目覚めると、半助はまず横を確認するようになった。
(…良かった。今日も私が先だ)
その存在に、半助はホッと胸を撫で下ろす。
半助の愛しい人は、いつも半助より早く目覚め、ベッドから抜け出してしまう。
それが、自分をゆっくり休ませる為だろうと、頭では分かっている。
しかし、広過ぎる程のベッドにポツンと独りで、隣の…抜け殻のような空間を、半助は見たくはなかった。
それに…。
そんな事は無いのだと思い込もうとしても、一瞬頭を
―伝蔵が、自分の役立たず振りに…見切りを付けてしまったのではないか?
―もう何処にも、居なくなってしまったのではないか?
その漠然とした不安は、理屈とは別の次元で、半助の心に…何度追い払おうとしても、次々に沸き上がってくる。
それを放置していると、不安は濃さを増し、全て、半助の願望が生み出した…夢なのではないか…と、まで思えてくる。
そんな時、半助の目は伝蔵を探す。
厳しい顔にほわりと浮かぶ微笑みを見るだけで、そんな不安なんて、吹き飛ばしてくれるから。
伝蔵の言葉を信じていないのでは…決してない。
些細な事で心に不安が沸き上がってしまうのは、一人で居た時間が長すぎたからかもしれない。
半助は、それまで…大切だと思っていた人達と、心を通わす事が出来なかった。
自分をこの世に産み落とした母親でさえ…。
しかし、どんなに傷付いても、自らを支えていられたのは、心に伝蔵が居たから。
それを信じることで、半助は一人ではなかった。
それが…
改めて、伝蔵に置いていかれたとしたら?
とても耐えられそうにない。
伝蔵の不在――ただそれだけの事が、飛躍した不安を招くのだ。
そんな不安を、その圧倒的な存在感で…吹き飛ばして欲しい。
伝蔵と共に過ごせば過ごす程…半助は自分が我が儘になっていくような気がして、ならなかった。
「う…んっ…」
半助の視界で、伝蔵が小さく身動ぐ。
寝苦しい感じではないので、目覚めが近いのかもしれない。
半助は、雑念を振り払って、伝蔵に見入る。
既に挨拶を済ませた、伝蔵の息子…利吉曰わく。
気配に敏感な伝蔵は、利吉の前でも熟睡する事は、そうそう無かったらしい。
結界に2人で入るなど、言語道断だそうだ。
こうして、規則正しく寝息を立てる伝蔵の寝姿を見られるのが、自分だけだと思うと、半助はたまらない気持ちになる。
伝蔵の気をキラキラと眩しいばかりに感じた【月氏】の視界にも、大分慣れて来た。
半助は自分だけに許された特権に
伝蔵に意識が有ったら…こんな風に見詰める事は、まだ出来なかった。
視線に敏感な伝蔵に気付かれ、羞恥が優ってしまうのだ。
安心して、心ゆくまで伝蔵を見詰めていられるのは、こんな時だけ。
朝のこの一時は、半助にとって至福に感じられるのだ。
それでいて…
ただそうして見詰めているだけでも、胸がドキドキしてくるのを半助は止められない。
これだけは、一生、慣れるという事は有り得ないだろうと核心している。
「ぅ…うぅん、あ…半助?」
開かれた伝蔵の瞳が、半助を捕らえ、まだ眠そうに微笑む。
「は…い。おはようございます」
半助は、そのあまりに自然な笑みに釘付けになった。
それだけで顔が熱くなってしまう。
こんな微睡みの中で見せる…ほんの少し無防備な伝蔵を見るのが何より好きだった。
「今日は、早いな…しっかり休んだのか?」
するりと伝蔵の腕が伸びてきて、寝癖でボサボサになっている半助の髪を掻き混ぜる。
「あぁ…ぁ、山田…先生」
髪を弄んでいた手が、半助の額から頬に触れる。
「…ん?ちょっと熱いか?」
「そ、そんなことないです。」
益々、顔に血が昇るのを自覚して、半助は慌てる。
半ば習慣になっている、胸の奥にある精気の泉を鎮める呼吸。
最近やっと、表に影響する前に、何とかする事が出来るようになってきた。
