J74723



社長のお宝、旧型のオオモリ製機械式タコメーター。「スミス」製ばかり目に行くセブン乗り
だが、昔は日本で、こんな素晴らしいクロノメトリック・レブカウンターを製作していた。これは右が
前期の80パイ、左が後期の90パイ。セブンに実際取り付けようとすると、4:1のギアボックス、
専用のワイヤーケーブル、カムのセンターに付くアタッチメントが必要。そして、カムを内蔵してる
フロントカバーにギアボックスを取りつけるのだが、アタッチメントと、ギアボックスとのセンター出しは
「1/1000ミリ」まで精度を求められる(これはスミスも同じ)。オオモリに問い合わせたところ、
図面を含め、全くパーツの在庫はなく、取りつけにはかなりの困難さが予想される。まあ、昔、
コスワース純正で、タコドライブ付きの5ポート、ドライサンプ用オイルポンプが存在してたので、
興味のある方は、トライしてみてはどうだろう?(このタコメーターは、新品未使用です。)



とうとうエンジンが加工から上がって来ました。

社長 「お前が来るまで開封しなかったからよ。早く開けろ。」

と、うれしい計らいで、はやる気持ちを抑えてダンボール箱を開けます。

俺様 「おおー!すげー!!」

ブロックはダミーヘッドボーリング。

ヘッドはビッグバルブ化、セット長合わせ、バルブガイド、
シートリングを製作、修正面研。

クランクはタフトライド(軟窒化処理)、曲がり修正、
ダイナミックバランス、精密ラッピング。

さらにメタル合わせ(レースメタル使用)を依頼。


私は身の回りで、かつて今まで、こんな高度な精度で挑まれたケントは見た事がありません。

社長 「バルブガイドのステムシール部は、トヨタ5K型が合うようにワンオフしと
    いたからよ。ちょうど、7ミリステムだったし。これでオイル上がりは絶対しないだろ。」

俺様 「シートリングとガイド、ビカビカ金色に光ってますねー!」

社長 「なんかよ、向こうから連絡あってよ、一番高い素材に
    しといたから、請求書見てひっくり返んな、って言ってたよ(笑)。」

俺様 「え?それって、もしかして、もしかして、F1で使用禁止になった素材?エンジン回り
    すぎて使用禁止になった奴?まさか!ハア、ハア、ハア....」

社長 「気持ち悪いな(笑)。興奮してよ?知らねーよ。知ってても、
    お客には、教えねえ(笑)。俺はチューナーで、
  部品オタクじゃないから、来たのを組むだけだ。」

俺様 「バルブ径、デッカイッすねー!間隔も狭いし(1ミリ無いくらい)、当たらないですか?」

社長 「これじゃないと勝てないぜ(爆)。サニーもみんなそう。だからお前、オーバーレブさせて、
    サージングと、4500回転以上の、無負荷の空ぶかしは、絶対するな。バルブ欠けるからな。」

俺様 「クランクは緑色ですね。」

社長 「酸化クロム(青棒)の色だ。洗うと落ちる。エンジン持つからよ。手伝え。」

俺様 「社長もしかして、二人でエンジン持つのを待ってて、開封してなかったの?」

俺様 「そう(笑)。」

エンジンをハンガーに載せ、エンジンクリーナーで切子を飛ばします。徹底的に
洗浄したエンジンに、まず最初にするのは、各部の測定です。

社長 「まずボア径とピストン径からか。」

ボアピッチゲージでブロック径を、マイクロメーターで、ピストン径を測定します。

社長 「次はメタルクリアランス。」

プラスチックゲージをハサミでチョキチョキ切り出しました。私はその間、別口の荷物を
開けてました。それには、「例の」とこから来たスペシャルパーツが入ってます。

俺様 「んっ??」

この部品は...?


見た事が無い


そこから出てきたパーツは、今まで見た事が無いものでした。
実は、部品のオーダーは、スタボンにすべてお任せしてたので、今回は一体、何CC
になるのさえ知らなかったのです(笑)。発注前に社長から聞かれたのは、これだけ。

社長 「あのよ、お前、9700回転と11500回転、どっちがいい?」

俺様 「何の事ですか?」

社長 「いやよ、例のとこから連絡があって、78度のカムには二種類あって、
    9700回転と11500回転まで回るのがあるんだと。どっちにする??」

俺様 「えー!ケントはそんなに回るンすかねー?それに、日産式に78度ってことは、
    トヨタ式では312度って事じゃないですか!こんなにでかいカム入ったケントは
    聞いた事無いっすよ。アイドリングもできないかも?大丈夫っすか??」

