第4回歌仙     

〈こぼれ萩〉    南斎プラス衆判

             座:風人連句会
             連衆:長谷川冬狸、太田代志朗、湊野住、
                 落合玲、夫馬南斎、越智未生草、
                 宇多紀ノ、高井朝子、森山深海魚
             於:(発句〜裏2句)
                新江戸川公園松声閣(9月28日)
                  : (ウ4句〜12句)
                           同      (11月16日)
                  : (ナオ2句〜12句)
                         新宿区中井・落合玲邸(1月12日)
                  : (ナウ6句)
                 新江戸川公園松声閣(3月7日)
                         


発句   遣水の響きて萩のこぼれけり       長谷川冬狸
脇・月    今日生れたる満月の人*1       夫馬 南斎
第三   縁側に秋扇ふと投げおきて        太田代志朗
 雑      俄に始めるタップの練習         湊 野住
 冬    ホーホーと啼くふくろうの笑ひゐる     落合 玲
 冬      牡蠣鍋つつく歌詠み五人          代
雑   死してなほ腐敗せざりき牧水は*2        南
 雑      健脚なれどマイカーの旅           冬
 恋    ミナミからキタへいくねん逆ナンパ       野
 恋     よろこび組の乙女の受難        越智未生草
 恋離れ 白き手でキリストの足洗ひけり          冬
 雑      エステサロンは今日も賑はふ         野
 夏月   うたたねの夢からさめて夏の月         玲
 夏      蝙蝠を追ふ少年の影             未
 雑    焼跡に探偵団ら現れて              南
 雑      NGなしで撮影終了              冬
 花    印画紙に閉ぢこめられた花の風      宇多 紀ノ
 春      浮かれ烏の春の宴よ              代
ナオ春    融雪*3と道産子農婦澄まし言ふ     高井 朝子
 雑      廃車置場の草の青さは         森山深海魚
 雑    複眼に何も映らぬ昼の空             野
 雑      イラク派兵の行軍の列            代
 夏・恋  モスク出て女妖しく日傘さし            玲
 夏・恋    白ブラウスの原節子です           南
 恋    問ひかける言葉もなくて茶を点てる        冬
 恋離れ   風呂水ためて主婦が蒸発           深
 雑    極道の夕べかなしき味噌汁や           代
 雑      シリコンバレーにタトゥの流行る       深
 月    名月にイチローの球飛んで行き          玲
 秋      柚子の香匂ふ和室十畳            南
ナウ秋    黄八丈脱ぎて酔ひたる秋の暮          代
 雑      ストリッパーの懈(けだる)きひとみ        未
 雑     ひさびさの沢田研二の激太り          冬
 雑      太極拳であちこち痛み             南
 花     髪ゆれて花びらの色にじみゆく         玲
 挙句     座のかたはらに流るる椿*4          野


              註1:初参加の落合玲君は、この日、満月の早暁生れしといふ。
              註2:若山牧水は9月19日に死亡したのに、死後2日ほど腐敗しなかったとい
                 ふ。2升酒のせいとか。
              註3:北海道では農事用語はほとんど漢語でいふ。
              註4:座を開いている松声閣の部屋は「つばきの間」と言ひ、庭には椿の花が見
                 えている。

  2003年9月28日起首
  2004年3月7日満尾
                 (下に解題・総括・感想あり。未生草、野住、
                         代志朗、玲、冬狸さん



第4回歌仙の方針

 今回からオンラインより座の例会中心に切り替えます。風人連句会も開始以来丸1年半、すでに4回目となったので、レベルアップを図るためにも、連衆による衆判(合議制のこと)にし、次第に連衆持ち回り捌きの体制に持っていくためです。

 衆判は座でなければ不可能です。また、連句は捌きを経験しないと真の味わいは分らず、また習熟もありません。ただ人任せで、言われる通り作っているだけでは、進歩しないのです。
 よって、今後オンラインはつなぎ的役割にし、オフ会も例会と言い改めます。

 したがって、例会分については簡単な解題を私が書き、オンライン時の治定も今までより簡略化します。

 これに合わせ、今回以降は参加者も @中級者(例えば経験1年以上) A言葉や絵、映画、音楽など創造活動に携わる人、B文学研究者 などと限定させていただきます。

 むかし経験はあるが、式目等を忘れかけている、あるいはよく知らないといった人は、何か参考書を1冊程度は読むなりするか、またはこのHP上の第1回オンライン連句」時の案内や第1回分の作品と治定第2回分の作品と治定などを読み比べて下さい。

