第3回オンライン歌仙     
〈新樹光のヤポネシア〉    南斎捌

                      座:風人連句会
                      連衆:定まらず
                      於:(発句〜裏12句目))
                        ネット上(5月8日〜7月16日)
                              (名残の折表〜7句目)
                           上の山温泉葉山館
                                    (7月22日)
                        (8句目〜12句目)
                          山形新幹線つばさ車中
                                    (7月23日)
                        (名残の裏〜挙句)
                         ネット上(7月29日〜8月17日)


発句    新樹光その島の名はヤポネシア     山本 掌
 脇      夏場所わかす異国の力士      越智未生草
第三    若女将 髪結ひ上げて帯打って     夫馬南斎
 雑       便利屋商売宵は掛取り        長谷川冬狸
 月     眼前をメール飛び交ふ月静か      湊 野住
 秋       ビーカーにゆれる虫の遺伝子      未
秋     白亜紀の琥珀*1に秋の色残り        冬
 雑      俺(おい)らの前でせりあがる海     森山深海魚
 恋     サイババの奇蹟に焦がれ旅に出る     南
 恋      共白髪なぞ否(ノン)と妻の言ひ     高井朝子
 恋     お気づきか惚れると惚ける同じ字だ     冬
 雑      悠々たるは長江の流れ           未
冬月    月冴えて辺土に詠ふ人は影          朝
 冬      おばあの咳もCDに合わせ         南
 雑     「わ」と言って笑ひ笑ひて無職の朝    落合 玲
 雑      ブロック塀の穴もいろいろ           深
 花     不機嫌な化粧(けわ)ふ少年花の塵       掌
 春      百年先の春の殺人               冬
ナオ 春   血を浴びて炎えたる都会(まち)や啄木忌*2太田代志朗
 雑      見世物小屋はイタチ*3で稼ぐ         冬
 雑     流行(はやり)唄四条河原に生れ出て       野
 雑      有漏路無漏路を翁丸*4連れ         代
夏恋    攫ひ来し十二少女と夏三日           南
夏恋      駆落ち者の首日焼けして           冬
夏恋    紅花の黄も紅となり恋もゆる           南
 雑      みちのくの宿下駄で湯めぐり*5        代
 雑     朽ち果てし盤司盤三郎*6岩の上        南
 雑       幽霊女にやりと笑ひ             野
 月     月天心血統話はきりもなく            冬
 秋       鹿火屋で読むは旧約聖書          野
ナウ 秋   子の好きな焼きたてパンと林檎ジャム      朝
 雑      出っ腹すぼめ鏡見る父             未
 雑     フィットネスクラブの横は歌舞伎町       玲
 雑      アスファルトにも雑草生えて          深
 花     花の窓貧しき者が知る荘厳           未
 挙句     乙女らの声貝寄風(かいよせ)の浜        深

          (治定欄に総括のまとめとお知らせ、直しました。タイトルと野住君のこと追加)
         (治定欄に総括・感想を順次掲載・1、2、3、4,5 あり。9月9日6 を追加)

              註1:琥珀は太古の虫が入っているものを珍重する。
              註2:四月十三日。
              註3:“大イタチ”と言いて板に血を塗ったものを見せた。
              註4:枕草子に登場する後一条天皇の飼犬。
              註5:上ノ山温泉には足湯どころと言いて、市内5カ所に専用の場所がある。
              註6:往昔、みちのく山寺(立石寺)地方のマタギもしくはアイヌの統領。

  2003年5月17日起首
  2003年8月25日満尾


                    感想メール



第3回オンライン歌仙の方針

 3回目も基本的には第2回と同じように行きますが、だんだん慣れてきたはずですし、自分で考える習慣を身につけるためにも、前回より治定を多少簡略化していきたいと思います。
 また、今回より、発句も皆さんに作ってもらいます。

 よって、連句の式目等に不慣れな方は第1回時の案内「オンライン連句」をぜひ参照なさって下さい。
 参考書や歳時記の案内も書いてあります。
 
 また、第1回分の作品と治定第2回分の作品と治定を読み比べていただけば、式目、作句のコツ等もよく分ると思います。式目部分は赤字・太字にしてあるので、そこだけ見て下さっても結構です。

 なお、初めて参加される方のための若干のルールもあります。それもぜひ一読下さい。


 なお、今回は初夏を起句とする平均的な進行形式を用いることにしますので、その進行表を下に記します。この通りに進むとは限りませんが、おおむねこういった形で進行させる予定です。
表6句発句名残の表折立

(ナオ)二句め

第三(ぞう)
三句め

四句め
四句め

月の座 このあたり
で恋だす
五句め夏・恋

折端
六句め夏・恋
裏12句折立
七句め
(ウ)二句め
八句め
このあたり
で恋だす
三句め雑・恋
九句め

四句め雑・恋
十句め

五句め
月の座

六句め
折端

月の座月・冬名残の裏折立

八句め (ナウ)二句め

九句め
三句め

十句め
四句め

花の座
花の座

折端
挙句



総括・感想追加(9月9日)  森山深海魚さん

夫馬 様

ご無沙汰しております。
治定後の感想など、なかなかお送りできずすいません。

湊野住さんが、全体を「ヤポネシア紀行」とされたのには私も同感です。

また、今回 長谷川冬狸さん、越智未生草さんより
「ブロック塀・・」の句に、ご指摘いただいたきありがとうございます。
これは、その前の「わ」っと開けた口が、真っ暗で穴に見えたから 

そこからの連想なんです。一見さりげない感じの出来事が、ある意味
すっごく怖いことになるのをいつも俳句では狙っているつもりなのですが
ここでは、ちょっとした可笑し味になっているのでしょうね


今回は、
皆さんで東北方面に行かれたことも、影響したのでしょう。
なにかヤポネシアの荒御霊が降臨して、血の地のたぎるようなエネルギー
が中盤に感じられました。

私個人的には、化粧・少年・100年先・・・というあたりが「魔界転生」の
天草四郎や、森蘭丸を思わすようで好きですね

この亜熱帯の孤島伝説の「ヤポネシア」は、島尾敏雄の夢の中なのかも
しれませんね

そういった意味で、挙句は、初々しい海軍士官学校出たばっかりの下士官が
駐屯先の島で見かけた光景なんですよ
この中の1人がミホさんなんですね


今回も皆様、そして夫馬様お疲れ様でした。ありがとうございます。

森山



総括のまとめとお知らせ(8月25日)  

