「私にも…させてくれますよね?」
半助には、そう告げた自分の声が、部屋中に響き渡ったような気がした。
こんな台詞…自分から口にするのは初めてだった。
まだまだ羞恥心は無くならないが…聞いているのは伝蔵だけ。
そう思うと勇気が出た。
伝蔵の首に絡めていた腕の力を抜き、そっと身を離す。
伝蔵に組み敷かれたままの今の体勢では、どうするにも上手く出来そうにないからだ。
しかし…両肘でずり上がりつつ、上半身を起こそうとしたが、失敗した。
万全ではない体調のせいか、伝蔵に気持ち良く
「…無理するな」
さっきまでの強引さはどこへいったのか、伝蔵は心配そうだ。
それでいて、半助は伝蔵から熱を感じ続けていた。
一方的に半助への愛撫を施していた伝蔵だったが、その情熱を維持し、半助の痴態に…むしろ煽られ、勢いを増していたのだ。
しかし、倒れた半助を気遣ってか、それを抑え込もうとしている?
(自分で言って…煽っておいて、何て…情けない。)
そして、半助の頭に嫌な想像が浮かぶ。
(このまま、いつまで経っても、我慢する気じゃ…?)
それは、今の半助にとって、優しさであって…優しさでは無い。
半助は、したくて…堪らなくなった。
そして…最後までして欲しい。
伝蔵を、その身に受け入れ……一つになりたかった。
「…大丈夫です。だから……させて下さい」
最後は、かなり小さな声になってしまった。
「…馬鹿者」
伝蔵は、半助を抱き起こすと、ギュッと抱き締めてくれた。
「これだけのことで、死にそうな顔をするな…」
そして軽々と持ち上げると、半助をベッドの上から、ふわりと床へ下ろした。
半助は一瞬、見放されたようで唖然とする。
しかし、下ろされた床は、思いの外…冷たくは無かった。
伝蔵の意図が分からず、ペタリと床に座り込んでしまった半助。
「半助?…なんて顔をしている」
すぐ近く、伝蔵は足をゆったりと投げ出す様に、ベッドに浅く腰掛けていた。
半助は思わず、伝蔵の膝に手を乗せ、顔を見上げる。
「…山田、先生?」
「今のお前には、この体勢が楽だろう?」
目の前には、伝蔵の下肢。
…確かに。
この姿勢なら、自分の身体を支えずに済む。
伝蔵は、してくれるんだろう?とでも言いたげな顔で…。
やっと理解し、笑顔の戻った半助の顔を、伝蔵は両手で包み込み、優しく撫でる。
その感触に酔いそうになったが、半助はその手をどける。
今度は、半助の番なのだ。
ここに来て半助は、はたと気付く。
…自分だけが、酷く淫ら格好をしている事に。
いつの間にか、サイズの大きいパジャマを着せて貰っていた様だが、下は既に何も履いてはいない。上もボタンは全開で意味を成しておらず、辛うじて、パジャマの上を羽織っているという状態だ。
伝蔵の方も普通のパジャマを着ているのだが、憎らしい程に乱れた様子は無い。
「山田先生も…脱いで下さい。」
自分からそこに手を掛けて脱がすのは、まだ恥ずかしかった。
酷く…飢えているように見えるから。
半助は、するり…と自分の羽織っていたパジャマを脱ぎ捨てた。
その上に、伝蔵は自分の服を脱ぎ捨てていく。
そんな姿も格好良く、半助は伝蔵の姿態に見入ってしまった。
「…そんなに見るな」
伝蔵の少し照れたような声に、半助は慌てて視線を伝蔵の顔へと上げた。
見上げた伝蔵は、ただ照れていただけで、止めさせる気は無いらしい。
「だから…私の方が欲深いって、言ったでしょう」
半助は、うっとりと微笑んでいた。
半助は、座り直した伝蔵の両膝に手を掛け、そろりと開くと、その中心に顔を寄せる。
それは、既に反応を示しており、半助は嬉しくなった。
それでいて、まだ完全な状態ではないであろうに、かなりのサイズなのだ。
ゴクリ…と、半助は無意識に生唾を飲み込んでいた。
(こんなスゴイの…どうにか出来るのか?)
