前期のリーディングの授業についてまとめておこうと思います。この学校では2005年度、2008年度にもリーディングの授業を行っており、それぞれの年度でまとめをしています(2005年度分は現在公開していません)。基本路線は変わっていないのですが、ちょっとずつ変化してきています。その変化が良い方向への変化であることを願っています。なお、この内容は、2011年9月7日から同9月20日までの「授業日誌」のエントリーを基にしています。

概要

1、2年次に引き続き、さらに2005年度、2008年度に引き続き、相変わらず「タスク消化型」でリーディングの授業をしました。基本路線は「授業実践」にある2008年度のリーディングの授業と変わっていません。2008年度の授業をまとめたページを改めて読んでみると、「2005年度と変わっていない」なんてことが書いてあって、僕のリーディングの授業の基本線は2005年以来変わっていないようです(笑)。

この授業では予習は求めません。求めないというよりも、予備知識なしでテクストと向き合ってもらいたいタスクがあるため、予習禁止に近い形です。生徒の実情を見ても、予習よりは復習に軸足を置いた方が効果的だろうと考えています。

英語I、英語IIの時も「タスク消化型」の授業をしてきたましたが、リーディングの授業で方向性を変えたことが二点。一点は、タスクを絞り込んで、1レッスンにかける時間を短縮した点。これは授業で扱う英文の数を増やしたいという意図です。もう一点は、英語I、IIでは本文の英語を徹底的に反復してもらったのですが、リーディングでは反復の回数を減らす分だけ量をこなしてもらおうという点です。

その方向性に則って、本文の音読や英文再生はやめて、サマリーの音読に切り替えました。本文の音読は授業の冒頭で音声を聞かせる時に、オーバーラッピングやシャドウイングなどをするだけ。リーディングの教科書の本文をいつものメニューで音読していたら、いくら時間があっても足りないので、サマリーで代用しました。

実は、ここまでは2008年度とまったく同じ方針です。進歩がないと言えば進歩のない話です。

さて、2008年度を終えて、生徒たちが卒業していき、進路も落ち着いたあたりで、リーディングの授業を振り返ってみると、もっと伸ばせたのではないかという気がしました(この年に限らず、卒業生を送り出すと、多かれ少なかれ、もっとやれたような気がするものです)。その時点で僕にできることはすべてやりましたし、やり残したことがあるというわけでもありません。ただ、上手く言葉にできないのですが、例えるなら、図書館で借りた小説の最後の数ページを読まないうちに返却日が来てしまったような、「未遂感」というか「未到達感」というか、そういう得体の知れない「落ち着きの悪さ」がありました。その「落ち着きの悪さ」の原因が何だったのか、ずっと気になっていたのです。

それは、おそらく、1年生、2年生と徹底してやってきた音読や英文再生が3年生になって手薄になってしまったことに起因するのではないかと思い当たりました。つまり、量をこなす=速く進むことを優先するために、英文を脳みそに取り込むという作業を切ってしまったこと、それまでの屋台骨だった活動をやり切らなかったことが、この「違和感」の原因なのではないかとうことです。もっとも、先述の通り、リーディングの教科書の本文を音読したり、英文再生したりしていては、いくら時間があっても足りませんし、読む素材の数を増やすこともできません。

というわけで、今年度は、その「落ち着きの悪さ」を払拭すべく、本文ではなくサマリーで代用するという点は引き継ぎつつ、サマリーを音読するだけでなく、サマリーの素材を使ってdictoglossを行うという作戦を思い付きました。さらに、その素材を音読し、英文再生まで持っていきます。その上で、2年生から取り入れた教科書本文の要約を口頭および記述で行うという作業を入れてしまおうという、かなり強引な展開を考えました。ともかく、本文は無理としても、せめてサマリーくらいは徹底的にしゃぶりつくしてみようということです。これで2008年度の終わりに感じた「落ち着きの悪さ」が解消できるのではないかというわけです。