しかし、伝蔵に見付からないようにする…というのは、ハードルが非常に高い。
伝蔵の…含みの無い指先に、触れられただけで起こる過剰反応。
いつでも、伝蔵に触れて貰いたいと思うのは…半助の本音なのだ。
それが、一番理性の抑制の弱い部分――精気の泉に現れるのかもしれない。
しかし、本音、本能のまま求めるのは、あまりにも…はしたな過ぎる。
ただでさえ、半助は伝蔵から与えられてばかりだと思っているのに…。
伝蔵を心配させない為にも、これだけは早く完璧にコントロール出来る様になりたかった。
そもそも半助は、精神的に高ぶったり、体調が悪かったりすると、それまでの許容を越えて存在する体内の精気に、翻弄されがちになる。
伝蔵は、そんな半助を気遣って、精気が少しでも乱れると、即、体調不良を心配するのだ。
しかし、今は、体調が悪いのが原因ではない。
むしろ、伝蔵の目覚めを共有出来、気分はすこぶる良いのだ。
「…いや、昨日は騒がしかったからな。今日はゆっくりしよう」
伝蔵には、半助が気を鎮めようとしていたのが、見え見えだったのかもしれない。
「…はい」
半助は、伝蔵の言葉に頷く。
伝蔵は、半助がする気を鎮める努力には気付いているのに、気が高ぶる一番の原因には気付いていないようだ。
でも…もし、それを半助が告げてしまったら、さっきの様な、自然な触れ合いが失われてしまうかもしれない。
それならば、原因を取り除くのではなく、気をコントロール出来るよう努力することを、半助は選ぶ。
半助は、伝蔵の過保護さに甘えることにした。
半助は目覚めてから、殆どの時間を伝蔵のマンションの部屋の中で過ごしていた。
それまで伝蔵は、己の存在を知らしめる為のテリトリーという意味で、自宅全体に結界を張っていた。動物のマーキングに近い感覚だ。
当然、積極的に関わってこようとする者には、意味を成さなかったが…それだけで、ニアミス的な接触は十分に避けられた。
しかし、半助が【月氏】となってからは、半助を連れ出そうという良からぬ輩が手出し出来ないよう、その結界を強化した。
部屋の中なら、自由に動き回って問題・危険は無い…という状態だ。
半助は、この籠の鳥のような生活にも、大人しく伝蔵の言葉に従っていた。
正しくは、そうすることしか出来ないのだが…。
半助は、一番の課題である精気のコントロールが、上手く出来ないでいた。
半助の中にあるという『精気の泉』…その感覚は【月氏】には無いものだ。
それは伝蔵の精気の様にも感じると、半助は言う。
しかし、半助の精気の型は伝蔵の型と同じ。
自らの精気を、伝蔵のモノのように感じていることも有り得る。それなら、それは半助の精気の源という事になるが…。
人間の頃と比較にならない程の精気が体内に存在する事を、そう表現しているのか、【華燭の典】を経て【月氏】となった者だけが持つ感覚なのか…伝蔵には判断しかねた。
しかも、半助の精気は量・質ともに、一定ではなかったのだ。
しかも、その原因は伝蔵にあった。
有り体に言うと、身体を重ねる事で、精気のやり取りが起こり、変化してしまうのだ。
それは極端な例だが、伝蔵が半助に与える影響は、【果実】を考慮すれば、軽くない。
…これから、ずっと共に過ごすのだ。
しなければ良い…というのは論外。
ただでさえ、半助は、体内の精気に慣れていないというのに、それが変化し一定でないとなれば、早くコントロールしろと言うほうが、無理な話だ。
それでも、何とか…何の切っ掛けも無しに暴走するという事は無くなった。
軽いものなら、伝蔵の手を借りることなく、収めることも出来るようになった。
しかし、一度、試しに…と、結界の外に出た事があった。
結界内は、【華燭の典】の儀式のモノ程ではないが、伝蔵の精気が満ちている。