 総括を開始し、8日たちました。ぼつぼつ出尽くしたようなので、まとめます。

 まず、皆さんの感想・指摘はそれぞれ納得でき、なかなか批評眼も上がってきたなという感じです。冬狸さんの挙げた句、未生草さんの挙げた付け例など、私も全く賛成です。
 
 ほかに、「磐司盤三郎」から「幽霊女」→「血統話」→「旧約聖書」への流れも面白いし、発句の明るさ、「フィットネスクラブの横は歌舞伎町」のさりげない現代性の対比も得難いと思います。

 また、野住君の力作解題は物語性まであって、とても楽しい。読みとしてもほぼ正確、野住君は「翁丸」の名も知っていたし、立石寺での芭蕉に関する知識も正確で感心しました。さすが「見立て」の研究家だけあって、古典の知識は大したものです。

 冬狸さん指摘の「みちのくの宿」の句は、確かにその通りなのですが、「足湯」は打越に「首」があるので、直接は使いにくい感があります。そこで、代志朗さんの訂正句2をなるべく生かし、

  みちのくの宿下駄で湯めぐり*5

 とし、註に足湯のことを書くことにします。苦肉の策です。

 捌きの私の作句が少ないという意見は、分るような気もしますが、数えればちゃんと6句はあり、36分の6、つまり平均6句に1句はある計算になります。今回は連衆が私を含め9人ですから、これ以上増やすと他の人の出番が減ることになります。

 また、ナウに入ってから1句もないのは、オフ会に不参加だった人を出来るだけ優先したかったのと、挙句に関しては出句数の少ない人という式目というか慣例があるからです。
 適句が出なければ私が付けようと花の句、挙句は私も作ってはいたのです。

 やや残念だったのは、発句の作者、いつも一番出句の多い掌さんが、不調だったことです。実は今回を皮切りに今後常連の人たちに発句を作っていってもらい、一巡したら次は、捌きも順にやってもらおうと思っていたのです。連句の習熟には、私の経験から言っても捌きをやるのが一番だからです。

 が、どうもそれはうまくいかなかったようです。
 ま、今後どうするかはおいおい考えましょう。衆判(みんなで合議して捌く)という手もあります。むろん、この場合はオンラインでは無理で、オフ会ふうの座にする必要がありますが。

 いずれにしろ、今回はこれでともあれ正式満尾、首尾完成とします。皆さん、どうも御苦労様。
 あとはしばらくお休みにし、そのうちまた次の呼びかけをします。何か意見がある方はいつなりとどうぞ寄せて下さい。では、皆さん、しばらくさようなら。



総括5(8月24日)  越智未生草さん

夫馬南斎先生

今回の歌仙、ご指導たまわり、楽しみながら沢山学ばせて頂きました。どうも有り難うございました。私は次の三つの連句の付け味がとても素敵だと感じました。

ブロック塀の穴もいろいろ           
不機嫌な化粧(けわ)ふ少年花の塵       
百年先の春の殺人               

未生草拝



総括4(8月24日)  高井朝子さん

 第三巻興行の終着おめでとうございます。
 連衆の皆様の句に、ああこうも解釈できるんだ、と感心し、ニヤッとし、時の
経つ早さに驚きました。私はのんびりで執着気味な性格らしく、投句にもあらわ
れたなと終ってみて思いました。
 ○鹿火屋で読むは旧約聖書  野 
 一直前の ・異教徒が読む旧約聖書  この夏、本山で加行(けぎょう)の二
男と、お坊さんになったらと言うと「ボクはキリスト教の学校に行きましたか
ら」と答える長男が重なり、林檎ジャム の句になりました。直しをみて、そこ
でこだわり。秋と異教徒を満足させる語はないだろうかと。 ・施餓鬼おえ読む
旧約聖書 とすると前句の「血統」その前の「幽霊女」と障ります。棚行、盆
行、精霊、大文字、送り火、盆花と時節柄お盆関係しかうかびません。やはり宗
匠の「鹿火屋」に収まります。と自分のなかで納得させる作業が、その他の句も
思ったら最後、えんえんと続きます。結果、付け句をなかなか作られません。
と、投句の少なかった言い訳です。
 こんな私ですが、HPを開くのがたのしみですので、今後もお仲間の一員とし
て、お付き合いの程よろしくお願い致します。



総括3(8月22日)  湊野住君

夫馬南斎先生

今回は進行が早く、レベルも高かったので、ついていくのが大変でした。気後れした
こともあってなかなか作句が出来ず、投句も少なかったですが、毎回HPはチェック
していました。「新樹光」や「有漏路無漏路」など初めて見る言葉や、連衆の方々の
鮮やかな付けは毎回勉強になります。直すところなどないように私は思います。
今回あまり投句していないので、せめては感想など少し。

以前の深海魚さんの趣向に似てしまいますが、今回の歌仙の印象は「ヤポネシア一周
旅行」というような感じでしょうか。ヤポネシアのあちこちを時代を超えて飛び回っ
た感じです。

発句    新樹光その島の名はヤポネシア     山本 掌 :緑の木陰、白い
砂浜から続く海のその先に、ぽっかり浮かび上がる島は「ヤポネシア」。旅の始ま
り。 
 脇      夏場所わかす異国の力士      越智未生草:ヤポネシアに上
陸。島の奥から何やら歓声が。大きな屋根の下に作られた土俵。相撲の真っ最中。浅
黒い肌の力士が塩を蒔いて、制限時間一杯。気合を込めて廻しを叩く。
第三    若女将 髪結ひ上げて帯打って     夫馬南斎:旅館や料亭の女将
が、着付けのあと帯をポンっと叩くのは力士の廻しを叩くのに似ている。どちらも
「さぁやるぞ」の心。
 雑       便利屋商売宵は掛取り        長谷川冬狸:こんな御時
世だから女将もアルバイト。夜は便利屋さんに早替わり。今夜は掛取りで忙しいの。
 月     眼前をメール飛び交ふ月静か      湊 野住:そんな都会の片
隅を月が照らしている。夜の虚空を目に見えない電磁波にのってメールが飛び交って
いる。俗界は可視につけ不可視につけ忙しないものだ。
 秋       ビーカーにゆれる虫の遺伝子      未:とある窓辺にふと
目をやると、ビーカーに半透明な螺旋の物体が揺れている。あれって虫の遺伝子なん
だってさ。綺麗だねぇ。
ウ 秋     白亜紀の琥珀*1に秋の色残り        冬:どうやら研究所
か何かの一室に潜り込んだみたい。ガラス戸棚の中で鈍く光ってるのは琥珀だよ。
 雑      俺(おい)らの前でせりあがる海     森山深海魚:自分が今
いるこの地面は昔海だった、って学校で習ったな。海面が上昇してくるのを俄かに
想像するとちょっと怖いような不思議な感じ。
 恋     サイババの奇蹟に焦がれ旅に出る     南:地球のダイナミック
な環境変化って一種の奇跡。奇跡ってば、インドにサイババって人居たね。あれって
本当? この目で確かめたくて旅に出てしまいました。
 恋      共白髪なぞ否(ノン)と妻の言ひ     高井朝子:一緒に行こ
うよっと誘ったら、僕の奥さんは冷たいよ。僕と共白髪なんて真っ平らしい…
 恋     お気づきか惚れると惚ける同じ字だ     冬:でも僕は彼女が大
好き。惚れると惚けるって同じ字なんだぜ、って口の悪い友達が言った。何が言いた
いのさ。
 雑      悠々たるは長江の流れ           未:惚けるとは、時