格好よく言葉にすると、概要から詳細へという流れを基本に、その過程で取り込んだ英語を吐きだす機会を設けるというのが、今年度の新機軸ということになります。もっとも、こうやって言葉で記述するほど格好の良いものではありません。入学時から英語が得意とは言えない集団と一緒に、どこまで先に行けるか。当初の意図が、現時点でどこまで実現されているのか、いささか不安ではあります。

具体的なタスクの流れ

いつものように、文字情報を与える前に音声から入るようにしました。音声だけのタスクをふたつ(実質的には3つ)。もちろん、知らない語句もあり、構造な複雑な文もあり、聞き取れない部分もあるのですが、理解できない部分は理解できないなりに、大雑把に概要を捉えてくれればよいと考えました。集中して音声を聞いてくれれば、目的は達せられるので、正解か不正解かはそれほど重要視しませんでした。

Task 1

最初のタスクは音声のみのタスクです。主題を選ぶタスク(a)と、正誤を判断するタスク(b)の二本立てで、表向きは、英語の苦手な生徒は(a)を、苦手ではない生徒は(b)を、得意な生徒は両方を解答することにしていました。でも、それは飽くまでも「表向き」の話であって、僕の授業では、英語の得意不得意にかかわらず、実質的に両方のタスクをやるような雰囲気になってしまっていました。音声を2度聞かせているので、要領良くやればふたつのタスクに解答することは十分に可能です。リーディングの教科書だと、音声を流すだけでもかなりの時間がかかるので、1回分の時間でふたつのタスクをやらせてしまうというやり方は、ちょっと面白い発見でした。

Task 2

これも音声のみのタスクです。教科書のComprehensionに、段落毎の内容を日本語でまとめた表があって、その中の空欄を補充するというタスクがあるのですが、それを転用して、読むのではなくて音声を聞いて空欄を埋めるという作業をしてもらいました。まともにやろうとすると、かなり難しいはずなのですが、表の下に与えられている日本語の語群を見ると、どの空欄に何が入るかというのは、およその見当はつきます。でも、目的は表を埋めることというよりも、音声を聞いて概要を理解することなので、空欄を日本語で埋めつつ、音声ではどういう英語で読まれていたかを問うようにしました。もちろん、中には語群を見ずに、真正面からこのタスクに挑む生徒も少なからずいました。パート毎ではなくて完結した文章を一括して扱うからこそ実施可能なタスクです。

このふたつのタスクを終えた段階で、それぞれ2回ずつ、少なくとも4回は音声を聞くことになります。この後も授業の冒頭では本文の音声を聞いてもらいました。このふたつのタスクを通して、本文の概要はほぼ理解されることになります。ちょっとハードルが高過ぎたかなと反省しています。

Task 3

ハンドアウトに印刷された英語の質問に対して、答えを含む部分を本文中から探し出して下線を引くというタスクです。通称「スキャニングもどき」。生徒たちはここで初めて文字情報に触れることになります。未知語もあるし、構造的に処理できない文もあるのですが、そういう状態でも必要な情報のある箇所を見つけ出すという、ある意味ではチャレンジングな作業です。でも、質問文に含まれる語句や表現がヒントになるので、ほとんどの生徒は答えを含む文を見つけ出すことができたようです。本文と質問とを合わせた語数から、およそ100wpmで処理する時間を産出して、およその作業の目標時間としました。その時間になったら、生徒には知らせて、終わっていない生徒は作業を続けるという形にしました。

ここまでが、いわゆる「トップダウン」の色合いの濃い活動になります。細かいところはさておき、大雑把にどんなことが書いてあるか読んでみましょうということですね。それにしては、ちょっとしつこすぎたかなとも思っています。

Task 4

日本語で与えたチャンクを、本文中から抜き出すというタスク。これは靜先生のReading in Action(金星堂)という本のタスクをそのまま拝借しました。このタスクでは、覚えてもらいたい語句を拾っているので、この段階で実質的に語彙の導入ということになります。このタスクを処理するには、まず、英文を読んで意味を理解しなければなりません。意味がわからなければ、意味を推測しなければなりません。単にリストとして与えるよりも、深い意味処理が伴う分だけ、語彙が定着しやすいように思います。

