもむろに電話したのですね。

社長 「ケントなんだけど。カムは○○位で...ハイコンプ...いい奴よろしく。」

電話を切ると、

社長 「探しとくから。お前は仕様と予算決めて来い。カネは前金だぞ。」

と言ったのでした。