味方につけることかもしれない。長江の悠々たる流れを見ているとそう思いませんか

冬月    月冴えて辺土に詠ふ人は影          朝:中国人は雪月花を
見ると誰でも漢詩を口ずさむものだと思ってました。どれだけ辺鄙なとこにいる人で
も。
 冬      おばあの咳もCDに合わせ         南:ところでさぁ、
お婆ちゃんのあの咳ってときどきいやにリズミカルだよね。あれって確信犯?
 雑     「わ」と言って笑ひ笑ひて無職の朝    落合 玲:そんなこと言

ながら笑ってますが、実は笑ってられない失業者の朝。寝坊し放題だけど…、気楽な
ようで本当は複雑な気分なんだよね。
 雑      ブロック塀の穴もいろいろ           深:同じように
見えても人生はいろいろ。ブロック塀の穴、じつはあれもいろいろな形があるの。散
歩の途中で気がついた。
 花     不機嫌な化粧(けわ)ふ少年花の塵       掌:小さい頃お祭
りや七五三でお化粧しなきゃいけないとき、嫌だったなぁ。写真がみんな不機嫌そ
うに写ってるのは、口紅のせい。だって不味いんだもん。
 春      百年先の春の殺人               冬:美しく装っ
た少年に背筋の寒くなるような何かを感じることはありませんか。ずっと未来の戦慄
の予感ですよ。彼は未来の殺人鬼?
ナオ 春   血を浴びて炎えたる都会(まち)や啄木忌*2太田代志朗:殺人って
都会(まち)ごと全部はやり過ぎよ。すでにそれは戦争。啄木は草葉の陰から何を思
う?
 雑      見世物小屋はイタチ*3で稼ぐ         冬:おどろおど
ろしい看板につられ怖いもの見たさで入ってみると見世物小屋って大抵こうだ。昔も
今も変らない。待てよ、最近こういう見世物小屋って無くなったよね。
 雑     流行(はやり)唄四条河原に生れ出て       野:前近代には
いっぱいあった。見世物、路上パフォーマンス、ゲリラライブetc、渋谷?原宿?

じゃないね。昔の四条河原ってすごかったんだから。河原の雑多な芸能から能も歌舞
伎も生まれたの。私達が今見ているのは、数百年かけて洗練されたもの。現代の流行
から果たして数百年後まで残る芸能って生まれるのかしら?
 雑      有漏路無漏路を翁丸*4連れ         代:そんな浮世を
愛犬連れて。今日はどっちに行こうか
夏恋    攫ひ来し十二少女と夏三日           南:十二才ってまだ
子供じゃない。大の大人が子供相手に何考えてるんだろう? 曰く不可解。
夏恋      駆落ち者の首日焼けして           冬:駆け落ちって
最近耳にしません。故にいまいちピンとこない。炎天下走って逃げたらそうとう日焼
けするだろうね。若くなきゃ出来ないことかも。
夏恋    紅花の黄も紅となり恋もゆる           南:そんな燃える
ような情熱的な恋は色に例えば濃い紅色。花ならやはり紅の花。徐々に燃え上がって
いくのね。
 雑      みちのくの宿湯の香りけり           代:山形は初め
て訪れました。お蕎麦、温泉…いやぁ、いいところでした。
 雑     朽ち果てし盤司盤三郎*5岩の上        南:立石寺は俳枕
としてではなく、霊地として認識を新たにしました。盤司盤三郎の話は劇的でいいで
すね。怨念を残して消えて行った人々に私は惹かれます。
 雑       幽霊女にやりと笑ひ             野:立石寺で見
た幽霊図、応挙ってのは嘘ですよ、きっと。名人の描く幽霊ってのは「らしく」描か
ないものだそうです。なんとなく幽霊っぽく描くんですって。『別冊太陽 幽霊の正
体』ってのに書いてありました。
 月     月天心血統話はきりもなく            冬:楽屋オチっ
て連句にもあるんでしょうか。興味深いお話でした。
 秋       鹿火屋で読むは旧約聖書          野:旧約聖書は家
系図を年代記風に書いたものですよね。ところで、幽霊に化けて出るのと神になって
復活するのとどのくらいの違いがあるんでしょう? 
ナウ 秋   子の好きな焼きたてパンと林檎ジャム      朝:異教徒の食べ
物だけれど、焼きたてパンとジャムは確かに美味しい。私も大好きです。最近は林檎
に季節感ってなくなりましたね。
 雑      出っ腹すぼめ鏡見る父             未:お父さん、
ジャム付け過ぎです。お腹引っ込めても無駄よ。
 雑     フィットネスクラブの横は歌舞伎町       玲:フィットネス
クラブの鏡の前で現実の姿を見据えましょう。隣は誘惑一杯の歓楽街。この取り合わ
せの妙。
 雑      アスファルトにも雑草生えて          深:歓楽街の片
隅でも雑草はたくましく生きています。人々に踏まれる歩道の草。私はもうひとつ、
倒産したお店の跡地か何か、無機質な寒々しい空間に生えた一掴みの雑草を想像しま
した。歌舞伎町と好対照ですね。
 花     花の窓貧しき者が知る荘厳           未:この句はとて
も味わい深くて好きです。貧家の窓辺から見る花景色。他人に解らない荘厳さに満ち
ている感動です。
 挙句     乙女らの声貝寄風(かいよせ)の浜       深:乙女の声に
ふと気がつけば、またもとの海辺。ヤポネシアの浜に貝寄風の吹く季節がまたやって
きました。