伝蔵と同じ精気を持つ半助も、楽な環境だと言えるのだ。
そこから出るという事は、それまでより過酷な状況に適応出来るかどうか…を、問うことになる。
その結果は…
伝蔵が側に付いていたにも関わらず、半助は途端に震えだし、昏倒した。
伝蔵は、自らが判断した荒療治を…死ぬほど悔やんだ。
意識を取り戻した半助は、昏倒に至る状況を『精気の泉』が凍る様だった…と説明した。
それでいて、自分の方が死にそうな程に心配する伝蔵に、ごめんなさい…と詫びたのだ。
それは、半助のせいではない。
半助が謝ることではないのだ…と、伝蔵は半助を抱き締めた。
その一件が、半助に『伝蔵の結界からは出られない』という、自己暗示のようなモノを与えてしまったのかもしれない。
しかし、今のままでは…半助は、伝蔵を接点にしてしか、外界と関わることが出来なくなる。
―まさに籠の鳥だ。
「今のままでも…別に構わないです」
半助は、そう言って笑う。
それは、無理に言っているのではない…と伝蔵は思う。
半助の…偽り無い本心かもしれない、と。
半助は、伝蔵と共にいる…ただそれだけの為に、【月氏】となったのだ。
伝蔵以外、殆どのものから遮断された環境は、つまり伝蔵に守られ、独占されているという事。
それは半助にとって、一番嬉しい事なのかもしれない。
しかし…
伝蔵は、自分だけが利を得ているような感覚が拭えない。
ほんの僅かで結晶化する半助の精気は、身体を繋ぐことで得られる一体感の中、伝蔵自身の精気と共鳴し、共に増幅する。
半助と愛し合うことで、伝蔵は想像以上の力を得てしまうのだ。
まるで、今こうして半助といるのは、そちらが目的だったかのように思えてしまう程に…。
本当は、人を捨てさせた変わりに、半助には…もっと広い世界を見せてやるつもりでいた。
なのに、ただ腕に深く抱き込むばかりで…。
しかし、現実的な問題として…いつ暴走するともしれない状態では、次のステップに進みようがなかった。
半助の穏やかさとは対照的に、伝蔵は葛藤を覚えていた。
そんな状態を知ってか、雅之助と利吉は伝蔵のマンションに最新のパソコンと、大型液晶テレビを持ち込んだ。
元々テレビはあったが、それ程大型でなかったのと、伝蔵が【華燭の典】に入っている間、気の型の変わった利吉、雅之助と複数の月氏が出入りした為か、極端に映りが悪くなってしまっていた。
それ自体、伝蔵は全く気にならなかったのだが、人としての習慣が色濃く残っている半助にとって、テレビは欠かせなかったようで、思わぬ贈り物に、興奮していた。
それが、昨日の事だった。
半助が外の世界を忘れない様に…という配慮は、伝蔵には無い視点だった。
確かに、人間だったもの全てを突然【月氏】と同じにするのは、無理な話なのだ。
半助の中には、幾つか人間の習慣が残っていた。
そんなうちの一つが、三食、食事を摂るという事。
月氏は、精気を糧とする為、朝・昼・晩と食事をする習慣はなかった。
しかし、半助には食事を生きる基本とするリズムが染みついており、口から何か食べないと、精神的に落ち着かないらしい。
寝込んでいても、お粥などを食べると回復が早いのだ。
最初は、いくらでもあるデリバリーサービスを利用していたが、見よう見まねで作った料理を半助に手放しで喜ばれ、目覚めてしまった。
料理など、全く経験の無い事だったが、やってみるとモノ作りという視点から面白い。
半助が美味しそうに食事をするものだから、伝蔵もそれに付き合って、朝はコーヒーを飲むのが習慣になりつつある。
今日は、半助の方が先に起きていたので、食事の準備は2人でした。
半助がパンを焼き、コーヒーを入れる間に、伝蔵が目玉焼きを作る。
伝蔵が初めて作った目玉焼きは、卵を上手く割れずに、綺麗な形にならなかった。それ以来、伝蔵はムキになって、完璧な目玉焼き作りに取り組んだのだ。