今までと違う意味で、半助の心拍数が上がっていく。
それでも、何とか…伝蔵に気持ち良くなって貰いたいのだ。
半助は、根本に両手を添えると、おずおずと唇で触れる。
そのおっかなびっくりな半助の様子を、伝蔵は優しく見守った。
まず、先端に舌を這わすと、ビクリと反応した。
人間と同じで、デリケートで有りながら、強靱な楔。
…これが、伝蔵と自分を繋ぐのだ。
半助は、伝蔵が自分の舌技に感じてくれる事が分かると、あっという間に夢中になった。
サイドからパクリと銜えてみたり、根本から先端までを嘗め上げたり、思い付いた事は全部やった。
舌が攣るほど全体を愛撫してやると、その度に、伝蔵がドンドン力を増していく…。
先端に込み上げる雫も、全て舐め取ってやった。
伝蔵を気持ちよくしてあげていると思うと、そうするのが当然のように思えた。半助の方が、そうしたかったのだ。
不思議なことに、舌に触れた先走りはアルコール度の高い酒の様に、喉を身体を、カッ…と焼く。
それに酔わされるように、積極的になっていく半助。
舐めているだけでは何となく物足りなくなり、口に含んでみた。
「ん…ぐっ!」
やはり全形を飲み込むのは無理があるようで、それはすぐに喉を付いて、思わず酷い声が上がってしまった。
「半助!無理するな…」
言葉とは裏腹に、伝蔵の声は興奮に上擦っているように聞こえる。
半助は、口に含んだものはそのままに、挑むように舌で、口で足りない所は手も使って奉仕する。
それは…酷く淫らに、それでいて健気に伝蔵の目に映った。
「…半助…っ」
溜息混じりの伝蔵の声は、妙にいやらしく、半助の背筋がゾクゾクした。
その声を出させているのは、自分なのだ…と。
いつからか…伝蔵の目は自然と閉じられ、両手が半助の頭を撫で始めていた。
それが、半助の与える快楽に身を任せてくれた証拠の様で、半助は感動してしまった。
同時に、もう一杯かと思っていたそれが、更に嵩を増す。
「…ぅ…っ!……っ」
(さっきの…山田先生も、こんな気分だった?)
苦痛を越え、与える喜び。
次第に堪えきれないような伝蔵の溜息が漏れ聞こえてくると、堪らなかった。
一度精を放った筈の半助自身が、再び頭をもたげ始め、半助は驚く。
触れられることもなく、奉仕することで自分の方が気持ちよくなってしまうなんて…。
そう思うと、口に中で一杯に脈打つものが、半助の内頬や予想外に上顎に擦れるたびに…苦しいのに、感じるのだ。
そんな所に性感帯があるなんて、半助は考えた事が無かった。
(山田先生のだから、こんな事に…?)
半助は、想像してしまった。
今、口腔に余るものが、身体を目一杯押し開くのを…。
伝蔵に穿たれたら…?