映像にしたら結構面白いものができそうな気がしました。カメラワークとか考えなが
ら全体を見ていくとまた違った味わいができます。全体的に色彩豊かでバラエティー
に富んでいて、面白いものが出来ましたね。

以上、お粗末ながら感想でした。

湊 野住



総括2(8月20日) 太田代志朗さん

 ・みちのくの宿夜半の寝覚めよ
 ・みちのくの宿ぶらり割下駄

 太田代志朗
 ohta@uranus.dti.ne.jp
 http://www.uranus.dti.ne.jp/~ohta/index.html



総括・感想1(8月19日) 長谷川冬狸さん

第3巻もいよいよ巻き終わりました。宗匠、ありがとうございました。
全体をあらためて眺めていると、その折々の自分の状況が思い出されて、感慨無量です。
第1巻、第2巻に比べて、全体のレベルが上がってきたのか、それとも、自分がようやく連句の面白みがわかってきたのかわかりませんが、終わってみれば、いちばん愛着を感じます。(初めのうちは、ついていけるかなあと思っていたのですが。)

とくに、次の2句に心惹かれました。

○ブロック塀の穴もいろいろ
目の付け所に感心しました。この作者は、さりげないところに感動を見つけ出す、という作品が多いように思います。心も柔軟な方なんですね。「アスファルトにも雑草生えて」も、同じ目線で捉えておられるなあ、と感心。このような感性を持って街を歩けば、新たな発見がたくさんあることを思い出させていただきました。

○花の窓貧しき者が知る荘厳
とくに、後半部分に感動しました。純粋で崇高な魂が感じられ、心が洗われるような気持ちになりました。ずっと覚えておきたい句です。「虫の遺伝子」も、生命を見つめる目に感動し、おかげさまで、「白亜紀の〜」の句を生み出すことができました。
連句の力を感じたことでした。


今回も、すばらしい句がたくさんありましたが、ただ、宗匠の句が少ないように思います。今回は、オフ吟行があったために、その間にまとめて出されてはいますが、もう少し、例えば6句に1句とか、ある程度定期的に出していただきたかったと思います。(やはり、宗匠の作品はお手本ですから)

個人的な希望ですが、「みちのくの宿湯の香りけり」は、もう少し具体的にした方がいいのではないでしょうか。「足湯」を入れるとか。

とりとめのない感想ですみません。
次回を楽しみにしております。

長谷川冬狸


治定(8月17日)と総括のこと

 3句あります。

  1,離(さか)るも来るも春の常とや     冬狸
  2,蜃気楼立ち汝(な)の走り出す     野住
  3,乙女らの声貝寄風の浜         深海魚

 1,は、人情がありません。それにどこか諦念が漂い、春を寿ぐ感に欠けます。
 2,は、下7を「走り出す汝(なれ)」とした方がいいでしょう。が、蜃気楼が発句の新樹光と同じく光(あるいは影)で、同趣向の感が生じます。それにあまりめでたくも寿ぐ感じもしない気がします。

 3,は、素直に明るく、春の寿ぎが伝わります。ヤポネシアに貝寄風もいい照応です。椰子の実も混じっていそうな気がします。

 というわけで、最後の挙句、この句を採用とします。挙句は出句数の少なかった人というのが了解事なので、これで丁度収まります。

 あとは例によって、しばらく総括期間とします。
 皆さんそれぞれ、発句から全部を点検して、疑問、直し、気になること、感想などを寄せて下さい。それらを検討した上で、最終治定決定、正式に首尾完了とします。



治定(8月12日)

 3句届きました。

  1,花の窓貧しきものが知る荘厳      未生草
  2,花と祖母 年経るほどになお闊達     玲
  3,花の香佇む夫(つま)の背広染め     朝子

 1,は、「もの」は「者」の方が、人間であることがはっきりしていいと思います。窓から見た花の光景で内と内外がうまく出、内容も荘厳の語で引き締まっています。荘厳は仏教用語なら「しょうごん」と読むのでしょうが、旧約もあるし、ここは普通の「そうごん」でいいと思います。

 2,は、闊達は「開く」ぐらいの方が語調がいいです。祖母が、前に子や父が出たばかりなので、家族の繰り返し感があります。

 3,は、香が衣類を染めるとは言わないのじゃないかしら。また、夫がやはり家族用語です。

 というわけで、1,の直しを採用とします。匂いの花にふさわしい深みのある句だと思います。

 次は挙句(揚句)です。これでいよいよお仕舞い。晩春または三春で、前句への付けより、発句・脇への照応を重視し、春を寿ぎ、目出度く終局としたいところです。ゆえに、発句・脇の作者は遠慮です。有資格者、有終の美を。
 


治定(8月8日)

 また2句届きました。久しぶりの深海魚さんのもあります。

  1,落第記念に豪遊をする     未生草
  2,アスファルトにも雑草生えて   深海魚

 1,は、豪遊という言葉が中高年ぽくて、歌舞伎町に付かない気がします。何かほかの付けなのでしょうか。

 2,は、御当人の前作「ブロック塀ー」の句と同趣向の感がありますが、ま、だいぶ離れているからよしとしましょう。
 これを採用します。

 次はいよいよ匂いの花。前句がどうも付けにくい感もありますが、何とかうまく匂いやかに付けたいところです。転じとしては、人情有り、内か内外で。
 最後の重要句です。名句を期待します。



治定(8月5日)

 2句届きました。

  1,野っ原に野球のボール忘られて       冬狸
  2,フィットネスクラブの横は歌舞伎町       玲

 1,は、打越の「子」と絡みになってしまいます。
 
 2,は、鏡を見る姿によく付き、しかもいかがわしい歌舞伎町との対比が面白いところです。
 玲君、なかなかうまい。今度はオフ会にぜひ来てちょうだい。

 さあ、あと3句になってきました。次は人情なし、屋外。花前なので、出しゃばらず控えめに。



治定(8月1日)