 それによって、おおむねの式目、作句のコツ等もよく分ると思います。式目部分は赤字・太字にしてあるので、そこだけ見て下さっても結構です。治定・解説はぜひきちんと参照して下さい。
 参考書や歳時記の案内も書いてあります。
 
 なお、初めて参加される方のための若干のルールもあります。それもぜひ一読下さい。


 なお、今回は仲秋を起句とする平均的な進行形式を用いることにしますので、その進行表を下に記します。この通りに進むとは限りませんが、おおむねこういった形で進行させる予定です。
表6句発句名残の表折立

脇・月 (ナオ)二句め

第三
三句め

四句め
四句め

五句め夏または冬 このあたり
で恋だす
五句め夏または冬・恋

折端夏または冬
六句め夏または冬・恋
裏12句折立
七句め雑・恋
(ウ)二句め
八句め雑・恋離れ
このあたり
で恋だす
三句め雑・恋の呼び出し
九句め

四句め雑・恋
十句め

五句め雑・恋
月の座

六句め
折端

月の座月・冬または夏名残の裏折立

八句め冬または夏 (ナウ)二句め

九句め
三句め

十句め
四句め雑または春

花の座
花の座

折端
挙句



総括・感想(3月20日)  冬狸さん

総括が遅くなってすみません。自分に言い訳しながら、どんどん伸ばしてしまい、こ
の連休にようやく書いています。遅れての提出って、実にやりにくいものですね。
(反省)
連衆の皆さんが、それぞれにすばらしい感想を書かれていて感動しました。とくに若
い女性たちの感性すてきですね。おばさんとしては、なんかア、もウ、書くことがな
いって感じ?みたいなア・・・ 

 今回は、発句のイメージとどんどん離れていく面白さがありました。また、「こぼ
れ萩」という美しい題をつけていただいたことも、発句の作者として、とても光栄で
うれしいことでした。「鑓水の〜」の拙句に、「満月の人」は当座、当時刻の原則
に、こういう付け方があるのだ、と目からうろこでした。しかも、玲さんのお人柄を
知れば知るほど納得の一句です。