(…私、どうなってしまうんだろう。)
ぎゅ〜っと、半助の下肢に力が籠もった。
そんな半助を見下ろす伝蔵は、その痴態から益々目が離せなくなっていた。
勿論、その舌技にとろけるような快感を得てはいたが…。
座り込んでいた半助の腰が微妙に持ち上げられ、不規則に揺れ始めていた。
それに伴い、硬質な稜線を描いていた背中が、緩やかにうねる。
深く飲み込むたびに、辛そうに肩胛骨が浮かび、中央に寄せられる。
その窪みに、伝蔵は思わず触れていた。
「…ぁ…痛っ!」
思いもよらなかった背中への感触。
触れられた瞬間、半助に、ビリッ…と電気が走った。
それは強烈で、苦痛にも似ていたが、すぐに跡形も無くなった。
半助は与えられた刺激に思わず、伝蔵を口から零してしまっていた。
「あ、…ごめんなさい」
半助の口の周りは、ベトベトだった。
伝蔵の逞しいモノと、暴走を始めていた自分の下肢に意識が向いていた半助。
触れられただけなのに、派手に反応してしまった自分に驚いていた。
「背中が…痛むのか?」
伝蔵の脳裏を、鞭に切り裂かれた姿が過ぎる。
しかし、過剰な反応をしてしまった半助だったが、一瞬自らを駆け抜けた苦痛は、まるで嘘の様に感じられた。
今は、全く何ともない。
何だったのか…と考える間もなく、高ぶった身体は、そのインターバルさえ、焦らしの様に感じた。
「…いいえ、全然平気です。」
平気と答えながら、息はすっかり上がっていた。
苦痛からではない。
それは、半助を支配していた……純粋な欲求。
下ろした視線の先には、興奮しきった己の起立があった。
(…やっぱり、何て…いやらしい。)
でも、それでも良いと言ってくれるなら…口じゃない所に、伝蔵が欲しかった。
半助は無意識に、伝蔵を見上げながら先程まで口を塞いでいた楔に、顔を擦り寄せていた。
そんな半助に、伝蔵の理性の糸が音を立てて切れた。
「半助…っ」
乱暴に半助の髪を掴んで顔を上げさせると、伝蔵は噛み付くような接吻をする。
「好きにさせてやろうと思ったが…我慢の限界だ。」
両脇に手を入れて抱き上げようとする伝蔵。
それに、半助は抵抗した。
「や、山田先生…ちょっと、待って…」
今すぐにでも、伝蔵のモノにしてもらいたい気持ちは半助も同じだった。
ただし、半助は…伝蔵に準備はさせられないと思った。
こんな思いも寄らない事が続いて、これ以上の事をしてもらったら、罰が当たる。
半助の思わぬ抵抗に驚いた伝蔵は、呆然と半助を見詰める。
「違うんです…自分で…するから」
その目の前で、そこに手を伸ばすのは…恥ずかしかった。
でも、今の伝蔵の勢いでは、何をしだすか分からない。
舐められでもしたら…心臓に悪すぎる。
自分でした方が、マシだ。
取り合えず、今は…ここまでで許して欲しい。
半助は覚悟を決めると、双丘の狭間に自らの唾液に濡らした指を這わす。
「…ぇ…っ!」
女では無い半助にあるのは、本来と違う目的に使う為には、手を掛けなければならない器官だけ。
その筈だった。
―――くぷっ…ん。
ゆっくりと襞に馴染ませるつもりだった自らの指は、いやらしい音を立てながら、何の抵抗も無く、そこに飲み込まれた。
「なっ…何?」
半助は、咄嗟に自分の手を敷き込むように、床の上に座り込んだ。
弾みで、指がズルリ…と根本まで埋まった。
「…ひっ、!」
確かに…ココに欲しいと思った。
でも、そんな筈はないのに…?
半助のそこが……女の様に濡れていた。
「な…そんな、馬鹿な…」
半助は、あまりのショックで身動きが出来なくなってしまった。
恐る恐る自分を見詰めていた伝蔵を見上げると、伝蔵が訝しげな瞳を向ける。
「半助?」
伝蔵の目からも明かに、半助は震えだした。
「わ、私…おかしい…身体…が、どうして…?」
「半助!」
「や、山田先生!私……どうして…?」
伝蔵の名前を呼んだ瞬間、自分の奥に突き入れている指を、思わず締め付けてしまい、甘い痺れが背筋を走る。
「半助?どうした…身体が?どこか痛むのか?」
半助は、自分でもそこがどうなってしまったのか、分からなかった。
ただ怖くて堪らなかった。
「痛くは…ないです。でも…」
それを確認してもらうのも、恐らく治療手段を知っているのも、伝蔵だけなのだ。
それは、頭では分かっていても、こんな事が有り得るのか?
ココに、伝蔵を受け入れることばかり考えていたから、こういう身体になったのか?
そうだとしたら、あまりに動物的過ぎはしないか?