 ともあれ2句届きましたので、進めます。

  1,なかなかうまい塀の落書き      冬狸
  2,出た腹すぼめ鏡見る友       未生草

 1,は、「訂正」による問題は別として、「塀」が前に「ブロック塀」があり、同趣向になります。
 2,は、「出た腹」は「出っ腹」の方がいいでしょう。食べ過ぎるとこうなるというわけです。「友」も「父」の方が付きおよび句意がシャープになると思います。この子にしてこの親有り、これも原罪かもしれません。
 よって、こうしましょう。
 
  出っ腹すぼめ鏡見る父

 次は、人情なしか人情自(一人称)、どちらかと言えば外でしょう。ぼつぼつさらりとした場の句(人間臭がない)がほしいところです。



訂正(7月29日)

 ミスが判明しました。ナオ折端の句に秋の季語がありませんでした。車中最後の句でばたばたしていたので見過ごしてしまいました。
 また、その二つ前の句に人情がありません。これは気付いていたのですが、人情問題はさほど厳密でなくてもいいので、まあいいかとしておきました。

 が、どうせ直すなら、この際、厳密にしておきましょう。

  髪を乱してにやりと笑ひ→幽霊女にやりと笑ひ

 これは磐司盤三郎像のあった宝物館に幽霊の絵が何点も展示されていたことによります。

  異教徒が読む旧約聖書→鹿火屋で読むは旧約聖書

 鹿火屋は、田畑を荒らす鹿や猪などをおどすため、臭い匂いのするものを焼く火を焚く仮屋のこと。秋の季語です。昔、原石鼎という俳人が主宰する俳誌が「鹿火屋」でした。

 以上、訂正します。掌さんが秋にしなかったのもやむを得ないかもしれません。ただし、月は秋、春秋は一度出たら3句以上続くのが式目です。

 次も、人情あり、内の方がよくなりました。鹿火屋は田畑の中の仮屋なので、外または内外(うちそと。連句には内と外のほか、こういう言い方があります。最初は慣れないかもしれませんが、こういう言い方がなるほどと思えるようになれば連句人として一人前です)のイメージが強いからです。



治定(7月29日)

 3句届きました。

  1,子の好きな焼きたてパンに林檎ジャム   朝子
  2,うたたねの錬金術師に大地震        掌
  3,黙々と林檎を食べる白痴の子        未生草

 期せずして「林檎」が二つ出ました。旧約のアダムから、そして秋の季語というわけでしょう。
 1,は、それをごく日常風景にしたところが面白い。天真爛漫にジャムを食べている我が子も原罪を背負っているのか、という逆説。

 2,は、またしても季語がありません。

 3,は、よく分る句ですが、ちょっとダイレクトすぎる感があります。それに白痴は打越の血統とやや障りそう。

 というわけで、今回は1,の日常句を採用とします。

 次は人情なしで外、さらりとした叙景句が良さそうです。人間模様が続きました。



オフ会解題(7月25日)

 オフ会は掌さん体調不如意で急に不参加となりましたが、風人日記にも書いた通り、22日かみのやま温泉、23日山寺(立石寺)で楽しく充実して過ごせました。茂吉と芭蕉との出会いが皆さん、印象深かったようです。
 以下、解題。

 ナオ折立:殺人というと街じゅう血となり、それがなぜ啄木忌だったかは、ロマンチスト代志朗のみが知る。
 2句目:昔の見世物小屋は確かにこうだったようです。若い野住君も知っていました。

 3句目:今様や傾きは河原から。
 4句目:古の京。有漏路は仏教用語で煩悩の世界、この世のこと。無漏路はあの世。確か語源はサンスクリット語だった気がします。翁丸は現代では“スバル”(代志朗さんの愛犬)と言ったりします。

 5句目:12歳の少女4人と密室に籠った男は、何を考えたのかしら。
 6句目:夏に駆落ちすると、日焼けします。

 7句目:紅花は最初黄色ですが、次第に紅色になっていきます。恋もそのようで。美しい句です。
 8句目:みちのくと葉山館に義理を立てたんですね。それだけです。

 9句目:かつてみちのくは広々した縄文人の大地でした。そこへ都から慈覚大師らがたぶん僧兵までを引き連れやって来て、「対面石」上で盤三郎と交渉し、山寺の地を手に入れました。そしてかつての統領は今や、開山堂脇のろくに登れそうもない岩の上の朽ちそうな祠に閉じこめられています。ひょっとして彼は殺され、あの祠はその魂鎮めの社なのでしょうか。

 10句目:笑っているのは誰でしょう? にやりが凄い。
 11句目:血統話とは何か。結婚か、親か子か。実は冬狸さん、前夜延々とそれを語ったのです。

 12句目:ユダヤ人の血統話はもっと凄い。五千年分は続きます。

 というわけで、なかなか含蓄に富んだ名残の表12句となりました。いかがでしょう。

 これ以降、元に戻ってオンラインで続けます。オフ会に参加できなかった皆さん、お待ちどうさま。
 進行は上の進行表を見て下さい。人情有り、場所は解釈自由です。




追補(7月21日)

 札幌の朝子さんより、オフ会に参加できぬからせめてと、投句がありました。

  蟻の道ナムナムナムとひたすらに        朝子

 「殺人」には面白く付いていますが、残念ながら蟻の道は夏の季語です。



治定とお知らせ(7月21日)

 2句届きました。

  1,貝ぬたのDNAを検証す       掌
  2,天高く舞うや胡蝶のオデッセイ  未生草

 1,は、まず春の季語がありません。春秋は3句以上ですから、ここは春絶対。進行表を見る習慣をつけて下さい。発句をになった人が式目の基本である季節をはずしては困ります(冬月の時もそうでした)。
 次に、DNAは前に遺伝子の句があります。
 
 2,は、天高くが秋、胡蝶が春。「天高く」は「天空に」とか直せますが、どうも付きがはっきりしません。また、使用語も、舞うが打越の花の塵に、胡蝶が長江や辺土に、オデッセイが旅に、どことなく障る感があります。

 というわけで、今回は二つとも採用せず、とします。

 明日からオフ会で芭蕉「奥の細道」ゆかりの山形へ行きます。1日目はかみのやま温泉で、2日目は山寺で、連句三昧で過ごす予定です。幹事は長谷川冬狸さん、参加者はほかに山本掌、太田代志朗、湊野住、夫馬南斎です。

 今回不参加の方たちは、次回オフ会には是非御参加を。
 歌仙は丁度名残の折からオフ会で続けます。どこまで進むか、酒次第という気もします。
 全部巻き終えることはしませんから、またつづきは帰京後、オンラインで継続します。2−3日お待ち下さい。では、行ってきます。