何度か聞いたり読んだりした後で、語彙を導入するというのは、この数年の僕のパターンです。ともかく、最初に語彙を導入してから聞いたり、読んだりという活動に入るのではなく、まず不完全であっても処理をしてみて(先に語彙を導入したって不完全であることに変わりはないのですが)、意味のわからない語句の意味を推測したり、推測できずにもどかしい思いをしたりという段階を経たいのです。このタスクは、このスタンスにとても馴染むと思います。こんな単純なタスクなのに、どうして今まで思いつかなかったんだろうと不思議なくらいです。

このタスクでは、ペアでチャンクの抜き出しをさせたり、宿題にしたり、手持ちの時間によって、扱い方を柔軟に変えました。

チャンクを抜き出して意味と発音を確認した後は、抜き出したチャンクを使ってペアワークをしたり、小テストで覚えるきっかけを作ったりといった作業をしました。

Task 5

本文中から構造の複雑な文をいくつか抜き出して、構造分析をするタスクです。ややこしい文を目の前にした時に、構造を分析してみるという方策は必要だと思うのですが、こういう活動をすると、意味を考えずに形だけから括弧で括ったり、矢印を書いたりして、わかったようなつもりになる生徒が出てきます。この活動は、文の構造を理解して正しく読むための方策であって、バラバラに分解するのが目的ではありません。活動そのものが自己目的化してしまうと方向がズレてしまうので、扱い方に注意が必要なところでした。

英文をバラしても読めるようにはならないという声もあります。でも、文の構造が複雑な英文を前にして手も足も出なくなった時に、やはり、その構造を明らかにして納得することが必要なのではないかと思っています。

Task 6

チャンク・シートを使ったチャンク・リーディングです。これも英語I、英語IIの頃からお馴染みのものです。チャンク訳を見ながら、ポーズ入りの音声を聞いてもらい、その後、段落のつながりや、文法的な話も含めて、これまでのタスクに収まりきらなかったことを、必要に応じてここで説明しています。ちょっと文法訳読のフレーバーの漂うところでもあります。

Task 5、Task 6あたりは「ボトム・アップ」の色合いの濃い部分と言えるかも知れません。ここでもう一度チャンクで区切れていないプレーンな本文を読ませたいと思っていたのですが、適切なタスクの形が見えてこなかったため、具体的なタスクには起こせませんでした。とりあえず、教科書を読み直して(これまでのタスクはハンドアウトで行っているので、教科書には何も書き込みがないはず)、段落毎に小見出しをつけるという作業をやらせてみました。これは後に行う要約の布石にするつもりもあったのですが、有効に活用しきれなかった部分です。このあたりをもうちょっと整理できると良かったのですが……。

Task 7

教科書のComprehensionにあるSummaryを素材にしたdictoglossです。内容も語彙も既にこれまでのタスクでやってきているので、それほどハードルは高くないはずです。どちらかと言うと、リスニングのウェイトが大きいdictoglossということになります。

でも、実際にやってみると、結構苦戦しました。内容の抽象度が高いとか、素材がサマリーであるために余剰性が低いということもあるでしょうし、ここまで消化してきたタスクで、本文そのものが十分に理解されていない、あるいは十分に取り込まれていないということもあるでしょう。タスクに再考の余地があるということなのかも知れませんね。

ともかく、サマリーを素材にdictoglossというのは、今年度のリーディングの新機軸のひとつでした。ここで突然、素材が本文からサマリーに変わるということに違和感がないわけではありません。本文の音声を聞いてメモを取らせ、それをもとにグループワークで要約を完成させるという選択肢もあったのですが、1コマで作業を終えることが不可能に思えたので断念しました。もうちょっとコンパクトな文章なら良かったのですが、リーディングの教科書ですからね。

本文をしゃぶりつくすのは無理があるので、おいしいところだけ頂いておいて、しゃぶりつくすための素材としてサマリーを利用したということなのですが、本文の喰い足りなさは否めないところです(繰り返しますが、それも覚悟した上で作ったタスクなので、止むを得ない部分でもあります)。