 さて、ここからが総括です。今回は、前の野住さんを習って、ストーリー仕立てに
挑戦してみました。
脱線してばかりの文章になりましたこと、お許しください。

 秋扇を放り出して(?)タップの練習に行ってしまった歌人。月を仰ぎつつ、幽玄
の世界に漂っていた歌人が、突然、トレードマークの着物を脱ぎ捨て、草履をタップ
シューズに履き替えるんですよ。すごいことです。「ほー」とふくろう博士も笑うし
かないか。
でも、それだけじゃなかった。タップでお腹がすいたら今度は味噌鍋です。思わず中
身を想像しちゃいますね。味噌鍋だったら、やっぱり牡蠣がいいな。ごぼうなんかも
味噌に合いますね。(だそく:この間、名古屋に行く機会があったので、山本屋の味
噌煮込みうどんを久々に食べました。おいしいんだけど、ちょっと味が濃いなあ、と
いつも思ってしまうのですが、皆さんはどうですか?)なんて、思いつつ、ついお酒
も進み、血中アルコール濃度はどんどん上昇。
翌朝はひどい頭痛だったのでしょう。牧水先生の轍は踏まじと、反省の行脚に出よう
と思ってはみたものの、現代人の悲しさ。ま、クルマでいいか、なんてすぐ自分に負
けて、安易なところで妥協。しかも、大阪に着いたとたんにお姉さんに逆ナンパされ
ちゃった。お姉さん曰く。「おっさん、よろこび組みたいなダンス見とない?」「何
をいうか!よろこび組の女性たちがどのくらい屈辱的な思いを強いられているのかわ
からんのか! ばっかもーん」と、自分の安易さは棚に上げ、ちょっとお説教してみ
る。
「教会にでも行って懺悔せい!」
「こんなけったいなおっさんにかかわらんとこ。エステでも行こか。もっとええ男ナ
ンパしてオールしよや。」と難波のギャルは行ってしまいました。
そこで、はっと目がさめると夏の月が冴え渡っています。「夢か。それにしても今の
若者は・・・」と夢から覚めてもまだ怒りがおさまりません。「なにがオールだ!俺が
少年の頃は、夜遊びなんかしなかったぞ。蝙蝠を追っかけたり、明智小五郎にあこが
れて、小林少年と自分を重ねてみたり。昔の少年は純情だったなあ。」とノスタル
ジックに浸っていると、「ちょっと、おじさん。写真撮ってもらっていいですか。桜
の木もちゃんと入れてね。」と、かわいいOL二人に撮影を頼まれました。「はい、
はい」とシャッターを切って
「ばっちり写ってますよ」とカメラを返します。「かわいい子だったなあ。今の美し
さがこの印画紙に一生残るんだなあ。しかし、花に嵐のたとえもあるさ。あの子たち
もこれからいろいろあるだろう。」といらぬ心配をしつつも、すこし幸せな気持ちに
なっていくのでした。
「気分のいいところで、桜の下で一杯やっていこうか。」とウキウキしながら路地に
はいると、まだあちこちに雪が残っていました。転びそうになっていると、「融雪危
険。前方注意。」と農婦がぶつぶつ言いながら通りすぎました。
「なんだ、あれは」と思いながら歩いていくと、廃車場が。そして、その隅っこに
は、青々とした草が生えています。見上げればすばらしい青空が広がって、願わく
ば、トンボの複眼にも青空だけが映っていてほしい。危険な方向に向かいつつある日
本などを、その純粋な目に映してはいけない。ああ、この空はイラクにも続いている
んだなあ。と、再び感傷にふけりそうになっていると、モスクから日傘を広げながら
美女が出てくのが目に入ります。すると、視線はそこに釘付け。(日傘のなかの顔は
原節子に似てるかなあ。原節子のあの白いブラウス。清潔な色気というか・・・。昔の
女性は、話かけても、俯いてお茶をたててくれるような風情がありましたなあ。それ
にしても、今の女は、何を考えているか知らないが、風呂水溜めたまま、プイと蒸発
よ。ま、亭主も亭主だから仕方ないかもしれないが。極道でも、女房に逃げられると
哀れなもんだなあ)
ところが、その女房。実は新しい彼氏とアメリカに行っていました。彼氏はコン
ピュータ関連会社のエリート。シリコンバレーでちゃっかり新婚生活気分を満喫して
いたのです。しかも、彼女の背中の牡丹の刺青がアメリカ人に大好評。「日本はイチ
ローしか誇れるものがないと思っていたけど、これはすばらしいゲイジュツだ。ワン
ダフル!」というわけで、シリコンバレーは日本ブーム。和室がはやれば日本食もは
やる。彼女は地元のパーティにひっぱりだこ。黄八丈を着た彼女のなまめかしいこ
と。あまりにも刺激的だったので、「キハチジョー」は、今や英語になってしまいま
した。(?)
しかし、日本が恋しくないはずはなく、エリート男性にも飽きた彼女は日本へ帰るこ
とにしました。(何とかなるさ。こうなったら、なんでもアリよ)と、ストリッパー
に転身してみたものの、時間と引力の法則には抗えず、いつのまにか、バスト、ウエ
スト、ヒップが同サイズになっている自分に気付きます。(沢田研二だって、激太り
じゃん。)と、安心理論を探してみても、不安はつきまとうのでした。(やっぱり痩
せなきゃ)と、決心して太極拳を習い、「美女の証は黒髪よ」とばかりに、コラーゲ
ン入りシャンプーを使い、椿油でマッサージ。そして、努力が実り、再び黒髪の美女
に生まれ変わりましたとさ。