半助が、味は同じだから良いと言っても、見た目の美しさにも拘る伝蔵。
それ以来、目玉焼きを焼くのは伝蔵の仕事だ。
「うわぁ…今日も、美味しそうですね」
トーストと目玉焼きにオレンジジュース…それが半助の朝食メニューの定番だった。
伝蔵のコーヒーと、それらをトレイに乗せ、リビングに移動する。
ダイニングでも十分なのだが、伝蔵曰く…リビングが、寝室の次に土地の気が安定した所なので、ゆったりリラックス出来るとのこと。
「頂きます。」
半助が手を合わせ、食事を始めるのを確認してから、伝蔵は数カ国分の新聞に目を通し始める。
伝蔵に見詰められていては、折角の食事が喉を通らない…と訴えたら、そうするようになった。
しかし、伝蔵の新聞を捲る音と、時折飲むコーヒーカップとソーサーの音、自分の咀嚼音しか聞こえないのは、慌ただしく朝食を食べていた半助にとっては少々落ち着かない。
半助は思いきって尋ねてみた。
昨日の朝には無かったものが、リビングにはあるのだ。
「山田先生、テレビ…付けてみて良いですか?」
「ん?…あぁ、食事が疎かにならなければな」
伝蔵は、何気なく言うが、伝蔵に見惚れて、つい手が止まりがちな半助は、テレビの方が気を紛らわすには余程良いと、思い笑った。
「はい。すみません」
伝蔵の許可をもらってからテレビを付けると、以前とそう変わり映えのしないニュースとワイドショーの中間のような番組が放送されていた。特に見たい番組があった訳でもなかった半助は、見覚えのあるアナウンサーの局にチャンネルを合わせる。
テレビが驚くほど薄型に綺麗な液晶に、パソコンが知らないOS、目を疑う処理速度に進化していたのには、時の流れを感じたが、世の中はあまり変わっていない様だ。
俳優の誰と誰がくっついた離れたと…よくもそんな話で盛り上がれるのか…不思議だ。
黙々とトーストを口に運んでいた半助だが、思わずその手が止まった。
テレビは、その局が放送するスポーツ番組の特集に移っていた。
その映像に、止まったと言うより、動けなくなったのだ。
ざわざわ…っと、例の泉がさざめきだす。
半助は、それを留めることも忘れて、テレビ画面に見入っていた。
「…半助?どうした?」
半助の気の揺らぎに、伝蔵は声を掛ける。
しかし、半助にその声は届いていないようで、身体がガタガタと震えだしていた。
それは、高まった気に揺さぶられているような、感情の波がそうしているような震え。
「半助!」
伝蔵は、半助に駆け寄り、その身体を抱き締める。
半助の精気の高まりに、伝蔵の気がピリピリと痺れた。まるで反発するような反応に、伝蔵は驚く。
「…半助っ!」
呆然とする半助に、痺れを切らしたように、伝蔵は半助を抱き寄せると、その唇に自らのそれを重ねた。
震える舌先を絡め取るような、深い口付け。
しばらくそのままでいると、半助の強ばっていた身体の力が抜け、ピリピリとしていた気が、ふわりと柔らかくなる。
身体を離すと、目をまん丸にした半助が、伝蔵を見上げていた。
「山田先生…」
「落ち着いたか?半助」
2人並んで、ソファーに腰を下ろす。
半助は、胸に手を当て、何度も深呼吸を繰り返した。
少し前まで、気が落ち着きを失いそうになると、何度もそうしていた。
考えてみると、半助がそうしているのを見たのは久しぶりだった。
「すみません。動揺してしまって…」
「どうしたんだ?何か嫌なものでも映っていたのか?」
テレビ画面を見詰め固まっていた半助。テレビが原因だとしか思えなかった。
「嫌なもの?違います…嫌なのは、私かもしれません。」
「…何を言ってる?」
「5年…そう、5年も経っていれば、そうですよね。」
「兎に角、落ち着け。」
半助は、伝蔵が差し出したオレンジジュースに口を付けた。