Task 8

dictoglossで扱った素材(つまりはサマリー)を音読します。いつものように、Chorus Reading、Read & Look up、Overlapping、Shadowingという流れです。その後、サマリーのチャンク・シートを使って、日英Sight Translationで最終確認をし、そのままチャンク訳を見ながら英文再生に入ります。

英語I、英語IIの本文でやってきたのと同じ流れです。特に何かを意図したわけではなく、単純にこれまでの流れに沿ってやってきたのですが、今年度のリーディングはちょっと意味合いが違うのかも知れません。自分でもまだ見えていない部分でもあり、もうちょっと時間をかけて考えてみたいところです。

Task 9

口頭での要約です。まず、本文の音声を聞いて、あるいは、本文を読んで、要約に必要と思われる語句をメモします。そのメモを見ながらペアで要約を言い合います。実際のところ、すでに教科書のサマリーでdictoglossや音読をしてきているので、ここでさらに要約を求める意味があるのかという疑問はあります。でも、本文やサマリーとはできるだけ表現を変えるように指示しており、生徒たちもそれに応えるべく努力してくれてはいます。dictoglossや英文再生をした素材がサマリーだということに気が付いていないのではないかという危惧もあるのですが(笑)、それはそれでいいかと。

ペアワークの後は、何人かに全体の前で実演してもらいます。彼らの要約を聞いていると、次第にサマになってきているようではあります。ようやくスムーズにいくようになってはきたのですが、口頭での活動だけにフィードバックが難しいですね。フィードバックの前に、生徒たちがどういう要約をしているかということを僕が掌握する段階で既に躓いています。ともかく、現在の僕の授業の流れの中では、唯一の「口頭で吐き出す」機会なので、何とか良い方向に持って行きたいと思っています。まだまだマネジメントに工夫が必要なところです。

Task 10

Task 9での口頭要約を基に、要約を書くという作業です。ペアワークでの相手の要約を参考にすることもできるし、辞書を引いても良いということにしています。文法的にできるだけ正確を期すというのがルールです。ここでは大雑把に語数を指定しています。本文のおよそ1/4というのが目処です。教科書のサマリーよりも語数が多めにしています。

ここまでの作業で、1レッスン終了ということになります。

まとめ

リーディングの授業も、いわゆる「タスク消化型」で行ってきました。そもそも「タスク消化型」という形態は教科書の英文を丸ごと取り込むことで基礎の定着を図るという意図でした。果たして、リーディングという授業が「基礎の定着」を意図した形態に馴染むのかどうか。そういう懸念もありました。もっと進度の速い形態の授業で、数多くの英文を読ませた方が良いのではないかと考えたこともありました。でも、うちの生徒を見ていると、そういう形態の授業では、何も消化しないで表面だけをサラっと撫でるだけで、何も学ばないのではないかという危惧を感じずにはいられませんでした。というわけで、「タスク消化型」です。ともかく同じ文章を何度も読む、何度も聞く。

リーディングの授業で扱うタスクについては、もう一度よく考えてみる必要がありそうです。それは、リーディングという授業を通して、どこに到達しようとしているのかということをもう一度問うてみることでもあります。生徒の様子を見ていると、そこから始めてみることにも無意味ではなさそうだと感じました。

もうひとつ。これはリーディングの授業に関してだけではなくて、いわゆる「タスク消化型」の形態そのものについてです。これまでは、とりあえず、「英文再生ができれば、とりあえず、その英文は取り込まれたと判断する」と想定してきました。つまり、これが前提としてあったので、英文再生ができるようになるための仕掛けを「タスク」として用意して、それを消化していく過程で英文を取り込んでいく、というのが「タスク消化型」の授業の基本的な流れでした。でも、それは飽くまでも「とりあえず」の話であって、「英文再生ができれば、とりあえず、その英文は取り込まれたと判断する」という前提そのものを検証してみる時期にきたのではないかと思っています。もっと言えば、どういう状態になれば「英文が取り込まれた」ことになるのかという点もそろそろ明確に定義しておかなければならないかなと思っています。

あれ? 「まとめ」のはずだったのですが、まとまりませんでした(笑)。

(2011.11.19)