白い悪魔の恐怖
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■31年目の「はぐれ星爆破命令」鑑賞日記

ウルトラマン80第19話「はぐれ星爆破命令
作・若槻文三
監督・野長瀬三摩地
特撮監督・高野宏一
1980年8月6日放映

兵器と怪獣映画の関係は深い。そもそも円谷プロの創始者・円谷英二が特技監督を務めた「ゴジラ」製作のきっかけからして、1954年、アメリカのビキニ島水爆実験で第五福竜丸乗組員が被爆した事件にある。唯一の被爆国だからこそ、核は直視すべきテーマであったし、空想特撮だからこそ、鳴らすことの出来る警鐘があった。

1968年、脚本家の若槻文三はウルトラセブン第26話「超兵器R1号」で、軍拡競走を「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」と主人公に語らせた。それから12年後の1980年に彼が脚本を手掛けたこの「はぐれ星爆破命令」も、テーマは同一線上にあった。ストーリーを簡単に紹介する。

<巨大惑星「レッドローズ」が地球に迫る。地球防衛軍は地球上にあるすべての核兵器を使って巨大惑星の爆破に成功したが、周囲に存在したガウス星も消滅。核爆発によって突然変異したガウス星の生物「惑星怪獣ガウス」が、地球に襲来した…>

巨大隕石が地球に接近する物語はその時点で既に古典的であったろうし、若槻自身、ウルトラシリーズで何度もテーマにしてきた。更に、前年には巨大隕石を核ミサイルで破壊するアメリカ映画「メテオ」も公開されている。大いなるバクリなのだが、何よりも、この作品を広島原爆忌である8月6日に放映したというスタッフの意気込みには、敬意を表したい。たまたま放映日が8月6日だったわけではないだろう。ほんのちょっとしたことでウルトラセブン第12話と同様、欠番になりかねない核問題というデリケートなテーマに、挑んでいるのである。

核ミサイルによる爆破で、4つの惑星が消滅する。地球防衛組織UGMのイトウチーフは「我々の任務は地球を守ることだ。そのための犠牲はやむを得ない」とメンバーに言い聞かせる。怪獣(核犠牲者)の襲来はウルトラマン80の活躍で解決するが、“正義のための犠牲”への疑問が投げ掛けられた。物語はナレーション「危機はいつまた地球を襲ってくるかもしれない。その時はその時こそは愛のある作戦を考え出すだろう」で幕を閉じる。結局は“愛”という概念を持ってきて、解答は次の未来(我々視聴者)に託されたのだ。

韻を残すウルトラマン80中期の傑作であることは間違いない。ただし、ウルトラマン第23話「故郷は地球」やウルトラセブン第42話「ノンマルトの使者」、帰ってきたウルトラマン第33話「怪獣使いと少年」などと肩を並べられるだけのテーマでありながら、都合が良過ぎる結末のためか、“トラウマ作品”の域に達しないのが残念でならない。

そして2011年8月6日。東日本大震災の福島第一原発事故によって故郷を放射能汚染された立場から「はぐれ星爆破命令」を鑑賞すると、怪獣ガウスに感情移入してしまう自分に気付く。ウルトラマン80は、怪獣ガウスを故郷と気象条件がよく似た惑星に送って一件落着とする。しかし、例えばこれが怪獣ではなく、ガウス星人という少なくとも地球人レベルの人類という設定にしたら、どんなドラマが作れただろうか。「この惑星を第二の故郷としてくれ」では納得しない、ウルトラマンティガ第27話「オビコを見た!」のような悲劇が生まれたのではないか。また、怪獣だとしても、仲間もいない一人ぼっちの惑星に連れていかれて一件落着とは、偽善的過ぎるとも思えてきた。

重ねて言おう。良質作品であることは否定しない。しかし、心に傷を刻むような作品を、ウルトラシリーズだからこそ期待したいのである。
(2011/8/6)

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