ダイヤモンド産業社
社長の愛車「TE27」と、俺の愛車「AE86」。FRの頃のレビン、トレノが、日本の
ワインデイングにベストマッチ、と言うのが社長と私の共通見解。「日本人用の、
日本メーカーによる、日本のワインデイングの為のクルマ。」まさに、素晴らし
いパッケージングだ。「じゃあ、セブンは?」んー、どっちかって言うと、サーキット
向けじゃない?(笑)
山形セブンクラブには、かつて、セブンで仙台ハイランド
のコースレコードを叩き出した方が存在します。彼が結婚
した時にそのセブンは売却され、クラブから脱退されました。
その直後に私が加入したので、その方とは面識が無いのですが、
聞くところによると、そのセブンはなんと、Iアーム時代の旧式
のケーターハムケント!それにデイーゼル用のブロックを新規
に購入。1800ccまで限界ギリギリまでボアアップされ、チューニング
費用は100万円だったと聞いてます。
(車体はフェロードのパッド入れた程度だそうです)
なんか、ネットでそのセブンはチラッと出たりしてるみたいですが、
それが本物かの確証は無いです。組んだのは仙台の「パドックパス」。
何でも、当時優秀なメカニックがいて、その方の作品らしいのですが、
100万という予算から想像するに、脱着30万、組み付け20万、
加工代10万と仮定すると(笑)、パーツ代は40万弱。
831AXブロックは27万位するはずなので、あとはピストンとカム位。
ビッグバルブなんかは入ってない仕様。耐久性は完全に無視して、
あんまり上まで回さずにトルクでグイグイ走るタイプでしょうか?
その仕様で仙台ハイランドのコースレコードを出すくらいなら、今回、
私が組むケントはどうなるのでしょうか?楽しみです。
購入したパーツはスタボンに搬送せずに、ボーリング屋に直接送り込みます。
パーツが来るのを待たずに、山形でエンジンをばらして加工に送り出す、
今回は最短コースで行く事にしたのです。では、早速バラシだします。
社長 「バラす時は勢いが大事だ!しっかり働けよ。」
相変わらず、スタボンで作業する時は、オーナーも手を汚します。
私は補機をサクサク外して、エンジンを外し出します(社長は見てるだけ)。
社長 「なんか、斜めにしないと、フレームに当たって外れないな。」
俺様 「社長!社長がやったら、もっと早いんですかねえ?」
社長 「おうよ!B110のプロダクションで勝つと、オフィシャルから、今から
エンジンのメタルとピストン、外して見せて下さいって言われるのよ。再車検
って奴だ。これをしないと失格になるし、順位も確定しない。俺は30分しないで
見せられた。嘘だろ?って言われたよ。クラッシュすると、ボデイは捨てて、
使える物だけ持って帰るんだけど、3時間で全バラ出来た。最速だったよ。」
とうとうエンジンがハンガーに乗りました。ケントは、ブロックのベルに結合する
ボルト穴が弱々しく、そのままハンガーに乗せるとクラックが入りそうなので、
専用のアダプターを製作して載せました(皆さんのショップはどうしてますか?)
エンジン台に乗ったケントエンジンは、あちこちオイルにじみがあり、汚いです。
目を疑ったのが、油圧計のチューブがビニール製で、触ってるうちにバラバラと
フィッテイングが壊れ出しました。
俺様 「あらら.....。」
社長 「これ、自動車部品じゃないよ。工場の製造ラインとか、タイヤチェンジャーの
エアーの配管に使うワンタッチカプラー。オイルで3キロ圧で使うのは自殺行為だ。」
命拾いをしたみたいです。では、早速エンジンをバラシだしましょう。ここで、
私はスゴク心配してたんですねー。知っての通りバーキンは、あの底が平らな
オイルパンのせいで(他にも原因がありますが)オイルを空汲みしてしまうのです。
しまいには、子メタルが焼きついてブロー、ブロックから足を出してしまう個体が
非常に多いのです。かく言う私も、フルブレーキで油圧ゼロを何回か経験してるので、
気が気ではないです。一体どんな状態なのでしょう?
