半助の胸を蛞蝓のような感触が這い回る。
それは、鞭で切り裂かれた傷の上をゆっくりと辿る。
ぴりりとした、痛みを感じる。
一番染みる部分ばかりを、執拗に往復する感触。
先程までは、もっと劇的な痛みに襲われて、些細な痛みなど…感じる事もなかったのに。
ぼんやりと、気が付く。
身体を引き裂く拷問の様な律動が治まっていた。
おわった、のか…?
恐る恐る目を開けると、半助はまだ地獄の中に居た。
「……せい?……先生?」
「…ぅ…っ…」
半助の目の前に、男の顔があった。
「気が付いた…先生?」
一見、優しげな言葉だが…
ほんの少し前まで、半助を思うまま嬲っていた男の台詞だ。
半助の身体を引き裂き突き入れられた男の凶器は、半助の中で無遠慮に暴れ回った。
慣らされる事の無かった筋肉・粘膜は酷く傷付き出血した。
男は、無意識下の緊張を、最高の締め付けとして堪能した。
それは、性交でも……陵辱でさえなかった。
ただのペニスを使った拷問。
半助の中に、白状出来ることは何もなかった。
するつもりもなかった。
男もそれは承知の上の事で…。
何をされても、伝えるべきことが無いのを、お互いが分かり切った状態で執行された刑は、ただの私刑。
身体を、精神を壊す為の行為だった。
半助には、生身を引き裂かれる様な激痛に、拘束された不自由な身体を仰け反らせ、激情が去るのを待つことしか出来なかった。
ただでさえ一連の尋問で、すっかり体力を無くしていた半助だ。
白目をむいて意識を失うのに、それ程時間は掛からなかった。
しかし…男は、意識を失った半助が気が付くのを、わざわざ待った。
インターバルを開けて、半助に猶予を与えた。
それが、優しさからきたものでは無いのは明か…。
しかも男は遂情することなく、半助の中で息づいたまま、深々と半助を抉っていた。
苦痛に歪む半助の顔を、楽しそうに眺めながら、自ら作った胸の裂傷を嘗め回していたのだ。
ニィ…と笑った男の口元は、食事を終えた肉食獣の様に血にまみれていた。
「ひぃ…っ」
半助の喉から、思わぬ悲鳴が上がった。
どうして、ここまで残酷な事が出来るんだろう?
ここまでされるような事を自分は、この人にしてしまったんだろうか?
否だ…いつも、一方的な暴力に晒されてきた。
周りと同じようにしていたつもりでも、目を付けられてきた。
その、特大級の……加虐者。
半助は、不意に思い出した。
囁かれた、男の言葉。
―あなたが悪いんだよ、先生。あなたの血…なんだか、甘い
そのうっとりとした語調に、半助はゾッとする。
血…が甘い訳がない。
でも……
男の目に、先程以上の狂気の炎が見える。
煽られている…?
……そうだ。
自分の血は…【果実】の血なのだ。
山田先生の為に用意された、特別な血。
最高の精気だと、言っていた。
半助の中に、恐怖を凌駕する感情が湧いた。
…こんな、下種にやるためのものじゃない。
「楽になるには、まだまだ早いよ」
男は、腰を押し付ける様に左右に大きく振る。
「うぅ…っ」
半助は苦痛に歪めた顔を、出来うる限り逸らした。
男の視界から逃れるように…。
自分が苦しむ様は、男を喜ばす。
それを止めてしまいたかった。
「…ん、先生?」
再び、怒張を抜けるギリギリまで引き出すと、一気に突き入れる。
「………ぐぅ…っ」
先程まで、面白い様に上がっていた悲鳴がくぐもったものに変わっていた。
自分の上げさせる悲鳴は甘美な音楽だ。
それが、突然濁りだした。
原因は、喉が掠れたからではなく、明かに半助の意志の現れ。
男は、半助の様子が変わった事に気が付いた。
「面白い。声は上げたくない…ってか?」
そう言うと、ゆっくりと半助の逸らされて筋の浮いた首筋を舐め上げる。
ふと、点々と残されていた、利吉に襲われた時に付けられた痣に気が付くと、その上にガブリと噛み付いた。
噛み切らんばかりの力だった。
「い…っ…」
男はせせら笑った。
「何を今更……無駄な抵抗だって、思い知らせてやろう」