というお粗末でした。



総括・感想(3月14日)  玲君

 本格的に参加させたいただいた、連句でした。毎回、本当に楽しみで、2か月経つ
のが本当に待ち遠しかった! 私にちなんで作っていただいた句もあり、生涯忘れら
れない作品です。
 発句の美しさは言うまでもなく、オジ様たちのうたかたの夢が浮んでは消え、冬狸
さん、野住さん、私がそれに茶々を入れ、また挙句に向かってしんなりと美しい方向
に向かっていく。めりはりのある巻でした。
 私が大変気に入っている部分は、
縁側に秋扇ふと投げおきて      
    俄に始めるタップの練習
の部分ですね。私も、トワイライト代志朗さんのタップを踏む姿が、目に浮びます。
縁側に秋扇ふと投げおきて の格調高い感じを、俄に始めるタップの練習が茶化す。
今回のオジ様たちの夢→茶化すの始まりはここだったと思うのです。ここが、格調→
格調・美の方向に行っていたら、全体の印象もガラッと変わっていたことでしょう。
 ミナミからキタへいくねん逆ナンパ は、個人的に大変好きな句です。ホントに。
こういうユーモア性を出せるのは素晴らしい。私はまだ、そういった技術がなく直球
勝負しかないのですが、
名月にイチローの球飛んで行き は、私のストレートがうまくハマったしら、と思い
ます。毎日、大リーグ中継を見ていてよかった♪

 最後に、取り上げられなかったけれど、ぜひどこかで再びお目にかかりたい句が、
代志朗さんの「牛丼大盛り」にこだわった句と、未生草さんの「死してなほ 枯木に
 花を咲かせたり」です。代志朗さんが句の中ではひた隠し(?)にしているユーモ
ア性と、未生草さんが普段は秘している激しい魂が垣間見られ、本当に興味深い句で
した。南斎宗匠が、原節子を心の中で温めている、というのも新たな発見でした。
 また、どうぞ、よろしくお願いいたします。

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黒川玲子
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総括・感想(3月13日)  代志朗さん

関口芭蕉庵跡ーーおお、萩が咲きこぼれ、風が吹く。何? 何、妙齢の満月の人と。
されば、鬱金の秋扇を投げ捨てゆくか。
歌詠み5人が牡蠣鍋つつく夕べ、酒飲みの牧水は死してなお腐敗しなかったとな。
して、また健脚なれば、いずこへ行くかーー乙女の受難あれば、キリストに白き手差
し伸べ、いや、サロンは賑わい、夢醒めて夏の月が空しく流れる。
蝙蝠を追う少年よ。焼け跡に遊ぶ少年よ。
あいや、花の風が吹き、浮かれ烏が春の絢爛の宴を繰り広げたるとよ。
田舎の小道の逝く雪は融け、青い草が燃える。
その目に昼の月映り、イラクには今日も行軍がつづくとよ。
おお、モスクには妖艶な女が日傘を差して笑っている。
原節子の白いブラウスは眩しく、静かに茶を点てる時、どこかでは主婦が蒸発し、
その極道は女の愛に裏切られ、ひとり無様に味噌汁を啜る。
世を拗ねて刻んだ男の刺青は、これまた現代アートにも見られ、
柚子の香りする和室で黄八丈を脱ぎ、また酔いしれる秋の暮れよ。
ああ、気だるきひとみーー花びらが揺れ、座の近くに椿が静かに流れ行くとよ。
早春、歌仙一巻。西行の無言の時の夕間暮、とぞ呟き・・・・。


太田代志朗
ohta@uranus.dti.ne.jp
http://www.uranus.dti.ne.jp/~ohta



総括・感想(3月12日)  野住君

 夫馬 南斎先生

先生、連衆の皆さんお疲れ様でした。ありがとうございました。
今回は持ちまわりで執筆を担当、南斎先生捌き+衆判ということで、また違った緊張
感や楽しさも加わって、非常に楽しい座になりました。
第四回目の<こぼれ萩>の巻。また一段と面白いものができましたね。
例会で玲さんがおっしゃっていましたが、発句とタイトルの美しさに反してなんと人
間臭いと言いましょうか、俗っ気があるといいましょうか。そのギャップにまたなん
とも俳味がありますね。玲さんの見つけた裏コード「オヤジ達のたそがれ」に則って
見ていくと、また違った可笑しみが出てきます。