身体の変化は、半助を怯えさせた。
そんな半助の様子に、ただならぬものを感じた伝蔵。
伝蔵は、僅かな隙間に身体を寄せるようにして、半助と同じ床に膝を付いた。
硬直したままの半助の身体を抱き締めると、優しく囁く。
「お前を月氏にしたのは、わしだ。もし…お前の身体に異変があったとしても、全てわしの責任。お前は何も心配しなくても良いんだ……一体、どうした?」
「山田…先生」
優しい言葉に、半助の身体からふっと、力が抜け落ちた。
いつまでも、今の姿でいられる訳もなし、半助は勇気を出す。
伝蔵から、そっと離れると、座り込んでいたお尻を少し上げ、そろそろと指を抜き出す。
「ぁ…ふ…んっ」
自分の指なのに、皺襞がまとわりつくようで、声を上げてしまった。
ズルリと抜け出した瞬間、広げた足の間の床に、栓を失ったかのように、パタパタと何かが零れる。
「…ぁ」
その刺激にさえ、半助の前はふるり…と震えた。
「こんなの…おかしい、ですよね。私」
羞恥心に、そこに力を込め引き締めると、なおも溢れ出した液体が、内股をトロリと伝い落ちていく。
有り得ない不快感に、半助は震え上がった。
伝蔵は、半助の様子をじっ…と、無言で見詰めていた。
床を汚した滴が、前から零れたのではない事も理解した。
人間でも、月氏でも、オスの構造を持つ者の、そこが…ここまで濡れるという事は有り得ない。
それが、半助の身体には起こっていた。
ただし……なら有り得る。
しかし、半助はもう【月氏】なのだ。
でも、これが…自分を、山田伝蔵を受け入れる為に起こった現象なら、良いではないか…と思う。
それは、半助にとっては、身勝手な判断かもしれない。
例え…そうだとしても、こんな半助を誰にも見せなければ良いこと。
伝蔵は、自らの蜜壷を持て余す半助に…堪らなく欲情した。
こんな姿を見られるのは自分だけ、だと思うと…この満足感はどうだ。
伝蔵は、自分の中にこんな感情があるとは、思いも寄らなかった。
狂おしい程の………独占欲。
全ては、半助だけに向けられた感情だ。
「……は、半助。おかしい事は無い」
伝蔵は、半助を胸に抱き込むと、その手がゆっくりと、背筋を下って行く。
半助は、その愛撫の目指す先が分かって、伝蔵にしがみついた。
「あ…ぁ…んっ」
そっと指の腹で触れられたと思った次の瞬間、半助の怪しく濡れる蕾は、伝蔵の指を深々と受け入れた。
半助はブルッと大きく震えたかと思うと、伝蔵の腹を汚していた。
「あぁ…っ!ご…ご免な、さい…」
同時に、ギュ〜っと、伝蔵の指を喰い締める。
半助は、伝蔵に縋っていなければ、崩れ落ちそうだった。
「謝る事は無い。わしの指に感じたのだろう?」
緩やかに伝蔵の指が動きだす。
「あ…や、山田、先生っ…ん…」
「ここに、欲しいんだろう?」
鉤状に曲げられた指が、半助の中でグルグルと動かされる。
「あ…っ、ぅ…っ、ぅ…ん」
その度に、くにゅくにゅ…と濡れた音がするのだが、半助はそれには目を瞑った。
こんな身体なのに、伝蔵は触れてくれている。
伝蔵は、おかしく無い…と言ってくれたのだ。
例え、そこが普通じゃないとしても、伝蔵が良いなら…問題はない。
そう思うと、伝蔵を受け入れるには、いっそ都合が良いのかもしれない…。
半助の心情を反映するように、そこが呑む様な蠢きを始める。
「ここは、そうだと言ってるようだ…な」
「い、言わないで…下さい…」
言葉での否定は、肯定と同じだった。
そもそも伝蔵から与えられる刺激は、僅かでも際限ない快楽を生み、半助の理性を削り取るのだ。
それに促されるように、指を増やす伝蔵。
半助の腰が揺れる度に、元気を取り戻した前が伝蔵とぶつかりあった。
そんな事にまで、お互いに興奮の度合いが増していく。
時間を掛ける事無く、半助の花弁は柔らかくとろけ、すぐにでも伝蔵を受け入れられる状態になった。