「ゆっくりで良い。わしに分かるように話してくれ。」
グラスが空になる頃、半助は不安気に伝蔵に視線を向ける。
それに、優しく微笑みを返すと、半助は口を開く。
「山田先生…私、自分の夢が叶って、先生と一緒にいられるようになって、人だった頃の事なんて、すっかり忘れていたんです。理由も必要もなかったから。でも…忘れちゃいけないこともあった」
「忘れちゃいけない事?」
半助は一瞬考えた後、伝蔵に向き合う。
「山田先生。私にも…人の怪我を治す事って出来るんでしょうか?」
伝蔵は、半助の瞳に強い決意を持つ者の輝きを感じた。
「あぁ、出来ないことはないだろう」
現状を踏まえた為、遠回りな表現になってしまった。
しかし、伝蔵の意を汲んだのか、半助は苦笑いする。
「今のままじゃ、無理…って事ですね。」
「そういうことだ。舐めてやれば…ある程度は治るかもしれんが、自分の気を高めながら、相手の気をコントロールしないと、本当の意味で癒す事は出来ないからな」
人を治すどころか、今の半助は伝蔵の結界の中から出ることもままならない。
誰かを癒すなんて、夢のまた夢のように感じる。
「出来るようになりたい。いいえ、ならないと…」
半助は、自分の両手を見詰め、グッ…と握り締めた。
半助の中で、明確な目標が出来たようだった。
「あまり無理はするな。急がなければならないようなら、わしが…」
半助が努力家なのは、伝蔵には良く分かっていた。
急激な訓練は、身体に負担を掛けるかもしれない…伝蔵の過保護の虫が騒いだのだ。
「いいえ…山田先生。これは、私がやらないと駄目なんです。」
半助は、きっぱりと断った。
「この数日間ずっと、先生を独り占め出来る事が嬉しくて、甘えてたんです。規格外品なんだから許されるだろう…って。例え進歩が無くて呆れられても、何も出来ないでいれば…先生に捨てられる事は無いだろうって……酷い打算です」
半助は、一瞬不安の色をした瞳を伝蔵に向けた。
「…大丈夫だ。わしも、何処かでわしだけの半助だと、喜んでいる部分もあった。お互い様だ」
「先生、それ…」
半助は、サラリと言われた言葉に思考が止まる。
「半助。話しを続けろ。わしもお前も、中途半端な状態でも良いと何処かで思っていた。それで?」
伝蔵に促され、半助は何とか話しを続ける。
「それって本気で【月氏】になろうと向き合ってないって事ですよね?一人の【月氏】になって、自由になったら…山田先生からも離れてしまうようで、怖かった。だから、先生の結界から出る、勇気も…覚悟も無かった。でも…今は理由があります。自分が捨ててきたものと向かい合う、本当の意味で【月氏】になる為の…けじめ、なのかもしれません。」
「そんなことを…」
伝蔵は、自分の過保護もそれに拍車を掛けていただろう事を反省する。
それが、半助の成長を押し留めてしまっていたのだ。
伝蔵は思う。
半助のしたいことをさせてやろうと。
そして、自分は影ながらサポートをしてやろうと。
「私の付けなければならない、けじめですから…」
けじめ…それは、人間だった時の自分との決裂を意味する。過去の自分と向き合うのは、決して楽しい作業ではないだろう。
しかし、【月氏】になる為に必要だと言う半助を、心強く感じる。
今でも、伝蔵に恐ろしい程の力を与えてくれる半助。
半助が【月氏】として、真の能力に目覚めた時…どれ程の力を発揮するようになるのだろうか?
伝蔵は、つくづく思い知らされる。
【月氏】にしたのは伝蔵だが、【月氏】になるのは…半助の意志なのだ。
伝蔵は、半助をパートナーに出来た事に感謝した。
無限にも思える半助の可能性を、間近で見られることが出来るのだから…。
そして、伝蔵も密かに誓う。
自らも、半助に選ばれ続ける男であろうと…。