遣水の響きて萩のこぼれけり
 今日生まれたる満月の人:庭の遣水に萩がこぼれ咲く頃、満月に導かれて生まれた
人はどんな人でしょう?
縁側に秋扇ふと投げおきて
 俄に始めるタップの練習:南斎先生の解題のためか、この秋扇を投げて俄にタップ
を踏み出した人は太田さんのイメージが強いです。四句目の「俄に〜」は野住(わた
し)が作ったんだけどなぁ…
ホーホーと啼くふくろうの笑ひゐる:ふくろうは目が正面に付いていて、顔の作りが
人間に近いので、賢い鳥=知恵の象徴なんだとか。玲さんに見せていただいたあの写
真の梟、たしかにニッコリ笑ってましたね。
↑この表の五句はお父さんの平和で幸福な日曜日のイメージです。
歌詠みが五人集まって牡蠣鍋を食べ始めた頃から平凡な日常生活が変化を見せ始めま
す。なんたって「死してなほ腐敗」しないんですから。
 健脚なれどマイカーの旅
ミナミからキタへいくねん逆ナンパ:足が丈夫なくせに車で旅行。関西人の女の子に
逆ナンパされたりしながら。
 よろこび組の乙女の受難:「よろこび」はたった一人のオヤジのための大勢の受難
白き手でキリストの足洗ひけり:昔々イエス・キリストというナイスミドル(?)が
いました。彼を崇拝する女が香油で彼の足を洗ったのだそうです。
 エステサロンは今日も賑はふ:香油で足を洗うと聞いてすぐ思い浮かんだのがエス
テ。作者としては久々に上手く付けられたと密かに思っています。
うたたねの夢からさめて夏の月
 蝙蝠を追ふ少年の影
焼跡に探偵団ら現れて 
 NGなしで撮影終了
印画紙に閉ぢこめられた花の風
 浮かれ烏の春の宴よ:ウラの後半六句はオジさんの夢。夏の月の下。うたた寝に見
た夢は、蝙蝠を追い駆け回して遊んだ少年時代のこと。まだ戦争の傷跡残る街角に現
れた謎の集団。何かと思ったら映画の撮影だったんだよね。一発OKなんてさすがは
名優。セピア色の写真の中は思い出が一杯。小学校の入学記念写真、カメラの前を花
びらが舞って僕の顔半分欠けて写ってる。その頃の仲間が集まって今日は真っ昼間か
ら宴会だい。
融雪と道産子農婦澄まし言ふ
 廃車置場の草の青さは:関東では春真っ盛り。遠く雪深い北国ではようやく雪解
け。「融雪だわ」と無感動なひと言。雪の下からようやく顔を出した植物の美しさっ
てあるじゃない。廃車置場みたいなとこの雑草の青ってのも以外と綺麗なんだよ。
複眼に何も映らぬ昼の空
 イラク派兵の行軍の列:虫の目をじっと見ていると何が映ってるのかよく分らな
い。じっと空を見つめて、君は何を考えているの? 複眼の見つめる先のその空にイ
ラクへ向かう軍用機が隊列を組んで飛んで行く。
モスク出て女怪しく日傘さし:「そこの貴女は誰ですか?」
 白ブラウスの原節子です:なんだ、原節子だったのか。今お幾つ?
問ひかける言葉もなくて茶を点てる
 風呂水ためて主婦が蒸発:その話は聞きっこなしよ。何言っていいか分らなくて
黙っちゃうぢゃありませんか。気遣いを残しながらも姿を消してしまいました。
↑名残の表。恋句はなんだかオジさんの好きそうなシチュエーションたっぷり。
極道の夕べかなしき味噌汁や:極道と言えどもオヤジはオヤジ。極妻に見捨てられて
侘しく味噌汁啜ることだってあるんです。男って悲しい……。
 シリコンバレーにタトゥーの流行る
名月にイチローの球飛んで行き:鮮やかに転換。おぉ、サヨナラホームランだぁ。
 柚子の香匂ふ和室十畳:スカッと爽やかな柑橘系の匂い。柚子の香はそのなかでも
ちょっと特別なもの。ほんとに良い匂いでした。
黄八丈脱ぎて酔ひたる秋の暮:物議を醸した太田さんの句。さてどんな光景を思い浮
かべられたのか。因みに、私にとって黄八丈着ている人のイメージはちょっとおバカ
さん。歌舞伎でこれを着ている人は町娘か端敵、半道化。ちょっと何か抜けてる人が
多い。
 ストリッパーの懈きひとみ:未生草さんついに本性表す?!昔のストリッパーっ
て、生活の為に仕方なく、バレリーナ志望の貧しい女の子がなることが多かったと聞
いたことがあります。今はどうなんでしょう?オジさんは体に惹かれるの?それとも
「懈きひとみ」に惹かれるの?
ひさじさの沢田研二の激太り:思わず頷きながら笑った一句。かつてのアイドルも今
は立派なオジさん、か。
 太極拳で あちこち痛み:太極拳でもして、少し痩せようね。体に悪いから。ね、
お父さん。
髪ゆれて花びらの色にじみゆく:太極拳のゆるやかな動きのイメージ。この髪はやは
り黒髪のさらさらヘアーがいいな。桜の木の下で太極拳をする美女。これもオジさん
の憧れの夢なのかしら。
座のかたはらに流るる椿:夢想したり、回想したり。物議したり、茶化したり。俳人
たちの傍らを、椿は静かに流れて行きます。