社長 「おおー!これは!」
俺様 「ど、どうしたんです!?」
社長 「これだよ、不調の原因。」
それはヘッドガスケットでした。2番と3番の間が黒く焦げてます。
社長 「ヘッドガスケットが、吹きぬけてる!」
俺様 「俺の熱い走りが原因ですか(笑)。でも、ガスケットだけ交換
しても、そこそこ走るんじゃあ.....?」
社長 「馬鹿だなあ。こないだ、点火時期進めただろ?後は強めの
エンブレがとどめを刺したな。少しずつ漏れてたから、気づかなかった
だけだよ。エンジン温まると症状が消えるのも、納得だろ?これは
ヘッドが歪んでるよ。面研しないと駄目だな。」
「ガーン。」ショックです。ヘッドを見て、社長は続けます。
社長 「しっかし、ヘタクソなポート研磨だな。
バルブガイドもシートリングも無いな。ポートもちっちゃいし、曲がりもきついな。
サニーなんかは、楕円ポートで一杯吸気出来るのよ。見劣りするなー。」
俺様 「でも、TSサニーのGXヘッドも、末期は丸ポートに改造したらしい
ですよ。ストリートでは、流速を稼げていいんじゃないですか?」
社長 「それは、機械式インジェクションの奴だよ。ポートの曲がりを
埋めて、ストレートポートに改造するのが本当の目的だよ。」
俺様 「へえー!社長詳しいですねー!」
社長 「何でも聞いて。俺、一応、プロだから(笑)」
続いて腰下です。ジャーナルに傷が無いか、緊張が走ります。
社長 「ジャーナルには傷は無いな。オイル焼けも無いから、バーキン社のケントは、
’新品組みのエンジン’ってのは間違いじゃないな。」
ほっ。安心しました。
俺様 「面研は、ヘッドだけでいいんですか?ブロック面もしないと。」
社長 「それやったら、エンジン番号も消えちゃうよ。安心しな。今回、ブロックは、
ダミーヘッドボーリングするから。ダミーヘッド組み付けたら、
必ずボルト穴周辺が盛り上がるから、そこを修正面研するので大丈夫。」
俺様 「そうですね。クランクは、どうします?」
社長 「俺は必ず、曲がり修正と回転バランスは取る。何でか解るか?」
俺様 「ん!んーと、ついでだから、とか(笑)。」
社長 「違う(笑)。メタルは5/100ミリの隙間の中にオイルが満たされて、回転してる。
理論的には、金属が触れ合う造りじゃないから、摩擦はゼロだ。」
俺様 「ふむふむ。」
社長 「だが、クランクが曲がってると、摩擦熱が発生して、油膜が切れる。するとだ、
メタルが焼き付いて、クルンと回るんだ。こうなるとオイル穴を塞いで、完全に固着して、
コンロッドがブロックを破ってオシマイ。これがブローの真実だ。ビシッと芯出ししたクランクは
トルク感もあって全然違うぞ。今回はメタル合わせも依頼するから完璧だ。」
俺様 「おおー!!すごい。完璧だ。俺のケント、生産末期の97年5月型なんですよ。バラシて見たら、
工作精度が悪くて、切削面は筋筋の模様はあるし、不安だったんですよ。お願いします!!」
社長 「よっぽど切れない歯で加工したんだな。バーキン社で、ケントの組み立て工場買わなくて
良かったな。もし買収したら大変な目にあっただろ。工作機械、総入れ替えしないといかんし。」
(注:ケントの組み立てプラントの、バーキン社の経営移譲への話が実際にあった。)
俺様 「あの、ついでなんですけど、」
社長 「なんだ?」
俺様 「どうせそこまでするなら、タフトライド加工(正確には軟窒化処理)もお願いします。
もうエンジンバラすつもりも無いんで、悔いを残したくないんです。」
社長 「わかったぜ。任せろ(ニヤリ)。」
俺様 「軽量加工はどうしますか?」
社長 「カミソリクランクとか、オムスビクランクとかいうあれか?ったく、どっから聞いてくるのよ(笑)。
L6のLD28クランク、3.1L仕様で8000回転以上目指すなら必要だけど、ケントは要らないよ。」
俺様 「今回は、どこに加工依頼するんですか?」
社長 「東京のダイヤモンド産業社。知ってるか?」
俺様 「いや....分からないです。」
社長 「無理も無い。FJ1600の封印エンジンとか、N1耐久のシビック、昔はF3000のエンジンの
加工をしてた会社だよ。加工精度は、勝敗を左右するから、みんな教えないんだ。口コミでしか
宣伝にならないから、素人は知らないだろうな。最高の精度で加工してくれるぜ。」
俺様 「おおー!!良かったあ。そこでお願いします。変なとこには頼まないで下さいよ。」
社長 「分かってるって。」
こうして、私は、無事、エンジン一式を東京に送り出したのでした。