社長 「へぼな奴組むと無理だけど、俺、一応、プロだから(笑)。大丈夫!4AG
    なんかだと,304度以上はつらいけど、OHVは78度位でも全然オッケー。ん、まあ、
    そんだけシングルカムは、シビアじゃないのよ。雑誌では74度位で、街乗り不可の
    カリカリのレーシングユニット、なんて言ってるけど、そんなのは全くのウソよ。
    首都圏で渋滞に巻き込まれるなら別だけど、山形だろ?渋滞も無いから問題無いよ。」

俺様 「ふーん。(良く分かってない)」

社長 「お前下手だから、9700回転の奴でいいな!」

俺様 「....はい。」

そんな感じのやり取りがあったのを思い出しました。まあ、これも私の意見が入ってたのかは
ちょっと疑問だったのですが(笑)、「任せます」って言ったんだからしょうないね。
部品は、すべて、パックではなく、バラで小袋に分けて入ってました。不思議なのが、ARPの
強化ボルト以外は、全く見た事の無い部品なのです。こんなの、雑誌じゃ見た事無い。なんだか外国製
じゃなくて、日本製みたいな感じがします。どれも非常に精度の高い仕上がりで、しばし見とれます。

俺様 「社長!メタルガスケット、なんだか国産みたいです!コスワースだと青いんだけどなー?」

社長 「そうか?あいつが作ったんだろ?」

俺様 「社長!この鍛造ピストン、なんだか形が雑誌に出てた奴と違います!なんじゃこりゃ?
    ピストンリングも薄いです。なんか華奢ですねー。」

社長 「そうか?日本で作ったんだろ?レース用のピストンはみんな1ミリ厚のリングだぜ?これじゃ
    ないとレースは勝てないぜ(笑)。エンジン長持ちさせたかったら、エアクリーナーは着けろよ。」

俺様 「社長!バルブスプリングとリテーナー、なんか国産みたい!雑誌と違う!!ケントカム社の
    アルミリテーナーって、赤いアルマイト処理なんだけど、違いますねー?」

社長 「そうか?あいつが作ったんだろ?」

俺様 「社長!ハイカム、ケントカムじゃ無いです!J74723って手書きで描いてます!
    これ、なんですかねー??こんな部番聞いた事無いです!」

社長 「日本で作ったんだろ?
 大体、ケントカムって何(笑)?
    どれ、見せてみろ。ほお!これは加工カムじゃないな。素材から造ったオリジナル品だな。
    NAはカムが命。特にシングルカムは、バルタイのストライクゾーンがDOHCより狭いのよ。
    だから、わけの分からん外国製より期待できそうだな。楽しみだ(ニヤリ)。」

俺様 「へええ!!すげえー!!社長!見直しました!」

社長 「いまさら気づいた(笑)?そうだろ?雑誌の受け売りしたって、いつまでも速くなれないぞ。
    それからよ、今、エンジンの加工したとこを測定したんだけどよ、」

俺様 「ど、ど、どうでした?」

社長 「うむ、このよ、ミツトヨのマイクロゲージって、1目盛が1/100ミリなのよ。」

俺様 「そんで??」

社長 「目視で1目盛の1/10まで追い込んだんだけど、4本全く同寸だった。つまり、ボア径もピストン
    外径も1/1000ミリまで同じ精度だったよ。これはすごいぜ(笑)。」

俺様 「おおおおおーー!!」

社長 「クロスハッチの入れ方や、端の面取りの入れ方も、さすがダイヤモンド産業社って
    感じだな。メタルクリアランスも全部、5/100ミリで揃ってるからすぐ組めるぞ。」

俺様 「ピストンクリアランスはどのくらいですか?」

社長 「うん、○/100ミリだな(自主規制)。」

俺様 「!狭くないですか?雑誌見ると、カジるから9〜10/100ミリって書いてあるけど。」

社長 「それは、大昔の、シリコンの含有が多い鍛造ピストンの奴だよ。鋳鉄との熱膨張率が違い
    すぎるから、10/100ミリとか、せざるを得ないのよ。こんな粗悪な奴で組むと、街乗りじゃ、
    まずトラブルが起きる。昔の風評だけで組む素人は、今の鍛造ピストンでもハマるだろうな(笑)。」

俺様 「へええー!!」

そういえば、昔、チューニングの神様「ポップ吉村」は、生前、「ZT改」で米国で活動した時、

「アメリカのピストンはまるでケーキだ。」

と言って、カジッたり棚落ちするアメリカ製のピストンを酷評したそうで、ヨシムラワークスでは、
かたくなに、シリコン含有の多い削り出し鍛造ピストンを使わず、自社製の鋳造ピストン
にこだわっていた、と聞いた事があります。現代はこういう事も無く、
ストリートで安心して使用できる鍛造ピストンが存在してるので、いい時代です。
だんだん出来上がるのが楽しみになってきました。