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  帯を切り取り、表紙の裏に貼り付けるのは、大仙市立大曲図書館の美点のひとつだ。「お縫い子テルミー」の帯文は、本文から引かれている。

  「恋は自由を奪うけれど、恋しい人のいない世界は住みづらい。」
  うんうん、そうだよね!とうなずきつつ、強く惹かれたのは、恋もまるまるひっくるめた人生に対するテルミーの受け身かつ全力かつ自由な姿勢である。テルミーが生まれる前から一家(祖母:もろもろの元凶、でも面白い+母)は流浪の居候生活をしていて、恐ろしく受動的に育てられたにも係わらず、 16 歳の彼女は明晰でしなやかでたくましい。
  職業が運命であることは、ものすごく幸せかもしれない。ものすごく不幸かもしれない。正直、わたしはやめておきたい。けれどテルミーは運命と言い切り、「一針入魂」で奇跡のような服を仕立て上げてゆく。冒頭三行で明らかになるプロ根性のかっこよさは、正直、憧れる姿である。ていうか、ものすごく依頼したい。
  テルミーがやはり入魂の苦しい恋といっしょに着地した場所は、濃く、かつ清々しい風が吹いているところだ。わたしとテルミーは全然違う人間だけれど、この風は知っている。自分の奥底から湧き上がる喜びが風になるのだ。熱が満ちているのだ。元気で、幸せに、テルミー。
  熱は移る。わたしも心地よく熱風に浸る。

 

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