治定(7月16日)

 いささか難しかったのか、1句しか届いていませんが、6日間たっているので、ここらで治定します。

   百年先の春を怪しむ    冬狸

 なんだか意味深そうで、面白い句です。ただ、人情がありませんので、人情ありに直します。

   百年先の春の殺人

 殺人は一般的な事柄ではなく、事実としての殺された人がそこにいるととらえれば人間が登場します。未来の時事句(?)というわけです。

 次はいよいよ名残の折に入ります。進行は上の表を見て下さい(これはいつも習慣づけること)。人情はなし、です。面白い付けと転じを期待します。



治定(7月10日)

 3句あります。

  1,浮き立ちて一寸法師も花いかだ    玲
  2,振り袖が並んだ花の卒業式      未生草
  3,不機嫌な化粧(けわ)ふ少年花の塵   掌

 1,は、楽しくてきれいな句ですが、どうも付かない気がします。
 2,は、人情が出ていません。また、卒業式はふつう3月中下旬で、花のとはいかないのでは。入学式向きです。
 
 3,は、「不機嫌な」から始まって全体が前句に微妙に付いています。ブロック塀、穴いろいろ、そこに金髪かなにかで化粧したブスッとした少年に吹き寄せられた花屑。いかにも時代の相が出ている感さえあります。

 よって、文句なく3,を採用。掌さん久々にして鮮やかな登場でした。

 次は晩春で、人情あり、内外(うちそと)は微妙、それぞれ自分で判断して下さい。



治定(7月6日)

 2句届きました。

  1,ブロック塀の穴もいろいろ    深海魚
  2,外反母趾の我が足痛く      朝子

 1,は、ふだん気付かなかった日常風景が、急に目に映りだしたようで、うまく付きます。穴が意味ありげでもあり。

 2,は、どことなく打越句に障ります。おばあの咳ー我が外反母趾、CDに合わせー足痛く(踊ったみたい)など。

 よって1,を採ります。建築家らしい、さりげなくて味のある句です。

 次は枝折の花。式目的には人情を入れることぐらいで、他には制約はなし。華やかに転じて下さい。



治定(7月2日)

 もう7月です。まだ梅雨ですが、晴れ間は暑く、もう盛夏そのものです。わが書斎からの田圃はすっかり青田になりました。青田風も青田波も見えます。好きな風景です。

 さて、今回は2句。

  1,背中で泣くでかい赤子はすやすやと    未生草
  2,「わ」と言って笑って笑って無職の朝    落合 玲

 2,の落合玲君は、3年ほど前の日芸・放送科の卒業生で、私の連句の授業の受講者でした。連句好きで、学生時代バイトをしていた毎日新聞の学生欄に、「面白い授業、面白い先生」としてわが授業を記事にしてくれたことがあります。

 卒業の時、連句を続ける機会を作ってほしいと頼まれたのですが、すぐは出来ず、やっと今になってこのオンライン上で再会というわけです。どうやって見つけてきてくれたのかしら。
 礼儀正しい印象は昔通りです。記憶では健康そうな可愛い子ちゃんでした。表示名はかねがね使用のペンネームだそうです。

 1,は、背中は「背(せな)」の方がいいし、「でかい」がどうも句をこわしています。それと、打越に人情他があるから、ここは人情他はだめです。

 2,は、どうやら御当人の状況のようで、泣き笑いの気分が良く伝わりグッドですが、「笑って笑って」は口語的すぎる上、「て」が3つも続きすぎです。よって、手直しします。

  「わ」と言って笑ひ笑ひて無職の朝  

 若々しい新人登場、気分爽やかです。失業の暇が幸いしたみたいですね。年長の連衆諸氏もよろしく見守ってやって下さい。

 次は花前です。ちょっと控えめに。春でもいいけど、やはり雑でしょうね。



お詫びと追補(6月29日)

 下の治定後、未生草さんから、25日に投句したはずというメールが来ました。
 確かにその通りでした。このごろペン電子文藝館のメーリングリストが日に15通ほども来るのでその処理に紛れ見落としていました。どうも申し訳なし。以下の句です。

  覆面女が忍術の稽古   未生草

 覆面が冬の季語。東北とか日本海側の風俗ですか、面白い季語です。それを忍術に転用したところがひねりで、悪くないのですが、多少の欠点は体言留めが打越以来3句続くところです。

 打越句自体が未生草さんでもあるし、今回はまあ私に譲っておいて下さい。



治定(6月29日) 

 中々出ないので、私が付けます。

  おばあの咳もCDに合わせ

 日本は暖かくて豊かな冬になりました。
 次は内にして、家庭的なこと、世話物的なことにすると面白そうです。
 


治定(6月23日夜)

 3句届いています。

  1,炯々と猿王月に脱糞す     掌
  2,月冴えて涯に詠う人は影    朝子
  3,宵待ちて望郷の月仰ぎける   冬狸

 1,は、掌さんらしい漢詩を思わせる濃厚な図柄ですが、ここは冬月です。「王」を「寒」にすれば何とかなるけど。

 2,は、中7が字足らず。「涯」を「辺土」とし、詠うを文語にするといいですね。

   月冴えて辺土に詠ふ人は影

 3,は、やはり冬を落しています。それに、2,に偶然似ています。

 今回は2,を直して採用とします。

 次は人情あり、内で、転換を図ること。ちょっとトーンが詠嘆、境涯句的で、似てきています。



治定(6月20日)
 
 すばやく2句来ました。

  1,悠々たるは長江の流れ       未生草
  2,ラブレターもらって醒める恋もあり  野住

 1,は、完全に恋から離れての、いわば対象化。ちょっと類型的のきらいもありますが、遺漏はありません。固有名詞がやや近いぐらい。

 2,は、発想の逆説性が前句と似ています。打越句もそうとも言えます。

 よって、1,を採用。

 次は2回目の月。ここはかなり付けやすい気がします。



治定(6月19日) 

 2句あります。

  1,うすくよごれし義絶の手紙     掌
  2,この世の果てはみな骨となり  未生草

 どちらもそれぞれの個性が出た句ですが、しかし打越句との関係をちゃんと見たでしょうか。
 1,は、「義絶」はつまり別れ、昔は妻子との義絶もあったはず、「ノンと言ひ」に障ります。

 2,は、全体が「共白髪」に障ります。

 よって差し戻しとします。皆さん、付けと転じ、連句は往きて還らず、つまり打越から転ずること、をお忘れなく。
 


治定(6月14日)