こう見て行くとオジさん俳人の作った歌仙みたいですね。風人連句会は個性豊かで、
存在感の大きな女性陣もいるのに。
ともあれ、変化に富んだ面白い歌仙ができました。作っていてもとても面白かったで
す。次回はそんな一巻になるのでしょうか、楽しみです。

湊 野住



総括・感想(3月11日)  未生草さん

 夫馬南斎先生

先日は、大変お世話になり有り難うございました。
とても楽しい座の経験をさせて頂きました。

今回、感動したのは、何よりも発句の美しさです。
それに挙げ句も上手く呼応しています。

モスク出て女妖しく日傘さし
白ブラウスの原節子です
問いかける言葉もなくて茶を点てる

この流れは俳諧味もあり、とてもいい付けだと思います。

個人的に好きなのは、

ストリッパーの懈きひとみ

このような嗜好をお持ちの作者には是非とも、
更に句境を極めて頂きたいと存じます。

未生草拝



解題(2004年3月8日)

 本年2回目の風人連句会は、会場を再び松声閣つばきの間に移して、昨日開かれました。
 出席は未生草、深海魚、野住、玲、代志朗、冬狸、南斎の7人。参加予定だった講談師神田京子さんは急な事情で欠席。次回を期待しましょう。

 だんだん軌道に乗ってきた持ち回り執筆制は、今回は代志朗さんが当番。深海魚さんが仕事の都合で長くいられないというので、早めに作句に入りました。

 ナウ1句目・秋:この黄八丈は着物なのか羽織なのか、脱いだのは男なのか女なのか、脱いでから酔ったのか、酔って脱いだのか、で紛糾しました。殊に後句にストリッパーが付いてからはなおさらで、総括まで揉めましたが、その辺いかようにも解釈できる謎があるところがむしろ面白いということに落着きました。むろん女性が酔って脱ぎ、それでストリッパーとつながっていったとなると、このあたり「恋(色事)」ともなり、式目上は異例となりますが、それもまた面白からずやです。

 2句目・雑:そのストリッパーの句は、「今回は何をおいても」と駆けつけた精神科医未生草さん。未生草さんは前に「よろこび組の乙女の受難」とか第3回で「千夜一夜を語る宮殿」などの句を作っており、何やら似た傾向があります。この種の嗜好がお有りかしらん。

 3句目・雑:その「懈いひとみ」といえば、あのジュリー。が、かつてのアイドルも早や53,4で、情けなく太ったそうです。はて、あの懈いような、夢見るようなまなざしはどうなったかしら。

 4句目・雑:中高年太りとならばダイエットの運動が必要。でも、慣れぬことをすると、あちこち筋肉や節々が痛みます。年寄りの冷水は宗匠たる私自身のことです。なお、初出は下7の語尾「痛む」でしたが、次の句も終止形となったので、「痛み」と連用形に替えます。

 花:しかし匂うがごとき爛漫の花のもとで太極拳をゆったり舞えば、その髪には花のピンクがにじんでゆくようです。髪は若き乙女のみどりの黒髪でもよし、高年者の白髪でも、それはそれで風情がありそうです。「匂いの花」にふさわしい佳句になりました。これはこの連句の流れの中でこそ映える句です。

 挙句・春:そしていよいよ36句歌仙の挙句。「挙句の果て」という言葉の語源です。
「座」はこの連句会の座、椿は註に書いたように「つばきの間」から見える庭の花です。発句の遣水式庭園の風情と照応し、春を寿いでうまく収まっています。秋から始めたこの〈こぼれ萩〉の巻、いつしか春の椿となって満尾です。