「半助…」
言葉と共に、伝蔵は指を抜き出す。
「…ふぅ…っ」
半助は、伝蔵にしがみついたまま、甘い吐息を漏らす。
伝蔵は、半助を抱き上げると、ベッドに横たえる。
曲げた半助の両膝を、伝蔵が掴み…ゆっくりと開く。
そこに身体を割り込ませると、半助は完全に伝蔵に組み敷かれた形になった。
広げた下肢の間から見える伝蔵。
全身にしっとりと汗を浮かべ、欲情を隠さない顔は、こんな時まで男らしく格好良い。
一方半助は、腹を打つ程に興奮した半助自身も、分泌液に濡れ綻びかけている蕾も、全てが丸見え。
堪らなく恥ずかしかった。
恥ずかしいのに…この瞬間をずっと待っていたのかもしれない。
「山田、先生…っ」
(あなたのモノになる瞬間を…ずっと、待ってた)
「山田先生のを…私に下さい。」
半助の言葉が、その声色さえもが、熱く伝蔵の最後の余裕を奪った。
「あぁ、これから…ずっと一緒だ」
伝蔵の先端が、半助に触れる。
「月氏のずっとを甘く見るなよ。わしだけの…半助だ」
言葉と共に、伝蔵が突き入れられた。
「あぁぁぁーーっ!!ぐっ、う…っ」
半助の潤んでいた蕾でも、伝蔵の楔は半助の身体を限界まで押し広げ、半助に切り裂かれる程の激痛を与えた。
激しすぎる刺激に、半助の前は無意識のうちに、白濁を撒き散らす。
一気にその全長を押し入れてしまった伝蔵は、きつい締め付けに我に返った。
「は…半助、大丈夫か…」
そのまま、慣らす様にじっとしていても、話す度に振動が伝わるのか、半助は辛そうに見える。
「だ…大、丈夫…です」
半助は、伝蔵への背中へと腕を回した。
「先生、だって山田先生が…私の中に、全部………嬉しい」
入れて貰ったものを逃がすまいとするかのように、半助の蕾は伝蔵を締め付けた。
伝蔵は、ゆっくりと腰を使い始める。
これ以上ない程に押し開かれたそこは、敏感に伝蔵の楔を味わった。
今にも壊れそうでいて、驚くべきしなやかさで締め付ける。
「…あぁ…ぁ、……ぁぁ…ッ」
次第に激しさを増す伝蔵の動きに、快楽が密度を増し、脳髄までもがとろけてしまいそうだった。
伝蔵の楔がその嵩で、半助の中を引っ掻くように退くのも、深々と突き入れられ掻き混ぜられるのも、全身が痺れる程に感じる。
これ以上ないと思われた喜悦の上に、更なる喜悦が重ねられていく。
……半助は、良かったと思う。
いままで経験していたのは、SEXじゃなかった。
今、自分を支配している、底の見えない快楽と、全身を満たしている至上の法悦。
それに比べたら、全部…偽物。
本物を、本物を与えてくれる人を手に入れたのだ。
もっと…感じさせて欲しかった。
自分が何者なのか。
「…や、…せん、…もっ、と…」
「…半助…っ!」
伝蔵もそれに答えた。
伝蔵に、これ以上無い程に深く深く穿たれた瞬間、半助の前が、もう幾度目かも知れない吐精を果たす。
僅かの差で、半助の最も深い所で、伝蔵が膨れあがったかと思うと、奔流が吹き出した。
「あぁ…っ…、ぅ…ん……ッ」
その飛沫の熱に、半助は女の様に愉悦を極めさせられた。
身体が…燃えるように熱い。
それは、伝蔵が全てを半助の中へと吐き出し、ゆるり…と抜け出すまで続いた。
「…半助」
余韻に浸る半助には、伝蔵の気が七色に輝いて見えた。
それはオーロラのようで、伝蔵を神々しくさえ見せた。
「…山田先生」
伝蔵を呼ぶ半助の声は、掠れ切っていた。
そんな半助に、伝蔵は恭しく、接吻した。
言葉は無くとも、半助は…計り知れない程の愛を感じていた。
受け取るだけでは駄目なのだ。
同じだけ…それ以上の想いを返してゆく。
…全身全霊を掛けて。
まだ、その方法は分からないけれど、半助の中に、小さく芽吹いた感覚がある。
それを育てて行こうと思う。
難しいことだけど、その葛藤は……何と幸福なことか。
全ては、山田伝蔵の為に…。