 3句あります。

  1,お気づきか惚れると惚ける同じ字だ    冬狸
  2,風呂釜は爆発音でやっと点き       未生草
  3,きのふけふ言葉びゅんびゅん平手打ち   掌

 1,は、ユーモアたっぷりの恋。
 2,は、夫が慣れぬ手で風呂の用意か。恋離れになりそう。
 3,は、夫婦喧嘩の図でしょうね。

 1,が一番面白く、機知にも富んでいます。これを頂きましょう。このところ冬狸さん、好調。

 次はもう一つ恋離れもよし、完全に転じるもよし。雰囲気からいってサラリとした場の句(静物画的)にした方が味が出そうです。

 なお、オフ会が7月下旬に山形県かみのやま温泉で開かれることになりました。近くには芭蕉ゆかりの山寺もある「奥の細道」界隈です。楽しみですね。

  閑かさや岩にしみいる蝉の声  芭蕉

 ついでにもう1句。

  蝉聞きて夫婦いさかひ恥づるかな    西鶴



治定(6月11日)

 3句届きました。

  1,三千世界の浪漫飛行よ     野住
  2,偕老同穴否(ノン)と妻言ひ   朝子
  3,あなたを待つわ壺中天にて   掌

 1,は、浪漫飛行が旅とダブルうえ、前に「飛び交ふ」があります。
 2,は、言葉がぎくしゃくしすぎ。偕老同穴も納まりが悪い。直す要あり。
 3,は、「せりあがる海」以降、神秘主義3句がらみのきらいあり。

 というわけで、今回初出でもあり、朝子さんの句をなおして採用とします。

   共白髪なぞ否(ノン)と妻の言ひ

 次は恋を続けてもよし、離れてもよし、人情なしで内。
 


治定2(6月7日)

 下の治定をしてから、興に乗って私もすぐ付けたくなりました。

  サイババの奇蹟に焦がれ旅に出る    南斎

 そのまま恋ととってもよし、少なくとも恋の呼び出しにはなるでしょう。

 次は完全に恋、打越に気を付け、がらりと転じて下さい。



治定(6月7日)

 また新鮮な句が届きました。

   俺らの前でせり上がる海    森山深海魚

 俺らは「おいら」と呼ぶのか「おれら」か。後者だと複数になるし、前者の方がいい気がします。ちょっとビートたけし風ですが。

 昔、ネパールにいたとき、亡命チベット人たちが大抵赤い珊瑚を持っているのが不思議でした。聞くと、往古、チベット高原は海だったというので、なお驚きました。太平洋にもムー大陸があったという話もあります。

 作者のイメージはただ大波か津波(これでも面白い)ということかも知れないけど、私なぞは海が突然せり上がる幻視ととりたい。規模が壮大になります。
 人情・自の登場も時宜を得ています。それにしても、深海魚さんは名前通り海の句が好きですね。

 次は人情が続いた方がいいし、丁度いいからぼつぼつ恋でしょうか。場所は外を続けた方がいいでしょう。



治定(6月5日)

 素晴らしい句が届いたので、治定します。

  1,白亜紀の琥珀に秋の色残り    冬狸
  2,秋の風錬金術をおさめても      掌

 1,は、冬狸さんによれば、琥珀は太古の虫が入っているものが珍重されるそうです。何たる長き時間、何たる虫の生。白は白秋といって秋の色、そこに琥珀があり、更にその中に秋の季語たる虫がいて、と重層的。かなりの名句だと思います。
 実は、打越の人情無しにちょっと触るのですが、句の方がいいので、特例とします。

 2,は、錬金術ではまた時代めいてしまいます。

 というわけで、文句なく1,に決定。

 次は、ここらで人情句を出して下さい。場所も外がベター。



治定(6月3日)

 面白い句が届いたので、ちょっと早いけど決定します。

  ビーカにゆれる虫の遺伝子    未生草

 虫が秋の季語。ふつう鈴虫とかコオロギなど鳴く虫のことで、使用例も風流な句が多いのに、これは異色。何をしているのか分らないけど、SARSがらみか、あるいは虫の音研究家かなどと想像が膨らみます。

 次の人がどう解釈して付けるか、そこが面白い。
 ただし、「ビーカ」は、「ビーカー」にします。プロバイダとかコンピュータとかデジタル以降の用語は、所詮メーカー等の技術者が使いだしたやり方で、言葉に携わる人間から見れば、言葉には全く素人の美的感覚もない連中が作り出した妙なものとしか見えません。
 初期のパソコンの取り扱い説明書類も、日本語にもなっていない読みにくいものが多かったものです。

 次は裏入り。表5句の制約はなくなりますから、闊達自在に。



治定(6月1日)

 3句あります。

  1,虚空をば情報飛び交う月静か  野住
  2,お巡りも無灯火とがめぬ名月か  今西ぬ蔵
  3,マネキンの月光を着る飾り窓   未生草

 1,は、上5中7がどうも説明的です。同じことを諧謔的、あるいはひとひねりして具体的に描くとよくなります。

 2,の今西ぬ蔵君は、今年22歳、1昨年日芸の私の連句の授業にいた教え子で、20歳にしてはえらくうまい子でした。目下は今年卒業し、演劇学科の副手として所沢校舎に勤務中。金曜日にこのHPの存在を初めて知り、その日のうちに3回、4作も付けてきたうちの最初の句です。だが、残念ながら句は「お巡り」(人情他ー3人称)が打越に触ります。俳号は、続けて読み変換すると意味が分ります。

 3,は、式目、内容とも遺漏はありません。「月光を着る」ところが味。このマネキン裸体か。

 で、順当なら3,とすべきなのですが、未生草さんが続くので、ここは野住君の句を直して採用としたいと思います。

   眼前をメール飛び交ふ月静か

 時代めいていた雰囲気が一気に現代に戻りました。次も打越に気を付けつつ、洒落た展開を。



治定とアドバイス(5月28日)

 2句届きました。

  1,便利屋商売宵は掛取り       冬狸
  2,汐さすときの広き回廊        未生草

 1,は、若女将が意外な商売だったことになりますか。便利屋が人間の3人称だと打越に触りますが、商売のことととれば触りません。

 2,は、どう付けたのか、また「回廊」が何のことかが分りません。満潮の時の両国界隈・大川の風景か何かでしょうか?