 というわけで、なかなかうまくいった気がしますが、総括はその場で行った以外に少し時間をおこうということになりました。あと数日、このオンラインを見て、連衆の皆さん、直しや意見、感想などを私宛送って下さい。それらを合わせて、最終決定といたしましょう。

 なお、深海魚さんはいい句をいくつか出したのですが、時間が足らず、途中退出となりました。また次回、張りきってもらいましょう。

 座はこのあとまだ時間があったので、次に入ろうとなり、第5回歌仙を開始しました。
 執筆は未生草さん発句:代志朗、脇:未生草、第三:南斎、でなかなか好調の出だしです。
 それに関しては上の第四回の最終治定が決定してから、オンラインに載せます。また、次回は五月半ばの予定となりました。皆さん、お楽しみに。



解題(2004年1月12日)

 今年の新年連句会は、東京新宿区中井の落合玲邸でとなりました。
 司会進行役としての執筆は長谷川冬狸さん、あとは1年ぶり参加の深海魚さん(建築家)を含め、全員による衆判としました。深海魚さんは一人で3句採用となり、気を吐きました。

 ナオ2句目・雑:融雪から草の青はいい転換です。廃車置場はいろんな想像を誘います。

 雑:複眼は廃車置場の草の中または上に来た昆虫の目でしょう。トンボかカマキリか何かは分りませんが、その目に空は何もないかのようです。

 雑:そういう空のもとを、イラクでは行軍がつづきます。アメリカ軍か他の軍隊か、ひょっとしたら日本の自衛隊か。この句の下7は当初「行軍つづき」でしたが、次の句が「日傘さし」と同じく連用形になったため、「行軍の列」と体言留めに直しました。

 夏・恋呼び:イラクのモスクから出てきた女は、意外なことに妖しく色っぽいというのです。「女妖しく」で恋の呼び出しというか実質的にすでに恋でしょう。この恋は「恋愛」の恋というより「色ごと」の方かもしれません。

 夏・恋:何とその女はあの原節子だそうです。「白ブラウス」はいつでもあるとも言えますが、「白シャツ」などとともに夏の語感ととりました。作者は前前日にテレビ放映された小津安二郎監督の映画「麦秋」を想って作ったものです。

 恋:そういう古き昔の女性は、お見合いの席などで、何も言えずただ茶などを点てるだけ、というわけです。

 恋離れ:さりながら、主婦も長くつづけばある日突然、蒸発もします。ただ、風呂水だけは張っていくところが、習慣か、夫への残された愛か。この上7、当初「風呂水貯めて」でしたが、水は「溜める」になります。で、まあ平仮名にしておきます。

 雑:するとまたしても代志朗さんは、裏12句の「浮かれ烏」につづいて、極道者を登場させます。女房に蒸発された極道、淋しく味噌汁を啜っているか。
 これに付随して、初折り表6句目の「味噌鍋」を「牡蠣鍋」と改めます。味噌のダブリを避けるため。連句ではこういうことも間々あります。

 雑:極道なら入れ墨、しかし昨今では最先端の地でもタトゥが流行っているようで。現代的転換が面白い。

 月:最後の月は当然秋です。明澄な名月に向ってイチローのホームランが飛んでいく。実にすかっと爽やか。

 秋:そういう爽やかさは、柚子の香がただよう、広々とすっきりした10畳間の和室のようではありませんか。この部屋、落合邸の部屋か、あるいは林芙美子邸の部屋か。
 こういう前句全体の雰囲気に付けるやり方を匂い付けといいます。連句の付けは言葉や事柄に直接付ける以外にも色々あります。匂い付けの方が味があるとも言えます。

 というわけで、好調に11句進み、早くもナオは終りました。
 残るは名残の裏6句のみ。これは次回に巻き、かつ全体の総括をします。衆判も早くも定着してきました。次回は代志朗さんか未生草さんあたりでしょうか。準備しておいて下さい。3月です。



治定(11月25日)

 札幌在住の朝子さんから付けがありました。

   融雪と道産子農婦澄まし言ふ 朝子

 融雪は普通なら雪解けまたは雪げで、仲春の季語。北海道ではひょっとしたら晩春かもしれません。北海道農業は開拓期に漢語を多用したため、雪解けもこう言うそうです。屯田兵など武士の農法かしら。

