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2.病篤き母
(2002年6月)
詠まむとて思へば涙溢れ出で篤き病の母詠み難し

選択肢はいずれも母に酷なれば医師の前にて我ら黙せり

手術後のガス出ぬ苦痛におののきて今夜を越せぬと母訴ふる

慰めも苦痛の前に効果なく酸素マスクの下にあへぎつ

点滴の漏れたる痕の青黒き腕を拭きつつ涙こらふる

十日前よりも弛みてなを細きすね擦りつつ夜をすごしをり

また来ると言へばみるみる潤みくる母のまなこの光弱かり

回数券の足りなくなるを願ひつつ母の命ををろがみに行く

病院ゆ戻りて実家に降り立てば夜のしじまにホトトギス鳴く

元気なる母在る幸を時折は誇りもせしが今は虚しき
3.母よ帰らむ (2002年7月)
点滴も傷の手当も吾がなさむ母よ帰らむ父待つ家へ

病院にはもう戻らぬと言ひ残し我らの母を連れて帰りぬ

炎天下の移動で命縮むとも父と過ごせる時をつくらむ

浮腫みたる母の手足を擦りいる父の背中の丸くなりたり

桃の汁旨しと言ひしが最後にて頷くだけの日を過ごしをり

母さんの育てし木槿が咲きいると言えどうつうつ眠り続くる

水も要らぬ果汁も要らぬと首を振る母よ一口せめてひと口

今日の日を忘れてならぬ予感して庭の花々カメラに収む

今まさに終の別れの時迫り怖くないよと手を握り締む
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特別寄稿 みまき氏
      
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せっちん画