声はあくまで、楽しそうだった。
「おい!アレを持って来い」
外に待機していた男に命令すると、自分は身体を起こし、半助の手首の手錠を外した。
拘束から解放されても、あまりに長い間釣り上げられ、固定され続けた両腕は、半助の自由にはならなかった。
すぐにベッドへと上がって来た部下の男が、半助の背後に周り、抱きかかえる様に半助の上半身を起こす。
「ぅぅ…っ」
重心が下方に掛かり、繋がったままのソコの苦痛が増した。
それ以上に、身体を起こされると、血だらけで、あちこち紫色に腫れ上がり、内出血しているのが分かる自分の身体が…下肢をだらしなく広げ、男の腰に乗り上げるようにして男のモノを銜えされられている己の姿が目に痛かった。
「下のお口は、こんなに頑張ってるのに、コレは無いよなぁ〜」
そして、男が自分の何処を見ているのか…気付かさせられる。
苦痛に縮こまったままの半助自身。
「こっちにも、頑張ってもらおうか…」
思わず、正面から男の瞳を見詰めてしまった。
「そんなに睨んでくれるなヨ……それでこそ、先生だ」
部下の男の手から、得体の知れない金属製の箱が男の手へと渡る。
純粋な恐怖が、半助を襲った。
状況を忘れて、身体が逃げを打とうとするのを、部下の男が後ろから拘束する。
ご丁寧に両手は前で一纏めに。もう片方の手で半助の顎を押さえ込む。
男のする事から、視線を外すなという事だ。
半助の身体がぶるぶると震えているのは、2人に伝わっているだろう。
半助の目の前で、箱が開けられる。
中には、注射器と、幾つかのアンプル。
それを一つ摘み上げると、中の液体が光にキラキラと反射する。
どこか、全てが夢の様で夢では無い…現実。
それを注射器で吸い上げる。
「若…!」
ただ黙って男に協力していた部下の男が声を上げた。
「それ以上は…」
「良いんだよ。壊しても…」
部下の男は沈黙した。
アンプルの中身の殆どを吸い上げると、男は楽しそうにそれを半助に近付ける。
「先生の為に、普通より一杯打って上げるからね」
ぶつり…と音がする程の勢いで、注射針は半助の根本に刺さった。
突き込まれたと言っても良い。
「ぐあぁぁ…っ!!」
「色気の無い声だな…」
一気に半分程が注入された。
「あぁ…ぅっ!…ぅっ!」
重たく冷たい液体の感触が、気のせいでなく…ソコに広がる。
それがどんな効果を促すモノなのかは、すぐに分かった。
力無く項垂れていたモノが、ムクムクと立ちあがった。
身体中の血液が、そこに逆流したかのような反応だった。
「あ〜っ!」
注射針を抜く行為にさえ、ぶるりと震え、先端から涙の様に雫がこぼれた。
無意識に半助の腰が浮き上がり、男の手を求める。
「もっと?いやらしいなぁ…」
呆れたように言いながら、男は、半助の全体をしっかりと握り込む。
「あ、ぐぅ…っ」
男は、ビクビクと震える半助の先端近くに、容赦なく注射針を刺し、同じだけの薬液を注入した。
「ひぃーーっ!」
男が手を放すと、すぐに半助は吐精した。
半助の顔に掛かるほどの勢いだった。
「あっ…あっ……」
半助の半身はすぐに勢いを取り戻した。
内側から、焼けた棒で中身を押し出されるような刺激。
それが、半助自身を断続的に襲っていた。
「あ…ん…あ…はぁ……ん…ぅん」
半助の口からは、意味を成す言葉は出なかった。
ただ、ただ悲鳴と快楽を示す吐息。
閉じる事を忘れた口から、ダラダラと涎を流しながら、ピクピクと舌先を震わせている。
真っ白い歯列と、妙に赤い舌が扇情的だった。
男が息を吹きかけるだけで、いくらでも精を吐き出した。
しばらく男は、半助の乱れる様を眺めていたが、突然、半助の根本をギュッと握り込んだ。
「あぁぁぁ…あ、」
半助の欲望は、男の手によって堰き止められた。
「はぁ…はなして、イかせてぇ…」
半助は、肩でゼィゼイと息をしながら、涙ながらに訴えた。
堰き止められた欲望が、身体中を駆け回っていた。