 というわけで1,を採用。

 次は月の定座、もちろん秋です。人情他はダメです。場所は外。まだ出てない方、早めにどうぞ。



治定とアドバイス(5月25日)

 1句も届かないので、私が付けます。式目的にも、発句が宗匠でない場合、第三は宗匠とすることが普通です。いい句が届けばそちらを優先、と思っていたのですが。

  若女将 髪結ひ上げて帯打って

 「帯打って」は、和服の身支度整えたあと、姿見の前あたりでポンと帯の前か横、時にうしろを掌で打つ仕草のつもりです。

 次は四句目。ここから平句と言います。次が月の定座ですから、ここはサラリとさりげなくします。月を阻害しないこと。脇からの三句の転じを忘れないこと。
 進行は上の進行表通りで。



治定とアドバイス(5月21日)

 3句届きました。

  1,夏場所わかすモンゴル力士    未生草
  2,あきつ生まれし花つなの州(くに)    朝子
  3,眼(まなこ)ほのぼの裸足の乙女     冬狸

 1,は、東アジアの広域列島にモンゴルがうまい付けです。ただし、「はじめに」の6,にも書いたとおり、表5句に固有名詞は違反です。よって、「モンゴル」を「異国の」と直します。

 2,の「あきつ」はトンボ、秋の季語です。また、内容が繰り返しです。花つな列島は日本列島から千島列島にかけてのことだそうです。

 3,は、前回の2,朝子さんの句と似て穏やかな日常句ですが、発句への付きがちょっと弱い。脇はぴったり付けます。

 というわけで、1,の直し、

   夏場所わかす異国の力士

とします。

 次は第三。
 1,丈高く伸びやかに。2,三句の転じ(前句には付け、打越句からはがらりと転じること)。3、に、て、にて、らむ、もなし留めにする。
 詳細は過去の分(第一回)を参照して下さい。進行は上の進行表を見て下さい。ほぼこの順で進めます。



治定(5月18日)

 未生草さんから次のような投句がありました。参考になると思うので、それへの返事をここにも書きます。

   椰子の実きたる海上の道

 やはり季語が要ります。冬でも椰子の実は来そうな気がします。
 また、これだと当座になりません。当季当座は「今、この場で」という意味で、本来なら連衆が集まっているその座の場のこと。ネット上はそこが違うから苦労しているわけです。発句ヤポネシアはこれなら連衆がどこにいようと皆当座たりうると思ったから採用したのです。
差し戻しとします。



治定(じじょう)とアドバイス(5月17日)

 途中、2人には差し戻し、9日間かかりました。ともかく、ここらで治定します。

  1,ゆきげ富士すそ野ひろがる蒼さかな    未生草
  2,おはようと夏服の少女まばゆかり        朝子
  3,夏めいてE線上なる集いかな          野住
  4,新樹光その島の名はジパング          掌
  5,はつなつの朝のたてがみ疾駆せよ       同

 結局4人というのも、待ったわりには淋しいのですが、発句というと気構えすぎるのかしら。芭蕉は晩年「重くれず、軽みを」と言いました。

 1,は、風格があるとも言えますが、何といっても富士は常套的でもあります。正月の掛け軸や風呂屋の壁絵を思い起します。それに、「当座」になりにくい面があります。富士の見えない場所の人には付けられない。皆で吟行に行っているわけでもありません。

 2,は、ちょっと直せばよくなるのですが、このままでは深み・味わいにかけます。上5がよくない。日常的すぎるのです。
 3,は、「E線上」はEメール上のという意味だそうで、当座という意味では一番。さらりとしていいのですが、第1回歌仙の発句・脇、

   わかみどりネットの上にも萌えたてり
    誘ひ合せむ今日の野遊

 と似通いすぎです。

 4,は、新樹光という季語がいい。金子兜太宗匠好みかな。
 が、下5,字足らずの上、古めかしい。いきなり歴史物になってしまいます。当季はあくまで時代的にも現在只今そのものです。

 よって、ヤポネシアと直します。奄美に住んだ作家・島尾敏雄が言いだし、谷川健一ら民俗学者の間でも広く使われるようになった用語で、日本列島から琉球列島全体を指します。

 5,は、どこかの馬場か牧場、さなくば観念的すぎ、やはり当座に馴染みません。

 よって、「新樹光その島の名はヤポネシア」、と決定します。なお、今後、1人1句を、守って下さい。

 次の脇はすでに2回体験済ですので、連衆諸氏、今までの治定なぞを参照しながら自在に付けて下さい。
 簡略に言っておけば、1,発句を補い、2,亭主のつもりで答礼し、3,発句と当季当座同時刻、4,漢字体言留めがベター、です。



はじめに(5月8日)

 方針にも書きましが、今回から発句も連衆の皆さんに作ってもらうことにします。
 
 発句は何といっても連句の出発と主題を半ば決める重要なもので、俳句はこれが独立したものです。だから、昔は俳句のことを発句と呼んでいました。戦後でもぼくの祖父母の世代はそう呼んでいました。

 発句にはいろんな式目があります。
 おおむね次の6項目です。

 1.あいさつ  客発句・亭主脇といい、通常一座中の貴人または正客が受け持ちます。一座連衆への挨拶性が必要。

 2,位高く幽玄に  要するに品位、深みや貫禄があること。初心者は遠慮します。

 3,当季当座  座が開かれたその場での季節、時間、場所であること。連句は基本的にアドリブのものです。今回なら初夏の季語を使い、あとはそれぞれの臨場感をだすこと。

 4,切れ字を用いる  や、かな、けり、など切れ字は、切れ字10語とも18語ともいい、なくても切れ字的効果があればいいともされます。 つまり、なかなか判断が難しいのですが、初心のうちは主だった切れ字を使うのがいいでしょう。

 5,余韻・余情があること  言い尽くしてしまってはいけません。脇を付けやすくする必要があります。連句は一人だけで作るものではなく、常に他人のことを配慮するものです。

 6,発句はオールマイティー  表6句には神祇釈教、無常、病体、地名人名など固有名詞、恋、鬼・蛇などおどろおどろしきもの、など、つまり重くれたことを避ける約束がありますが、発句だけはそれらのタブーから自由です。
 つまり、それら制約は実質的には「表5句」のみです。
 また、字余り・破調も可。ただし、初心者はむしろ正調を心がけた方が勉強になります。

 以上です。では皆さん、格調高く、いきましょう。
 ひとそろい出揃うまで待ちます。