 これで遠隔者も含め一通り出揃いました。あとは次回例会までしばらくお休みとなります。
 皆さん、その間に連句の本でも読んで腕を磨いておいて下さい。参考書名は「俳諧・連句」欄にありますし、他に岩波文庫『芭蕉連句集』などもいいでしょう。

 では、しばらく失礼。ときおり掲示板や風人日記にお知らせを書くことがあります。チェックして下さい。



解題(11月17日)

 今回から私単独の捌きではなく、衆判(合議制)としました。今回は湊野住君が執筆(しゅひつ:司会進行役)を務め、皆が意見を言い、最後に私が治定するという形を取りました。
 今後、執筆役を順番にしていき、全員が捌きおよび式目に習熟することを目指します。捌きに加わると、式目や進行の必然性が飛躍的に身につきます。


ウラ4句目・恋:よろこび組はもちろん北朝鮮の話題の女性たち。ナンパにうまく付き、時事句でもあります。

5句目・恋離れ:受難からキリストへ。マグダラのマリアは秘かにキリストに恋していたのかもしれません。解釈如何ではむろん恋ではなくなります。よって恋離れ。

6句目:今日的状況。多額の金銭を巻き上げられるケースも多いとのことです。

夏月:若い女性、どんな夢だったか。

夏:精神科医・未生草さんの句はいつもポエジーがあります。少年の心を秘めているのか。

雑:最初「探偵団ら」の部分は「江戸川乱歩」だったのですが、同じウラに文学者の牧水が出ていました。会場ではうっかり面(ページ)が違うような錯覚があり、よしとしてしまいましたが、やっぱり同じ作者が似た手法というのは誉められないので、こう改めます。

雑:昔、少年探偵団や乱歩原作作品の映画がありました。まだ戦後の雰囲気が残る頃でした。

花:初参加の宇多美紀君の作。彼女は2−3年前私の大学での連句の受講生で、今は卒業して書籍取次会社勤務。風人連句会での初作品がこれで、写真の画面が目に浮ぶようです。風が閉ぢこめられたというところがいい。

春:代志朗さん苦吟の果ての作。この場合の烏はむろん人間のこと。無頼・ロマンの香り。


 なお、今後は例会中心でいき、オンラインでの投句形式はめったに用いないことにしました。もっぱら発表のみの場となります。
 常連だった高井さんは札幌在住のため例会参加が難しいだろうと思えるので、特例で次を付け、私宛お送り下さい。



解題(9月29日)

発句: 新江戸川公園には立派な庭園があり、大きな池や滝までがある。遣水式池泉とでもいうのかしらん。そこに萩。萩の花は本当に色の付いた花粒か米粒がこぼれ落ちるような感がある。

脇:秋が発句の場合は月が脇か第三に上がる。そこで宗匠である私が亭主役に代って月を詠むことにした。
 満月の人は註に書いたとおり、落合玲君のこと。丸顔のカワイコちゃんである。おかげで座が大いに華やいだ。

第三:代志朗さんは前回は和服で現れたが、この日はどういうわけか洋服姿だった。ただし、手に扇子だけはもってパチンなどとやっていた。その扇をおいて一体どこへ行ったか。隠し子でも現れたか。

四句目:実はタップダンスの練習をしていたのである。代志朗さんならむろん年寄りの冷水、足の捻挫は治るまい。

五句目:普通なら月だが、月はもう出ているから、ここは冬にする。初登場の玲君、家でふぐを飼っているそうで、変った生き物好きらしい。そして何があっても今は笑いたくなる。

折端:最初、代志朗さんは「ミソ鍋」と書いた。何かミソを付けたのか、人生のミソかなぞと勘ぐった。

ウラ折立:註にも書いたように、牧水は本当に酒好きだったらしい。殆ど毎日呑み、おおむね2升酒だったというから、死体がアルコール漬け状態で腐らなかったと言われている。息子の若山旅人さんがそんな話を書いている。

二句目:その牧水は旅の人だった。だが、現代の車って本当に妙なものだ。あんなものない方がいいなぞと思いつつ、つい乗ってしまう。

三句目・恋:逆ナンパというのは女の子が男をナンパすることだ、と謹厳そうな野住君からこの日教わった。彼女も逆ナンパなぞしているのだろうか。
 ただし、彼女は相模の人で、大阪人ではない。なぜかこういうことになった。